彼らは廃馬を撃つ (白水Uブックス)

  • 白水社
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784560072004

作品紹介・あらすじ

狂瀾のマラソン・ダンス
 一九三〇年代、大恐慌時代のアメリカ。映画監督になる夢を抱いて青年はハリウッドにやってきた。しかし現実は厳しく、エキストラの仕事にもあぶれ、ドラッグストアのバイトで小銭を稼ぐのが精いっぱい。その彼が出会ったのが、テキサスからきた女優志望の女の子。二人はペアを組んでマラソン・ダンス大会に参加することに。これは一時間五十分踊って十分間の休憩を繰り返し、最後の一組が残るまでひたすら踊り続ける過酷な競技だ。大会を渡り歩くこの競技のプロに、逃亡中の犯罪者、家出娘など〝わけあり〟の参加者も。経過時間が八百時間を越え、残りが二十組に絞られたとき……。競技中に発生する様々な人間ドラマ、若者たちの希望と絶望を巧みな構成で描いたアメリカ小説の傑作。シドニー・ポラック監督、ジェーン・フォンダ主演の映画化《ひとりぼっちの青春》でも知られる。

感想・レビュー・書評

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  •  1935年に書かれ、1970年と1988年に出版されてはいずれも廃版となっては、三度の光を浴びて復刊したのが本書である。しかしこれもまた再版とはならず現在は廃版の状態である。「廃版」とタイトルにある「廃馬」に重なるイメージがあるのだが、本も馬も人もいつかは廃棄される運命にあり、撃たれる運命にあるのかもしれない。

     先日読んだばかりの『屍衣にポケットはない』で独特な感性とタフでぶれない軸を持った作家ホレス・マッコイの名を知り、二つの世界大戦の合間に展開するアメリカという社会の、大戦間ならではの独特な歪みをさらに検証することができるのが本書であると言っていいだろう。

     『屍衣にポケットはない』では、街を牛耳る悪玉金持ちに新聞という名の報道まで持ってかれようという権力悪に、ただの一匹で立ち向かう男を主軸に据え、彼を支える一筋縄ではゆかない男女のアシスト役も目立っていた孤立チームの奮闘ぶりが何とも言えない魅力に満ちていた。本書はその二年前に出版された、中編というほどの短い物語であり、180ページに満たない物語だが、衝撃度はこちらの方が強いかもしれない。

     戦争で儲かる一握りの権力者に対し、戦争で疲弊する社会の悲惨を強く感じ取ることができる本作は、『屍衣にポケットはない』と同様、一握りの金持ち対大勢の貧者という図式があり、そこにたくましく生きようともがく青春群像がはかなくも作品として燃え立っている。

     本書で描かれる二人の男女は、さして深い知り合いでもないが、映画のエキストラをお払い箱になり、千ドルの賞金がかかったマラソン・ダンス大会に出場する。一時間五十分踊って十分間の休憩を取るという無期限のダンス競技に勝てば千ドルの賞金を手にすることができる、というほとんど狂気と言っていいような酔狂な金持ち主催の過酷なイベントなのである。

     日々の休みなきダンス・レースの中で一日一日と多くの男女が脱落してゆく姿をマスコミが食いつき、見物客も絶えない。金持ちのスポンサーがそれぞれのカップルにつくこともあるらしく、一体この狂騒のダンス大会は何なのだろうと首を傾げているうちに、作品のなかの日々は少しずつだが過ぎてゆく。

     ラストの衝撃がちと応えるのだが、そこで改めて本書の風変わりなタイトルのイメージが銃弾のように読者の感性を抉る。本作は1969年代に『ひとりぼっちの青春』という邦題で映画化されている。マイケル・サラザンとジェーン・フォンダ主演のこの英画を当時の映画誌『スクリーン』で知った覚えがあるが映画自体は記憶にない。

     本書は最初から最後までカルチャー・ショックである。馬鹿げたマラソン・ダンス大会を道楽で開催する金持ち
    たちと、そこに参加するしか生活の寄る辺さえ稼げない貧しい男女たち。おまけに本書の主人公たちは知人ですらなく、ただこの大会のために出合頭的にペアを組んだ二人である。だからこそ衝撃のラストが切なすぎる。

