図書館島 (創元推理文庫 Fサ 2-1)

  • 東京創元社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (534ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488556044

作品紹介・あらすじ

文字を持たぬ辺境の地に生まれ、書物に没頭して育った青年は、長じて憧れの帝都へと旅立つ。だが航海の途中、病に冒された娘と出会ったことで、彼の運命は大きく変転する。あらゆる書物を収めた図書館のある島に送られた彼はそこで、書かれた言葉を奉じる人々と語られた言葉を信じる人々の戦いに巻き込まれる……デビュー作にして世界幻想文学大賞・英国幻想文学大賞など4冠、書物と物語をめぐる傑作本格ファンタジイ。

感想・レビュー・書評

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  • ファンタジー小説。独自の世界観を持っており、物語に入り込むことが大変である。この世界にはミリムという寿命を縮める麻薬がある。『Star Wars』にはスパイス、『銀河英雄伝説』にはサイオキシン麻薬という依存性薬物がある。独自の物語世界には、その世界の害悪の象徴として依存性ドラッグが存在する。

  • オロンドリア帝国の辺境・紅茶諸島の裕福な商人の家に生まれたジェヴィックは、父の死後、商いのために島を出て本土へ赴く途次で不治の病の少女ジサヴェトと出会う。やがてジェヴィックはアヴァレイの祭礼の日に、実は病癒えず亡くなったジサヴェトの幽霊(この世界では天使と呼ばれる)にとりつかれてしまい…。

    図書館島という、本好きならワクワクせずにはいられないようなタイトル、世界幻想文学大賞はじめ数々のファンタジーの賞を受賞したという情報などから、ものすごく期待して読み始めてしまったのだけど、正直期待が大きすぎて肩透かしを食らってしまった…。まず申し訳ないけどこれ、タイトル詐欺。図書館島という言葉は本文中一度も出てこない。原題ももちろん全く違う。そりゃ出版も商売だから、売れるタイトルやパッケージが必要なのはわかるけど、あまりにもミスリード。どんなに良い内容でも、この時点で読者の不興を買ってしまったのではマイナスではなかろうか。

    架空の大陸、その国々や文化の造形には作者の苦心が見えるけれど、例えばトールキンの世界のように、もっとこの世界のことを知りたい、という知的好奇心は全く動かされず。単に「この世界だけのよくわからないオリジナル単語(造語)を濫用」されていることにイライラ、それでいて主人公の出身地は「紅茶諸島」なあたりのバランスの悪さ。

    結局、シンプルに娯楽性に欠けるから、こういったファンタジー長編に必須であるページをめくる指が止まらない的な面白さがなく、難解な哲学書でも読まされているような気持ち。登場人物全般、誰よりまず主人公に魅力がなく、行動原理に共感できない。個人的に唯一好きになれた登場人物は神官の甥のミロスで、このミロスを助けるために自分の本来の使命を放棄するところだけが主人公に唯一共感できた場面だった。

    幽霊に憑かれた主人公は一種のイタコのようなものとなり、アヴァレイという女神を奉じる原始宗教の救世主として祀り上げられてしまう。その宗教と対立する石の司祭の一派(書かれた文字を信じる)との、いわば宗教戦争に主人公は巻き込まれてしまうわけだけれど、その壮大さも、それが言葉をめぐる対立であるというテーマもエピソードからはとても見え難い。

    幽霊は主人公に自分についての本(この世界ではヴァロンと呼ばれる)を書けと要求するが、序盤で主人公がなぜこれを頑なに拒否するのかがいまいちわからない。このヴァロンの部分(幽霊少女のおいたち)は、ラテンアメリカ文学味がありやや面白く読めた。

    主人公の生まれた島ではジュートという御持仏のようなものを各人が各ひとつ持っており、身分の低い者はそれを持たない。幽霊少女は被差別部落的な場所の出身でこのジュートを持たなかったが、主人公にヴァロンを書いてもらうことが彼女にとってのジュートだった、という落としどころがかろうじてカタルシスか。

    ファンタジー作家の乾石智子が解説を書かれているけれど、解説者もこの本を純粋に楽しいと思って読まれていないところがまた(苦笑)

