- Amazon.co.jp ・本 (117ページ)
- / ISBN・EAN: 9784758436557
感想・レビュー・書評
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やたらと作中で1935年、1936年という年代が目立つので不思議に思っていたが、ちょうど二・二六事件がおこる直前の話という事がわかる。そう思うと物語も違ったものに感じられる。ちょうどドイツでヒトラーが台頭し、ソ連でもスターリンが書記長になり、アメリカではルーズベルト大統領が再選と第二次世界大戦に向けて世界が進む中での話だと気づくと、物語の中でも少しずつ戦争の足跡が聞こえてくるのがわかる。
しかし、堀辰雄はそういった世界の事は全く触れず、ただ節子とのサナトリウムでの生活の記述に終始する。まだ、あさま山荘事件も起こっていないし、ソ連も崩壊していない。たぶん、コミューンというものに若者たちが憧れを抱いていた時にサナトリウムの中で堀辰雄と節子は二人だけのコミューンを作ろうとした。結局それは人間の業としかいいようのないもので崩壊してしまうのだが、自分にも死が迫っている事を感じながら、自然の情景の美しさ、人の暮らしの美しさ、そして、自分達の業ともいえる罪をも美しく芸術的に描いている。
最後に一人きりになってしまった堀が「私たちは幸せというものにこだわってきたが、不幸や幸せを捨てきった今の方が心の平穏を感じる」という言葉に、突き刺さるものを感じた。今の私たちは「幸せ」というものに執着し過ぎてはいないだろうか?「幸せである」とか「不幸せである」とかから達観した「存在しているだけで良い」という堀の考え方は、現在の何か社会不安を感じる自分達にも共感できる考え方だと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ジブリの映画がよかったので。
というか、ジブリの「風立ちぬ」は、堀越じろうの生涯と堀辰夫のこの作品を掛け合わせたものだった、というのに読んではじめて気づきました。よく合わせようと思ったなぁ…絶妙。
話全体にただよう静謐な空気が、夏に読むのにぴったりです。 -
青空文庫にて。
繰り返される風景描写が、
さもその場に立ち会っているかのような臨場感を
主人公の恋人としての慎ましやかな希望と作家としての残酷なリアリティが、
この作品に対するえも言われぬ距離感を生んでいる。
風立ちぬ、いざ生きめやも
この言葉がすべてを表す。
愛した人への想いを置いてはいけない。
けれども日常は流れて、人は否が応でも生きていかねばならないのだろう。
もし、愛する人に先立たれてこの世に置き去りにされたとき、
悲しみや不安に押しつぶされずに覚悟をもって生きていくことができたなら
それは幸せとは言えずとも、不幸とまでは言えないのだろうか。
甘っちょろい私には想像もできない。 -
読んでいて香るような独特の空気を感じる。。
匂いや雰囲気が読み手を包み込む。
美しく聡明な文章。「死」を感じながら生きるというのは、こんなに儚くもどかしいものなのか。
一刻一刻時が過ぎるのに、優代な時間がゆっくりと紡がれる。
そして葛藤や苦しみも美しく心に残るのは、作者の感性が美しいのだと感じた。 -
この夏公開のジブリ映画「風立ちぬ」の原作を読んでみた。病に冒された恋人と、彼女に寄り添う主人公の物語。
風景の描写が綺麗です。最初の草原のシーンでなんかもう泣きそうになる…。「死」に対して、表だって抵抗したり、嘆いたり、そういうシーンは一切登場しないのに、溢れそうな感情がずっと漂っているような作品。
つき詰めると、幸せと悲しみは何だか似ているのかもしれない。なんて思いました。読んでいるあいだじゅう、頭の中で「亡き王女のためのパヴァーヌ」という曲がずっと流れていました。 -
時代にとらわれない話ってあるんだね
って思ったけど、これも私が生きてる時代が今だから感じることなのかも -
か弱くて今にも消えてしまいそうな女性は確かに美しい。でもそんな美しさは、大切な人間に求めるものではない。
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堀辰雄の作品はいくつか読んだけれど
風立ちぬはその中でもお気に入りの作品
「死」というあらがうことできない
ものを前にしても主人公と節子は
とても幸福そうに見えた
終わりがわかってて打ちひしがれるのではなく
残された時間をふたりでゆっくりゆったり
過ごす姿はとても印象的でした…( ; _ ; )
また風景描写もとても良くて…!
堀辰雄の作品は読むと毎回
軽井沢に行きたくなります…(笑) -
静か