     時代を投影する作品として『屍衣にポケットはない』とどちらも強烈な印象を残すのがこの時代の作家ホレス・マッコイ。職業小説家とは言え、小説だけで食べてゆけるほどの売れ行きにも恵まれなかったこの作家の才能は、時代を超えて、今のぼくらの手の届くところで生き続けている。食べてゆくだけでも大変なこの時代と、それに負けぬエネルギーを秘めた若い男女とその生き様、滅びの美学、すべてのノワールの要素を凝縮したような震撼の一作と言えよう。

  • 良い本面白い本というような次元でなく、独り手にてパワーを持っている本があり、そういう本かと。ハリウッドの海岸沿いに耐久マラソンダンス大会が開催される。なんて楽しそうな粗筋なんでしょう。「ひとりぼっちの青春」という映画が作られたそうで、ジェーン・フォンダ役の女子の鬱が周りを疲労させるタイプで、パートナーの、ハリウッドで監督を夢見る主人公は関係者の目に留まるように粛々と行程を全うする。主催者の空気読まない表面だけの明るさ。対照的に何やっても気に入らない鬱。主人公にじわじわ神経の磨耗がすり寄る。

  • 文学

  • 30年くらい前に古本屋で角川文庫を買ったはいいが、積読のままだった。今回の復刊で読むことに。アメリカではパッとしなかったけどフランスで高評価ということに頷ける物語でした。

  • 単調な文で、理解し難かった。

  • タイトルほど中身はクールではない。突然の殺人、その理由が「廃馬を…」というオフビート感が、その時代のアメリカの空気を写し、またカミュの異邦人のような演出かもしれないが、「始終死にたいと言っていたので撃った」というシンプルさで、その先の闇が感じられない。
    テーマがマラソンダンスという馴染みのないもので、不眠不休で踊り続ける大金レースに賞金目当ての底辺の若者が群がるという、本当にこんなことをやっていたことは狂気じみている。
    後書きに「2流作家だがこれが一番の傑作」というような紹介をされている。映画化されたそうだがそれも1969年。なぜこれが今年復刊したのか不思議だ。

  • ほとんど無名の作家で、しかし、傑作の小説。

    心理描写らしい描写は少ないものの、読了後の感覚が何とも言えない。

    80数年前に書かれた小説だが、過去何回か出版され、絶版になり、復刊されるだけの価値のある小説である。

    小説の冒頭は、「現在」から始めるが、そこがポイント。

  • 登場人物の気持ちはもちろん、そこで繰り広げられている映像が目の前に映し出されるような文章。映画もぜひ見てみたいのでDVD化されることを望む。

  • マラソン・ダンスに出場した2人の男女を通して、1930年代のハリウッドを描いた中編小説。
    まず『マラソン・ダンス』という耳慣れない言葉を不思議に思う。何かというと、『男女のペアがただひたすら踊り続ける』、これだけなのだが、とにかくぶっ通しで踊り続けるという競技(?)の性格上、パートナーに対して乱暴な行為に及ぶことも珍しくなかったとか。作中にもそのような描写が頻発するが、巻末の『訳者あとがき』にも詳しく書かれている。
    無茶苦茶なことを考えた人間もいたものだが、妙に生き生きと描かれていて、ダンスシーンを読んでいる時の、一種のスリリングさは他の小説ではなかなか味わえないものかもしれない。
    著者についてはあまり多くのことが解っていないようだが、『訳者あとがき』に記されている著者の経歴はけっこうユニークだった。複数の作品が映画化されている割にイマイチ経歴がはっきりしない、というのも不思議なもの。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記はこちらに書きました。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=5034

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著者プロフィール

1897~1955年。アメリカの作家。著書に『彼らは廃馬を撃つ』『明日に別れの接吻を』など。本書は1969年にシドニー・ポラック監督により映画化された(邦題《ひとりぼっちの青春》)。

「2015年 『彼らは廃馬を撃つ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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