舞踏会へ向かう三人の農夫

制作 : Richard Powers  柴田 元幸 
  • みすず書房
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本棚登録 : 317
レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (415ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622045175

感想・レビュー・書評

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  • 最後まで読めてよかった!ピーターと「私」の章、フーベルト、ペーター、アドルフらの女の子関係(それが現在にどうつながるか)などなど、どうにもごっちゃになってしまい、全体としてちゃんと理解できた自信はないけど、ただ難解なだけじゃなく、個々の逸話に血の通った面白さがあり、読んでる瞬間はとにかくその章の物語に入り込まずにはいられなかったから、切り替えが難しかったってのもあるかな。そして、著者も読者に切り替えるよりは、多少ずれつつもどんどん重ねていく、オーバーラップさせることを促していたんじゃないかなと、勝手に解釈。現に、いろんなものが重なってるのが見えた瞬間が読んでる途中何度もあって、ゾクゾクした。でも、三人の農夫がカメラマンの向こうに見た幻視(あの描写は鳥肌)じゃないけど、わかったかなと思うとそのヒントみたいなものが次の瞬間には消えてしまって、結果的によくわからないまま…。でも、今作は、けっこうすがすがしく「まあ、いいか」と思えた。
    登場人物の中では、ウェイトレスのアリソンが好き。思考回路なんかは自分と重ねられるところもありつつ、メイズとの関係は下手なロマコメよりいい感じだし。
    これがパワーズのデビュー作で、日本で邦訳が刊行されたときかなり話題になった記憶があるけど(さっきネットで見つけた過去の記事では、発売1カ月で4刷だったとか!その時の読者、今生きてるのか、何読んでるのか知りたい笑)、私はパワーズ5作目。個人的にはこの順番でよかったのかも。今回、その作品群が夜空で星座を作ってて、一番最初に誕生した星が『舞踏会』ってイメージで、他の作品とのつながりが見えてきた。『囚人のジレンマ』は、大戦(第一次&第二次)、偉人(フォードとディズニー)、歴史つながりだし、『われらが歌う時』とは、時空超越、同時存在つながり? 『オルフェオ』とはテクノロジー(写真とネット)と社会と個人ってテーマでつながってる。activistとか環境がテーマだという新作『The Overstory』も早く読みたいので、翻訳急いでほしいです。

  • これほどまでにサービス精神旺盛な作家って他にいるだろうか?著者の脳という巨大なデータベースから、雑学的知識や、哲学的な見識、皮肉っぽい言葉遊びがとめどなくあふれ、文章をごてごてと装飾していく。装飾しすぎて文と文とのつながりが見えないので、とっつきは良くない。買ってから2回トライして失敗、3回目にやっと読了したのも納得の個性的な文体だ。

    3つのパートに分かれているうち、私が気に入ったのはコミカルなピーター・メイズの章だ。コンピュータ雑誌の編集をしている彼のおたく的な内面や思考が妙に平熱で表現されているのがとにかく可笑しくてたまらない。ひと目ぼれした運命の女を探す彼の運命はとにかく先が読めず、なかなか手に汗握る。

    もう1つのパートは、題名でもある「三人の農夫」が主人公だ。20世紀末から初頭、そして第一次世界大戦までの激動の近代化の時代を、たっぷりの歴史的うんちくと共に描く。フォード自動車の創始者ヘンリーの人物像はまったく知らなかった!

    そして著者パワーズ自身だろう、「三人の農夫」の正体を追う「私」の章。高度に思索的なこのパートが一番読みにくい。しかもストーリー展開がないので少々退屈。でも、全てを読み終わって思い起こすと、このパートに一番心に残る名フレーズが多いことにも気づく。
    第十九章「安価で手軽な写真」はすぐれた写真・映画論になっている。写真を見るときに鑑賞者の中で起こる不思議な現象を見事に文章化していて目から鱗が落ちた。

    3つの枝が1つの幹へと収束するエンディングも心憎いばかり。たかだか100年前、すべての価値観が変わった20世紀のはじめ、歴史書に残らない人々は時代をどう生きたか。本書とザンダーの匿名的な肖像写真が、想像と共感の助けになることだろう。

  • 「舞踏会へ向かう三人の農夫」と題された写真から始まる3つの物語。
    一つは写真の農夫たち自身の、一つはこの写真に見入られた者の、そしてもう一つはまた違った「過去」に見入られた者の物語である。この3つの物語は時に明示的に、時に遠まわしに相互に絡み合いながら一つの「啓示」に繋がっていく。

    とても魅力的な小説である。
    一つには3つの物語が探究するものを追うという、ある種謎解き的な、まっとうな小説の楽しみがある。また一方では、これでもかと盛り込まれた写真論や伝記論・小説論という知的好奇心を刺激する要素がある。そしてこの両者が互いにと照応するかたちで示されているところが、この小説を最後まで興味深く読めた所以だと思う。

