日本人のための憲法原論

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  • 集英社インターナショナル
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797671452

作品紹介・あらすじ

西洋文明が試行錯誤の末に産み出した英知「憲法の原理」を碩学が解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • ようやく小室直樹を読んだ。感動。自分の読書の集大成のような到達点でもあり、今から新たに歩み始める探究の端緒を得たような思いだ。宮台真司が慕い、橋爪大三郎が敬服し、副島隆彦が影響を受けた稀代の天才。分かりやすく一般受けしそうな文体で尚シンプルな論理でバイアスを正し、博覧強記で補強する。知の巨人と言われる佐藤優でさえ及ばないと感じた程。幸せな読書だった。

    日本の憲法は死んでいる。権力を縛るはずの役割が機能していない。これを論旨に展開、民主主義の成立、宗教、戦争、経済へと切り口は多岐に。

    以下は全て本書から得た引用や閃きである。幅の広さと屈強な論理が分かると思う。

    ー 1933年3月23日ドイツの議会で可決された法案、全権委任法により立法権をヒトラーに譲り渡した。これにより、ワイマール憲法が死んだと考えるのが憲法学者の意見。イギリスの憲法は慣習法であり、日本やアメリカの憲法は成文法である。

    ー 1834年1人のドイツ人がアメリカに移住。彼の名はズーター。彼の農園で砂金を発見。あっという間にたくさんの人間が彼の所有地を不法に占拠し、次第に街が作られていく。その街の名は、サンフランシスコ。

    ー 憲法は成文法ではなく慣習法である。生かすも殺すも、結局は国民次第。合衆国憲法のように最初は死んでいたものが、国民が定着させようと努力すれば、生き返る。逆にワイマール憲法のように議会が独裁者に全権を委任してしまえば、憲法は死んでしまう。

    ー 銀行法は銀行に対する命令、民法が国民に対する命令。では、刑法は?刑法を破ることができるのは裁判官だけ。つまり刑法は裁判官を縛るためのもの。国民に対し人を殺すなとかものを盗むなとかは書かれていない。

    ー 裁判官は司法権に属するけれども、検察官は行政権に属する。同じ司法試験を合格しなければならないわけだが、検察官は政府の一員であって、権力の走狗と言うことになる。

    ー 日本には、こうしたデュープロセスのような法の精神が定着していない。その最たる例が刑事訴訟法475条をめぐる問題。475条では、死刑の執行は法務大臣の命令による。この命令は、判決確定の日から6ヶ月以内にこれをしなければならないとされている。法務大臣に対する命令だ。しかし、法務大臣は死刑執行の命令を出さないし、マスコミも刑事訴訟法を破ってしまえと言っている。

    ー 近代西洋文明は持てる限りの知恵を振り絞って、近代国家、国家権力と言う怪物を取り押さえようとした。トマスホッブスの言うリヴァイアサンを。その知恵の1つが、罪刑法定主義であり、デュープロセスの原則だった。

    ー 民主主義と憲法は本質的に無関係

    ー 農奴と奴隷の違い。農奴は土地とセットになっている。奴隷の子供はバラ売りすることができるが、農奴の子供は領主といえども、勝手に売ることができない。

    ー 国王といえども、家臣たちが領主として支配している土地には口が出せない。王が直接支配できるのは自分の直轄地だけ。

    ー 中世社会が解体していくきっかけの1つは農奴の人口減少。決定的だったのは1348年前後から起きたペストの大流行。イングランドではペストによって人口の4分の1から3分の1が減ったと推定されている。農奴が減ったためには領主の立場は、相対的に弱くなり、地代はどんどん軽くなった。さらに都市の商工業者たちが生まれ、貨幣経済が発達し、地代が貨幣に変わっていく。この当時、略奪や暴行を行う事は、日常茶飯事であり、そうした乱暴者たちから逃れるために、領主は自分の兵隊を持っていた。商工業者たちは、年の治安を国王に求めた。ここは常備軍を鍛えた。これに対し、領主のならず者の集まりのような物体は、歯が立たない。ちなみに日本史では、信長以前は、武田信玄や上杉謙信の軍は農民であった。プロの兵隊を養成し、軍事訓練を行ったのが、信長の違い。国王の力は徐々に増していく。

