SHOE DOG(シュードッグ)

  • 東洋経済新報社
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784492046173

感想・レビュー・書評

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  • 筆者のフィル・ナイトという人は、ナイキの共同創業者の一人である。本書は、フィルがナイキを立ち上げ、世界的な企業に育て上げるまでの物語を、フィル自身が書いたものである。
    フィルがスタンフォードのMBAを取得しビジネスを始めたのは24歳の時。当初からナイキブランドの靴を売っていたわけではなく、まずは、日本の靴メーカーであるオニツカの製品をアメリカ西部で売ることからビジネスを始めている。それからナイキブランドを立ち上げ、大きな成功を収めるまでのことを物語として語っている。ナイキという会社のビジネス成功物語というよりは、フィル自身の青春時代からの成長物語であると言った方が適当かもしれない。
    ナイキを成功させるまでには多くの困難がフィルを襲う。時に失敗をしながらも、あきらめない気持ち、執念深さで粘りに粘って最後は成功させる。
    「懸命に働けば働くほど、道は開ける」
    「みんなに言いたい。自分を信じろ。そして新年を貫けと。他人が決める信念ではない。自分で決める信念だ。心の中でこうと決めたことに対して信念を貫くのだ。」
    ナイキが成功した理由をケーススタディ的に分析することもできるだろう。しかし、この物語を読むと、何よりも大事なのは「諦めずに勤勉であり続けること」のように感じるし、フィル・ナイトその人もそのように感じているようだ。
    500ページを超える分厚い本であるが、波乱万丈の物語は全く飽きずに読める。これから社会に出ていく若い人たちが読むと良いかもしれない。

  • この本はあるシューズメーカーの若き創業者の活躍を描いた物語― リアル『陸王』のストーリーだ。

    本書は、世界的スポーツメーカー・ナイキの創業者フィル・ナイト氏の自叙伝だが、実際に読んでみると、これがとてつもなく面白い。
    立身出世の道を行くナイト氏の活躍。若者が出世していく読み物としても面白いし、各登場人物が生き生きと描かれていて、それぞれのキャラクターに感情移入できる。
    僕が特に好きなキャラ(キャラと言っても実在の人物なのだがw)は「社員第1号・手紙魔のジョンソン」と「社員第4号・車いすのウッデル」だ。目次の後に登場人物の紹介の一覧が載っているところなど読者への心憎い配慮もあり、本書はもはや完全に小説だ。

    ナイト氏を例えるならば『三国志』の劉備玄徳や『太閤記』の豊臣秀吉のよう。オレゴン州の片田舎出身の20代半ばの若き主人公フィル・ナイトがほぼ無一文で日本に来日し、日本のランニングシューズ・タイガーに魅了されたナイト氏が「このシューズをアメリカで売りたい」とオニツカ社に単身乗り込むというところから始まり、一人、また一人と強力な味方を獲得しながら、広大なアメリカスポーツシューズ市場に打ってでていく。
    その過程にはライバル達との熱きバトルがあり、仲間の裏切りがあり、かけがえのない仲間との死別もあり、そして、また強力な助っ人が現れる。まるでロールプレイングゲームの主人公のように数々のピンチを切り抜け、レベルアップしていき、装備を整え、さらに次の挑戦へと突き進んでいくのだ。

    本書は大成功した経営者の自叙伝なのだが、全く自慢話になっていない、それどころかピンチの連続、ナイキが世界で大成功した企業であると知っていても読んでいる時のこのドキドキ感。ナイト氏の能力は経営能力だけじゃない、池井戸潤も真っ青の文才もあるのだ。

    恥ずかしながら僕は若きナイト氏が興した個人企業ブルーリボンスポーツ社が日本のシューズメーカーのオニツカ社(現アシックス)からタイガーシューズを買い付け、それを最初にアメリカで売って生計を立てていたということを全く知らなかった。
    ナイト氏がオニツカ社からシューズを買い付けていたのは、終戦後の復興からまだ間もない1963年頃、20代半ばのナイト氏は裸一貫で日本に赴き、手八丁口八丁嘘八百でオニツカ社を説得し、アメリカでのタイガーシューズの販売許可を得る。ランニングシューズ・オニツカタイガーは『低価格で高品質』を武器に瞬く間にアメリカ中で人気の火がつき、ナイト氏の会社は毎年倍々の売り上げで業績を伸ばしていく。
    その頃はアメリカのスポーツシューズ市場はアディダスの独占状態であった。アディダスはドイツの会社であり、ちなみにアディダスの創業者アドルフ・ダスラーの兄ルドルフ・ダスラーが作ったのがプーマだ。