  • ファンタジーやSFは、いかにその物語の世界観に浸れるかが個人的なポイントとなっております。どれだけスゴイと言われる作品でも、何が起こっているのかわからないとその面白さがわからないというか。また、物語に入り込むのにどれだけ時間がかかるかも、その作品を楽しめるかどうかのポイントになります。あまりよくわからないと飽きちゃうんですよね…こらえ性の無い人間なので。

    と言う訳で本作品。最初の胡椒園での暮らしはまだソウナンダーと読んでいたのですが、港町に行くあたりで正直ついていけなくなりました。というか一つの文章が長い。形容詞が多い。一人称で進むので、正直主人公に共感できないと、コイツ何言ってんだ、で、今の状況はどうなってるのよ?という事がなかなか理解できず断念。後半面白く盛り上がっていくのかもしれませんが、無理でした。

    • 白いヤギと黒いヤギさん
      同感です。「主人公への共感」がなかなか出来ない上に、行動目的も理解出来ない。例えば、主人公の父は、何を目的として家庭教師にルンレを雇ったの?...
      同感です。「主人公への共感」がなかなか出来ない上に、行動目的も理解出来ない。例えば、主人公の父は、何を目的として家庭教師にルンレを雇ったの?とか…。
      2022/06/26
    • 青格子さん
       そうそう、町への憧れとか、無謀な行動とか、どうしてそう考えたのかとか、よくわからない部分が多すぎて、共感できませんでした。
       後半も、幽霊...
       そうそう、町への憧れとか、無謀な行動とか、どうしてそう考えたのかとか、よくわからない部分が多すぎて、共感できませんでした。
       後半も、幽霊さんの伝記になってる感じで、またその行動原理が理解できないという…。遺伝病という表現に始めの方で引っかかってから、謎解きの勿体ぶった回りくどさ。
      投げ出さなかった自分を褒めてあげたい。
      2022/10/05
  • ラノベじゃないので読み易くはない。H・P・ラヴクラフトのように形容詞と形容句が多い文体ながら、その全てに意味がある美しい文章でした。

    惹句にあるような、書き留められた文字と、文字を持たぬ口伝の世界の(信仰の)戦いは背景にずっと横たわっていますが、評者にはどちらかと言えば『背景』でした。一人の青年がそれと知らずに恋に落ち、それと知った時には全てが手遅れで。なおも求めて止まぬ天使への焦がれ。

    文学なんだしそれでいいじゃない。
    作中に引用される句も詩も物語も全部、作者が頑張って考えたのかと思うと気が遠くなります。

    歯ごたえ十分で味わい深い名作、という意味で星5つです。

  • 文字を持たない島で育った少年が、大陸から来た先生から文字を学び本に親しむ。長じて憧れの大陸へと旅立つが、思いがけない災難に合い故郷へ帰れなくなる。言葉による論理的な宗教と感情と呪術に重きを置く土着の信仰との対立に巻き込まれて、様々な冒険をしながら主人公は成長していく。
    言葉によるイメージの喚起力が半端なく、読む者をクラクラさせる。なかなか世界に入り込めなかったけど、主人公が死者=天使に取り憑かれてから面白くなった。辛く過酷で悲しみの多い人生だとしても、当人にはかけがえのないたった一つの生なのだ。分かりやすい答えを提示しないのが良かった。

  • 1度読んだだけではなかなか理解が難しい…
    久々に読むのが大変!って感じる作品
    でも、またゆっくり読み進めてこの物語を理解したいとも思う
    この物語の造語、最初は何!?って思ったら最後のページが辞書みたいになってて助かった…けどページ捲りながら読み進めるのはちょっと面倒な感じがしたり苦笑