    ー 国王と商工業者たちVS領主(貴族)と聖職者と言う構図が出来上がり、この間における租税の問題を解決するために議会が誕生した。こうした動きの中で、常備軍と租税により、既得権益と慣習法を踏みにじる、国王の力を制限するために成立したのが1215年のマグナカルタ。

    ー 議会や憲法が成立していくが、民主主義は生まれていない。ますます王の権力が絶大になっていき、貴族たちは弱体化していく。こうして成立したのが絶対王権。この絶対王権に対して理論的根拠を与えたのがフランスの思想家ジャン・ボダン。ボダンは主権と言う概念を提唱し、その中で立法権、課税権、徴兵権を国王が有するものとした。

    ー 世界史を書いた天才ジャン・カルバン。ルター誕生の26年後にカルバンはフランスに生まれる。彼の予定説が、絶対王権をひっくり返し、民主主義をもたらすことになる。

    ー 仏教の論理を一言で言うならば、それは因果律にある。因果とは原因と結果。つまり原因があるから結果があると言うこの因果関係の発見こそが、釈迦の悟りの全てだと言っても過言ではない。すべての苦しみには原因があると言うことを発見した。この因果関係の法則を、釈迦はだるまと名付けた。だるまはこの宇宙全体を支配する法則と言っても良い。つまり仏教では法が先にある。法前仏後。これに対して、キリスト教は、神前法後。予定説を裏付けるように、神が選ぶ預言者も選定基準が人間にはわからない。預言者の1人エレミアと言う少年だが、彼に対し、彼が体内に宿る前から預言者とすることを決めていたと言うことを神が告げている。

    ー 人間は一見、自由意志を持っているように見える。けれども、そんなものはまやかし。人間と言うのは所詮神の奴隷である。このことを明確に述べているのが、パウロのローマ人への手紙。同じ粘土から花瓶を作ることもあれば便器を作ることもある。どうして自分が便器になったのかと陶器職人に聞くようなものだ。

    ー 働かざるもの食うべからずという言葉はレーニンの発明ではなく、もともとキリスト教の修道院の戒律。キリスト教には労働こそが救済の手段であると言う思想がある。仏教では欲望を絶って何もしないことを意味するが、キリスト教では行動的禁欲と言って、働くことが禁欲であると考える。

    ー 予定説の教えは、人間の内面に関わる問題を取り扱っているのだが、外面に現れている行動そのものも変わる。このことをウェーバーはエートスの変換と言っている。エートスとは、日本語では行動様式と言う訳になるが、外面だけではなく、内面的な思想、動機、信念と言うことも含む。無理矢理働かされるのではなく、仕事をしたくてたまらないと思うようになって、初めてエートスが変わったことになる

    ー 予定説の後、大きな影響与えたのがジョンロックの社会契約説。18世紀最大の事件は、アメリカ合衆国の独立とフランス革命だが、ロックはその二つの出来事に思想的な影響与えた。現在のような社会制度が出来上がる前、人間は自由で平等であった。そうした自由で平等な人間のことを自然人とロックは呼ぶ。国家も社会もない世界のことを自然状態とした。

    ー この考え方は、トマスホッブスの方が先である。ホッブスの考える自然状態とは、人間同士が食べ物を奪い合う、戦いの連続。だから社会契約が必要だが、契約だけでは足りず、パワーが必要。そのために国家権力が出てきて、効果がリバイアサンになる。国家の権力が弱くなれば、社会はバラバラになり、再び自然状態に戻り内乱が起きる。ホッブスはまた内覧とはビヒーモスであるとも言っている。文明崩壊のビヒーモスを止めることができるのはリヴァイアサンしかいないと考えていた。

