空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 (ヤマケイ文庫)

  • 山と渓谷社
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635047517

感想・レビュー・書評

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  • 翻訳に少し読みづらさがあるが、内容には圧倒された。いつかエベレストを間近に眺めたい。登りたいと、軽々しくは言えない。

  • 小さな満足がいくつも重なって幸福めいたものになっていき、ひとことでいえば、クライミングに対する飢餓感がすっかり鈍っていた。

  • 1996年のエベレスト大量遭難の記録。あの年、エベレストでは12人が亡くなった。
    遭難の一番の原因は天候の悪化。とはいえガイド、シェルパ、顧客、登頂を望む人たちにはそれぞれのバックボーンと性格があった。人災ともいえる、細かな理由が積み重なってあの惨事になったということがよくわかる。

    ロブとスコットがライバル関係にあり、顧客の登頂を競ってなければ。
    ガイドのロプサンやスコットが疲弊してなかったら。
    ダグが去年エベレストに敗退して、ロブがそれに同情してなかったら。
    台湾隊が日程を無視したために渋滞が起こってなかったら。南アフリカ隊がもっと救助に積極的だったら。
    ロブホールが「まとまって行く」と決めたために、先へ行く人たちが待つことになり、そのための体力の消耗。

    作者もまた、ガイドのアンディの知力が落ちているということに気づかなかったこと、帰り道に別人をアンディと誤認するというミスをおかす。
    そして、作者は、テントに戻ってからは一度も救助に加わっていない。(個人的に…彼はそのことから目を逸らすために、ことさらに南アフリカ隊や台湾隊、日本隊の卑怯さを強調し、後に救助に加わったアイマックス隊などを賛美しているようにも思える。)

    最大の失敗は、2時になったら引き返すという決まりを守らなかったということになるのだろう。時間を守って登頂を断念した数名は助かったのだから。
    「引き返す勇気」というやつだ。

    作者はロブホール隊で、登頂して生還した唯一の顧客。作家として何か持ってるのだろう。
    救助に行かなかったことを批判されているけれど、彼は「生きて帰ってこれを書かねば」と思っていたのではないか。彼は命も指も失えない。その判断は責められないと思う。

    日本人としての不満は、北陵で日本の福岡隊がインドの遭難を見殺しにしたと批判していること。
    作者はインド隊だけの主張を書いている。福岡隊にもインタビューしろとは言わないけど、その後福岡隊がインド隊に抗議して、インド隊が福岡隊に謝罪したという事実くらいは書いてほしい。
    アナトリの本は片方からしかインタビューしてないと非難するのは「おまいう」だよ。(自分も救助に行かなかった癖に…と、これは言ってはいけないことだが)

    そして、極限の状態で人のために動く人たちには頭が下がる。
    ダグを見捨てないロブホール、何回も救助に向かうガイドたち、迷っている人のためにキャンプで大きな音を出そうと提案するハッチソン。特にスチュアートハッチソンは、地味に意思が強くて好き。


    こうしていればよかったのに、とは、その場にいないから言えること。
    文章には又聞きではない迫力があり、痛ましいけど面白いです。

  • 良きリーダーとは何か、自分がその立場だったらどう振舞うかについて考えながら読めた

  • 1996年5月にエベレストで起きた大量遭難事故の詳細。
    筆者自身が登山家であるため、山での描写が非常に詳しくリアルで、自分も作者と同じ場所にいるような気持ちになった。
    悲劇が待っていることはわかって読んでいたが、先が知りたくて一気に読んでしまった。
    この本を読んだらエベレストなんて絶対に登りたくない、と思うので、いや、読まなくても、簡単な山ではないことは知っているので、エベレストに登頂したいという人が数多くいることが理解できないが、読んでいる最中にインターネットで検索してみたら、今でも数多くのエベレストへの商業登山ツアーが存在することを知り驚いた。
    冒険ではない登山を登山と見なさない人たちも、今もたくさんいて、それでも死亡事故のニュースはあまり聞かなくなったので、商業登山もいろいろ改善されてきているのだろう。

  • デスゾーン、映画エベレストと合わせて非常に読み応えがかった。

    印象的だったのは、クラカワー自身のアンディへの無念
    アンディ自身は実際に非常に追い込まれていて、チームとしたらクラカワーはヘルプに回れる側ではあっただろう。

    また、ロブがダグに時間切れを告げられなかったのは、情、といっていいだろう。
    あのシチュエーションで頂上を目前に引き返せるだろうか。


    商業隊というビジネスモデル自体にどこかに無理があったのだろう。そして破綻したビジネスモデルは悲劇を招く。

    恐らく、顧客が多すぎた、値段が安すぎたのは言えるだろう。
    死亡率を考えると、マンツーマン、成功報酬型が現実的だった?

