- Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575658392
感想・レビュー・書評
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夢の中の『アリスの国』でアリスと結婚式を挙げる最中にチェシャ猫殺害の容疑をかけられた綿畑克二。
現実世界では新しい漫画雑誌創刊のために奔走する克二が鬼上司の編集長殺人事件に巻き込まれていく。
…なんだか小林泰三さんの「アリス殺し」に似た設定。いや、この作品は昭和57年の日本推理作家協会賞受賞作なのだから、「アリス殺し」の方が「アリスの国の殺人」に似た設定というべきか。
当然『アリスの国』の殺猫事件と現実世界の編集長殺しには何かしらのリンクがあるのだろう、それがどこでどうリンクするのか、とそれを楽しみに読み進めた。
ただ『アリスの国』編はなんとも読みにくい。そもそも「不思議の国のアリス」自体、不思議なルールや不思議な秩序や言葉遊びがふんだんに盛り込まれている上、この『アリスの国』では有名コミックに登場するキャラクターたちがその言葉遣いそのままに物語を引っ掻き回す。
『アリスの国』の勝手なルール、勝手なキャラクターたちに振り回される克二はこのままやってもいないチェシャ猫殺しを負わされ死刑になってしまうのか。
一方の現実世界での克二もまた心許ない。彼には酔うとどこでもいつでも寝てしまう悪い癖がある。
たとえ原稿をすぐに受け取らなければならなくても、受け取った原稿をすぐさま印刷所に回さなくてはならなくても、眠気の方が勝ってしまうのだ。
そのため酔っては眠り、一瞬目覚めるものの再び眠りに着き…を繰り返す一夜の中で、遠く離れた軽井沢にて編集長が殺されているのを知るのだが、こういう状況だけに克二が見たものそのままを信じるのはいけないのだろうなと分かる。
先日読んだ「深夜の博覧会」で少年時代の那珂一兵が探偵役として活躍していたが、その那珂一兵がこの作品では有名漫画家として登場する。
なのでてっきりこの作品でも那珂が探偵役として事件を解決するのかと思いきや、なかなかそういう展開にならない。それどころか最後に意外な形になっていた。
『アリスの国』でのドタバタ振りと対照的に、現実世界での事件の行方は混沌としてくる。
だが二つの世界で起きた二つの事件には共通点があり、そのトリックは面白かった。現実世界の方は割と早い段階で気付くが、『アリスの国』ではありえないようでありえるこのトリックを上手く作っていた。
ただ結末は意外とシュール。克二のキャラクターが最後まで好感持てなかったので良いけれど、最終的にはありがちなリンクかとちょっと期待外れだった。
この辺りは小林泰三さんの方が上手い。あちらもかなりブラックだったように記憶しているけれど。
ただ最近このシリーズの続編が出たらしいのでスナック<蟻巣>の面々のその後を知るのに読んでみようとは思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
那珂一兵と、スナック蟻巣が登場する本ということで読んでみたが、この本に関して、那珂一兵は脇役で、探偵ではない。
不思議の国のアリスと一昔前の漫画と殺人事件が起こったこの本での現実と、巧みな言葉遊びが入り混じっていて、辻真先か、当時の漫画かアリスかどれかに傾倒していないと、読みづらいかも。 -
軽い調子だけど、この展開と結末はかなりシュール。
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言葉遊びに溢れた楽しい作品です。
アリス好きの私はこの作品を楽しめました。
文章のおもしろさや登場人物の異様さは類を見ないです。
ニャロメとか出てくるんですもん。
夢と現実の世界が交錯しながら進行していき、不思議でどのような結末になるのか非常にワクワクさせられながら読めました。 -
辻真先の長篇ミステリ作品『アリスの国の殺人 日本推理作家協会賞受賞作全集 (42) 』を読みました。
『迷犬ルパンと「坊っちゃん」』に続き、ここのところ、辻真先の作品です。
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児童文学の編集を志しながら、はからずしも漫画誌編集に携わる綿畑克二。
夢のなかの『不思議の国のアリス』の世界でチェシャ猫殺害事件の容疑者にされて慌てていると、現実世界では上司の編集長が殺されて大騒ぎ。
交錯する夢の世界と現実に翻弄された克二は……。
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1981年(昭和56年)に刊行され、翌年の第35回日本推理作家協会賞を受賞した傑作長篇ミステリです。
■第Ⅰ章 だれがアリスと結婚するの?