    ー ホッブスの考える社会契約説は、人間を暴力的な狼であるとする前提だが、ジョンロックは違う。ロックの社会契約説は、人間は知恵を持っているので、働くことにより収穫を増やし、食料を奪い合うところまでいかないと考えた。働くことが社会全体への貢献なのだとして、近代資本主義やロックによりようやく理論的根拠を得た。ロックはさらに私有財産の正当性をも基礎づけた。

    ー ロックの社会契約説には、国家権力に対する民衆による抵抗権、革命権が想定されていた。しかし現代日本は、権力が革命を想定していない。政治家が公約を守らないことも許されている。

    ー 旧約聖書とは神様との契約を破ったらどんなひどい目に合うかという、その実例が書いてある本。神様との契約を守りなさいと言う書物である。

    ー モーゼに率いられた一行は、約束の地カナンで古代イスラエル王国を築く。ダビデ王とその子供ソロモン王の時代に黄金期を迎える。ソロモンには、妻が700人、妾が300人もいた。しかも海外から呼び寄せた異教徒だった。ソロモンは、知恵においては並ぶものなき天才で、彼の時代にイスラエルは偶然の繁栄をする。彼はイスラエルに神ヤハウェを祀る大神殿を作った。ここまでよかったのだが、ソロモンはハーレムにいた異教徒の女性たちに影響受け、別の神様を拝むようになった。契約は破棄。イスラエル王国はたちまち南北に分裂して衰え、周辺諸国がイスラエルに押し寄せてきて、南北の王国は相次いで滅亡。イスラエルの人たちはとうとうバビロニアに連行され奴隷になった。これがバビロン捕囚である。ついにイスラエルの人々は、約束の地カナンを失い、20世紀に至るまで自分の国を持つことができなかった。イスラエル人がユダヤ人になったのは、このバビロン捕囚からである。

    ー 天使ガブリエルが使徒マホメットに与えたとされる神の言葉がコーラン。神がアラビア語でマホメットにコーランを与えた以上、それを別の言葉に訳す事は認められていない。したがって、イスラム教徒になるためにはアラビア語を学ぶ必要がある。イスラムでは、コーランのほかに聖書に収められているモーゼ5書、詩篇、福音書の3書も聖典に含める

    ー フランスはナントの勅令によってプロテスタントの信徒がフランス国内で活躍することができるようになり、経済が活性化した。フランスのプロテスタントたちはユグノーと呼ばれるのだが、彼らが信じたキリスト教はカルバン派。しかしルイ14世はナントの勅令を廃止した。国王と同じ宗教を持つのが当然だと考え、カトリックを強制。ユグノーたちは国外に亡命。多くが逃げ出した先はプロイセン。これによりプロイセンがフランスと肩を並べる大国になる。

    ー 恐怖政治を行ったロベスピエールは、まずルイ16世をギロチン台に送り独裁者になった。ロベスピエールは自分が行おうとしている政治を民主主義だと考えていた。身分制をフランスから完全に追放しようという思想である。今でいう共産主義に近いのだが、金持ちから財産を奪って貧乏人に配ると言うのが民主主義だと考えている人は多かった。民主主義はイメージが悪かった。

    ー プラトンやアリストテレスも、デモクラシーは衆愚政治の別名に過ぎないと考えていた。プラトンは、民主政治とは貧乏人の政治であると決めつけた。プラトンが生まれる直前に始まったペロポネソス戦争が影響している。この戦争でアテネは、同じギリシャのスパルタと全面的に対決。スパルタは王や貴族が政治の実権を握り、市民たちに軍事訓練を行っていた。アテネは戦争中でも市民たちが会議で意思決定を行っていたので、軍人が率いるスパルタに先を起こされた。これにより民主制のアテネは王制のスパルタに劣っているではないかとプラトンは考えたのだ。また、ソクラテスが市民たちによって裁判にかけられ、死刑宣告を受けたこともプラトンに影響を与えている。

