プーチンの国:ある地方都市に暮らす人々の記録

  • 原書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (306ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784562054190

作品紹介・あらすじ

プーチン以後、庶民の生活はいかに変貌したか。あえてモスクワを避け地方都市を20年間定点観測。一般住民は勿論、ムスリム、同性愛者、兵士、人権活動家他に取材、ロシアの「今」を人々の暮らしから描いた女性特派員の労作!

感想・レビュー・書評

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  •  偶然にも、あの隕石騒動の前、1993年からチェリャビンスクに入っていたアメリカのジャーナリストである著者。
     本書は2016年に上梓されているので、2014年のクリミア併合後ではあるが、2022年2月のウクライナ侵攻よりはるか前のロシアの内情である。が、故に、今年の3月以降にウゴノタケノコ的に出された書籍とは一線を画す。実際に現地に入って、多くのロシア人と直に触れて、語り合ってまとめた記述は、ネット情報を集めて適当な分析をしているオンラインで読める記事とも明らかに重みが違う。

     著者が出会ったロシア人たちは、多くのロシア人の代弁者だ。自分たちが、世界からどのように見られて、その世界をどう見ているのか。

    「彼らは自分を責めるのにうんざりしている。自分たちの国がマフィアの支配する泥棒国家にすぎないと思われることに飽き飽きしている。また、自分たちの犯した罪を西側諸国から責め立てられるのに辟易している—とくに西側諸国の犯した罪をくわしく知るようになった今となっては。」

     ロシア国内に居ながらも、ジャーナリストとして西側視点も持ちつつロシア人が抱く西側諸国への不信感も、実は根拠が乏しいと言い、ロシア政府による情報操作の存在も指摘する。が、一方で、
     
    「まったく事実無根というわけではない。」

     とも言い切る。そのバランスが絶妙だ。

     今回(2022年2月24日から)のロシアによるウクライナ侵攻のはるか前から本書の執筆はスタートしているが、今回の紛争の火種もきちんと明記されている。

     ひとつ、NATOへの不信感。
    「もはや冷戦が存在しないのにNATOが東ヨーロッパへ拡大しているとはどういうことかと彼らは繰り返し不安を口にする。」
     そして、実際にNATOが行った事実も。
    「コソボ紛争では国連安全保障理事会の承認がないまま、同じスラヴ人であり、正教会の信者でもあるセルビア人へのNATO軍の空爆が始まった。」

     西側のマスコミはほとんど黙して語らないが、アメリカの、— 著者にとっては自国の —、非難されるべき一面もきちんと記している。

    「アメリカはコソボをセルビアの領土の一部と認めていたにもかかわらず、コソボの独立を承認した。」
    「2003年にアメリカがまたもや国連安保理の承認を受けずにイラクに侵攻した」
    「ウクライナ、ジョージア(旧名グルジア)、キルギスタンの偽りの民主革命に首を突っ込み、ロシアと国境を接するジョージアとウクライナにまでNATOを拡大すると言い出した。」

     こうしてバランスよく両者の立場、過去の所業を同じく俎上に載せて語っている点が非常に良い。

     時節柄、そうした西側やNATOとのロシアの関係の記述にどうしても目がいきがちだが、それだけはなく、市井の人びと、いちタクシー運転手コーリャの生活の変遷、ロシアの家族問題、薬物依存者、HIV感染者ともふれあい、医療問題やLGBTの実情もレポートしている。
     オリガルヒに代表されるロシアの富裕層の存在が、昨今、資産凍結や権利剥奪などの報道で目にする機会も多いが、ロシア国外に居ることも多い。そうした、資本逃避の問題も、単なる国力、財力の話としてだけではなく、頭脳流出問題、あるいは人口減少の問題にも関わると指摘する。
     我が国でも喫緊の課題である人口問題。出生率の向上に向けてロシア政府の施策も紹介されている。

    「産前産後休業・育児休業(産休・育休)は今では世界一手厚い。何しろ産休中は140日間の給与が雇用主から全額支給され、3年間の育休中は同じく40%が政府助成金で支払われる。また、もっと子供をつくろうという意欲を刺激するため、第二子以降が生まれるたびに一時金が支払われる。女性の職場での地位は、出産後2年間は保証される。」

     ああ、当時(2012-15年)、現地法人で人事にも絡んだ仕事をしていたが、女性社員への手厚い保護も、社会主義国家だった伝統もあるのかと思っていたが、国家としての人口問題への長期的な取り組みの一環でもあったんだなと、今さらながら思わされる。

     いろんな、あるあるや、ロシア人の素のネイチャーなどは、実際にかの地で彼らと触れ合った者でしかうかがい知れない面があり、それをしっかり捉え、さらに深堀している著者だけに、その記述に対する信憑性に、一定の信頼感が持てる気がする。

     にわかに、ロシアという国、プーチン大統領関連の著作が書店を賑わせているが、プーチンを分析はしつつも、そのプーチンを支持するロシア国民を詳細に語った著作は少ない。 貴重な、ロシア地方都市からの渾身のレポートだ。

  • ふむ

  • ロシアという国の事情があるにもかかわらずとても詳しくインタビューしているなと思った。
    淡々と書かれている印象を受けたので、文章が面白いとかは思わなかったけど、ロシアの告発本としては興味深い

  • ロシア版ヒルビリー・エレジーか。ロシア的なものを理解する良い資料。西洋的な価値観の流入に対して従順になった日本とは対象的で興味深い。

  • 2013年 隕石が落下したチェリャビンスク市を含むチェリビャンスク州の一般住民が語るロシアの「今」。
    アメリカのジャーナリストによる本。
    文が隕石から始まって隕石で締めているところが面白い。
    図書館で手にとって、借りて読んでみようと思った。
    第16章「核の悪夢」は福島原発事故が起きた日本でも考えさせられる。
    今のロシアを知る一冊。

  • ここまでの国とは思ってなかった

  • 東2法経図・開架 302.38A/G24p//K

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