    ナイト氏はアディダスの牙城を切り崩しながらタイガーの売り上げを伸ばしていく。
    しかし、全米での売り上げが上がるにつれ、オニツカ社からの要求も強くなり、最終的にはオニツカ社と決別、ナイト氏は自社で靴を製造していくことになる。これがナイキだ。
    本書では、ナイキ社が設立するまで本の半分が費やされる。

    この本を読んで非常に興味深かったのは1960、70年代、当時の日本企業が『低価格で高品質』な商品を武器にして欧米市場の各市場へ乗り込んでいった時のその強気な姿勢だ。
    日本のビジネスマンは、一般的に世界市場においては「謙虚で、ひかえめ、そして押しが弱い」と思われている。
    しかし、この本に登場するオニツカ社の社員たちはアメリカの中小企業の経営者であるフィル・ナイト氏から見るとかなり傲慢で、態度がでかく、一言で言えば嫌なヤツ達なのだ。これは目からウロコが落ちる思いだった。

    考えてみれば、日本は1945年に敗戦を経験してから、飛ぶ鳥を落とす勢いで経済的に飛躍していった。1968年には日本のGDPが世界第二位になり、世界中の市場で日本製品は猛威を振るったのだ。その快挙を担っていたのは間違いなく当時の日本のビジネスマン達であり、彼らの活躍があってこその日本経済の復活があったのは間違いない。
    そのような日本のビジネスマンが海千山千の商人たちがひしめく海外市場で「謙虚で、ひかえめで、押しが弱かった」訳がないのだ。

    そして、オニツカ社との決別後のナイト氏を救ったのも日本の貿易会社である日商岩井(現・双日株式会社)であったということも興味深い。この本に2人の日商岩井のビジネスマンが登場するのだが、その二人が格好いい。ナイキ社を救う為に、奔走する。こう考えてみるとナイキと日本のつながりは切っても切れない関係にあるのだ。
    そして、本書は1980年にナイキが株式公開し、中国に工場を確保するところで物語としては終了する。

    本書を読むと、当時の日本企業の状況やアメリカでのスポーツ用品市場の状況、そして世界貿易における、いわゆる『世界の工場』が日本、台湾、韓国、中国と移り変わっていく状況も良く理解できる。
    ビジネス成功者の自叙伝など、いままであまり読んだことはなかったが、この本は面白かった。特にアメリカ人中小企業の社長が当時日本人をどう見ていたかが分かったことが一番の収穫であった。

    この本を読んだ読者は間違いなくナイキのファンになるだろう。
    ランニングシューズと言えば、僕はいつもアディダスを履いていたので(笑)、ナイキのシューズをいままで履いたことはないが、ナイキを見る目が変わったのは間違いない。これからは、ナイキはスポーツウエアだけじゃなく、シューズも試してみようか・・・って、もう完全にナイト氏の術中にハマってるじゃん(笑)。

    最後にフィル・ナイト氏の言葉を引用してこのレビューを締めくくりたい。

    『20代半ばの若者たちに言いたいのは、仕事や志す道を決めつけるなということだ。天職を追い求めてほしい。天職とはどういうものかわからすとも、探すのだ。天職を追い求めることによって、疲労にも耐えられ、失意をも燃料とし、これまで感じられなかった高揚感を得られる。』

    『権力を打破しようとする人たち、世の中を変えようと思う人たちに言っておきたいのは、背後で目を光らせている連中がいるということだ。成功するほど、その目も大きくなる。これは私の意見ではなく、自然界の法則だ。』

    『みんなに言いたい。自分を信じろ。そして信念を貫けと。他人が決める信念ではない。自分で決める信念だ。心の中でこうと決めたことに対して信念を貫くのだ。』

  • 『SHOE DOG』
    ナイキ創業者 書き下ろし。
    この本の何がわくわくなのか?
    それは、見慣れた、街に溢れるNIKEが一代で築かれたことの物語の背景です。

    どれだけの靴、シューズ好きのオーナーと仲間が集い、
    NIKEを創りつづけたのか?

