- Amazon.co.jp ・マンガ (201ページ)
- / ISBN・EAN: 9784592162162
作品紹介・あらすじ
昭和20年、3月10日深夜──。東京で大規模な空襲と同じ頃、ペリリュー島で生き残った田丸たちは食糧調達に成功。“水"と“食糧"を手に入れた彼らは再び“徹底持久"という目標を掲げ、集団生活を始める。飢えと渇きから解放された日々。それは、死と隣り合わせの戦場で、ほんのひと時の平穏。しかし、わずかな“余裕"を得るまで、気づかなかった戦争の一面を田丸らは知る──。極限状況下で、他者と常に行動を共にし、生活をする困難。明日をも知れぬ戦場で、懸命に日々を生きた若者の真実の記録。
2019年1月刊
感想・レビュー・書評
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仕事上の必要があって、『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』の既刊1~6巻を読んだ。
太平洋戦争・南方戦線の激戦地の一つであるパラオ諸島のペリリュー島。そこを舞台に、日本軍の絶望的な戦いを描いたマンガである。
南方戦線を描いたマンガとしては、水木しげるの一連の戦記マンガがある。
周知のとおり、水木は自らが南方戦線で一兵卒として戦い、片腕を失った人。だからこそ、彼の戦記マンガには他の追随を許さぬ迫力がある。
中でも最高傑作だと私が思う長編『総員玉砕せよ!』など、主人公がジャングルの中で死んでいくすさまじいラストが、読後しばらくは頭にこびりついて離れないほどだ。
それに対して、この『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』は、本人(1975年生まれ)ばかりか両親も戦争を知らない世代。
作者の武田は、2015年の天皇・皇后によるペリリュー訪問(いわゆる「慰霊の旅」の一環)で、ペリリュー島が激戦地であったことを初めて知ったという。
作品冒頭近くの「ここに祖父がいた」という言葉が誤解を招きがちだが、あれは作者の祖父がペリリュー島で戦ったという意味ではなく、その場面に描かれた登場人物の「祖父」という意味なのだそうだ。
つまり本作は、ペリリュー島の戦いとはまったく無縁のマンガ家が、〝あとから調べて描いた戦争〟なのだ(ただし、「原案協力」という形で専門家が監修に当たってはいる)。
では、当事者が描いた水木しげるの戦記マンガと比べて、本作は迫力不足か?
読んでみれば、まったくそんなことはない。ものすごい迫力で戦場のリアルが描かれているし、むしろ、いまの読者にとっては水木作品よりも読みやすく面白いと思う。
「閲覧注意」の凄惨な場面が次々と登場するのだが、スッキリしたカワイイ絵柄、三等身のマンガ的キャラで描かれているため、その凄惨さがほどよく中和されている。
その点では、シベリア抑留の凄惨な現実を描きながらも絵柄のカワイさで救われていた、おざわゆきの『凍りの掌』に近い。
「楽園のゲルニカ」という副題が、イメージ豊かで素晴らしい。これがメインタイトルでもよかったと思うくらいだ。
サンゴ礁に囲まれた、楽園のように美しいペリリュー島。そこでくり広げられる、ピカソの『ゲルニカ』のような惨劇……なんと残酷なコントラストだろう。
約1万500人もいたペリリュー島の日本兵のうち、最後まで生き残ったのはたったの34人であったという。
本作の主人公・田丸はその中に入っているのか、それとも……。クライマックスが近い『ヤングアニマル』での連載からも、目が離せない。
本作は、『この世界の片隅に』や『凍りの掌』『あとかたの街』と並んで、〝戦争を知らない世代が描いた戦争マンガ〟を代表する作品になるだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
東京大空襲のあった時期。
もはや消耗の一途をたどる戦局。
米軍からの糧食奪取失敗から、
ますます追い詰められることとなった田丸たち。
襲撃に遭い、疲れや飢えや傷に倒れ、
仲間たちが次々に命を落としていく。
つらい。苦しい。胃にずんとくる重さ。
でも、目を離せない。「離してはいけない」という
思いもあるけれど、そんな中でも息づく
「生きようとする力」に心引かれる…。
こんな経験をしなくてもいい、それがどんなに
素晴らしいことだろうかと感じます。 -
平和だったのは、たった数日だけだった。
日本人だって酷いことをしている。
わかってはいるけど、何て狂っているんだろう。
生き埋め
火炎放射器での攻撃
たった今息を引き取ったばかりの死体の口を裂いて金歯を取り出し、喜ぶ
本当に酷い… -
戦争に負けるとは、どういう事か。勝つ側であっても、最前線には、安らぎがない。人は、狂わないと戦争なんて継続出来ない。殺しあいに勝利者なんていない。
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ひとつ、上手くいくようになったと思ったのもつかの間、米軍陣地への侵入に失敗した部隊から潜伏場所がバレ、襲撃をうけます。
なす術もなく殺されてゆく日本兵たち。
いい奴かどうかは関係なく、無慈悲に命が奪われてゆく様は、改めて戦争な悲惨さを感じさせます。
米軍指揮官の「敵も見方も狂っている」という言葉には、例え優勢だとしても、狂っていないといられない、戦争という過酷な環境を示しているように思います。 -
片倉兵長、あの状態から早々の完全復活。怖い。
米軍の英語が、わかる単語以外めっちゃ読みにくいのとか、本当によくできた漫画で感心する。「なにを話してるんだ?」って聞きにくい声を一生懸命聞くキャラクターと同じ気持ちになる。
あと、どうしても言いたいことがあるんだけど。
「高木ってなに?サイコパス??」
もう高木こえぇよ。いなくなってくれよ、マジで。そう思いながら読んでた。泉くんとのやりとりとか、もうホント怖いわ。何か欠落してるキャラをこの頭身で描かれると本当に怖いわ。干からびててくれ。頼む。
以下ネタバレ。
泉くんのところ、泣いた。少尉の影を追い、想い、生きてきた。それが憧れが尊敬か恋か愛かわからないけど。彼にとって少尉ははじめて自分を一人間として認めてくれた人だったんだろう。死に際に彼が最後の最後まで握った紅は「隠したいもの」だったのか「手放したくないもの」だったのか。 -
冒頭、田丸一等兵の故郷である水戸に黒い煤が降る。昭和20年3月10日、東京大空襲の翌日のことであった。その頃、遠くペリリュー島では、田丸たちが持久作戦のため分散して各壕に潜んでいた。しかし、物資調達部隊が待ち伏せに遭って竹野内中尉が捕虜となり、各壕の配置を知った米軍が一斉に掃討作戦を開始する。長い一日の始まりだった。なお、本書に描かれたような米兵による日本兵の遺体(または重傷者)損壊行為はこの頃には常態化していた。リンドバーク曰く、「金歯を求めて日本兵の遺体の口をこじ開けたアメリカ兵の話(『そいつは歩兵お得意の内職でね』)。…この戦争はドイツ人や日本人ばかりではない、あらゆる諸国民に恥辱と荒廃をもたらしたのだ」。
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5刷 帯