    ー その衆愚政治やポピュリズムによって生まれたのがカエサル。カエサルはローマの共和国を殺し、独裁権力を握った。同様に、民主主義を求めたはずのフランス革命が独裁者を生み出した。そう、ナポレオンこそ第二のカエサル。

    ー 皇帝になったナポレオンはフランス革命を全ヨーロッパに輸出しようと考えた。ナポレオン戦争と呼ばれる戦いを行って、周辺諸国の身分制を倒そうとした。しかしその後、エルバ島に流される。やがて現れたのがナポレオン3世。フランスの大衆の支持を集めたのは、彼がナポレオンの甥だったから。1848年パリで2月革命が起きて王政がが再び倒れ、第二共和制ができると、選挙において74%と言う圧倒的な支持を受けて大統領に選ばれる。軍人としての才能は、ない。歴史を繰り返す。しかし、2度目は茶番として。マルクスの発言。

    ー ヒトラーやムッソリーニもナポレオン同様に民主主義が選び出した。独裁者の出現は、憲法では防げない。そこで考えられたのが大統領選のシステム。選挙期間を長く取ることによって、一時的な熱狂で担ぎ上げることを防ぎ、候補者の人間性を暴く。

    ー 宗教戦争の反省をもとに、もっと戦争をリアリズムで考えようと言う思想が出てきた。クラウゼヴィッツの戦争論では、戦争は他の手段による政治の継続であると定義した。それまでの中世の戦争とは、正義の戦争であり、損得感情がない。これに対して近代の戦争は合理的精神に基づいて行われる1種の経済活動になった。

    ー 日本国憲法第9条のお手本になったケロッグブリアン条約

    ー イギリスやフランスの平和主義がドイツの再軍備を黙認した。ヒトラーは、ドイツ工業の心臓部であるラインラントに進駐しドイツ兵を1人も傷つけることなく奪回。その後マーチオブコンクエストが始まり、ザール進駐、オーストリア併合を成功させる。

    ー 古典派経済学におけるセイの法則が成立しないことを看破したケインズは、有効需要の原理を解く。有効需要を大きくするためには、消費と投資を増やすこと。消費の拡大は簡単には望めないから投資を拡大しようとする。そのために金利を下げるのだが、不景気で将来がわからない中で設備投資をしようとは思わない。従い、利子を下げても効果は期待できない。限界がある。そこでケインズが考えたのが公共投資。民間企業の投資なら借金の利息を上回る利潤が入ってくるなら問題がない。しかしケインズは公共事業なら何でも良いと言ったのだ。穴を掘らせて埋めさせろ、それでも意味があると。

    ー ケインズの理論のポイントは公共投資にある。1兆円の投資をすれば、そこで働く人に臨時収入として8000億円が入ると仮定する。今度はその8000億円から6400億円の消費、新規需要が生まれると仮定する。こうして無限逃避級数的な和を求めるならば、1兆円の投資で5兆円の効果を得られることになる。ケインズは、こうした波及効果、乗数理論を用いたのだ。

    ー ヒトラーは、ケインズが有効需要の理論を発表する前から、公共投資こそが不況からの脱出策であることを見抜いていた。フリードマンは公共投資資金を調達すれば、それだけ市中に出回る通貨の量が減るから、民間投資が減ると言う理論でケインズに反論。ルーカスは情報化が進む中で、政府が経済政策を進めることが世間が先回りして知ってしまうので、意味がないと言う理論で反論。

    ー ケインズは、低金利政策も利子率を下げすぎると意味がないと言う流動性の罠。有効需要拡大政策を長く続けると有効性が失われると言う点に注意している。つまり、公共投資に依存する体質が長期化すれば、それは社会主義国になると言うことである。

