- Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
- / ISBN・EAN: 9784751526293
作品紹介・あらすじ
序詞『くらし』(石垣りん)に始まり、岡本かの子『鮨』、森茉莉『ビスケット』、向田邦子『ごはん』、武田百合子『夏の終わり』、深沢七郎『いのちのともしび』など、15の名作短編を収録。
感想・レビュー・書評
-
小説よりも随筆とか体験記が元になっている話が多い。食というのは人間に関わるから小説よりも体験記として書きやすいのかな。
【石垣りん『くらし』】
人間は食わずには生きて行けないんだが、自分が食ったものは食べ物だけでなく人の心とかそいういうものもあり、それを食い散らかして生きていて、という感じ。
【岡本かの子『鮨』】
寿司屋の看板娘ちゃんが、ちょっと気になる中年常連客から聞いた話。
食べるということに嫌悪感と罪悪感を抱いていた男の子が、母親の手づからの”鮨”に初めて食への好意を感じられるようになった。
食事とは生きるために必要だけど、だからこそ人と向かい合うことが大事だということ。
【志賀直哉『小僧の神様』】
丁稚の小僧さんが「先輩たちが食べている寿司屋に行ってみたいなあ」と思うけれど、自分には手が届かない。その様子を見た寿司屋の客が、小僧さんにご馳走してあげるんだけど、なんだかごちそうするということで好意の自己満足になるのも本意じゃないんだよなあと考える。でも小僧さんにはその人の複雑な考えは察する必要もなく、ただただ神様のお使いのように思えたって話。
【芥川龍之介『芋粥』】
今昔物語や宇治拾遺物語の説話を芥川龍之介が物語にした。
冴えなくて周りからも馬鹿にされている中年の五位が「芋粥を腹いっぱい食べたいなあ」なんて考える。それを聞いた豪気な武士の藤原利仁は自分の領地に招待する。しかし五位は、目の前に積まれたあんまりにも大量の芋粥に目がくらんでしまい、憧れのものは憧れの時が一番楽しかったなと思う。
利仁が途中で行き合った狐を捕まえて実家への伝言を無理やり命じる場面はダイナミックでいいですよね。
元の説話では、利仁には五位をもてなすには理由があったり、五位も芋粥にはうんざりしたけど他のおもてなしには満足したりしている。芥川龍之介は人間心理の部分をクローズアップした感じ。五位のことを馬鹿にしながらもその隙間から見える人間味に興味を示す無名の侍が出てきたり。
【矢田津世子『茶粥の記』】
世間的には食通で通っていた亡き夫だけど、本当は食通旅行に行ったことなんかないし、好きなのは茶粥だったし。そんなことを思い出しながら、亡き夫の母親と二人で支え合いながら暮らしている現在に、それなりに満足している。
【子母澤寛『冷や飯に沢庵』】
美味しいものエッセイ。子母澤寛が行き着いたのは冷や飯らしい。
…そうなんだ。冷や飯って固まらないか。私の保存方法が悪いのかな。
【幸田露伴『野道』】
男性数人で散歩しながらのお花見。板に焼き味噌つけて、そのへんの草を摘んでつまみにする。うっかり毒草を手に取っちゃって止められたりもしますが、瓢箪酒はうまいしまあいいか。(いいのか!?)
【深沢七郎『いのちのともしび』】
札幌のイチゴが安いんだ!たくさん買って食べた。「わーーっ」これは美味しい。明日もたくさん買おう、あさってもたくさん買おう、そしてまいにち「わーーっ」と味わおう。札幌には花もたくさん咲いている。色んなものを見て思う。「これも俺のいのち」
【森茉莉『ビスケット』】
食へのこだわり、特にビスケットへのこだわりを微に入り細に入り記した一作。
【種村季弘『幻の料理』】
「泥鰌地獄」という、人間の理屈が先走ったような料理があると聞いた。でも実際に食べたとは聞かないので幻の料理だ。それならその幻の料理を再現しよう、とする著者。
料理の作り方が「煮殺す!」みたいな感じで書かれているので、読んでいて「ぐえーーーっ」となった。まあ食べるってそういうことだよねとも思う。
【古川緑波『富士屋ホテル』】
大食いの著者の富士屋ホテルの思い出。上から順に全部持ってきて?といったら話しに乗ってくれた。食べきれないだろ、って思われてたけど、美味しいからちゃんとマナーも守って食べたよ★ そんな富士屋ホテルも戦後アメリカに没収されて随分雰囲気が変わったな。
【色川武大『大喰いでなければ』】
痩せているが大食いの父の思い出。自分は大食いで太ってる。大食いはやめようと思うけれど、友達がお変わりするのを見たら自分のついついおかわりを重ねてしまった。まあ美味しいならいいんじゃないのかな。