■ 第1章 鬼編集長の闘志
■第Ⅱ章 密室殺人ってなんのこと?
■ 第2章 女と男の歴史
■第Ⅲ章 アリスの花聟たすかるの?
■ 第3章 大型パーティの趣旨
■第Ⅳ章 なぜあの人が犯人かしら?
■ 第4章 追われる物の詩
■第Ⅴ章 ふしぎの国はめでたしめでたし
■解説 香山二三郎
コミック雑誌創刊に向けて鬼編集長にしごかれる編集者・綿畑克二は、童話の『不思議の国のアリス』の世界をこよなく愛す青年だった… ある日、スナック「蟻巣」で眠ってしまった綿畑は、夢の中で美少女アリスと出会った、、、
しかも克二はアリスの婚約者であり、彼女との結婚式のさなか、チェシャ猫を殺した殺猫犯人の容疑者として追われていた… やがて目が醒めた現実世界では克二は上司の鬼編集長・明野重治郎が殺害されたと知らされ、明野に最後に会った人物として刑事の追及を受けるが、再び睡魔に襲われ、アリスの待つワンダーランドに引き戻される。
克二は、二つの世界で無実を証すために事件の真相を追うことになった……。
ワンダーランドのチェシャ猫殺しの方は、言葉遊びが溢れていて『不思議の国のアリス』の雰囲気を辻真先流に調理した印象… アリスだけでなく、ニャロメからヒゲオヤジ、鉄人28号、サイボーグ009(島村ジョー)、デビルマンや『オズの魔法使い』のドロシーまで登場するワンダーランドは、克二が現実逃避した世界なんですかねー ファンタジー的な展開でしたね。
ただ、登場してくるキャラがわかるのは私の世代までかな… 若い世代には理解が難しいでしょうね。
リアルな世界の鬼編集長殺しの方は、トリッキーなアリバイトリックが印象的でした… まさか、クルマ(キャンピングカー)を使って、あんなトリックを作り出すとは、、、
決してハッピーエンドではないですが、こちらの方が個人的には好みでしたねー 手塚治虫、横山光輝、赤塚不二夫、永井豪、吾妻ひでお、高千穂遥、安彦良和、石ノ森章太郎、平井和正、豊田有恒 等々、登場する漫画家、作家も懐かしかったな… 愉しめました。 -
主人公の性格など微妙な所はあったが不思議の国での摩訶不思議な独特の雰囲気や所々に含まれるユーモラス溢れる文、ラストにつながるトリックの展開など読み応えはあった。
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辻真先「アリスの国の殺人」
夢と現実が交互に表れて、ドタバタコメディのようで、あまり馴染めなかった。
トリックは素晴らしいのに。
(図書館) -
日本推理作家協会賞(1982/35回)
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時間があれば。
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昭和57年の協会賞受賞作。マンガ雑誌の編集者が主人公。創刊を控えたマンガ雑誌の編集を巡る現実の世界の殺人事件と、主人公の夢の不思議の国での殺人(正確には殺猫)事件が交互に描かれる。しかし「現実」の世界には実在するマンガ家、例えば吾妻ひでおなどが登場し、アリスが迷い込んだはずの不思議の国にもニャロメとか鉄人28号が現れる。当時の言葉で言えばドタバタ・コメディというヤツに雰囲気は近く、しかも不思議の国の方はルイス・キャロルばりの言葉遊びが頻出しておそろしく読みにくい。自分が今一体何を読んでいるのか解らなくなる。そんなわけでミステリとしての魅力は今ひとつ。よくこの作品が協会賞を取れたもんだと首をかしげたくもなるが、こういう時代だったのでしょうか。現実世界の方には、一応トリックがあり、意外な犯人も用意されているのだが、遊びに力が入りすぎて今ひとつ練り切れていない印象。