- Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591124215
作品紹介・あらすじ
京都の大学院から、遠く離れた実験所に飛ばされた男が一人。無聊を慰めるべく、文通修業と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当に想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった。
感想・レビュー・書評
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クソ面白い。そんな下卑た言葉から初めても文句は言われないだろう。言われても気にしないが。森見登美彦さんの描く味のある大学生が気持ちいほどよく描かれている。感動である。
この作品は恋文の技術を手取り足取り教えようという胡散臭いビジネス書ではない。研究のために田舎に飛ばされたお茶目な男子大学生が書いた手紙が載っているそれだけの内容だ。読んでいるうちにどんどん手紙を書きたくなってくるという意味ではそこらに溢れている有象無象のビジネス書(全て有像である)と同じであろう。
守田青年の実情が自分と似ていたのでついつい傷の舐め合いをしているような気分になった。就職なんて考えたくない。詩人か、高等遊民か、でなければ何にもなりたくない!である。
作中に他作品の小ネタが散りばめられているので探してみてはいかがだろう。パンツ総番長が出てきたときには再会の感動で咽び泣いたものである。
何事にも教訓を求めるな!ということが教訓として書かれていると思った。無意味なことにかける時間こそ人生を豊かにするのだと自分も爪先から心の底まで共感した。できることなら一緒に無為な時間を過ごしてくれる相手が見つかることを祈るばかりである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ハチャメチャへんてこ勢揃いの文通で、愉快この上ないです。
名言もたくさん出てきてメモしたくなる。
文通、万歳。 -
“彼女に何通も手紙を書きましたが、つねに投函を諦めることになりました。
読み返してみると恥ずかしくてならず、「俺は何を書いているんだろう」という気になるのです。情熱はしたたり落ちるほどある。文章も我ながらうまいような気がする。分かりやすく、そして熱い。自分の書いた手紙にもらい泣きしようと思えば可能である。なんと美しい手紙だと思ったりする。しかし根本的な難点が一つある。書いているうちにへんてこになるのです。なぜだか分かりませんが、清い心で書いているように見えないのです。(p.182)“
森見登美彦の小説は今まで殆ど読んできて、『夜は短し歩けよ乙女』や『新釈 走れメロス』、『夜行』など好きな作品は幾つもあるが、実は彼の作品の中でもややマイナーな感のある本作『恋文の技術』が一番のお気に入り。手元のメモによると初読は2015年で、今回が実に4読目である。
京都の大学院から能登の実験所に飛ばされた大学院生の守田一郎が、「文通武者修行」と称して京都の仲間たちに手紙を書きまくる。”文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当に想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった。(裏表紙の紹介より)“ 本書は、半年間で100通以上にものぼった彼の手紙から成る書簡体小説である。
まず、登場人物がみな、実に魅力的だ。守田一郎は森見登美彦が描く大学生・大学院生の例に漏れず捻くれ者で、いつもは阿呆なことばっかり饒舌に語っているのだが、時々反省してシュンとなるとポロッと弱音を漏らす。また、意外と純粋なところもある(そもそも、今の時代における文通がロマンチシズムでなくて何であろうか! 羨ましい!)。それが彼の愛嬌というか憎めなさになっていて、ついつい応援したくなる。脇を固める人物たちも、彼の友人の小松崎は女性の◯っ◯いが気になって仕方がないお◯ぱ◯星人だし、先輩の大塚姉さんはM2の癖して研究室を牛耳る女王様だったりと、曲者ぞろいである。もちろん読者は守田の手紙しか読めないのだが、彼らの人となりや守田との関係性が生き生きと伝わってくる。
