ナイフ投げ師 (白水Uブックス179)

  • 白水社
4.12
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (307ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560071793

作品紹介・あらすじ

自動人形、遊園地、気球飛行、百貨店…ようこそ“ミルハウザーの世界”へ。飛翔する想像力と精緻な文章で紡ぎだす、魔法のような12の短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • やたらしつこい文章だなぁと思いながら読みましたが、面白かった。短編のほとんどが、何かを極めるあまりとうとう一歩向こう側へ突き抜けてしまった人や組織を主題としているので、それに負けないくらいのしつこさが必要だったのだろうと思った。そういった内容の表題作や「新自動人形劇場」一方で思春期の少年少女の不穏な内面が窺える「夜の姉妹団」「月の光」が特に奇妙な感じで、よかった。長編も読んでみたい。

  •  短編集。
     人間の心の奥底に潜んでいる闇の部分を引っ剥がされたり(「ナイフ投げ師」「カスパー・ハウザーは語る」等)、人間の際限の無い欲望、そして限界を超えた欲望の果てに待っているものを描いたり(「協会の夢」「パラダイス・パーク」等)、幼い日々にのみ感じることのできた何ともいえない高揚感を描いたり(「空飛ぶ絨毯」「月の光」等)、どれもこれも真珠の短編といっていいと思う。
     個人的には、自己中心的な人間の心理の変化(いかに自分を楽観的に納得させるか、とか、いかに他人の愚かさを馬鹿にできるか、とか)を絶妙なタッチで描いてみせた(そして、そのみじめななれの果てを描いて見せた)「出口」が出色の作品だった。

  • 先鋭化し崩壊/腐乱する芸術・夜の散歩・幼い頃の全力の遊び、とおなじみのモチーフが繰り返し登場する短編集。ワンパターンという批判もあるだろうけれどこれはもう好きな人は好きなんだから仕方ない世界。とにかく鮮やかで眩しい世界が過剰とも感じられる緊張をもって語られる、そのテキストの並びにときめく。「私たちの町の地下室の下」のグランド・フィナーレ感といったら!

  • ミルハウザーの第三短篇集らしい。収録作12篇つづめれば同じような話、後半はリライトの繰り返しかと思った。硬質な回りくどい文章は訳文ゆえなのか原文がそうなのか私はわからない。メランコリックな叙情の際立ちに効果的なのかもしれない。でも私はもっと柔らかい月の光を身に浴びたいと思う。そのほうがゾッとする、闇のカーニヴァルでは。以前著者の別作品を読んだ時も同様のことを感じた。好みの問題か。

  • Uブックスになるので、購入予定
    お薦めは「新自動人形劇場」!それだけじゃないけど、とりあえず・・・

  • (Ⅰ)夢想する者とその行き着く先。

    (Ⅱ)一種のユートピアものかもしれない。ユートピアのガイドブック。ユートピアに入るとユートピアの思考が発生しわれわれは現実感を失ってしまう。それは愉しいことなのか恐ろしいことなのか。そしてユートピア外部ではユートピアの思考は理解できない。

    (Ⅲ)理解できないことに出くわしたとき人は戸惑う。そして分類したがる。分類して理解しようとする。人生は分類の連続でもある。ただし自分の望むように。分類はその人じしんをあらわす。高潔な人は高潔な分類を、卑しい人は卑しい分類を。いずれにせよ分類するしかなく、しないではいられない。おそらくは安心のために、自分の中の収まりのよさのために。結局人は理解しているわけではない。ゆえにこの本は分類などせずそのまま受けとめたほうがよいものだろうと思う。と、ぼくは分類する。

    ■簡単なメモ

    【ナイフ投げ師】ナイフ投げの改革者ヘンシュのショーは痛みを残す。

    【ある訪問】結婚しそうになかった旧友のアルバートからの招待に応じて田舎町まで行ってみると個性的な妻を紹介された。そして彼の暮らしにある調和を私は得ていないことに気づく。《私をイラ立たせ、殻にこもらせてしまう人物が、同時に私を解放し、より自由な私にしてくれる存在でもあったのだから。》p.41。[好]

    【夜の姉妹団】少女たちは夜毎集まり何かをしているのか何かをしていないかなのだが町の大人たちには全貌がつかめない。ただの、猫の集会かもしれないけど。[好]

