- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784766423730
作品紹介・あらすじ
▼イギリス外交史の第一人者が“EU 離脱” までの深層と、
分裂に揺れるイギリスを読み解く!
今年の6月に世界の政治経済を震撼させた、
イギリス国民投票によるEU離脱という結果――
そして、そこに至るイギリスのEU 加盟時から現在までの歴史も
決して平坦ではなかった――。
これから孤高の道を歩むイギリスがめざす方向は?
また連合王国としてのイギリスは解体に向かうのか?
イギリス外交史・国際政治の第一人者が歴史的背景から
イギリス政治社会とヨーロッパを展望する一冊!
感想・レビュー・書評
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2016年、EU離脱を問う国民投票直後の出版。戦後の英とEUの関係をなぞる本ともなっている。大英帝国、また米と欧州の架け橋といった自己イメージから、そもそも英は自らを欧州大陸部と異なるものと考えていたようだ。興味深いのは、戦後間もなくの時期は大英帝国であるが故に大陸部と一定の距離を置いていたのに、今日ではEU離脱により世界大国としての地位を失うという見方に著者は与していることだ。
80年代以降、英の国民世論と保守党はイデオロギー的なEU懐疑思考になっていったという。そしてEU離脱派は経済的・合理的な理由よりも情緒的なEU批判や国民感情にアピールするプロパガンダを訴えることが多い、というのが著者の分析だ。
更に興味深いのが、国民投票という最も民主的なはずの意思決定の結果が、本書では民主主義の劣化・危機とされていることだ。著者は政治家が語る嘘の国民への浸透を1つの要因として挙げる。そして著者は、英国内のみならず、米英が主導してきたリベラルな国際秩序の行方にも警鐘を鳴らしている。 -
東2法経図・6F開架:319.3A/H95m//K
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2016月に行われたイギリスのレファレンダム。
議会制民主主義の本家本元で行なわれた。
現代の民主主義(直接民主主義)の置かれている状況も含め、イギリスのおけるEU問題の歴史的課題がよくわかる本でした。
保守党、労働党、そして、混迷する現代を象徴する国粋主義政党の台頭。
EU問題、ヨーロッパにおけるイギリスの立ち位置。
グローバリズムとアメリカのと関係。
とにかく、EU離脱が国民投票で決まりましたが、メイ新首相が今後、どういうかじ取りをしていくのか、注視していきたいと思います。
お国の一大事、女性の方が胆力が座っていると思っていますが・・・ -
国民投票によりEU離脱を選択した英国。一つのヨーロッパでなく国家主権を残す政府間協調によって欧州をまとめたかったブレア。欧州懐疑派が多い保守党の党内力学とEUへの不信感が高まる世論に抗えなかったキャメロンの挫折と苦悩。世界に衝撃を与えたイギリスのEU離脱に至った経緯を戦後まで遡り概観した内容。
離脱の影響は経済的に大きい。移民・難民問題は根本的な解決が見出せず、EUが他国や国際機関と結んでいた貿易協定(細かなものを含めると2000以上)も、これからはイギリス一国で独自に結び直さねばならない。EU離脱派の主張のひとつに、ノルウェーのように欧州経済領域(EEA)に加盟すればEU市場に加わりながら移民を制限して、権限をイギリス国民に戻すことができるというものがあった。が、これは間違い。EEAに加盟してもEU法に従わねばならず、人の自由移動はコントロールできない。さらにEEA加盟国はEUに拠出金を払わねばならないが、EUの政策決定に加わることができない。従来、イギリスは欧州連合と交渉によって拠出金優遇やユーロ不参加、シェンゲン協定不参加とわがままを通してきた。EU離脱によってこうした特権もなくなる。わがままな交渉すら難しくなる。
離脱派にとって悪夢だが、離脱のメリットという嘘と勢いと扇動は止まらなかった。
英国にとってこの先は茨の道だ。
離脱を煽ったボリス・ジョンソンなどのポピュリストたちの嘘と欺瞞も露わになり、英国民の政治への不信感も増している。民主主義の危機と呼んでもいい事態が起きている。ここに至った原因を著者はグローバル化に見出している。グローバル化によってイギリス人は雇用や移民といった経済問題や社会不安に直面した。自分たちにとって切実な問題なのに自分たちで決められないことに不満が募っている。それをイギリス国民はEUのせいと考えてしまった。
英国のEU離脱問題は、内向きなイギリスを露わにした。ひょっとしたらイギリスが中国やロシアに依存する状況を強めてしまうかもしれない。それは戦後に米英が築いてきた国際法やルールに基づいた国際秩序が深刻な危機に陥ることを意味する。イギリスのEU離脱問題は現在の国際秩序の綻びかも・・・、というどこまでも暗い指摘。読み終えて気分が暗くなった。