書簡体小説という形式も非常に良い。一人称小説といえばミステリー好きなら叙述トリックか!というところだが、本書においても手紙という「語り」である以上、語り手が本当のことを書いているとは限らない。少なくとも、そこに書かれるのは守田が他人に読ませてもいいと判断したことだけなのだから。例えば、守田は複数人と文通しているので同じ出来事を何通かの手紙に書くこともあるのだが、相手によって伝え方が違う。換言すれば、相手によって伝えることと伝えないことがあるということでもある。彼と小松崎が「研究室で○っ○い映像上映会事件」を起こしたとき、小松崎に対してはそこでの失策を責める手紙を送るが、妹に対しては詳細を語らず取り合えず誤魔化そうとする。また、守田自身、彼が文通武者修行に励むのは見通せない将来への不安を紛らわせるためだと薄々分かっているが、それを手紙に書くかどうかはまた別の話なのである。 しかし、守田が「本当のことを書かない」のは、彼が不誠実だということを意味しない。寧ろ、「語る」ということに何処までも付き纏う罠なのだろう。何しろ、語り手が自らの「語り」に振り回されるということが有り得るぐらいなのだから。 ”そこに現れた文字の並びは、本当に俺の想いなのか? そんなことを、誰がどうやって保証するのか。(略)自分の想いを文章に託しているのか、それとも書いた文章によって想いを捏造しているのか。(p.190)“ そういった「語り」の不思議さが、書簡体小説という形式を巧く用いて表現されているように思った。
上述のように、初読は2015年の夏で当時僕は中3だったから、登場人物たちの阿呆なやり取りをアハハと暢気に笑えたのだけれど、来年からは僕自身(院試に無事受かれば)大学院生ということになり、段々と守田の境遇に近づいてきて、研究は辛いけど社会に出るのも不安だよなという共感も抱くようになった。同じ本でも繰り返し読むとその時々で感じることが違ってくるというのは本当だな、と面白かった。 -
Amazonの紹介より
京都の大学院から、遠く離れた実験所に飛ばされた男が一人。無聊を慰めるべく、文通修業と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当に想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった。
手紙の内容だけで展開する話の内容が、側からみれば馬鹿馬鹿しく思えて、ついクスッとしてしまいました。
といっても、主人公が関係者に宛てた手紙の内容が大半なので、関係者から主人公宛の手紙の内容はどんななのかは分かりませんが、なんとなく分かりますので、どの辺は大丈夫かと思います。
遠くに飛ばされた場所は能登で、その風景描写は穏やかで、一度行ってみたくなりました。このレビューを書いている時は、能登地方が被災されており、心が痛みますが、復興のために何か手助けできればと思います。
穏やかな能登の描写とは裏腹に、手紙の内容は、段々とヒートアップしていきます。もうコミカルすぎて、ついつい笑ってしまいました。まさか作者の森見さんも登場するとは、思わず「え⁉️」と吹いてしまいました。
別作品「夜は短し歩けよ乙女」にリンクしているのではといった描写もあって、面白かったです。印象に残る発言が多く、森見ワールドを堪能しました。
それにしても、主人公の面倒臭さに呆れてしまいました。「かまってちゃん」のような印象だったので、自分だったらあまり友達には・・と思ってしまいました。
さらに、おっ○いの言い過ぎも面白かったです。(笑)
後半からのヒートアップするシーンは、本人に至っては真剣かと思いますが、側からみれば「しょうもな」とか思ってしまいました。自分も、ヒートアップすると、もしかしたらそう思われてるかもしれないので、冷静でいないといけないなと思いました。
後半では、主人公だけでなく、関係者同士の手紙のやり取りが描かれています。その中には、主人公のことをどう思っているのか、正直な気持ちも書かれていて、面白かったです。
それまでは、主人公から見た関係者の印象しか書かれていなかったので、印象が変わった人もいました。
「夜は短し歩けよ乙女」に通じる要素もあって、森見ワールドを堪能したい方には、お勧めかと思いました。
まさか、コミカルな内容だったとは、良い意味で裏切られたので、大いに楽しめました。 -
手紙の形式で書かれたユーモア小説。
京都から臨海実験所に飛ばされた大学院生が、いろいろな相手に手紙を書き続けるが‥?
