魔法がとけたあとも

著者 :
  • 双葉社
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本棚登録 : 311
感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575241754

作品紹介・あらすじ

妊娠した。周りは正しい妊婦であるよう求めてくる(「理想のいれもの」)。鼻のつけ根にある大きなホクロ。コンプレックスから解放される日が来た(「君の線、僕の点」)。中学生の息子に髭、自分の頭には白いものが(「彼方のアイドル」)。誰もが経験しうる、身体にまつわるあれこれ。そこから見えてくる新たな景色を、やわらかな眼差しで掬いとった短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 「自分の身体」がテーマの短編集ということに気付いたのは読んだ後で、読んでいるときはタイトルの「魔法がとけたあと」感が何ともエグいな~と思った。自分の思い通りにいかないジレンマが痛々しく、ちょっぴり切ない。こういうもどかしさ、確実に自分も経験があるものばかりだからだ。
    なかなかに苦々しい描写もある一方で、ほどよく甘い。小道具の使い方も絶妙だなといつも思う。印象に残ったのは、「理想のいれもの」で妊婦の志摩がハマるシチュエーションCD、「花入りのアンバー」で美鶴が仕込む果実酒(飲んでみたい…!)などだ。カバー絵には、ストーリーに登場する小道具が色々ちりばめられていることに気付き、読了後にじっくり見るのも楽しかった。
    それぞれに面白い5篇だったが、一番好きなのは「彼方のアイドル」かな。アイドルのライブ場面の臨場感がもう最高で!年ごろの息子との距離感の取り方に対する難しさも…身につまされるところが多くてあれこれ考えさせられた。そして、ジワリと泣けた。
    奥田作品、これからも追いかけていきたいです。

  • 最近どハマり中の奥田亜希子さん。


    「理想のいれもの」
    シチュエーションCDの魔力恐るべし。
    「花入りのアンバー」
    インスタ映え狙いの元女将さんが素敵すぎる。
    「君の線、僕の点」
    ホクロってなんで出来るんだろう。
    「彼方のアイドル」
    ダッフルコーツのイメージが難しい……(笑)


    空回りが続くと、突然、どうしようもなく全て放り出したくなる時がある。
    それがいつまでも続くわけではないのに、刹那、その無力感めいたものに支配されてしまった時のような、そんな息苦しさが蘇った。

    一番最後に入っていた「キャッチボール・アット・リバーサイド」がまだ苦しく残っている。
    かつて、野球部のエースとして特別視され、成績も優秀だった友人の千晃。
    そんな彼が今や面影もない姿で目の前にいる。
    元妻からのDVの跡をまだ身体に残す千晃を前に、大悟もまた、妻とのすれ違いの生活を思う。

    傷付いたから傷付けても良いわけではなく。
    傷付いたとて、治るかは分からない。
    お互いの望みのすれ違いの中で、どうしてこんなにも傷付き合ってしまうんだろうな。

    何に対して「間違っている」と言えばいいのか、分かりにくい、だから苦しい。
    けれど、傷付いた友人を放ってしまうような物語でなくて良かった。
    キャッチボールをして、微笑みあえる、そんな物語で良かった。

    どの短編も、そういう、苦しんだけれど、あぁ良かった、と思えるストーリーが用意されている。

    『魔法がとけたあとも』というタイトルは、どんなイメージで付けられたんだろう。
    恋人とか夫婦とか家族とか。
    そういう形における、理想のイメージって「魔法」ってことなんだろうか。
    一定時間が経って、形としての持続は出来なくなって、でもそれでも世界は続いている。

    つまり、ある種の癒着をして原型を留めないような、いや、破綻して二度と結ばれないような、思い切って離脱するような、そんな様々な、自分の在り方は、それでも続いていくのだな。

  • 読み易かった、ほっこり短編集。短編集は苦手だけど、この本は素敵だなと思った。
    読み終わりも良い気分。

    ホクロの話好きだな〜。
    自分が思っているほど、他人は人の顔を見ていないし気にしていない。
    梅酒持ち込みの話も好き。自家製果実酒を作りたくなった。

    この作者さんの他の作品も読んでみたいなと思った。

  • 楽しみにしていた恋人とのデートがおじゃんになって読み始めた奥田亜希子さんの「魔法がとけたあとも」5つのお話の中でも特に「彼方のアイドル」がとても心にきた…。体が破裂しそうなくらいのわくわくと、少し気を抜いたら泣いてしまいそうな気持ちに共感。それから、三ヶ月後には成人を控えているし果実酒を作ってみたいと思った。

  • とても素敵な短編集。
    ほっこりしたり、ウルっとしたり、胸が温かくなるお話しばかり。

  • 表紙が可愛くて何気なく手に取りました。
    短編集で、仕事終わりなど疲れた時でも読みやすく、少し優しい気持ちになれるお話でした。

  • 魔法という言葉に表された個人が囚われている思い込み、コンプレックスなどがなくなる連作短編集。
    シチュエーションCD、アイドルファン、元カレへの執着の話が面白かった。
    シチュCDとアイドルについてはかなり詳しく細かく語られていて、多分作者やかなり近しい方にハマってるケースがあるんじゃないかと推測。
    ⭐︎理想のいれもの
    ⭐︎花入りのアンバー
    ⭐︎彼方のアイドル
    この作者さんは今後チェックしていこう!

  • しっくりいっていない、社会や生きる日々への何かしらの不適合の感覚…。それは自分の病であったり、容姿へのコンプレックス、或いは仕事、恋愛、家族等々、それらを通じて、納得できない事柄に自分自身がどん詰まりを感じることではないだろうか。何故自分だけ、どうしてうまくいかない?と。

    そこで絶望してしまったり、何かを閉じてたり、諦めたりと、自ら複数の選択肢を絶ってしまうことは他人事ではない。

    短編5編、とても日常的な題材で、それぞれの主人公たちが、諦めかけた選択肢を取り戻す様子が明るい。ちょっと出来過ぎ感と、センチメンタルで甘い印象だが、ちっちゃな心のささくれを上手に描ける作家さんだ。

  • 短編集。日常的の一部を切り取った話で、話の中に出てくるささいな葛藤、ジレンマがうまく書かれてて、読みながら「あーわかるなぁ」と共感してしまう。いい意味で結末が後に残らず、シュワっと蒸発していく感じ。

  • 身体の変化とそれに伴う心の変化をテーマにした5つの短編集。なかなか思い通りにいかないモヤモヤした感情を誰しもが抱えながら生きていますが、いろんな方法でそのモヤモヤを解こうとしています。シチュエーションCDにハマったり。果実酒を作ってたしなんだり。コンプレックスの一重瞼を二重にする、あるいは目立つホクロを取るプチ整形。アイドルへの推し活。学生時代に打ち込んだ野球。それぞれの主人公がそれぞれの方法でモヤモヤを打開する糸口を掴んでいく様子がとても微笑ましく、胸が暖かくなる展開が良かったです。相手の言動をつい自分の思い込みで解釈してしまいがちですが、よくよく問いただすと全然違ってた、取り越し苦労だったということもあります。気持ちのキャッチボールをしたくて言葉を投げかけても反応がかえってこなければすれ違ってしまうこともあります。大切な人、かけがえのない自分自身をより大切にするヒントが込められた素敵な小説でした。

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著者プロフィール

1983年愛知県生まれ。愛知大学文学部哲学科卒。2013年『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞しデビュー。他の著書に『透明人間は204号室の夢を見る』『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』『リバース&リバース』『青春のジョーカー』『魔法がとけたあとも』がある。

「2021年 『求めよ、さらば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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