文豪怪奇コレクション 猟奇と妖美の江戸川乱歩 (双葉文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575524291

作品紹介・あらすじ

日本人に最も親しまれてきた作家の一人である江戸川乱歩は、ミステリーや少年向け読物のみならず、怪談文芸の名手でもあった。蜃気楼幻想と人形からくり芝居が妖しく交錯する不朽の名作「押絵と旅する男」、斬新な着想が光る「鏡地獄」や「人間椅子」、この世ならぬ快楽の世界へと誘う「人でなしの恋」や「目羅博士」など、残虐への郷愁に満ちた闇黒耽美な禁断の名作を総てこの一冊に凝縮。巻末に「夏の夜ばなし──幽霊を語る座談会」を文庫初収録!

感想・レビュー・書評

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  • 乱歩先生の作品の中でも『猟奇と妖美』をテーマにした作品12編。ミステリー作品は入っていないのでご注意を。

    未読作品は4編。
    「火星の運河」は『私の夢を散文詩みたいに書いたもの』というだけあってストーリー性は無い。乱歩先生お得意の不気味な背景の中で、主人公は男なのに夢の中では女になって自分の体を掻きむしり血をダラダラと垂れ流す。
    何とも意味深な夢に見えるがそこに深層意識などを解釈しようとするのもナンセンスか。

    「白昼夢」は白昼の往来で堂々自分の猟奇的犯罪を語る男の話。その男が指差す先には彼の犯罪の紛れもない証が。果たして本当に彼は犯罪を犯したのかそれともからかわれたのか。

    「目羅博士の不思議な犯罪」は目羅博士による連続殺人事件の謎解きとそれを止める探偵の話。乱歩先生の作品にはこんなことで人を操れるのか?と思えるものが時折出てくるが、これもその類。そして探偵のモジャモジャ頭はもしかして?

    「蟲」は収録作品中もっとも印象深い作品。
    これもまた乱歩先生の作品にはよく出てくる、人付き合いが苦手な引きこもり青年が主人公。しかも裕福でプライドが非常に高い。
    プライドが高いゆえに途轍もなく卑怯で姑息なことをしてしまうという、相反する行動を取ってしまうのが面白い。人付き合いが苦手で蔵の中に閉じこもる生活をしているのに、自分の欲望を叶えるために自動車学校に通ってみたり敢えて人前に出てみたりと姿勢ブレブレなのに彼の中では一貫しているというところも。
    彼の歪んだ欲望はついに果たされるのだが、この作品の真骨頂は実はここから。さらなる欲を出したがために思いもよらぬ事態に陥っていくのだ。タイトルの意味がここで分かる。
    彼の欲望と破滅といい、エログロ要素といい、乱歩先生らしさ全開。主人公はあくまで真剣で必死なのに、読んでいるこちらは滑稽な感じすら受けてしまう。ごめんなさい。

    様々な愛のかたちと破滅という視点で言えば「芋虫」「お勢登場」もそうだ。乱歩先生の作品は女性のほうが立場が上だったり性格的に強かったりというキャラクターも多い。
    「防空壕」は艶っぽさも入れたオチ話のようで収録作品の中では変わり種。一方で焼夷弾が降り注ぐ夜空や燃え盛る町を美しいと思いうっとりと眺める主人公の姿にはなんとも言えない危うさも感じる。
    「人でなしの恋」や「押絵と旅する男」という人外もの?もある。しかしこの二編、破滅なのか成就なのかその判断は難しい。

    「踊る一寸法師」は「蟲」とは逆にプライドをズタズタに踏みにじられている一寸法師が遂にキレる。「白昼夢」同様、あまりに堂々とされると周囲の人々の正常バイアスが掛かって思考が止まるもの。

    「鏡地獄」もまた何かに没頭し暴走していく男の話だが「目羅博士~」同様、果たしてこれで『自身を亡ぼさねばならなかった』ほどの衝撃を受けるのかは分からない。だが乱歩先生の頭の中ではとてつもない狂気と妖美の世界が広がっていたのかも知れない。

  • 横溝正史、江戸川乱歩...... 日本の本格推理小説、英米で静かなブーム | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
    https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/05/post-96258.php