  • 映画で初めて、エベレストの事故を知った。エベレストの過酷な環境および、事故の前後を詳細に記述されており、エベレストに登るくらい息苦しい。
    再度読みたい。

  • 数々の登山家を魅了してやまない世界最高峰のエベレストを舞台に、登山のプロフェッショナルでなくても多額の金さえ払えばエベレスト登頂をアシストする公募登山隊の実態を取材するために登山に同行した著者が目にしたのは12人もの死者を出し、エベレストの登山史史上で最悪とも言える悲劇であった。

    著者のジョン・クラカワーは自らも登山を愛好するルポライターとして、公募登山隊の実態を把握すべく、一人のメンバーとしてエベレスト登頂に参加する。夢のエベレスト登頂を目指して集まった多国籍なメンバーや、同時期に登頂する他の公募隊たちとベースキャンプなどでジョン・クラカワーは親交を深めていく幸福なシーンが前半は続く。

    彼らが悲劇に見舞われるのは後半、ベースキャンプを離れて山頂を目指す工程である。予期せぬ悪天候の中で一人、また一人と倒れていき、ジョン・クラカワーが参加した公募隊で生き残ったのは彼を含めて半分のメンバーのみ。空気の薄さ、マイナス数十度になる寒さと猛吹雪の中で人がどのように死んでいくのかが恐ろしいほどリアルに描かれていく。

    そして結果的に下山できなかった半分のメンバーを残して生き残ったクラカワーらは残りのメンバーらを見捨ててしまった、という傷跡を一生背負うことになる。

    極限状態の中で自らの生命を確保するためには、他者の生命を見過ごさざるを得ない。そうした倫理の極点に迫られたときに人は何を思うのかがここまで痛切に描かれたノンフィクションというのはないだろう。

  • 1996年5月10日エベレスト大量遭難事故。
    映画『エベレスト 3D』を観て以来、この件に釘付けになった私。その第一級資料と言える本書をようやく読み終えた。
    ちなみに、とにかく登場人物が多いので、映画を2回観てwikiを熟読してなかったらまったく展開について行けなかったと思う。

    私が最も驚くのは、この極限状態において、よくぞ皆人間性を失わずにいられたということ。自分の身に置き換えて考えずにはいられない。自分だったらどうだろうか。「こんなデスマーチが続くくらいなら、いっそ死なせてくれ」「この崖から一歩踏み出しさえすれば楽になる」「このままここにほうっておいてくれ」そう、きっと生きることを諦めてしまう。
    また、他人を心配する余裕も皆無だろう。隣で人が倒れようと、それはその人のこと、自分にできることは何もないと歩を進める。疲弊して感受性の摩耗しきった神経では特にそうなってもおかしくない。
    逆に、誤解を恐れずに言えば、助けられなかった命に対してシェルパを含む登攀スペシャリスト達が取り乱す様子が意外であり、印象に残る。そういった人達は、人の死にも慣れているのではないかと勝手に思っていたからだ。
    こんな感想が出てくるのは、私がフィクションの中の死にしか触れたことがなく、リアルに生死を感じたことがないという証なのかもしれない。

    それにしても山の頂というものは不思議だ。ヘリコプターのような文明の利器が使えない。到達するには、己の肉体で挑戦するしかない。こんなの、南極や海底や宇宙とも違う。

  • 映画(エベレスト3D)の題材の、正に登頂を果たした生存者が書いた本。映画では理解しきれなかったことが全部わかった。関わった人数も国も多いし当然だけど名前はカタカナだし、え?これは誰だっけ?と戻ったりして読むのに凄く時間がかかったけど著者がジャーナリストだったこともあり、帰国後生存者には何度もインタビューをし、高度8000メートルでの記憶力、判断力の脆さをそれぞれの発言でカバーして、恐らく真実に近い一冊だと思う。数々の予期せぬ出来事、不運が重なり起きた悲劇を、文章でここまで再現してクライマー以外の者にリアルに伝える力は凄いと思った。エベレスト登山の仕組み、エベレストが商業登山と言われる所以、問題点、何故エベレストが危険なのか、何故下山でこれほどまでに犠牲者が出たのか、各々の葛藤、下山後のそれぞれの思い等、全てが詳細に書いてあって凄く読み応えがあった。

著者プロフィール

1954年生まれ。ジャーナリスト、作家、登山家。
当事者のひとりとして96年のエベレスト大量遭難事件を描いた『空へ』(1997年/日本語版1997年、文藝春秋、2013年、ヤマケイ文庫)、ショーン・ペン監督により映画化された『荒野へ』(1996年/日本語版1997年、集英社、2007年、集英社文庫。2007年映画化、邦題『イントゥ・ザ・ワイルド』)など、山や過酷な自然環境を舞台に自らの体験を織り交ぜた作品を発表していたが、2003年の『信仰が人を殺すとき』(日本語版2005年、河出書房新社、2014年、河出文庫)以降は、宗教や戦争など幅広いテーマを取り上げている。

「2016年 『ミズーラ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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