    【出口】夫のある女性とつきあったハーターはその寝取られ亭主と出くわしてしまい…。この本の中では若干毛色が違う作品かも。

    【空飛ぶ絨毯】ある日父さんが空飛ぶ絨毯を買ってきた。ぼくは少しずつ高みに行くようになり…。《自分が青のなかに消えていくのを僕は感じた。》《何ひとつない空間がどこまでも広がるなかにあって、僕はいまも僕なのだろうか?》p.121。

    【新自動人形劇場】その市の人間が愛してやまない、超絶技巧による自動人形劇場の、中でも抜きん出た名匠ハインリッヒ・グラウムは絶頂を極めたのち長い沈黙に入り、ふたたび戻ってきたとき…。《もしくはこの模倣の快楽の第二の半分とは、似ていないことの快楽にほかならない。》p.133。《ひとつの芸術のもっとも高度な発現には、それ自体の内に、おのれを破壊する要素が含まれているのではないか。つまり頽廃(デカダンス)とは、芸術のもっとも健全な状態の病める対極などではなく、実は健康と病の両方に通じる衝動の結果にほかならないのではないか。》p.143。[好]

    【月の光】月の光が降りつづく青い夜に踏み出てそぞろ歩きしているとなにかが起こる。《こんな夜にどうして誰も外に出ていないのか、僕には理解できなかった。》p.159[好]

    【協会の夢】協会が買収した百貨店はなんでも売っておりさらに増殖し、われわれは驚異の世界を博物館のように逍遥し現実と非現実のあわいを曖昧にするのだ。

    【気球飛行、一八七〇年】任務を帯び、プロイセン軍に包囲されたパリから気球で脱出した私は「空の思考」にとらわれがちになる。《空を信頼してはならない。》p.207。

    【パラダイス・パーク】高さ120メートルの壁に囲まれていたパラダイス・パークは夢想のままに増殖していく。もうひとつの『パノラマ島綺譚』かもしれない。

    【カスパー・ハウザーは語る】ぼく的には種村季弘さんの作品で名前を知っている人物。彼は民衆にとって楽しめる謎だったかもしれない。彼は民衆の意識の器だったかもしれない。彼の望みはカスパー・ハウザーでなくなることだったかもしれない。それはアイデンティティの崩壊だったかもしれない。そして謎の消失になるかもしれないという二律背反。

    【私たちの町の地下室の下】その町には古くから地下道があり人びとには身近な存在。瞑想の場、迷うことへの希望、避暑。地下道とともにあることによる人生の奥行き、シアワセ。この本の中でもいちばんの好みかも。[好]

  • ふむ

  • カスパーハウザーが授業で言及されたので。

  • 以前に読んだこの作家の長編『マーティン・ドレスラーの夢』と同様、この短編集に出てくるのは、芸を極め、更なる高みを目指し、最後には自壊とも言える状況に陥る人間たち。一時的に世間にもてはやされるのだけれど、やがて大衆を置き去りにしてさらに進んでいってしまう様は、人間の尽きることのない欲望の恐さを感じるには十分過ぎる。
    読み始めると遠くの方から危険を知らせる鐘が鳴り始め、ストーリーが進むにつれてその音が大きく響き出し、もう逃げ出したいと思い始めたところで物語が終わる。こんな話を次から次へと読んでいると、訳者が指摘する通り「健康を取り戻すことは不可能に近い」のかもしれない。

  • 書店員の友人からのプレゼント。
    新自動人形劇場、協会の夢、パラダイス・パークが好きだった。特に新自動劇場。(つまり、クリエイターが芸を極めすぎて崩壊パターンの話)ちょうどLutsenko Dollのメイキングなど見ていたのでシンクロしてしまった。
    映像が見てみたくなる素敵さ。

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著者プロフィール

1943年、ニューヨーク生まれ。アメリカの作家。1972年『エドウィン・マルハウス』でデビュー。『マーティン・ドレスラーの夢』で1996年ピュリツァー賞を受賞。『私たち異者は』で2012年、優れた短篇集に与えられるThe Story Prizeを受賞。邦訳に『イン・ザ・ペニー・アーケード』『バーナム博物館』『三つの小さな王国』『ナイフ投げ師』(1998年、表題作でO・ヘンリー賞を受賞)(以上、白水Uブックス)、『ある夢想者の肖像』『魔法の夜』『木に登る王』『十三の物語』『私たち異者は』『ホーム・ラン』(以上、白水社)、『エドウィン・マルハウス』(河出文庫)がある。ほかにFrom the Realm of Morpheusがある。

「2021年 『夜の声』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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