    株式会社双葉社|文豪怪奇コレクション 猟奇と妖美の江戸川乱歩|ISBN:978-4-575-52429-1
    https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-52429-1.html

  • 光文社文庫の全集でだいたい読んだので、初読は「防空壕」「夏の夜ばなし――幽霊を語る座談会」のみだが、既読の作品も改めて面白い。
    講談調の語り手の文体も、語り手が延々告白する口調も、同様によい。
    やはり内容だけでない文章の味。
    語り手が存在する場合は、語り手がある特異な人を観察した上で読み手=聞き手に報告する、という形式があるみたい。
    メディウム=媒介者が、特異な人と読み手の中間に位置するパターンが多いな、とか、つらつら思いながら読んだ。
    以下ざっくりと。

    ■火星の運河
    彼女←私が語り手→読み手
    ■鏡地獄
    彼←(観察)ー私Kー(語る)→冒頭の語り手私→読み手
    ■押絵と旅する男
    兄←(観察)ー老人私ー(語る)→語り手私→読み手
    ■白昼夢
    演説者真柄太郎→語り手私→読み手
    ■人間椅子
    手紙の主→閨秀作家佳子←語り手作者→読み手
    ■人でなしの恋
    夫門野←(観察)ー語り手妻京子→読み手
    ■踊る一寸法師
    軽業師たち・一寸法師の録さん←(観察)ー語り手私→読み手
    ■目羅博士の不思議な犯罪
    目羅博士←(観察)ールンペン風の青年ー(語る)→語り手乱歩→読み手
    ■蟲
    木下芙蓉←柾木愛造←語り手作者→読み手
    ■蟲
    木下芙蓉←柾木愛造←語り手作者→読み手
    ■防空壕
    僕市川清一→聞き手/わたし宮園とみ→聞き手旦那さま
    ■お勢登場
    おせい←格太郎←語り手作者→読み手
    ■夏の夜ばなし――幽霊を語る座談会

  • 未読だったお話は「防空壕」だけでしたが、既読のお話も何度読んでも面白いなぁとつくづく思った本でした。
    短篇では「白昼夢」がとても好きなので収録されてて嬉しいです。
    「押絵と旅する男」「人間椅子」も好き。「鏡地獄」で、千紫万紅が文章に使われてるのを初めて見ました。「防空壕」、酷いものと美しいものは同時に存在する、という感覚でした。オチは面白かったです。
    座談会も良かった。「お化けがいるなら見たい」というのが微笑ましいです。

  • 文豪怪奇コレクション第2弾。江戸川乱歩、まとまったボリュームで読むのは初めてかもしれない(Kindleで収録作品超大量の乱歩全集を買ったけど積んでる)。
    「火星の銀河」「鏡地獄」「押絵と旅する男」「白昼夢」「人間椅子」「人でなしの恋」「踊る一寸法師」「目羅博士の不思議な犯罪」「蟲」「芋虫」「防空壕」「お勢登場」「夏の夜ばなし――幽霊を語る座談会」を収録。

    「猟奇」と「妖美」で高まる期待。探偵小説(ミステリ)よりそっちが気になるんだ……そのうち読む気はあるけど。
    「火星の銀河」がまずなかなかの衝撃。犯罪要素も際立つ変態心理もない、ストーリーというほどのものもない、自身の美意識を深みへ向かって追跡するようなスケッチ。何かしらいやあな恐怖が視界の端を浸しているような描写と躁的な狂乱、絵画と舞踊の美には見覚えがありつつ、ただただ怖い夢(でも悪くなかった)というのは著者の作品としては初めての手ごたえ。高橋葉介の無言劇で見たいような気がしてしまった。
    「白昼夢」の鈍く悠長で無神経な日常風景、そこに埋没する猟奇犯罪、正気と狂気の境を揺るがす笑いも印象的。少しも笑えない「私」は正気か狂気か。あるいは揺るがされたのは夢と現実か。
    一番強烈だったのは「蟲」。「孤独な陰獣」たる世間のはぐれ者の描写が凄まじく、執拗な隙見に育む愛憎に怖気を奮う。そして「生かしておけないほど可愛いのだ」……。なぜ、どうやって殺したか、どうやってそれが露見したか、が気になる滑り出しだったのが、恋(愛憎)が成就するまでとその後始まる「悪夢の恋」に強烈に絡めとられてどうでもよくなってしまった。実際主人公にとっては腐敗とそれに対する抵抗だけが大問題。押し寄せる腐敗のイメージのおぞましさ、行き当たりばったりの抵抗の他愛なさがまたどうしようもない。ところで木乃伊のくだりにシュオッブの短編を連想した。
    「人間椅子」と「人でなしの恋」の語り、「芋虫」の時子の心理、「目羅博士の不思議な犯罪」の奇想も面白い。しかし「目羅博士の不思議な犯罪」の一番秀逸なところは話の枕だったかもしれない。

