稲の大東亜共栄圏: 帝国日本の〈緑の革命〉 (歴史文化ライブラリー 352)

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  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642057523

作品紹介・あらすじ

稲の品種改良を行ない、植民地での増産を推進した「帝国」日本。台湾・朝鮮などでの農学者の軌跡から、コメの新品種による植民地支配の実態を解明。現代の多国籍バイオ企業にも根づく生態学的帝国主義の歴史を、いま繙く。

感想・レビュー・書評

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  •  歴史の審判というか、歴史における評価は厳しいと感じた。
     稲の品種改良ということは、学校の社会科で(確か〈農林一号〉のことは)習った記憶がある。東北の飢饉被害を起こさないようにするため、冷害に強い稲の品種改良をするということは、単純に良いことと思っていた。 
     しかし、問題はそれほど単純ではなく、稲の品種改良が現場農民に与える影響、さらに朝鮮、満州、台湾等における植民地支配の経済的意味での尖兵的役割を果たしていたこと、改良品種の多くは大量の肥料の施肥があって初めて増産が可能な肥料依存性の高いものであったこと、などを本書を通して初めて知ることができた。

     グローバリズムの進展の下、低開発国では商品作物の栽培、モノカルチャー化を余儀なくされているという話題は聞いていたが、その萌芽が戦前の日本に既にあったということを、著者は明らかにする。

     収量の多い品種=優良品種と取られやすいが、水利施設の整備と肥料の増投ができる場合にしか効果を発揮せず、条件の悪いところでは、伝統品種の方が良好な成績であった。これは何を意味するのだろう。技術の発展が無条件に進歩とは言えない、現在であれば、はっきりと見えてきたことである。

     本書では、品種改良に仕事人生をかけた技術者が相当数紹介されている。顕彰された者、現地からも評価された者もいれば、半ば挫折した者もいる。永井荷風の弟の永井威三郎が、朝鮮総督府農事試験場で品種改良事業に取り組んでいたなども、新たに知ることができた。

     一見中立的に見える技術が植民地統治にいかに関わりがあったのか、新たな見方を教えられた。
     

  • [評価]
    ★★★☆☆ 星3つ

    [感想]
    なんというか著者は品種改良や遺伝子組み換えという事に対し、否定的なのかなと感じる内容だった。
    当事者達からすれば品種改良で多収化、耐病化、耐冷化を望むことは食料を確保することを優先したいと思うだろうし、当時は何かしらの形で国家に奉仕することは最も重要だったのだろうと感じた。
    一方で「緑の革命」で行われた農業指導というものが現地の従来の農法を破壊し、結果的には先進国の肥料や農薬に依存することに繋がっているというのは新たな観点だったな。

  • ☆台湾、満州、朝鮮におけるコメの新品種による植民地支配(?)
    日本米の改良を導入したが、肥料がかかるのが難点で普及しがたい。
    どちらかと言うと、賛美されがちだが、
    筆者は、生態学的帝国主義として描く。

  • タイトルだけでは大日本帝国はアジアに対して侵略と搾取だけでなく、現地の民生を向上することもしたというスタンスの書籍かと思ってしまった。そうではなく、帝国主義への批判精神を持っている。改良や改善が帝国主義になる。

  • 612.2||Fu

  • 地域史

  • 稲の品種改良によって植民地での増産を目指した大日本帝国。朝鮮や満州、台湾における農学者の事績を丹念に追いつつ、「生態学的帝国主義」の実態をあぶり出した本書は、現代のバイオテクノロジーによる多国籍企業支配を考える上でも示唆に富んでいる。

  •  近年技術革新が目覚ましい遺伝子組み換え産業。だがそれと並行して種子の市場での多国籍大企業による市場独占も進んでいる。遺伝子組み換えに伴う諸問題は、これまでの品種改良の問題と切り離せないことを著者は説得的に論じている。食物連鎖を支配することは、人を支配することでもある。『ナチス・ドイツの有機農業』の著者が、20世紀初頭の日本の植民地政策と稲の品種改良の歴史との関係に鋭く切り込んだ好著。
    (選定年度:2016~)

  • 1.藤原辰史『稲の大東亜共栄圏 帝国日本の〈緑の革命〉』吉川弘文館、読了。本書は帝国日本の「コメの品種改良の歴史にひそむ、『科学的征服』の野望」を明らかにする一冊。品種改良に取り組んだ農学者の軌跡は、「生態学的帝国主義」の歴史である。緑の革命はモンサントの現在だけではない。

    2.藤原辰史『稲の大東亜共栄圏』吉川弘文館。品種改良と導入は殆どの場合において植民地アジアの抵抗を受けている。新品種の抵抗するにも、改良品種不適応の場合にも、実害を受けるのは一人一人の農民であった。そして育った利潤は、商人や日本の肥料企業が吸収していくのである。

    3.藤原辰史『稲の大東亜共栄圏』吉川弘文館。農学者の善意は→「育種技術が社会の矛盾を温存して人間と空間を人間の生活実感を通して支配するこのシステムは、警察権力や軍事力で人間を支配するよりもいっそう持続的で摩擦が少なく、それだけに、かえってとてつもなく厄介な統治システムでもある」。



    4.藤原辰史『稲の大東亜共栄圏』吉川弘文館。食に直結する技術改良の輝きに私たちは注目しがちだが、その裏側には(日本においても)帝国主義・植民地主義と深く結びついた負荷が存在する。そしてそれが戦後のアメリカの食料戦略とも関連し合っている。生-権力の眼差しを見つめ直す必要を諭す一冊。

    5.藤原辰史『稲の大東亜共栄圏』吉川弘文館。 http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b102877.html 稲の品種改良を行ない植民地での増産を推進した「帝国」日本の実像を明らかにする一冊。著者の『ナチスのキッチン』(水声社 http://www.amazon.co.jp/%E3%83%8A%E3%83%81%E3%82%B9%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%B3-%E8%97%A4%E5%8E%9F-%E8%BE%B0%E5%8F%B2/dp/4891769009 )と併せて読みたい。了。

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著者プロフィール

1976年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史、食の思想史。2006年、『ナチス・ドイツの有機農業』(柏書房)で日本ドイツ学会奨励賞、2013年、『ナチスのキッチン』(水声社/決定版:共和国)で河合隼雄学芸賞、2019年、日本学術振興会賞、『給食の歴史』(岩波新書)で辻静雄食文化賞、『分解の哲学』(青土社)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、『カブラの冬』(人文書院)、『稲の大東亜共栄圏』(吉川弘文館)、『食べること考えること』(共和国)、『トラクターの世界史』(中公新書)、『食べるとはどういうことか』(農山漁村文化協会)、『縁食論』(ミシマ社)、『農の原理の史的研究』(創元社)、『歴史の屑拾い』(講談社)ほか。共著に『農学と戦争』、『言葉をもみほぐす』(共に岩波書店)、『中学生から知りたいウクライナのこと』(ミシマ社)などがある。

「2022年 『植物考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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