生きることの近世史: 人命環境の歴史から (931;931) (平凡社ライブラリー 931)
- 平凡社 (2022年6月14日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582769319
作品紹介・あらすじ
災害、飢饉、病気、犯罪、戦争──日本列島に暮らす人々の生を脅した様々な危険と、それに抗し生きた人々の知恵と努力の変遷を巨細にわたって描き出す、まったく新しい近世史。
感想・レビュー・書評
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本書で著者がやろうとしていることは、「はじめに」に「日常些事の歴史は、当事者にとって些事ではなく、また当事者とその周辺にしか意味をもたない歴史でもない。天下国家の歴史から些事とみなされるような、無名の民の日々の生こそが、人類の歴史の内容であったはずである」に強く表れているとおり、いわゆる事件史、特に支配する側の歴史ではなく、この日本列島に暮らすふつうのひとびとの、生きた歴史を描くことである。
著者の専門とする近世、16世紀後半から幕末、近代国家成立直前までの時代を対象として、災害、飢饉、病気といったものから、お上の支配や貨幣経済の浸透などに対して、人々がどのように生き延びたかが具体的に描かれる。小見出しの文字だけ見ていっても、この時代の実相と変化の様子が窺われて、実に興味深い。生きるための情報と情報の所有者/命こそ物種/固定化する社会のなかで/文字知識の必要/医書と医者/さまざまなルール/飢饉と生きる努力/病気と医・薬/栄養と衛生/かねに脅かされる暮らし/家のうちの弱者と危機/災害の時代……
上述のとおり、近世の時代を対象として、人々が生命を脅かされる場面とその克服への歩みについて考えてきたとされるが、本書では最後に、明治以降の近代国家の下ではどうだったのかについて論及される(終章)。肺結核等の病気、飢餓など近代においても厳しい状況は当然あったが、中でも対外戦争への動員という国家の命令による生命の危機がとてつもなく大きなものとなったことに著者は注意を向ける。
本書が書かれたのは2001年、3.11もまだなく、国家間の大規模戦争も起こらないだろうと考えられていた時代だったが、そうした危機にどう対処していったらいいのか、生き延びるための知恵と実行する力が必要だと改めて感じた次第である。詳細をみるコメント0件をすべて表示