ヨーロッパから民主主義が消える 難民・テロ・甦る国境 (PHP新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569827919

作品紹介・あらすじ

ギリシャで始まった民主主義をいまドイツが滅ぼそうとしている。ドイツの行動原理を知り尽くした評論家が現地から届ける衝撃レポート。

感想・レビュー・書評

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  • 著者はドイツ在住、音楽学科卒の日本人。本は2016年1月出版。

    理想を掲げたEUとその実現困難さーEUの複雑なシステム、ギリシャ危機、2015年欧州難民問題、同難民問題に伴うナショナリズムの高まりなどーが、ドイツで生きる1人の日本人が感じたこととして語られています。
    システムや問題の分析的な記述と、生身の人や生活への影響などの身近感のある記述のバランスが結構とれていて、肩肘張らずに読みやすい本だと思います。

    難民もギリシャ危機もEU内の大きな課題ですが、難民の問題は中東の紛争の問題でもあり(ギリシャ危機は不勉強でノーコメント)、EU外の世界とどのように向き合うかという課題でもあります。

    自分と他人、自分の家族とほかの家族、自分の町と隣の町、自県と他県、自国と他国。
    「自分達」と考えられるのはどういう条件や要素なのか、そんな「自分達」と違う人達とはどのように向き合えばよいのか。
    苦悩するドイツ、EUの姿からは、そんなことを考えさせられます。

  •  日本の出羽守さん達はヨーロッパは民主主義的で平等で素晴らしい!とよく褒めるが、難民問題やコロナでのロックダウンであっさりシェンゲン協定を放棄する様を見ると、全く胡散臭いものだと思う。

  • EUはエリートの論理で動く非民主的な組織である。

  • 理想を追い求めたが、結局欲得、格差が広がり。
    理想と現実の狭間で崩壊しつつあるEU。

    怖いのは、そこから日本が何を学ぶかってこと。

  • 第1章 民主主義の理想を追い求めたヨーロッパ
    第2章 「EUの利益」とはそもそも何なのか
    第3章 ユーロという爆弾を破裂させたギリシャ
    第4章 それでもギリシャを締め上げるドイツ
    第5章 「強すぎるドイツ」も内実はボロボロだ
    第6章 ドイツに押し寄せる大量の経済難民
    第7章 そして難民問題がEUを破壊する
    第8章 テロの嵐、甦る国境とナショナリズム
    終章 「国境を超える枠組み」と日本の選択

    著者:川口マーン惠美(Kawaguchi, Emi M?n, 1956-、大阪府、作家)

  • 「出口の見えないXX問題」という難問は世界にこれまでもあったし、それでもなんとかやってきた感はあったけど、もうダメ感しかない難民問題について知るために読んでみた一冊。
    受け入れか拒絶かという二項対立で人が二分され、欧州が壊れていく初期の様子が丹念に描かれていて、現状を理解するのに役立った。

    日本も難民が押し寄せることへの準備を怠れば、受け入れても受け入れなくても地獄なのだと思う。

  •  著者の手になる書物を初めて拝読しました。
    正直、己の不明を恥じました。文章が上手い。行間より教養の高さをひしひしと感じます。すごいもんだと。流石に音大生美大生達で功なり名なりを挙げてひとかどに成られる才媛たちの英気を覚えるというのか。普通に「教養人」というものでしょう。活計の足し以上の世界があるのだとこちらが頭を足れる。憧れというものです。
     著書の内容的には非常に重たいです。
    日本人でよかったという安堵感とやるせなさを感じます。
    欧州発祥・欧州が世界分割により持ち込んだ擾乱を、現代以降において、こころの呵責と引き換えに受け容れざるを得ない理想主義「人権」という方便、この理想は祭壇に祭られたまま現実の庶民は我慢のかぎりを超えてしまっていた。
    救いようもない悲劇・・・

  • ギリシア危機を乗り越えようとするEUも、押し寄せる難民を前にレイシズムを標榜する極右勢力が台頭し、国境が復活するなど、EUとしてのまとまりが解けようとしている現状を報告しています。強欲な既得権益層が富を集中させる一方で、怒りのはけ口を求めるエネルギーが溜まり続けています。世界情勢はキナ臭く、過去の歴史に照らし合わせたとき、モヤモヤした不安は膨らみます。

  • ドイツ人の夫と娘(生物学的には「ハーフ」ということになろうが、ドイツに生まれドイツに育った彼女たちは、本人を含む誰に言わせても「ドイツ人」であろう)を持ち、在独30年という著者は、EUができた当時を肌で知っている。それまで「ドイツ国民」と「それ以外」に分かれていたパスポート・コントロールは、爾来「EU市民」と「それ以外」に変わった。それを目にして、著者は何とも言えない不快な気持ちになったという。
    「いやあね、今後、ドイツで日本人は差別されるのかしら?」 連れ(おそらくは「ドイツ人」の夫君か娘さんだろう)にそう言った時はあくまで冗談のつもりだったが、それから20年以上を経た今、著者はまんざら笑い事ではなかったかもしれないと思い始めている。
    国家という「有料会員制クラブ」で、国民とそれ以外が峻別されるのは当然のことだ。だがしかし、同じ「外国人」にもかかわらず「一級市民」と「それ以外」とに分けることには、どんな理屈もつけようがないだろう。
    ことほどさように、EUとは本来排他的なものだった。それが、こともあろうに「正義」と「寛容」なんぞを旗印に掲げ出したところに、こんにちまで続く混乱の源がある。
    「畢竟、どこまで行ってもドイツ人はドイツ人、スウェーデン人はスウェーデン人、ポーランド人はポーランド人でしかない。彼らが『ヨーロッパ人』として団結できる時はただひとつ。ヨーロッパの外で、アジアやアフリカの人々と対峙した時だけだ」
    本書の主眼は、著者のこの分析に尽きると思う。そしてそれは、著者(や私)に言わせるなら、ごく当然のことに思えるのだ。「なぜドイツ人はドイツ人であることを超越できないのだろう?」 これをとてつもない不幸や、本人の怠惰や、何かの間違いであるかのように言う人もいるが、私にはそれらの人々は「なぜ人間は500歳まで生きられないのだろう?」とでも言っているかのように見えてならない。つまり、とてつもなく身の程知らずで、傲慢で、思い上がった人間に。
    人間は己の限界を知り、その上で重々身を慎んで行動すべきだと思う。

    2016/11/7読了

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著者プロフィール

作家、ドイツ・ライプツィヒ在住。日本大学芸術学部卒業後、渡独。1985年、シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。2016年、『ドイツの脱原発がよくわかる本』で第36回エネルギーフォーラム賞・普及啓発賞受、2018年に『復興の日本人論 誰も書かなかった福島』が第38回の同賞特別賞を受賞。近著に『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)、『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』(ワック)などがある。

「2022年 『左傾化するSDGs先進国ドイツで今、何が起こっているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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