【向田邦子『ごはん』】
美味しかった食事の2つの思い出。
空襲の翌日、残していたってしょうがないから最後にうまいものを食べて死のうじゃないか。そういってとっておきのお米やおかずを家族で食べた思い出。
幼い頃に結核に罹った。お母さんが自分だけにうな丼を食べさせてくれた。憧れの贅沢。お母さんは食べなかった、お兄ちゃんお姉ちゃんには内緒の、嬉しいような後ろめたいような思い出。
【武田百合子『枇杷/夏の終り』】
もう食が進まなくなってしまった夫が美味しいと行った枇杷。篤実な農夫のような手で摘み、歯がなくなって歯茎で噛み尽くす。今は夫の手も自分の中に入っているのかななんて考える。
雰囲気の良い洋食屋で、他のメニューは美味しかったのに、オムライスはすっごくまずかったというお話。
【宮沢賢治『注文の多い料理店』】
山猫料理店。
ごちそうにありつく前に、服を脱いで体を拭いてクリームを塗って塩をかけて…、これでは自分たちがごちそうじゃないか!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
お話に出てくる食べ物って本当においしそうに見えるよね。それが苦手な食べ物でもおいしそうなんよね。不思議よね。
ってことでそんなんがまとまっとるなら読まねばならんかろ! と思い職場から勝手に拝借してきた。
とりあえず、わたしはエッセイよりは小説のが好きなのかも。実際に食べた話より、虚構のものの方がよだれでる。実物以上にうまそうに想像して描いてるからなのか。
だから「芋粥」は初めて読んだときからわたしのバイブルやし、矢田津世子の「茶粥の記」はとても素敵だと思った。なにあの夫婦いいなあほっこりした。いい関係やからこそ、設定が切ないのう…くうう、いいのういいのう!!
エッセイでよかったのは、森茉莉と幸田露伴と武田百合子かな。後ろ二人は食べることに重点がおかれてない感じなんやけども… -
森茉莉の「ビスケット」が特にいい。
-
小僧の神様/志賀直哉 野道/幸田露伴(とても良かった) いのちのともしび/深沢七郎 ビスケット/森茉莉 富士屋ホテル/古川緑波 大喰いでなければ/色川武大 ごはん/向田邦子 枇杷 夏の終わり/武田百合子 注文の多い料理店/宮澤賢治など
-
松田哲夫 が選んだ話なので、コレ!と思う話は読んでみたいと思っている、「食べる話」では向田邦子『ごはん』。「悪人の物語」では色川武大『善人ハ...松田哲夫 が選んだ話なので、コレ!と思う話は読んでみたいと思っている、「食べる話」では向田邦子『ごはん』。「悪人の物語」では色川武大『善人ハム』。「ふしぎな話」では夢野久作『怪夢抄』が気になっています(他のは、未だメモってなかった)。。。2013/02/20
-
このシリーズ、有名だけど未読の作家とかいい並びで読めて、既読の話も違った感じで読めたりして、おすすめです。わたしは「食べる話」と「不思議な話...このシリーズ、有名だけど未読の作家とかいい並びで読めて、既読の話も違った感じで読めたりして、おすすめです。わたしは「食べる話」と「不思議な話」が好きです。2013/02/24
-
-
食をテーマにしたことで、いろんな作家さんの特徴や感性が読み比べられて面白い。下の方に語句解説が、ときにはイラスト入りでついているので、植物や昔の装束などが理解できる。近代のエッセイや小説が俄然読みやすく、面白くなる。すばらしいシリーズ。、
-
C8793
-
深沢七郎さんの『いのちのともしび』は面白かった。
宮沢賢治さんは動物に優しくないような気がするから得意じゃないし、武田百合子さんの文章は良さがさっぱりわからなかった。
いろんな作家さんの文章が読めて、今後本を選ぶときの役に立ちそうな1冊した。 -
【収録作品】
石垣りん くらし
志賀直哉 小僧の神様
岡本かの子 鮨
芥川龍之介 芋粥
矢田津世子 芋粥の記
子母沢寛 冷や飯に沢庵
幸田露伴 野道
森茉莉 ビスケット
伊丹十三 プレーン・オムレツ
深沢七郎 いのちのともしび
種村季弘 幻の料理
色川武大 大食いでなければ
古川緑波 富士屋ホテル
向田邦子 ごはん
武田百合子 枇杷/夏の終わり
宮沢賢治 注文の多い料理店
芋粥、注文の多い料理店以外初読。
食べるという大好きなカテゴライズで期待していた巻。
期待以上の傑作揃いでとても楽しめた。
岡本かの子 鮨、森茉莉 ビスケット、古川緑波 富士屋ホテルが良かった。
特に森茉莉は文章が美しくて、他の作品も読んでみたくなった。志賀直哉の小僧の神様は面白かっただけに、
え、この終わらせ方なの、と感じた。個人的には続きが読みたかった。