    そしてかなりスケールの大きな小説であるにもかかわらず、「地に足のついた」感覚が、読者をひきつけてやまない。とても身近な話に感じるのである。それはまさにこの小説が、20世紀を、20世紀を生きるどうということのない人間を、扱っているからなのかもしれない。

    ともかく、この小説には、読み手を満足させるに足る、かなりの魅力がぎっしり詰まっている。いい本でした。

  • 写真についての小説であり、小説についての小説でもある。ひとことでは言い表せない、盛りだくさんのテーマで描かれているが、見ることと見られることの関係、見ることで変化することが大きなテーマといえるかもしれない。

    処女作にして出世作。誰にも読んでもらえなくていい!と半ばやけっぱちに書いた小説とのこと。それが功を奏したのか、パワフルで純粋な小説だと感じた。『われらが歌うとき』と肩を並べるくらい、いや、もしかしたらそれ以上に好きな作品かもしれない。

  • 1914年に撮影された一枚の写真から展開して、作者の全てを注ぎ込んだかのような小説。3人の農夫の人生、現代に生きる若者達。遠く離れた彼らが写真家、赤毛の女、株屋、車のフォード、掃除婦、親族…とたくさんの人々と少しずつ知合いながらやがて細い糸のようにつながっていく。不器用にも思えるつながり方はやがてきらきらとした思考や出会いとなる。みっしりと作者の知識、考察、思想もつめこまれて大変な読みごたえだった。英語や文化に詳しければ言い回しとかジョークもとても絶妙なんだろうなぁと自分の理解力のなさを残念に思いながら読んだ。

  • 難しかったー!でも小説と批評が地続きになってるような感覚はタイプだし、その批評も登場人物からの視点であり、同時に作者の批評でもあるとすると、この作品を包む状況って、歴史とか芸術の話まで含めた広い感覚があって良かったなー!

  • 現役北米作家のなかで最重要、という評価はうなずける。知力が駆け巡るかのような独特な文章。気になる文章を傍線引いていくとしたら、どれだけ書き込むことになるのだろうか?ストーリーの妙も凡百ではない。

  • 物語は一枚の写真から始まり、一枚の写真を軸に三つの物語が交錯し、20世紀の時代性を俯瞰するまで膨張し立体化する。写真は我々を見返す。そして巻き込まれる。やがて共謀関係を育み被写体が現在において再創造される。たった一枚の写真からこんなにも凄い物語と考察を導き出したパワーズに脅威と敬虔の念を抱かずにはいられない。瞬間に定着された三人の若者が私の目の前で動き出した。彼らの後姿を見送り最後のページを閉じた。でも終わらない。彼らの視線の行く先に今の私がいる。見るものと見られるものの逆転。世界が広がる。大傑作!

  •  主人公の私はある日、電車の乗り継ぎで立ち寄ったデトロイトの博物館で、「舞踏会へ向かう三人の農夫」と題した古い写真に出会う。そしてその瞬間から、20世紀全体という時間軸と、アメリカとヨーロッパを包含する広大な場所を舞台に、この3人は誰で、なぜその写真が撮られたのかという謎を解く、長い物語が始まる。
     私、3人の農夫(アドルフ、ペーター、フーベルト)、そして当初は写真との関わりが見えないピーター・メイズ。時代や場所を行き来しながら進行する彼らの物語を追いかける行為(つまり本書を読むこと)は、読者にとってはあたかもジグゾーパズルのピースを1つひとつはめていくような作業だ。そして最後のピースがはまったとき、読者はパズルの表面に、「20世紀という名の、混じり気なしの暴力行為」が浮かび上がるのを見届けることになる。
     小説という道具立てを使い、「(独立した)存在というものはありえない。個々の存在物はすべて、あくまでそれと宇宙全体との絡み合いから理解されねばならない」という哲学者ホワイトヘッドの箴言を引きながら、人間とは何かという問いに答える新機軸を、著者は本書で提示して見せている。

  • 久々に、脳に栄養の物語と思いました。出だしは行ったり来たりが難解で、それがあとになるとどんどん巡る。
    小さいころ遊んだ、プラスチックの穴の空いた物差しみたいなやつ、鉛筆を穴に入れてギザギザをぐるぐるすると色んな模様ができるやつ、あれみたい。

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プロフィール

1957年アメリカ合衆国イリノイ州生まれ。イリノイ大学で物理学を学ぶが文転し、同大で修士号を取得。 本書でデビュー後、革新的な著作を発表し続けている、アメリカ文学最重要作家の一人。

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