一房の葡萄 (ハルキ文庫 280円文庫)

  • 角川春樹事務所
3.72
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (111ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758435413

感想・レビュー・書評

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  • 冒険・探検・実験。
    小学校低学年頃までかな。
    わたしが精を出してせっせと励んでいたことである。
    もちろん大人には内緒で、である。
    と言っても、そんな子どもの行動範囲は限られているし、きっと大人にはちゃ~んとバレていたはず。
    ちっちゃいけど無限大な世界の中で、わたしはモンスター(たとえば口裂け女)を倒す冒険に出たり、お宝(たとえば徳川の財宝)を探す探検家になったり、魔女のように魔法のスープや毒薬(たとえば草花の色水)を作ったり。そうそう小鳥が欲しくて欲しくて冷蔵庫の卵をぬいぐるみで温めたこともあったっけ。
    おとなしくて人見知りなわたしの中に眠っていたそんな存在たち。時折、羽目を外したそれらによって想定外なハプニングが起こるのだ。(たとえば迷子、ケガ、破損などなど)
    まあ、そのときの心の底から沸き出すこの世の終わりかと思うほどの恐ろしさときたら。どうしよう……怒られる!その思いももちろんあったけれど、死ぬかもしれない、そうしたらもうおかあさんたちにも会えない、なんてことまで考えることがあった。
    ところが、そんな状況を今思い出してもこっぴどく怒られたのかといえば全然覚えていないのだ。「死ぬほど怖かった」という気持ちはちゃんと残っているのにである。
    結局のところ楽しかったなぁと思えるのだ。
    きっと、当時の周囲の大人たちとのほどよい距離感が、わたしをそんな思いから救いだし、のびのびと育ててくれたんだと思う。

    有島武郎の『一房の葡萄』をはじめとした子どもを主役にした5篇の短編には、子どもたちのそんな「困った」や「どうしよう」「死ぬかもしれない」がたくさん詰まっている。読んでいると自分の体験がオーバーラップして作り物ではないリアルな動悸に襲われてしまうのだ。それでも安心するのは、どの話をとっても出てくる大人たちが実に寡黙でありながら、子どもたちの大変な思いをそっと汲み取り軽くしてくれることである。
    そう、この寡黙さが心地いいのだ。

    やがて子どもは大人になる。そして父、母となることもあるだろう。
    『小さき者へ』には、有島武郎から子どもたちへの溢れる愛情と、自分を踏み台にして乗り越え進んで行けとの力強さが語られている。
    だけど、子どもたちはいつ、どういう思いでこの文章を読んだのだろうか。ふと寂しくなる。
    子どもたちは幼き日に母親を病気で亡くした。そして、そのたった七年後には父親も心中という形で亡くしているのだ。武郎は人妻と恋に落ちるのだが、その夫に脅迫を受けたことを苦にしたのであろうか、彼女と二人で心中する。
    子どもの思いを丁寧に汲み取ってくれる武郎が、なぜこのような行動に出たのか、年譜を辿るだけではわたしにはわからない。

    ただわたしにもわかるのは、武郎の子どもたちを愛した気持ちには嘘偽りはないし、子どもたちを温かく見守る物語はずっとこの世に残り続けるということである。

    • nejidonさん
      地球っこさん、こんにちは(^^♪
      ああ、この作品はとても懐かしいです。
      ヘッセの「少年の日の思い出」と似た部分がありますね。
      ただ、こ...
      地球っこさん、こんにちは(^^♪
      ああ、この作品はとても懐かしいです。
      ヘッセの「少年の日の思い出」と似た部分がありますね。
      ただ、こちらの話には救いがあります。
      上手に導く先生がとても素敵でした。
      レビューの後半部分は私も考えてしまうところです。
      まして彼はクリスチャンだったはずですし。。
      北海道で有島記念館を訪ねたことがあります。
      住みたい!と思うような佇まいの家で、今も忘れられません。
      ここで奥様を亡くしたことで、人生を半ば捨てたんでしょうかね。
      作品だけが世に残りました。なんともやるせない気持ちになります。
      2020/03/24
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます。

      nejidonさんの「文豪」関係のレビュー(とても面白かったです!...
      nejidonさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます。

      nejidonさんの「文豪」関係のレビュー(とても面白かったです!)を読ませていただいて、積読状態だった文豪の作品を読んでみようと手に取りました。



      「文豪」という響き好きなんですよ(*^^*)