  • ・ソフィア・サマター「図書館島」(創元推理文庫)の解説、乾石智子「ジュートを捨てる」の冒頭にかうあつ た、「『図書館島』は、根気を要求する本だ。わたしのような凡人には、一気読みなんか到底無理。」(523頁)その理由は、「まず改行が少ない。会話文もなかなか出てこない。それでもってこの厚さ。」(同前)とある。一々納得である。最近の文庫本は活字が大きい。しかも分冊が多く、本書だと本文500頁超であるから、最低でも上下2分冊にはならう。乾石の作品でも2冊 分くらゐになるはずである。厚い。改行と会話が少ないのは最近の作品には少ない。昔はかういふのが結構あつた。ほとんど現役ではないが、大江健三郎などは最後はこれが極端になつてゐたから、読みにくいつたらありやしない。どこまでも改行なしで続いていくのに疲れ果ててしまふことしばしばであつた。しかも晦渋な文体、読み通せずに止めてしまつたことも何度かある。本書はあれほどではないが改行は少ない。時間はかかつたけれども読み通すことはできた。一行あきの、内容そのものが変はるところ、節であらうか、が意外に多いのも私にはありがたかつた。読んだら書くことにしてはゐるものの、やはり読んでも書けないものは多く、本書もそれかと思つたのだが、乾石の文章から何か書けるかもしれないと思つて始めたのがこの文章であつた。
    ・乾石は「ジュートを捨てる」と書いた。ジュートとは何か。例の如く、本書巻末にも用語集がある。「ジュート【キ】 『各人の外なる魂』とされる、キデティの人々が祈りを捧げる人形。」(531頁)すると、こけしとか、もしかしたらオシラ様のやうなものか。よく分からない。本文を見ると、「『ヴァロンって何だかわかったわ。』と彼女は言った。『ジュー トよ』」(456頁)とある。ではヴァロンとは何かと用語集を見る。「ヴァロン【オ】 本。『言葉を収めた部屋』という意味。」 (530頁)彼女といふのはジサヴェト、現実世界では主人公とほとんど関はりを持たない、不治の病に冒されたキデティの娘であ る。しかし死後、彼女は天使(幽霊?)となつてから主人公につきまとふ。我がためにヴァロンを書けといふのである。つまり文字を持つオロンドリアの人々には本が祈りの対象になるのに対して、文字を待たないキデティの人々にはより具体的に祈りの対象が必要で、それが人形であるといふことであらうか。ジサヴェトにとつて本の形のヴァロンは、たぶん自伝如きものであるがゆゑに、己が祈りの対象となる。主人公に天使が見えるのは、教へられて文字を覚えはしても、基本的には文字を持たないキデティの一人であるため なのであらう。ここに文字の宗教と伝承の宗教の戦ひがある。主人公は本来文字を持たない。しかも天使を見る者は、文字を持つ側からすれば異端である。だから、最後は南の故郷に逃げる。その時には、主人公は己が言はば使命を全うし、それゆゑに文字のあるなしの戦ひを止揚してゐる。ヴァロンを書いた。そして焼却した。さう、これが戦ひを止揚したといふことではないのか。一見すると皆まるく収まつた、言はばハッピーエンドである。主人公も穏やかな生活に入つた。チャヴィ、先生(「用語集」532頁)であるらし い。チャヴィはジュートを持たない人である。かくして乾石のタイトルが思ひ出される。「ジュートを捨てる」とはこれをいふのであらう。乾石はジュートを「価値観ではあるまいか。」(528頁)と書いた。さうかもしれない。しかし、結局、私と同じことを言つ てゐゐるのではないか。個人的には戦ひ等を止揚してといふ方が好きなのだが、といふ程度のことで……。

    • 青格子さん
       先にこの感想を読んでから本文を読めば、もっと深く理解できたろうに。二度目を読む気力はありません。
       「文字の宗教と伝承の宗教の戦い」という...
       先にこの感想を読んでから本文を読めば、もっと深く理解できたろうに。二度目を読む気力はありません。
       「文字の宗教と伝承の宗教の戦い」という表現が、この本の本質を表していると私も思います。
      2022/11/16
  • 固有名詞の乱立に戸惑う。

    原題は A stranger in OLONDRIA だろうと思うけど、なぜこの邦題になったのだろう。

  • 本当にシンプルなストーリーだけど、飾りつけで読解困難になっている。読む人は相当に気合いを入れる必要があります。

  • タイトルに偽りあり。原題のA Stranger in Olondriaなら納得のタイトル。ファンタジー小説がお好きなら読む価値があるかも。個人的にはお勧めしない。

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