ダ・フォース 下 (ハーパーBOOKS)

  • ハーパーコリンズ・ ジャパン
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784596550828

感想・レビュー・書評

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  •  夏休みは伊吹山2合目にある、ロッジ山へ。

     天気が悪く、外には出歩けなかったが、眼前に拡がる琵琶湖をテラスから眺め、終日本書を読んでいた。コーヒーを飲むこと、本を読むこと以外が無い、良い休日でした。

  • 現在も深刻な麻薬問題を抱える米国の実態を凄まじい暴力の中に描いた一大叙事詩「犬の力」(2005)/「ザ・カルテル」(2015)/「ザ・ボーダー」(2019)。作家人生の集大成ともいうべき、この渾身の三部作によって、ウィンズロウは紛れもなく頂点に達した。アクチュアルでラディカル。麻薬に関わる者は全て死する運命にあるという暗鬱なる黙示録。現在進行形の鋭利な文体を駆使して生々しい諸悪を抉り出した現代ノワールの境地。どの作品もページを捲る手が白い粉と紅い血に染まっていくような錯覚に陥ったほどだ。現時点での最終作「ザ・ボーダー」に取り掛かる前に構想した本作は、馴染みの〝ウインズロウ節〟が炸裂する犯罪小説の延長線上にあるが、根幹に麻薬戦争を置いており、三部作を補完する作品といっていい。

    「ダ・フォース」では、米国/麻薬取締局(DEA)とメキシコ/カルテルは登場しない。フォーマットは悪徳警官物だ。舞台はニューヨーク。物語は、ここから一歩も離れることはない。それだけに分厚い。富裕/貧困という歴然とした格差社会保持の潤滑油としても機能/蔓延する麻薬。吹き荒れる暴力の嵐。ウィンズロウは、通り名や店名などの固有名詞を執拗に列挙してリアリティを高め、汚れた街に生きる者どもの生態を克明に描写する。

    主人公はNY市警マンハッタン・ノース特捜部(通称〝ダ・フォース〟)部長刑事デニス・マローン。叩き上げの刑事で、荒々しく狡猾。不条理な犯罪を憎みつつも、男を突き動かすのは、徹底して打算的なエゴイズムだ。そのために小さな綻びから破滅を招くこととなる。マローンは、冒頭で既に何もかも失った男として姿を現す。つまり長大な本篇は、男がいかにして転落の道を辿ったのかという記録なのである。

    この街を浄化したいというマローンの理想/清廉さは、ニューヨーク最下層の現実を前に脆くも崩れ去り、体内から腐り切る利己主義へと変転する。焦燥と居直り。私利私欲を貪り、掴んだ権力を過信した果てに堕ちてゆく泥沼。すべては偽善と虚構であった、とマローンが気付く時には、何もかもが手遅れになっている。

    本作で特に印象に残るのは、独善的な正義と悪を主人公と共有し、常に行動を共にする「マローン班」各々の関わり方だ。そこには仲間意識よりも、おれたちの縄張り/特権を守るためには不正/暴力を辞さないという閉鎖的で排他的な帰属意識がある。平然と大物麻薬ディーラーを殺し、莫大なカネに代わるヘロインを掠め取り、懐に捩り込む。共犯関係にあるマローン一味は、限界を超えた傲慢に起因する事件を機に崩壊し、強固であったはずの信頼/愛情から、不信/裏切りへと急転直下し、互いを憎悪する最悪の結果へと至る。己の命を捨ててでも〝友〟を守り抜くと誓った男たち。マローンは、それが幻想に過ぎなかったことを、追い詰められ、易々と国家権力に屈する己の甘さを前に痛感するのである。終盤で延々と続く羞恥心の吐露。アンチ・ヒーローの末路は憐れではあるが、敢えて読み手の共感を拒むが如く、作者は主人公を突き放し、正義と悪に境界など無いことを示唆して、物語を断ち切る。

    快楽に通じる歪んだ自愛こそが人生の麻薬である。ウインズロウの達観は、さらに深まっている。

  • デニス・ジョン・マローンの望みはひとつだった。いいお巡りになること、ただそれだけだった。

    最後の一文。胸が痛かった。

    確かにデニーは一歩一歩着実に悪へと転がって行った。
    だから、どんどん思ってもみなかった方向へと進まざるを得なくなっていく姿をみて、自業自得とは思うのだけど。
    胸が締め付けられるような感じだった。

    本当はもっとちゃんとした方法で、自分の愛する街や仲間や家族を守ることができたんじゃないか。
    そんな風に思うけれど。
    何とも言えない読後感だった。
    ドン・ウィンズロウは初だったけど、他の作品はどんな感じなんだろう。
    楽しみなような、ちょっと怖いような。

  • 2021/6/26購入

  • 人種差別による暴動が小説の中で起こり、現実にアメリカで暴動が発生し、ちょっとこのシンクロ感は不思議な感じがした。
    報道されている内容に捕捉するようにこの小説の内容が思い浮かぶ。
    警察にも殉職者は多くいて、白人以外の人種もいて、街にはドラッグと銃があふれ。

    この物語からは、緊迫した世界でギリギリの精神状態のまま毎日をやりくりする人物が見事に描かれている。

  • ダーティヒーローを書かせたら、
    この人の筆力に勝るものはないなぁ。

    裏切り者として追い込まれていく主人公。
    市警本部長、警部、判事、弁護士、そして市長。
    誰もが、金と保身のために他人を蹴落とす。
    ニューヨーク市警はカルテルだ、と言い切るマローン刑事部長。
    正義と悪は、人を裁く剣の表裏。

  • 仲間を裏切りネズミに堕ちるヒーロー警察官を主人公に据えるなど、およそ読者の共感も得にくいような大胆な設定の真意は、本書で明らかになる。下巻ではしかも、上巻で淡々と描かれただけの悪事の背景まで説明されるし、一歩ずつ一線を越えていく前の、お巡りとしての人生を歩み出すスタート地点も回想で描かれているため、上巻で断念した読者には本書の魅力が半分も伝わらないと思う。とにかく黙って最後まで読むしかない。それにしても乱暴で下品な会話の中に、一瞬で酔わせるような気の利いた台詞が次々と挟まれる。翻訳の素晴らしさも感じた。

    「メディアを相手にしたときは、こっちから餌を与えるか、自分が餌になるか、そのどちらかしかない」
    「裏切りに通じるトアは、往々にして嘘をついたときではなく、真実を話さなかったときに開くものだ」
    「流れた血はもうどこにも戻せない」
    「行き着く先もわかってた。だけど、いったいぜんたいどうやってこんなところまで来ちまったんだ?」
    「もういいだろ? おれはこれから子供たちを抱きしめられるだけ抱きしめようと思ってるんでな」

  • 面白かった。

  • 翻訳が読みずらい

  • 一部二部と分かれるような重厚な大作映画を見終わったような読後感。素晴らしいエンタメ小説だった。下巻は一気にラストまで、ページをめくるのももどかしく読み進んだ。上の人間はそのやり方を知ろうともせず、ただただやれという。何をしているのかわかったうえで、行きつく先もわかったうえで、人は一歩ずつ堕ちていく。NYを、愛する人を、守りたかった、ただそれだけのはずなのに。行きつくところまで行ってももちろんマローンはそのままでは終わらない。でも彼のひりひりする感情に寄り添った私に残ったのは、やるせなさと悲しさだった。

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著者プロフィール

ニューヨークをはじめとする全米各地やロンドンで私立探偵として働き、法律事務所や保険会社のコンサルタントとして15年以上の経験を持つ。

「2016年 『ザ・カルテル 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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