守田一郎は大学院生。
教授の命令で、能登の研究所で実験にいそしむことになります。
近い駅は無人駅で、人と会うことも少なく、失敗しては先輩の谷口に怒られる日々。
この際、文通の達人になろうと豪語して、さまざまな相手に手紙を送りつけます。
恋に悩むアホな後輩。
さんざんからかってくる怖いお姉さんだった先輩。
女子高生で、しっかり者の妹。
作家の森見登美彦。
家庭教師をした生徒だった見どころのある男の子。
何度も恋文を書こうとしながら失敗を重ねて出せないでいるお相手。
手紙の進み具合で、相手が何をどう書いてきたのかがわかり、行き違いで事件が起きる様子もわかるのが面白い。
ちょっとした言葉遊びにニヤッとしつつ、のんびり読み進むと、たまに爆笑ものの事件がおきます。
饒舌で愚痴っぽく、かなりアホで、根性も決まってないわりにプライドもちょっと邪魔をするけど、人懐こくて人がよくて、感情丸わかりで、あれこれ考えつき、面白いことを言わずにいられない。
これを読まなくちゃならない、ということは別にないんだけど~
笑えます。
恥多き青春の迷い多きひとこま。
たまに、ごくまともなアドバイスがあったり。
気楽に、お楽しみください☆ -
手紙が書きたくなります。文通がしたくなります。
伝えなければいけない用件なんか何も書いていない。ただなんとなく、相手とつながりたがってる言葉だけが、ポツンと空に浮かんでいる。この世で一番美しい手紙というのは、そういうものではなかろうか……
読んでいてとても楽しい気分になりました。
守田くんに手紙貰ったら筆無精のわたしでも絶対につらつらと返事を書きますね。 -
書簡体小説というものを初めて読んだ。なので一般的なそれがどういう風に書かれているのかは知らないのだが、本作の場合は本当に手紙のようで、日記のようなエッセイのような文章でつづられている。その中身はあってないようなもので、よくこれだけ無意味な文章をつらつらと書き連ねられるものだと感心した(誉め言葉)。
物語は「四畳半神話体系」のようなあほらしい大学生の話で、しかも同時期に複数の人とやり取りをするため会話内容の重複も多く、ページ数のわりにそう衝撃的な出来事が起こるわけではない。
毒にも薬にもならない文章を何も考えずに読み続けるのが好きな人にとってはぴったりなのだが、あいにく私はそうではないので中盤までだけなら評価はあまり高くない。
しかし肝心なのは主人公が会得を目指す「いかなる女性も手紙一本で篭絡できる」という恋文の技術がどうなったかだ。最終的にそのコツはわずか一言だけ語られ、主人公がどこまでその技術を意識したかは定かではないが、実際に恋人にあてた手紙では真摯さがよく刺さっていた。
「あなたは私のすべてだ!」とか「あなたのことをいつも考えています」とかのインパクトの強い言葉は重いし陳腐だ。それよりも、相手のことをどのように見ていたかとか、自分の日常のこういうところに相手がいるということをさりげなく語る方がよっぽどロマンチックだと思う。 -
手紙なんて古臭い?
でもね。
心を込めた手紙には
書き手の「今」が焼き付く。
情熱の筆圧が宿る。
悔恨の消痕が残る。
魂が転写される。
手紙も悪くないでしょう?
でもね。
「このお話から何を学ぶべきでしょうか。べつに何も学ばなくていいのです」
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森見さん、巧すぎ。書簡体小説は馴染みが薄かったけどこんなにバカバカしく、微笑ましく、応援したくなり、最後にグッとっくる小説もないですね。
泣きそうになりました。決して泣かないけど。この絶妙な匙加減も極まるなぁ。大好きです。 -
往復書簡ではなく守田くんが描いた手紙がほとんど。なんだけど、読み進めるにつれ出来事の輪郭や人間模様が生き生きと見えてくる。
最後の章を読んで誰かと文通したくなりました。