    訳がまた心を打つんです。
    まるで、かれが、そう、創業者自身が日本語で語り部したような文章だから、、、。

    創業時の資金ぐりの苦しさ。
    仕入れが出来ないジレンマ。

    おそらくその原体験がNIKEを創りだしたのでしょう。

    ファイナンス畑の僕としては、NIKEの資本政策も見逃せない場面でした。
    議決権がない株式を混ぜての上場。
    独立性を保ちながら、資本市場に参入する。
    その策略が当時にあったことが先進的です。

    『ピクサー』とこの『SHOE DOG』の書き下ろし。
    この二つは、最高でした。

    いつか映画、映像としてもみたい書記です。

    #読書好きな人とつながりたい。

  • ナイキの創業者フィル・ナイトの自伝。面白くて引き込まれる。
    世界旅行を思い立ち、後にその販売代理店としてビジネスを始めるオニツカ(現アシックス)に立ち寄った1962年から始まる。そこから株式を公開する1980年までの濃密な一年一年をそのときの心情を再現するようにさらに濃密に語る。伝説の経営者ではあるが、そこにはほとんど泥臭い物語しかない。危機は次から次へと訪れる。彼は悩む。そうすべきではなかったという後悔があふれている。決断をするということは、後悔をするということでもある。あのナイキでさえ成長企業としての在庫と資金調達の問題に振り回されている。ナイキへの印象が変わった。

    1962年に「ここがすべての始まりだ」と言ったアテネのアクロポリスの丘でパルテノン神殿の横に立つアテナ・ニケ(Nike)神殿。勝利を意味するこの言葉が後にナイキ(NIKE)という彼の会社の名前となる。ただしナイキという名前については彼は気に入っていなかったようで、当初はディメンション・シックスという名前を押していたという。
    あの有名なロゴが決まる場面についても合議を重ねた様が描かれている。35ドルでデザインされたナイキのロゴ。こちらもフィル・ナイトは最初は気に入っていなかったようだ。「とりあえず時間がないから、これにしよう」と言ったらしい。ナイキの成功は、決してフィル・ナイトの独断とセンスで決まってきたものではなかった。シューズに対する愛と、成功するという強い信念によってなされたものだった。

    「ナイキはシューズ以上の存在だ。私はもはやナイキを作った人間ではない。ナイキが私を作っているのだ」とフィル・ナイトはいう。

    「臆病者が何かを始めたためしはなく、弱者は途中で息絶え、残ったのは私たちだけ。私たちだけだ」

    と書かれた文を読むとき、歩まれた道のりの長さを感じ取ることができる。

    ----
    それにしても日商岩井のスメラギとイトーは恰好良すぎる。日商岩井がナイキを救ったのだ。

    「スメラギは、イトーの前で今にも土下座しそうな勢いで、自分が単独でやったことで、会社をだましていたと断言してくれた。「なぜそんなことをしたんだ」とイトーは聞いた。「ブルーリボンが大成功すると思ったからです」...フィル・ナイト氏とは何度もトレイル・ブレイザーズの試合に行きました。倉庫で荷造りも手伝いました。ナイキは私にとって我が子のようなものです。我が子の成長を見るのはいつだってうれしいものです。
    「それでは君がインボイスを隠したのは……つまり……彼らのことが好きだからというわけか」
    非常にバツが悪そうにスメラギは頭を下げた。「はい」と言った。「はい」と。」

    そしてイトーはナイキを苦しめていた地場の銀行に対して次のように告げる。この本の山場のひとつだ。

    「彼は直ちに本題に入った。忌々しい本題に。彼はホランドしか相手にしていなかったが「みなさん」と前置きした。「私の理解では、ブルーリボンとの取引を今後は拒否するそうですが」
    ホランドはうなずいた。「そのとおりです。ミスター・イトー」
    「それならば日商がブルーリボンの借金を返済します。全額」


    最後に「20代半ばの若者に言いたいのは、仕事や志す道を決めつけるなということだ。天職を追い求めてほしい。天職とはどういうものかわからずとも、探すのだ。天職を追い求めることによって、疲労にも耐えられ、失意をも燃料とし、これまで感じられなかった高揚感をえられる」と言う。そう言われたときに、自分の子供たちはどうだろうか、と思う歳になった。そして、自分は天職を探そうとしていただろうか、と。