      有島武郎の苦悩や迷いをキリスト教でも救えなかったんですね。創作活動が勢いを失っていくと同時に生きていく気力も削がれていったのでしょうか。

      わたしが武郎の娘だったら……父親としての武郎、文豪としての武郎の二面性に戸惑ったかもしれません。

      有島記念館、そうなんですね♡訪れてみたいです。きっとわたしも住みたい、と思うに違いありません。
      2020/03/24
  • 40を越えた有島が、幼い頃の盗みを犯してしまうという衝撃的な出来事を通して様々なことを伝えてくれる童話。
    描写が美しい。様々な色が出てきて、印象的で、効果的である。
    そして何より、盗みを冒した少年に対する先生の対応が素晴らしい。
    少年が先生を大好きなのは、少年のことを心から理解してくれているからだ。
    この時も少年の気持ちを一番に考え言葉を掛けている。
    そして少年はこの出来事をとしてさらに先生を、信頼し好きになったと思う。さらに人は信頼できる。失敗から自分を、成長させることができることを学んだのだろう。
    人は誰でも失敗をするし、罪深い。それでもそれを反省し成長へと繋げることができる。
    教師として、未熟で失敗する生徒たちを温かい眼差しを持って成長を促して行きたい。
    「明日学校に来るんだよ。君の顔を見ないと寂しから」
    いつも私が言っている言葉の意味の大きさを改めて知った。

  • 片っ端から、道徳の教科書に載ってそうだな、と思った。子供の心の動きや考え方が出て良い。妹の話、弟の話、ばあや、ポチ。
    最後の小さき者へは、母親を亡くして4人を男手で育てることになった、喪失感と、子供の不憫さを思う気持ちがよく出ている。
    280円文庫、初めてみたけどきになる。

  • 一房の葡萄のストーリー・テリングに感動して読んでみました。有島武郎の豊かで品格が高く味わい深いお話に読書の幸せを感じました。280円文庫良いですね。ずっと手元に置きたい良書がこんなに安くコンパクトだとうれしいです。

  • 最後の「小さき者へ」は好きすぎてもう何十回も読み返しちゃった(๑꒪▿꒪)*

  • 健全で幸福な人生を送っている人には、こんなにうつくしく、こんなに純粋な物語は書けっこないのだ。
    あまり関係ないけど、震災直後にスピッツの草野マサムネさんが、エア被災みたいなことになって仕事を休んだ際、「こういうときこそ歌うべきだ」なんていうことを言ってた人もいたと思うけど、やっぱりそういうときに倒れちゃうくらいの感受性があるからこそ、みんながお世話になったスピッツの名曲ができたわけで・・・。今回、興味を持っていろいろ調べた有島武郎の生涯に思いを馳せつつ、なぜかそんなことを考えて、妙に納得した。
    この短篇集は、表題作ほか子どもの視点で描かれた短編5編と、父から子への視点で描かれた「小さき者へ」から成りますが、特筆すべきは重松清さんのあとがきで、それを読むだけで泣けてくるし、有島武郎の年譜もついて、280円はハルキさんの心意気を感じました。ああ、有島武郎、『一房の葡萄』をものした3年後に、軽井沢で愛人と心中か……。

  • 「火事とポチ」がかなり印象的。特に、姿が見えないポチを探しながらポチを思い返す場面は涙ぐんでしまった。ラストも余韻があり、読後感が高かった。

    重松清の解説エッセイもgood。

  • 1.0

  • 主人公の気持ちの変化や、学校の様子がありありと描写されていて爽やかな読後感があった。心の傷にならなかったのは、先生の指導力や人間性のおかげかもしれない。

  • 幼き日の、道徳に反してしまったときに感じる嫌な気持ちが、説明抜きに伝わってくる

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著者プロフィール

1878年、東京生まれ。札幌農学校卒業。アメリカ留学を経て、東北帝国大学農科大学(札幌)で教鞭をとるほか、勤労青少年への教育など社会活動にも取り組む。この時期、雑誌『白樺』同人となり、小説や美術評論などを発表。
大学退職後、東京を拠点に執筆活動に専念。1917年、北海道ニセコを舞台とした小説『カインの末裔』が出世作となる。以降、『生れ出づる悩み』『或る女』などで大正期の文壇において人気作家となる。
1922年、現在のニセコに所有した農場を「相互扶助」の精神に基づき無償解放。1923年、軽井沢で自ら命を絶つ。

「2024年 『一房の葡萄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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