あの人たちが本を焼いた日 ジーン・リース短篇集 (ブックスならんですわる)

  • 亜紀書房
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750517469

作品紹介・あらすじ

――わたしはどこにも属していないし、属すためのやりかたを買うお金もない。


カリブ海生まれのジーン・リースは、ヨーロッパでは居場所を見出せない、疎外された人であった。しかも女性である。

自身の波乱に富んだ人生を下敷きにした、モデル、老女、放浪者などの主人公たちは、困窮、飲酒、刑務所暮らし、戦争と数々の困難を生きる。


だが彼女らはけっして下を向かない。
慣習と怠惰と固定観念をあざ笑うように、したたかに生きる。

《いま新たな光を浴びる、反逆者リースの本邦初、珠玉の作品集》

感想・レビュー・書評

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  • レーベル名の「ブックスならんですわる」が珍しくて目についた。帯に書いてあるのは「20世紀の初頭、繊細にしてオリジナルな小品をコツコツと書きためた作家たちがいます。前の時代に生まれた人たちですが、ふっと気づくと、私たちの隣に腰掛け、いっしょに前を見ています。やさしくて気高い横顔を眺めていると、自分も先にいくことができる、そんな気がします。いつも傍に置いて、1篇1篇を味わってみてください。」ということ。本書がレーベル三冊目らしい。

    著者のジーン・リースは、1890年にイギリス領ドミニカ島に生まれた。
    クレオール、いわゆる「植民地生まれの白人」とになるらしい。
    リースが生きている間には、第二次ボーア戦争、第一次世界大戦、スペイン戦争、第二次世界大戦と、まさに戦争の時代。あとがきで書かれる著者の小伝が色々複雑だ。イングランドの女子校に入ったけれどうまく行かなかったようだ。同じイギリス人でも、植民地と本国とでは言語、発音、習慣などのすれ違いがあるんだろう。

    短編は…うーん、よく分からなかった…(=_=;)
    今いる場所が居場所ではない違和感、植民地生まれの人間や特に女性への差別、女性の嫌な面(混血白人関係なく)が現れている。

    『あの人たちが本を焼いた日』
    カリブの小島(著者出身のドミニカかな?)に住む少女が、幼馴染みエディーの家族のことを語る。父親は駐在したイギリス人の変人、母親は昔は美人だったであろう現地人。妻は夫の暴力暴言に黙ったまま笑顔で流していたが、夫が急死するとその憎悪を夫の遺した本にぶつける。
    エディーと語り手は燃やされる本から1冊ずつ助け出して逃げ出した。エディーの涙が伝わって思う「たぶんいまわたしたちは結婚したんだ」。でも持ち出した本にはがっかりした!

    『あいつらにはジャズって呼ばせておけ』
    下宿を追い出された女性主人公は、植民地で混血の母親から生まれた。イングランドの学校に行くために移住したけれど、色々とうまく行かない。
    下宿を追い出されて済ませてくれたアパートでは、近所の人達から好奇の目と差別の言葉に晒される。うるさいから歌を歌ったら警察がやってきて監獄に入れられた。
    数日で出てきてから、新しい部屋を借りて歌を歌っていたらミュージシャンに気に入られた。彼はその歌をアレンジして売り出したらしい。
    もう違う音楽になった。歌は私から離れていった。
    でもそうではないかもしれない。彼らが間違ったまま演奏したって、私の歌は傷つかない。

    『心霊信奉者』
    昔好きな女性がいたんですよ、でも亡くなってしまって。だから部屋を片付けていたらいきなり大音響が!見に行ったらさっきまでは無かった大理石の塊が居間に落っこちているではありませんか!
    なんで笑うんですか?彼女が狙いを外したって?なんて失礼な!

    『マヌカン』
    パリの街でのモデル女性たちの一幕。

    『フランスの刑務所にて』
    刑務所の面会時間にやってきた老人と幼い男の子。
    目も衰えフランス語もよくわからない老人の不安さが書かれる。

    『母であることを学ぶ』
    出産したけれど全く子供が可愛くない。
    夫は共産党員だと白い目で見られるし、自分もフランスには馴染めない。
    しかし一人になって思った。自分は幸せだし、かわいいおちびちゃんにはキスせずにいられない。そして母親としての初めてのキスをした。

    『シディ』
    刑務所の独房の隣にアラブ人が入ってきて、宗教や習慣の違いだとか言語のこととか。

    『飢え』
    五日間何も食べずにもうダメだ、って話なんだけど…宗教的断食なの??