    ー アノミーとは社会の病気。日本は天皇が人間宣言をした時から、アノミーにかかっていると言うのは三島由紀夫。デュルケムは、社会が急激に変動した時にアノミーが生じ、個人の行動に影響を与えると主張。

  • おすすめです。

    憲法に関して、世間では護憲・改憲などいろいろ言われています。しかし、本書はそのどちらの意見にも基づいていません。
    護憲・改憲論争以前の、議論の前提となる知識の提供を主題としているのが本書の特徴です。

    そのため、本書の内容はかなり普遍的で、一度読めば生涯役に立つことうけあいです。


    紙幅の大部分が、民主主義と資本主義の歴史を解説することに割かれています。
    冒頭でこそ近代憲法の基本原則について触れていますが、中盤はほとんどが歴史の話です。
    著者によると、憲法を理解するにはまずこれが不可欠らしいです。

    しかしこの民主主義・資本主義と近代憲法の成り立ちの話がとにかく面白い!
    目からウロコの連続です。
    いくつか目からウロコポイントを挙げてみます。

    ●刑法は犯罪者を裁く法ではなく、裁判官を縛る法である。

    ●明治憲法は、欽定憲法であるにもかかわらず、天皇の権力を縛っていた。つまり近代憲法としてしっかり機能していた。

    ●西洋では「神のもとの平等」が民主資本主義を生み出し、明治日本では「天皇の前の平等」が民主資本主義を定着させた。

    ●改憲/護憲以前に、現在の日本国憲法はそもそも機能していない。

    どれも本書以外ではなかなかお目にかからない言説でしょう。
    しかし奇抜ながらもしっかりと根拠となる史料・先行研究が提示されており、吟味に値するものです。

    これらのトピックが、著者と編集者との対話という形で書かれています。とても読みやすいです。
    しかもドラマチックで引き込まれるような構成になっています。
    さっさと結論をいうのではなく、予想外だ!と思わせるような展開が続き、それでいて回りくどくありません。
    憲法学という少しとっつきにくい話題にもかかわらず、すらすらと読むことができます。

    勉強になる上にとても面白く読みやすい、文句なしの良書です。おすすめ。

  • 民法に違反できるのは国民だけ。刑法に違反できるのは裁判官だけ。殺人に懲役2年は刑法違反。刑事訴訟法に違反できるのは検察だけ。法に反する捜査はないか、手続きミスはないか、真実の証明が不完全ではないか、審査される。憲法に違反できるのは国家(司法・行政・立法)だけ。言論の自由を侵すことができるのは国家だけ。国家権力を縛り付け、抑え込む。それが憲法。 

    憲法は成文法ではなく、本質的には慣習法。廃止せずとも事実上、死ぬこともある。ワイマール憲法下でヒトラーの台頭。大事なのは文面でなく慣習。英の慣習・判例。米憲法は高邁な理想を掲げて出発したが、当初、実質はなく空っぽ。100年を通じて生命が吹き込まれた。

    マグナカルタ:貴族や裕福な商工業者(自由民)の特権を王に守らせた。人口の9割は蚊帳の外。もともと民主主義とは関係ないが、徐々に自由民の範囲が拡大した。本来、議会と民主主義は関係なし。※全員一致では決まらないので多数決を導入。多数決と民主主義も本来関係ない。福田歓一かんいち

    契約まもれ精神。
    ・保守党首相「穀物法廃止しようかな。」ディズレーリ「だめ。穀物法を守ると公約して選挙に勝ったんだから守るべき」
    ・旧約聖書、神との契約を守らないと、こんなひどい目にあうぞ。

    20世紀に入るまで、民主主義とは「金持ちを殺して、その財産を貧乏人にばらまく」と理解されていた。ロベスピエール「民主主義の敵を抹殺せよ」。民主主義=過激・革命というイメージがあった。プラトン、アリストテレス。

