- Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488441036
感想・レビュー・書評
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「そこは縫わないでと頼んだのに、縫われてしまった」という奇妙な一文から始まる表題作ほか、不可思議でユーモラス、妖艶にして哀切、最後にどきり、ぞくり、じわりとさせられる名短編が並ぶ。
日本の作家で、こういう独自の美学、筆力、想像力を持った幻想譚を書ける人はなかなかいないんじゃないかと思う。
精緻な糸で丹念に織りあげられた、美しい奇想の世界。読み手である私たちは、生と死のあわいが限りなく曖昧な、地図にない街に迷い込んだような気分が味わえる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
単行本が出てから長らく文庫化されずに残っていた、皆川博子の幻想短篇集。
『鳥少年』も同じく創元から文庫化されたが、半ば伝説と化していただけあってこちらの存在感は圧倒的なものがある。古書価格が高騰していたのも頷ける。
文庫版には4篇が追加で収録されているので、単行本を持っていても楽しめる。 -
どれも読み応えがあってなんとも贅沢な短編集でした。とにかく最初の「結ぶ」のインパクトは絶大。こういうのは何かの暗喩だとかいちいち考えずに、奇妙さもまるごといったん受け入れてしまうほうが個人的には面白い。
同じ時間をループしているかのような「水族写真館」や、映画と現実がひとつながりになってやはりループする「川」は騙し絵のようで、老舗旅館の女同士のどろどろかと思いきや時空間を越えてくる「空の果て」は、SF的なニュアンスもあったり、捜神記に題材をとった「花の眉間尺」はグロテスクでエロティック、「薔薇密室」(※同名の長編とは無関係)は恋愛の狂気、かと思えば「蜘蛛時計」あたりは外国のホラーのようだったり・・・と次々色んなタイプの幻想が飛び出してくるので、全く飽きません。
基本的にはハズレなしですが、お気に入りはやはり「結ぶ」と、死者目線の「水色の煙」、背景を想像させる「城館」、そして金魚や氷と同じように当たり前にやってくる「心臓売り」。作家の確かな文章力と独創的な想像力が合わさると、小説の可能性というのは無限だなあと思わされます。
※収録作品
「結ぶ」「湖底」「水色の煙」「水の琴」「城館」「水族写真館」「レイミア」「花の眉間尺」「空の果て」「川」「蜘蛛時計」「火蟻」「U Bu Me」「心臓売り」「薔薇密室」「薔薇の骨」「メキシコのメロンパン」「天使の倉庫(アマンジヤコ)」