    『金色荘にて』
    休暇で訪れたホテルでの一夜。人生なんて薄っぺらいなあと思いつつ、でもいい部屋なのでくつろいだり。

    『ロータス』
    同じアパートのロータスおばあさんが、若い夫婦ロニーとクリスティーンの家に招待された。クリスティーンとロータスおばあさんは最初から気が合わない。その夜ロータスおばあさんが酔っ払って奇行に走るけど、アパートのみんなは面倒くさがってシカトしたよ。

    『ではまた九月に、ペトロネラ』
    夏の休暇で別荘招待してもらったけれど、嫌な人たちばっかり。ペトロネラはさっさとロンドンに帰ろうとしたけれど荷物を別荘に置いてきちゃった。
    家に帰るまでに二人の男性に送ってもらった。ふたりともまた会いたいって「ではまた九月に、ペトロネラ」と言ってお別れした。

    『よそ者を探る』
    ハドソン夫人は親戚のローラを家に泊めていた。ローラは、戦争中にヨーロッパを離れ、その後フランスに行き、そしてイギリスに戻ってきていた。田舎町ではローラはスパイで魔女だと言われ、陰口を叩かれ、匿名手紙や張り紙を出され、精神病だと言われて追い出されようとしている。
    …いわゆる誹謗中傷で追い詰められる様子なんだけど、ローラもちょっと変な行動があったりして…どういうふうに読めばいいんだ…

    『堅固な家』
    ドイツ軍がロンドンを空襲する日々、持ち主が離れた家に住み着く人たちのお話。降霊会を行うんだとか、睡眠薬大量に飲むんだとか、家を取り仕切っている女性との親交やらいざこざやら。

    『機械の外側で』
    病院の大部屋に入院している女性患者達のお喋り。主人公は話し方や話す内容が他の人達とタイミングが合わなくて避けられがちでいる。手術も終わって家に帰らなければいけないけれど、自分には帰る家も無いし。

  • 亜紀書房 - ブックスならんですわる 03 あの人たちが本を焼いた日 ジーン・リース短篇集
    https://bit.ly/3Qb3TR2

  • どこにも属していない女の人がふらふらする話が多く、緊張して読んだ。お酒もそれなりに飲むが、素面でも突発的になにかやりそう。何ページ目で大きな穴に落ちるのかわからない。

    ジーン・リースの書く女の人たちの誰ともつながっていない感じがどこから来るんだろうと考えてみると、彼女たちに温かい気持ちを持つ人が出てこないから。優しかったとしても、ひとときすれ違う関係だからだったり、下心があるからだったり。かといって彼女たちは卑屈にも自責的にもならず、堂々とおなかを空かせている。寂しい気持ちと胸を張る気持ちの両方に満たされている。

  • 60冊目『あの人たちが本を焼いた日 ジーン・リース短篇集』
    (ジーン・リース 著、西崎憲 編、安藤しを他 訳、2022年7月、亜紀書房)
    1950〜70年代にかけて活躍した晩成の女流作家、ジーン・リース。
    短篇の内容はいずれも世間に疎外された女性を扱ったものである。
    時代設定が分かりづらく、また掴みどころのない抽象的な作品も多いので、彼女の生涯を調べた上で読み進めていかないと理解が追いつかないかも知れない。

    「わたしはほんとうにはどこにも属していないし、属すためのやりかたを買うお金もない。」

    • 淳水堂さん
      ムッネニークさんこんにちは。
      私も数日前に読みました!
      私のレビューへの「いいね」ありがとうございます。

      私はちょっと分かりづらい...
      ムッネニークさんこんにちは。
      私も数日前に読みました!
      私のレビューへの「いいね」ありがとうございます。

      私はちょっと分かりづらいなあと思いました…。
      ムッネニークさんの書かれている
      『時代設定が分かりづらく、また掴みどころのない抽象的な作品も多いので、彼女の生涯を調べた上で読み進めていかないと』
      がまさにそのとおりです。
      主人公が感じる疎外感や当然のような差別が一度読んでも分からず、あとがきの著者の経歴に目を通してやっと背景がわかったような感じです。
      さらに主人公たち自身も変わり者のところもあり、実際にいたら見掛け経歴に関係なくお友達にはなれなさそうだなあ…と思ってしまいます。。

      これからもよろしくおねがいします。
      2022/08/29
  • そう言えばジーン・リースって短篇を読んだことなかったなあと思っていたら、それもそのはず、本邦初だそう。

    結構無頼だなと思うんだけれど、時々クスッと笑ってしまうユーモアもあるんだよ。

  • 2023.1.14市立図書館
    前に読んだ『女教師たちの世界一周 ―小公女セーラからブラック・フェミニズムまで (筑摩選書)』で名前を覚えたイギリス領ドミニカ出身のクレオール、ジーン・リースの短編集。「イングランド」や「白人」が権威で、ミックスや現地の人だけでなく植民地育ちでも言葉や文化が見下され、どこにいても何らかの理由で居心地が悪い人々の世界。
    表題作は秘密の花園ならぬ図書室を追い出される少年少女の話、切ない。続く「あいつらにはジャズって呼ばせておけ」はイギリスで疎外感や差別的な扱いに怒りながら生きる若い女性の物語、パンクだった。それしか読めずにいったん返却。

  • 文学ラジオ空飛び猫たち第91回紹介本 https://spotifyanchor-web.app.link/e/1TPav9l2hwb 何度か読まないと落ちてこない気がする。 植民地のことなど日本人からするとイメージできないが、どこにも所属できない、寄る辺のなさを感じている人がいたら、かなりマッチするかも。 この本からは、誰も信頼していない、信頼されていない独特の強さのようなものと寂しさのようなものを感じた。そういうものに触れる機会はそうないと思うので、感じたい人はぜひに!