    平和憲法の例はたくさん。
    1791年フランス憲法。征服戦争の放棄、他国民に対する武力行使の禁止。
    1891年ブラジル憲法。
    1911年ポルトガル憲法。
    1917年ウルグアイ憲法。

    「国際紛争解決の手段としての戦争」を放棄すると憲法に書いている国。
    日本、アゼルバイジャン、エクアドル、ハンガリー、イタリア、ウズベキ、カザフ、フィリピン。似ているのはケロッグ・ブリアン条約を下敷きにしているから。

    ケロッグ・ブリアン条約1928(第1次の反省から)
    第1条 締約国は、国際紛争解決のために戦争に訴えることを非難し、かつ、その相互の関係において国家政策の手段として戦争を放棄することを、その各々の人民の名において厳粛に宣言する。
    ※ケロッグ「自衛戦争は対象外」

    戦争屋チャーチル「平和主義者が第2次大戦を起こした」
    ドイツはヴェルサイユ条約を破って再軍備をした。英仏は平和を望む大衆を説得し、ドイツに制裁を加えることができなかった。国際聯盟の管理下だったラインラントにドイツ軍が進駐しても、フランスは動かなかった。
    戦争屋チャーチル「ラインラント進駐の段階でフランスがドイツ軍を叩いていれば、第2次大戦は起きなかった」
    ヒトラー「チェコスロヴァキアもらうけど、いいよな」
    英チェンバレン「戦争だけは嫌だ。戦争を防げるなら・・」ミュンヘン会談
    英の大衆「我が首相がヨーロッパの平和を守った! 英が戦争を防いだ!」
    その後、オーストリア侵攻。英仏はドイツ軍に圧倒された。米の参戦で辛勝。

    キューバ危機のケネディ。平和を守るには、戦争も辞さずという覚悟を見せるしかない。

    武装なき平和はかえって戦争を生み出す。世界一の平和大国になりたければ、世界一の戦争通になる必要がある。

    王はプロテスタントの内面・信仰まで立ち入るな。国家権力は人間の内面には絶対に立ち入ってはならない。最重要の権利。これが侵害されれば、民主主義はおしまい。独裁国家は批判を許さない、内心の自由を侵害する。

    日本。
    二宮尊徳。労働は金儲けではない。勤勉さ。
    天皇。明治政府「天皇は現人神で絶対」。天皇の前の平等。古来の神道では天皇は祭りを行う祭主であり現人神ではない。

    伊藤博文「西欧の憲法はキリスト教が機軸となっている。日本ではその機軸は皇室である」君主である天皇に憲法を守ってもらうため、天皇は先祖に誓って憲法を守る、ということにした。天皇と人民との契約ではなく、明治天皇と神々との契約になってしまった。
    →憲法は国家を縛るものである、という意識が定着しなかった。昭和になり、天皇の権威を利用して軍部が専横を始めてしまった。

    明治憲法下において天皇に拒否権はなかった。明治天皇は日清戦争に際し、もう少し外交交渉を行ってはどうかと、開戦に反対された。が、政府は無視。日本陸軍が清軍を攻撃しようとしていることを知った明治天皇は激怒して、中止するよう命じるも、陸奥外相は無視。

    大日本帝国憲法55条。国務各大臣は、天皇を輔弼し(君主の行政を助け)、その責任を負う。全ての法律および勅令その他の国務に関わる詔勅は、国務大臣の副署を要する。→天皇に最終決定権はない。

    憲法上、戦前も戦後も、政治責任はすべて内閣にあり、天皇はただ裁可なさるしかなかった。よって天皇の戦争責任などあるわけがない。

    ただし、2・26事件と終戦直前、政府が実質的に機能停止になったときに昭和天皇みずから政治決断をされた。これらは非常事態時の例外。

    ピューリタン革命は、チャ1が国王に反抗する議会に軍隊を投入したことから始まった。

    尾崎咢堂(立憲政友会)による桂太郎内閣弾劾演説1913、言論の力で内閣を倒す。大正デモクラシーの始まり。

    明治憲法52条「両議院の議員は、議院において発言した意見及び表決につき、院外において責任を問われることはない。」

    浜田国松(議員)「2・26事件。独裁強化の道を歩んでいるのではないか。私は軍部を侮辱しているのではない。私の発言に軍を侮辱する言葉あったなら謝罪して割腹する。なかったら、君が割腹せよ」1936