    筆者や他の仲間の不器用な熱い思いが伝わり面白いが、それだけに自らに振り返って胸に刺さるものもある。

  • ナイキの創業者フィル・ナイトの自伝。経営者の自伝はとかく堅苦しかったり、英雄伝説っぽかったりするが、本書はとても親しみやすい。何といても彼は文章が上手い(翻訳がよいのもあるだろうが)。平易な語り口でありつつ、次々とドラマを用意し、飽きさせない。60年代に青春時代を送り、バックパッカーとして世界を旅したこともある彼からは、優等生的な経営者の香りはしない。当時、市場を制していたアディダスに、仲間とともに挑んでいく姿はすがすがしい。また、彼自身も陸上競技をやっていて、ランニングがいろんなエピソードの合間で重要な精神安定剤の役割を果たしていることにも親近感を覚える。
    ランニングシューズはナイキを履くことがこれまでも多かったのだが、これからは一層、自分の中でナイキ愛が高まりそうな気がします。

  • 各新聞の書評でも取り上げられている話題の書。ランニングをするので、ためらわずに書店で購入したが、ランニングの本というより、お金に苦労するビジネス立ち上げの本。17万部と突破したらしいが、ランニング好きの人が読むには、靴の説明は少なく、お金の話が多いのでちょっと退屈か。でも、「人間は誰でもアスリートである」というNIKEのブランドの信念は50年まえからあったこともわかるし、ランニングのために、いかに開発に苦労しているかもわかる。一方、日本のオニツカとの出会い、交渉、生産の話も書かれている。思えば、このNIKEはもちろん、最近見たスターウォーズも、Appleも日本との関わりがあり、なぜ、日本初で世界に出ていけないのか、この本でもかんがえることができると思う。

  • ナイキのフィルナイトの本。前から気になっていた本。満を持して読書

    メモ
    ・世界は戦争や苦痛、貧困に溢れていて、単調な毎日は心身を消耗させ、不公平なことばかりだ。そんな中でただ一つの解決法は、けた外れに大きくてあり得ない夢、追い求める価値があり、自分に見合った楽しい夢を見つけて、アスリートのように一心にそれを追い求めること。
    ・世界は馬鹿げたアイデアでできている。歴史は馬鹿げたアイデアの連続。
    ・素敵な母

  • ハッタリかまして鬼塚タイガー(いまのアシックス)から北米商権を得るアメリカ人青年。これがナイキの原点。

    大事な時に助けてくれる総合商社の若い日本人達がメチャメチャかっこいい。

    3回読みました。

  • シュードッグとは靴の製造や販売、購入、デザインなどにすべてを捧げる人のこと。読み始める前は題名から想像がつかない内容に読むことを悩んでいた。500ページを超える内容は読み始めると次々とページが少なくなっていった。ナイキと日本の関係や自分が生まれた年のナイキの情勢。自分のスポーツとナイキの関わり。見方は色々だがスリリングに読める内容は素晴らしい。「自分の価値は、自分に関わる人たちで決まる」の言葉は映画の引用だが本書ではもちろん自分にも当てはまる言葉として印象に残った。オススメです。

  • Nikeの創業から株式公開まで。Audibleで英語学習を兼ねて朗読を聞こうと思ったが、学習になるはるか手前の状況であることがわかったので日本語で下読み。修辞的な文章がけっこうある。英語が優しくて英語の学習に最適、というレビューはどうかと思ったが、内容にはぐいぐい引き込まれる。どう考えても破滅しかない状況がずっと続くが、スタートアップが一気にのし上がるにはこの綱渡りをしなくてはならないんだと思う。成長か死か。手紙に返事かけよとか、お礼くらいなんか言えよとは思ったけど、こういう人ってなんか魅力があるんだろうな。そうでなければ、人は集まらない。

著者プロフィール

フィル・ナイト
ナイキ創業者
世界最高のスポーツ用品メーカー、ナイキの創業者。1938年生まれ。オレゴン州ポートランド出身。オレゴン大学卒業。大学時代は陸上チームに所属。中距離ランナーとして、伝説のコーチ、ビル・バウワーマンの指導を受ける(バウワーマンは後にナイキの共同創業者となる)。1年間のアメリカ陸軍勤務を経て、スタンフォード大学大学院に進学。MBA(経営学修士号)取得。
1962年、オレゴンの「ブルーリボン・スポーツ」社の代表として日本のシューズ・メーカーであるオニツカを訪れ、同社の靴をアメリカで売るビジネスを始める。その後独自ブランドの「ナイキ」を立ち上げ、社名もナイキと変更。創業メンバーたちとともに、スポーツ用品界の巨人、アディダスとプーマをしのぐ企業へと同社を育て上げる。1964年から2004年まで同社のCEO、その後2016年まで会長を務める。妻ペニーとオレゴンに暮らす。

「2017年 『SHOE DOG(シュードッグ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

フィル・ナイトの作品

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