  • 鈴木いづみを思わせる感じ。強そうで脆い、メチャクチャなのに彼女の中には切実で変えられないものがある、それが文章から伝わってくる。女嫌いなのに女に注目する感じも似ている。
    鈴木いづみは空虚な時代に生まれたと感じていたけどジーンさんは激動の時代と激動の人生を生きた。鈴木いづみはジーン・リースを読んだのだろうか?読んでいたら自分のことのように感じたのではないか。
    危うげで、強かで、嘆いてるけど笑ってる。
    周りを見るときの目が似ているのかな。

  • ザ・英国。『ライ麦畑でつかまえて』のような反逆者が描く曇天の空のようなお話ばかりで、心が落ちるので、途中で断念。

    p.81 片手だけで、赤ん坊の体の真ん中あたりをつかんで持ち上げると、小さな生き物はその動きに熟練を感じ取り、たちどころに泣き止む。赤ん坊がかわいいと思えないと言うと、助言をくれる。「そんなものよ。今に思えるようになる。きっとなるから。まだあなたは弱ってるの。それにこういうことは、学んでいくものだからね」

  • 図書館で表題だけで借りた本。CDならジャケ買い的な。
    1890年生まれ、ドミニカ出身、欧州在住。
    植民地生まれの女性である作者が、自身の「どこにも身の置き場がない、どこにも属さない、利用され搾取され、人一倍義務を負わされることはあっても権利は全く認められない、異国の地で差別や不当な扱いを受ける」経験を基に様々な困難に見舞われる人々を綴った14の短編集。
    最後の解説にある彼女の半生を読むと、14全ての話に彼女の実体験がしっかりと挿入されている。
    裏表紙には「したたかに生きる」とあったが読んでみてしたたかさは感じない。これをしたたかだの強いだの形容してしまうのは「まぁいろいろあるけど人間は強いからさっ」と問題をそのまんま地中に埋めてしまうような気がする。登場する女性達は確かに生き延びてはいるけれど(「シディ」の男性囚人は殺されている)それでも息苦しさからは今も昔もこれからも一度も解放されてはいない。でも時代は戦前でしょ?遠い異国だし。でもそこで話される人生は今も同じようにあらゆる場所で展開されている。キリスト教徒が女性のために、異邦人のために、異教徒のために周到に用意した地獄に生きる人々の物語。
    真ん中までは「あー表題作が1番かー。まぁ悪くはないけど、うん。。」と読み進める。金色荘にてから急に文章が強い。あれ?次もいいなとロータスを読む。でまた次もいい。よそ者を探るではちょっと泣いてしまった。翻訳なので原文は分からないが、金色荘にてからの言葉選びが鋭利かつ時代がかってていい。
    正気なんて保ってたら損じゃない?みんなみたいに心底意地悪に生きていけたらいいのに。ガラスの粉をまぶした空気の中で深呼吸。痛い。死んじゃう。でも呼吸は止められない。みたいな。

    「あの人たちが本を焼いた日」★★
    「あいつらにはジャズって呼ばせておけ」★
    「心霊信奉者」
    「マヌカン」
    「フランスの刑務所にて」
    「母であることを学ぶ」★
    「シディ」★
    「飢え」
    「金色荘にて」★★
    パリに対する巨大な反動。ここにいると人生は薄っぺらい、でも安全だ。
    「ロータス」★★★
    上品でかわいらしいのだけれど、皮肉な性格
    「ではまた九月に、ペトロネラ」★★★
    じゃあこの子は?と蛇の目
    「よそ者を探る」★★★
    花はどれも自分にとって代わろうとしている蕾を従えていた
    「堅固な家」★★
    きれいな人は死ぬべきではないわ。この世に少ししかいないんだから
    「機械の外側で」★★★
    とにかく親切で、かわいくて、気の毒な子

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著者プロフィール

1890-1979年、カリブ海に浮かぶイギリス領ドミニカ島に生まれる。16歳のときにロンドンのバース女子校に入学するが、1年あまりで退学。演劇を志し、アカデミー・オブ・ドラマティック・アートに進むが、中途で挫折。シャンソン歌手でフランスのスパイとされるジャン・ロングレが最初の夫で、結婚は計三度。
1927年のデビュー作『セーヌ左岸およびその他の短篇』の刊行はモダニズムの立役者の一人フォード・マドックス・フォードの尽力によるものだった。『カルテット』など長篇の評価は高かったが、次第に忘れられた作家となる。40年代後半に『真夜中よ、おはよう』がラジオドラマ化されて、それを期に復活。60代で代表作『サルガッソーの広い海』を発表し、作家としての評価を決定的なものにする。
終生波乱と困窮と飲酒に彩られた人生を送った。現代文学の基礎を作った作家の一人である。

「2022年 『あの人たちが本を焼いた日 ジーン・リース短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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