    斎藤隆夫(議員)「支那事変。戦死者は10万、戦線は拡大する一方で、終わる見込みがない。日本はこの戦争で何を得るのか。これまで浪費した損害をどう埋めるつもりか。」→軍部のみならず、議会の同僚から「聖戦を侮辱するな」と非難され、除名されてしまう。言論の自由を体現する議会が自ら死を選んだ。1940

    欠陥のない憲法はない。常に法・制度の抜け穴を悪用し、独裁・権力の暴走のおそれはある。それが致命的になるか否かは議会如何。ワイマール憲法を殺したのはヒトラーではなく、全権委任法を作った議会。議会が独裁者に手を貸した。議会が死ねば憲法は死ぬ。

    明治憲法で、天皇は事実上政治から排除されていたのに、天皇に陸海軍の統帥権が付与された結果、統帥権が天皇を後ろ盾として神格化されてしまった。

    議会の源泉は民意。マスコミは軍よりも戦争に熱狂していた。南京陥落の事実がないのに、「南京陥落」の号外を出す始末。軍と大衆を戦争に煽りたてた。いかに議会が軍に対抗しようとしても、大衆が軍を支持していたのでは成す術がない。

    1940年に日本のデモクラシーを殺したのは一般の大衆。軍部でもないし、大日本帝国憲法でもない。

    戦後。霞が関の官僚が議員の代わりに法律を作り、首相や大臣の代わりに政策決定をする官僚独裁。

    中国は官僚制の歴史が世界で最も長い。官僚制が腐敗しない仕組みをもっていた。2000年前は貴族が官僚の対立軸だった。唐が滅びて五代の時代になると中国の貴族は勢力を失い、宋の時代になると消滅。すると今度は、宦官が官僚の対立軸となった。さらに御史台という官僚の汚職を捜査する機関をつくった。

    国家権力はリヴァイアサンだが、官僚はそのリヴァイアサンさえも食い殺す寄生虫。

    官僚は優秀なマシーンに過ぎない。偏差値ロボット。今までに経験したことのない事態においては、何の役にも立たない。「最高の官僚は最悪の政治家である」(ヴェーバー)。

  • 快刀乱麻を断つとは正しくこのこと。
    切れ味鋭い論理の刃で、日本人の蒙昧の幕を切って落とし、日本人がいかにデモクラシー、憲法、国連というものを理解せず、誤解しているかを、白日の下に明らかにして見せる。
    歴史を文明史観として捉えるセンス無くば国家は滅びるのだ。
    目からウロコの凄い本。
    小室社会学の集大成との言える。
     1.憲法論 2.資本主義論 3.天皇教論 
     4デモクラシー論 を、縦横無尽に論じ、日本人の知るべき基本原理を取り出してみせる。

    憲法は国民を縛るものではない。
    憲法が規制するのは為政者なのだ。
    憲法の成り立ちから解き明かし、誰もが誤解している憲法の本質を明快に語る。
    憲法改正の是非を問う前に、まず憲法とは何なのかを本書で学ばなくてはならない。

    本書は物事を判断する基準を与えてくれる。
    憲法、民主主義の奇跡的な意義を理解することで、それを殺さず守ることの重要性を分からせてくれる。
    憲法、民主主義を殺すことは容易い。
    殺さないようにするには、それらの本質を理解しておくことが必須だ。
    北一輝がいかに優れた天才思想家であっても、この一点において、否定されなければならない。

