逃げる幻 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488168094

作品紹介・あらすじ

目撃者の前で、少年が開けた荒野から忽然と消えた人間消失事件と、密室殺人――スコットランドを舞台に、名探偵ウィリング博士が不可能犯罪に挑む謎解きの傑作。本邦初訳。

感想・レビュー・書評

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  • 家出を繰り返す少年が開けた荒野の真ん中で消えた。
    休暇中のダンバー大尉は不可解な事件に関わり合うことになり…。

    単純な骨格を如何に肉付けして物語を太らせるか。
    マクロイは本当に上手いと思う。
    伏線の張り方もいいし、何より300頁強でこの読み応え。
    面白かった。

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  • ジワジワと物語に引き込まれていった。
    古さは感じず楽しかった。
    ラストシーンは?であり、人生の深さが描かれていた。

  • 如何にも英国の香りの担税なテイスト。駒月さんの訳を読んだのは初めてながら、彼女の力量によるところも多いのだろう・・特にダンバーの人格描写が彷彿とするような場面多出はそういったことの効果が出ている。

    物語半ばまではどちらかといえば幻想文学的世界。場所、登場人物共に狭い空間での事、起こった殺人事件もおのずと絞られての探索となった。逃亡兵、ヒトラーユーゲントに連ねて行く伏線回収の手際が素晴らしい。

    精神科医ウィリングとしてシリーズ化されているようだ。アメリカナイズした思考、精神病理的解明の語りはちょっと受け入れ難いニュアンスを覚えた(少年兵への糾弾的思考)

    2014年初版の文庫版だから近年の作品化と思えば1945年刊行との事で、そう言えばすとんと来る。20世紀初頭にブームとなったクラシカルな怪奇的演出が随処に在り、私には結構それが面白かったけど。

    ハイランドという地域が持つ処々の民族、人種が作り上げて来た歴史とそれによりもたらされた影(建物や遺跡に描写に感じられる)を借景として楽しめた。

  • 1945年。米海軍大尉のダンバーは、とある使命によってスコットランドのハイランド地方へ向かう途中、飛行機で隣席だったネス卿と親しくなる。ダンバーの前職が精神科医であると知ったネス卿は、ある裕福な家の少年のことを話しだす。傍目から見れば何不自由ない暮らしをしているはずのその少年はひと月のあいだに何度も家出を繰り返し、数日前突然ひらけた荒地から姿を消してしまった……。家出少年ジョニーは何に怯えているのか。家庭に、あるいはこの土地に呪われた秘密が隠されているのか。スコットランドの田舎に舞台を移した〈精神科医ベイジル・ウィリング〉シリーズの一作。


    生き残った少年のトラウマと田舎の閉塞感とナチの残党、この三つが織りなす緊張感だけで200ページを読ませる。やっと殺人事件が起こるのはそのあと。マクロイの筆力が高いからこそ成立している(カバー裏のあらすじはかなりのネタバレ)。
    中盤になってこの物語が『バスカヴィル家の犬』にオマージュを捧げているとわかり、マクロイのホームズ・オマージュ!と嬉しくなってしまった。黒犬の伝承やインヴァー・トーの古城、谷間に突如姿を現わす湖などの幻想的な描写が冴えに冴えており、蘊蓄も楽しい。都会的なイメージが強いマクロイだけど、クラシカルな探偵小説らしい怪奇演出もイケるんだなぁと感心。この人は建築の構造を説明したり部屋のインテリアに性格を持たせたりするのが巧いので、このまま館ミステリを書いても絶対面白かったと思う。
    本作のキモはやはりダンバーの一人称語りだろう。ミスリードの狙いが目につきすぎるところはありつつ、結末は予想外だった。ガタイが良く、精神科医として他人を分析することに慣れ、主観に絶対的な自信を持つ男性から見た偏見だらけの世界を冷徹にトレースしているのがヘレン・マクロイという女性作家であることをどうしても考えずにいられない。ダンバーのマージョリー・ブリス評を、どんな気持ちで書いたのだろう。
    物語はウィリングたちアメリカ人が、ローティーンの少年を残忍な狂信者に仕立てあげてしまうナチとファシズムを断罪して終わる。ウィリングが逃亡捕虜を間接的に殺し、それが是とされているところは今の感覚ではやっぱり飲み込みづらい。だが、進歩的な顔をした彼らの前にハイランドは何層にも重なった争いの歴史を見せ、踏み躙られてきた者たちが地霊となって悲しみの声を響かせ続けている。

  • ツイストの効いたフーダニットとも言えるが、少年は何に怯えているのかという謎かけの方がお話を引っ張る感じ。ものすごく端正な本格で、どのくらいの読者が騙されるかは知らないが(迂生は引っかかりましたよ)、とても楽しい。ただ不可能趣味の方はてんでなってない。

  • ヒトラーユーゲント(青年武装親衛隊)への一貫した教育「一つの民族、一つの総統、一つの国家」と厳しく過酷な訓練と教育だ。そこで学んだことが戦後でも生かされるような生活を余儀なくされるとは・・・若い人にとって真実である歴史を学び、教えることだろう。

  • 精神科医ウィリング7作目。

    休暇を利用してスコットランドに滞在しようとしていた「わたし」は、
    飛行機の中で滞在先の隣人の息子が家出を繰り返しているのを知らされる。
    1か月に三度も、しかも荒野の真ん中から突然姿を消す形で。
    なぜ、少年は家出をするのか。
    裕福な家で家庭教師もつけてもらっているのに。

    舞台設定が見事。
    ダブルネームの伯爵、
    死をもたらす黒い犬がさまよう荒野、
    売れない小説家とその妻の流行作家、
    変わりやすい天気、
    フランス人の家庭教師。

    空爆とくれば有名なミステリーがあるので、
    予想がついたところもあったし、
    消失の謎も見当はついたが、
    犯人とその正体にはかなり驚かされた。

  •  う~むと唸らされる。さすがマクロイ。限られた登場人物の狭い物語でのこの予想外の結末。理由不明の家出を繰り返す少年と潜伏する脱走兵。それぞれの事件がどうかかわっているのか。限られた範囲のできごとでそんなに可能性は多くないにもかかわらず、この真相にはあっと驚かされた。後から思えばきちんと張り巡らされている大胆な伏線。気づかない方がどうかしているのだ。たくみに生かされている時代背景といい地味ながら著者の力量が遺憾なく発揮された佳品。

  • 時代背景は第二次世界大戦後ですがとても読みやすいです。読後1945年発行と知り驚きました。訳が今だからというのもあるかもしれません。題名の邦訳も上手いですね。読みながらまさしく逃げていく幻を追いかけていました。少年の消失と密室殺人。トリック自体は驚くほどのものではありませんが緻密に表現される背景と張り巡らされた完璧な伏線、さらにそれを綺麗に回収してしまうラストには驚かされました。普段あまり海外ミステリ自体を読まないのですが、さすが2015年海外ミステリ一位です。古き良き海外ミステリを堪能しました。

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著者プロフィール

Helen McCloy

「2006年 『死の舞踏』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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