口紅のとき

著者 :
  • 求龍堂
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本棚登録 : 521
感想 : 99
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  • Amazon.co.jp ・本 (107ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784763011435

作品紹介・あらすじ

初恋、結婚、別離…ドラマはいつも口紅とともに。角田光代書き下ろし短編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 一人の女性の一生を描いた物語。そばにはいつも口紅があった。
    静かで暗く、でも優しい言葉できれいな描写。うるっと涙が出てきた。
    私たちは知らぬ間に老いる。心は変わらないのに。悲観しなくて良い、素直に素敵に年を取ろうと思えた。…と思っている。

    母の化粧に不安に思う気持ちの描写に、昔のことがぼんやりと思い出された。
    私も母の化粧や鏡台、あの辺りの匂いが嫌いだった。なぜだろう…
    サンリオのいい匂いのする可愛いリップに嬉しく
    高校を卒業した春に本物のお化粧セットを買ってもらった時の弾んだ気持ち
    他人に紅筆で色を入れられた時の違和感と嫌悪感
    「どこで買ったの?どこの何番の口紅?」と唇の色を褒められた時の嬉しさと気恥ずかしさ…
    …ふふふ…口紅とグロスを重ね塗りして編み出した私だけの色なのよ…
    そんな色も年とともになぜか似合わなくなってくる
    そしてマスクの下、口紅すらしない昨今……
    今の私に合うのはきっと、肌の色に合ったスモークカラー
    マスク生活が終わったら、またわたし色で口角上げて街を歩こう。

    なんだ…私にも口紅の物語が、ある!

  • 一人の女性の口紅にまつわる物語を6歳から79歳まで順に追った連作短編集。
    いかにも企画物と言う感じで疑心暗鬼で読み進めたが、なかなか良かった。
    あとがきにも書いてあるように口紅って女性にとっては特別なものでもあるし、だれしも共感できる部分があると思う。

    特に最後の79歳の章が良かった。
    介護施設に入っている主人公が若い女の子に化粧をしてもらいながら回顧する記述にグッと来た。
    やはり角田さんだ、巧い。

    この章を呼んで思い出したのは米寿で亡くなった夫の祖母。
    長い闘病生活を経て42歳の若さで亡くなった義母の代わりに夫の兄弟たちを立派に育て上げた祖母。
    普通ならばのんびり余生を過ごす年齢でありながら難しい年頃の子どもたちを育てるのは並大抵の事ではなかっただろう。
    そんな祖母だが初めて出会ったときからとってもお洒落な人だった。もう70代半ばだったと思うが、外出の時は仕立てた洋服に帽子をかぶり必ずお化粧をする。もちろん口紅も。
    普段の姿とは違ってパッと華やかに、可愛らしくなった。
    それまで私の周りにここまでお洒落な人はいなかったから、ちょっとした衝撃だった。
    苦労を重ねても歳をとっても女を忘れずに紅を塗る。
    人生を彼女なりに楽しんでいたんだろう。

    それに引き換え、私の体たらく。
    最低限の化粧はするが口紅最後に塗ったのいつだったかな・・・。
    リップをするかグロスがせいぜい。
    紅筆どこいっちゃっただろう。
    祖母の事見習わなくちゃいけないな(笑)

    • まろんさん
      しがらみ活動をなんとか終えたまろんです。
      (「しがらみ活動」のネーミングセンスに笑いました。さすがvilureefさん!)

      おばあさま、お...
      しがらみ活動をなんとか終えたまろんです。
      (「しがらみ活動」のネーミングセンスに笑いました。さすがvilureefさん!)

      おばあさま、お洒落で素敵な方だったんですね。
      孫たちを育て上げながら、女性としての身だしなみや佇まいにも気を配れるなんて。

      私も、ピアノのレッスンをする日以外はお化粧もしないで過ごしているので
      たまに回覧板を持ってきた生徒に「!!!」という顔をさせてしまったりして。。。
      大いに反省して、おばあさまを見習わなくては(>_<)
      2013/05/16
    • だいさん
      口紅とは、女性にとって特別なものらしい。
      (男にとっては別な意味でアピール力がありますが)

      vilureefさんも時々口紅を塗って「...
      口紅とは、女性にとって特別なものらしい。
      (男にとっては別な意味でアピール力がありますが)

      vilureefさんも時々口紅を塗って「女であること」を楽しまないと!
      2013/05/16
  • 真っ赤な本の装丁が実に素敵です~。
    口紅を題材にした「6歳~12,18,21,38,47,65,79歳」の超短編集。
    さらりと読める1冊ですが、最初では、亡き母親を思い出してほろりとさせられたり、最後の79歳では、人生振り返りジーンとさせられた。
    口紅って、いつの年代も輝かせてくれる特別なものなんですよね!女性でいる限り、化粧しなくっても薄紅は、し続けたいなーって思いました。

  • 「だれにも教わらなくとも、なぜかきちんとぬることができた。」
    という言葉が印象的。
    そうだったかもしれない。たぶんそうだ。

    この本の中には6歳、12歳、18歳、29歳、38歳、47歳、65歳、79歳の私がいる。
    もう通り過ぎた時間とこれから会いに行く時間、もしかしたらたどり着けない時間もあるかもしれない。

    でもまぁいいか、と思う。
    こんな物語を持っている女性が1人でもいるならそれで十分だ。
    その誰かの物語を私は愛せる気がした。

    写真もとても素敵。

  • あれPresentsって確かこの人のだよね?それに似た感じ。年を重ねてまた違ってくる口紅。なんかいい。

  • 口紅をテーマに一人の女性の人生が書かれたもの。
    6歳、12歳、17歳、29歳…とその年齢での口紅の思い出が綴られている。

    母親が化粧をする姿を見て嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになるというのを読んで、自分の小さな頃のなんともいえない気持ちが思い出された。

    今慌ただしく過ごしている時間がとても大切で愛おしいものだと気付かされた作品。

  • 口紅を塗るという そのときめきを
    大切にしたいと思えた 、
    歳をとっても、女の子のままでいたい。

  • ひとの、くちべにと共に生きる一生を、女性の一生を。
    自分の今まで生きてきた人生とお母さんと、おばあちゃんに重ね合わせてみらいを見ることが出来て涙が最後に溢れてきた。みじかい話なのに。
    ひちぶんいちぶんが、じんわりとひろがる。

  • 一人の女性の6歳から79歳。物心つく頃から認知症予備軍のような状態になるまで、くちべには事あるごとにぬられてきた。
    女の子から大人の女性になり、パートナーの最期を看取り、老いていく女性。どの時期が彼女の人生のハイライトだったのかはわからない。わからないままでいい。全部が終わったあと、彼女自身が選びたければ選べばいいだけのこと。

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    くちべにをしっかりとぬっている人が苦手だ。威圧されているような気分になってしまう。
    くちべにが歯についてしまっている人も苦手だ。指摘するのもわるいから何も言わないが、赤く染まった歯を目で追ってしまう。

    くちべには大人のアイテム。自分も大人になったはずだけど、まだくちべにの魅力に気づけていない。

  • こんなに本を愛しいと思ったことはありませんでした。手元に置いて読むたびに、女であることの悦びを感じさせてくれる本です。素晴らしい!

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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