    中世のヨーロッパ史で、最重要人物が、カルヴァンであると言う指摘には驚かされる。
    資本主義も、民主主義も、民主主義を支える憲法も、カルヴァンの考え付いた予定説が生み出したのだから、カルヴァン恐るべしだ。
    キリスト教の原点回帰運動無くして、現代社会は生まれなかったのだ。

  • 憲法とは行政権力を縛る鎖であるということを、なぜその鎖が必要なのかということを、ヨーロッパ中世を振り返り、議会の誕生や革命の歴史を見ていくことで紐解いていく。さらには、今では当たり前になっている民主主義の誕生をキリスト教の予定説やロックの社会契約説から、契約や平等の概念の発生とともに資本主義精神の誕生までをそこに眺めていく。

    次にアテネやスパルタまで遡り、そしてローマのカエサル、ナポレオンを辿って民主主義が弱いもので簡単にボナパルティズムに陥るかを解説しながら、古典派経済学やケインズに触れることで近代における権力の役割を明らかに。

    最後に日本。明治維新での近代化において資本主義精神をいかに広めたか、帝国憲法起草のために必要となった天皇教にも話をふりながら、官僚とは?権威とは?をも考えていくことで現代の日本社会までに到達する。恐ろしいまでの博覧強記。

  • 痛快すぎて爽快。
    感心を通り越して感動。
    ここまで面白く憲法、経済、歴史、宗教、などを統一して分かりやすく本にできるのは小室直樹氏以外いないと思う。
    まさにカルヴァンの予定説のように人を変える力を持っている本。
    是非読むことをお勧めします。

  • 深い見識から、本質をズバッと突くところがすごい。
    憲法が生まれた背景、思想、宗教や経済との関係性など、勉強になるところが多い。
    憲法は、国家を縛るための法律である。国家権力は悪であるという概念だ。
    憲法は、宗教と関わりがある。それは「契約」という概念だ。神との契約、ルソーの社会契約説がバックボーンになっている。
    しかし、日本にはこの宗教的なバックボーンがなかった。そこで、天皇を神として生まれたのが、明治の大日本帝国憲法だった。
    民主主義、資本主義、憲法。形はあるが、精神が抜けている。
    いま必要なのは、新しい時代にマッチした深い哲学だ。
    主義を超え、形を超え、真の人間主義を取り戻す思想が求めれらている。

  • 非常に読みやすい。憲法についての堅苦しい話ではなく、今日の世界、日本がどのよう成り立ったかをマクロに掴みとるには非常におすすめの一冊

  • 日本人でありながら、日本国憲法の本質を知らずに今まできたのだが、私の周囲にも誤解のまま人々のなんと多いことか。民主主義、資本主義、憲法の成り立ちを世界の歴史と宗教を背景に、わかり易く
    天才小室直樹氏が解説する。

  • この本は、憲法の文言を解釈することを目的とするものではなく、憲法がどのような背景(精神文化、宗教、英雄の出現などの歴史的変遷からの影響)から発生し、どのように変遷してきたか、そして何のために憲法が作られ、今まで存在するのかなどを、著者独特の視点から解説。一般日本人に足りていない史観を得るのに非常に重要な本であると思う。ただし、最後のまとめが、「だから、みんなで考えよう」的であるのは残念。

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著者プロフィール

1932年、東京生まれ。京都大学理学部数学科卒。大阪大学大学院経済学研究科中退、東京大学大学院法学政治学研究科修了。マサチューセッツ工科大学、ミシガン大学、ハーバード大学に留学。1972年、東京大学から法学博士号を授与される。2010年没。著書は『ソビエト帝国の崩壊』『韓国の悲劇』『日本人のための経済原論』『日本人のための宗教原論』『戦争と国際法を知らない日本人へ』他多数。渡部昇一氏との共著に『自ら国を潰すのか』『封印の昭和史』がある。

「2023年 『「天皇」の原理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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