  • 乱歩の「怪奇・幻想」方面の作品を取りそろえた短篇集。巻末には鼎談「夏の夜ばなし──幽霊を語る座談会」を商業媒体で初復刻収録。

    鼎談は昭和22年グラフ雑誌「トップライト」八月・九月合併号に掲載されたもの。参加メンバーは乱歩と一橋大学名誉教授で検事など歴任した刑法学者の植松正と慶応大学教授でエッセイストの奥野信太郎の三名。それぞれが専門分野が異なるため、三者三様の立場での幽霊談義は面白かった。

  • 乱歩の怪奇短篇傑作集。ほぼ読んだことのある作品ですが。読めば読むほどに味わい深いです。
    「目羅博士の不思議な犯罪」がやはり好き。短篇ではこれが一番好きな作品かな。幻想的な光景が目に浮かび、ふっと引き込まれそうになってしまうところがまた恐ろしくもあります。
    何度も読んでいるけど、「芋虫」も感慨深い作品。実は愛情に満ちた作品なのでは、と思いました。「ユルス」の一言が心に刺さります。
    「蟲」もなんとも凄い作品。これって「虫」だとダメなんですよね。「蟲」でないと。
    「防空壕」は読んだことがなかったかも。少しばかりユーモラスな印象だなあ。まさかそんなオチだとは。

  • あー面白かった。
    乱歩のこーゆー系は河出文庫の『不気味な話1江戸川乱歩』読んでたから中身はほとんど知っとる話やったけど、なんべん読んでもおもしろーーい。
    もうこんなんばっかり読むせいで、例えば「人でなしの恋」とか、いやまあまあ変態じみとるけどまああるわいそういうこと、とか思ってしまっとる。
    読んだことあるのんばっかりやとしても、最後の文庫初収録という座談会がめちゃめちゃ面白かったので買ってよかった。わたしは実は卒論や修論で雨月物語を読んでいたので、あの世のものや境界が大好きなのですよ。

    それにしても乱歩の探偵ものじゃない、幻想怪奇系の作品を集めたアンソロジーはもうないのかな??探すの大変でさーー。解説で東雅夫さんが書いとったとーり、あとは怪談入門を読んどこう。

  • 猟奇と妖美をテーマにした江戸川乱歩短編集。
    乱歩の短編は割と有名なやつは大体読んでいる気でいたけど「蟲」と「防空壕」と最後の対談は初読みでした。再読のものも含め、やはり乱歩は面白い。この性癖にぶっ刺さる感…
    「蟲」は強烈だった。引きこもりの青年が恋に狂ってついに相手を殺してしまう。美しい彼女の死骸を自分だけの土蔵に連れ込んでうっとり眺める青年だけど、最初は美しかった死体が徐々に腐っていく様子がグロテスクで、乱歩作品でここまで直接的にグロいのは珍しい気がした。
    「防空壕」は前半の空襲の描写が鮮烈で、降り注ぐ焼夷弾や燃え上がる街を主人公は美しいと感じているんだけど、空から爆弾降ってくるの想像したらめちゃくちゃ恐ろしかった。主人公は咄嗟に逃げ込んだ防空壕で偶然居合わせた謎の若い女性と情を交わすが、その女性は気付くと消えていた。その女性が忘れられなくて探し歩く主人公…で、後半のオチには笑った。他の作品とはちょっと毛色の違う話で面白かったです。
    「白昼夢」久々に読んだけど、悪夢の一瞬を切り取ったような作品で短いけど印象深い。古い映画のような映像が目に浮かんでくる。
    「芋虫」「押絵」「人間椅子」「目羅博士」…その他全部好きな作品です。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

江戸川乱歩の作品

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