人種差別から読み解く大東亜戦争

著者 :
  • 彩図社
4.12
  • (7)
  • (6)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 85
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784801300873

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • (P144)「カリフォルニアを白く保とう!」という露骨な人種差別的スローガンを掲げた民主党がカリフォルニア上院で勝利を収め、さらにルーズヴェルトの方針に協力的で、排日運動に関して消極的だった共和党のジレット知事が知事選で敗れます。

     と、民主党が昔からどういう党であり、共和党がどうそれに対して動いたかが、日本人差別を例によくわかるように書かれてある。

     また、キリスト教徒からの侵略を防ごうとする秀吉について取り扱った章の参考文献は以下の通り。
    ・藤田みどり「奴隷貿易が与えた極東への衝撃」、小堀桂一郎編著『東西の思想闘争』
    ・岡本良知「十六世紀に於ける日本人奴隷問題」
    ・岡本良知「桃山時代のキリスト教文化」
    ・高瀬弘一郎「キリシタン宣教師の軍事計画」

     岩田氏の語り口は実に丁寧で、かつ、バランスが良い。第二次世界大戦は、いったいなぜ戦ったのか。その背後には、白人による世界中への侵略があった。しかし、日本においてそういう西洋からの植民地支配の研究について調べようとしても、おそらく論考としては数が少なく、日本は、世界各国がどう侵略されていったか、もっと研究を積み重ねるべきだと述べている。(西尾幹二は、アメリカがなぜ日本と戦争するのか誰もまともに答えられないし、納得のいく答えが見つかっていないと述べていたのを思い出す。西尾はそれを「歴史の闇」と述べていたが、岩田氏は「人種差別」とはっきり述べている)なので、岩田氏はヘイトにも近いような右派の韓国・中国バッシングには距離を置く姿勢だし、岩田氏は誰もが常識的に納得できる「落としどころ」を抑えているので、読んでいて主張が明確にわかる。

     大東亜戦争の原因を説明するものとして、大きく分けて四つの説がある。
    ①侵略戦争説
    ②ルーズヴェルト陰謀説
    ③コミンテルン陰謀説
    ④暴発説

     ①の侵略戦争説だと、日本がアジア諸国を力づくで侵略したという説明の仕方だが、この説明の難点は、どうしてアメリカと戦争状態に陥ったのかが説明できない。
     様々な原因が複雑に絡まって勃発した大東亜戦争を「侵略戦争」の一言で済ませてしまうのは、あまりにも粗雑な議論と言わざるを得ない。一般的には、「日本政府は中国からの撤兵を求めた国際社会の要求を拒否、中国への侵略戦争を続けるためにアメリカなどと戦争を始めたのです」と言われているが、しかし、自分達の国力を遥かに超えるアメリカに対して、中国の戦争を継続したいからという愚かな理由だけで攻撃を仕掛けたというのでは、納得できない。
    ②ルーズヴェルト陰謀についても、日本にアメリカを攻撃させることで、日米戦争を開始させ、その同盟国であるドイツを攻撃しようと考えたというものだが、三国同盟では、日本がアメリカに宣戦布告をしても、ドイツが同時にアメリカに宣戦布告するようなものになっていなかったし、全部をルーズヴェルトの陰謀にするのは極端すぎる。③共産主義者陰謀説もそうで、彼らが日本の対ソ戦を回避しようと躍起になっていたのは事実だし、影響はあるけれども、彼らの謀略がすべて成功し日米が開戦に到ったというのも、短絡的すぎる。
    ④暴発説は、昭和初期の軍人、とりわけ軍人の驕りが戦争の原因であり、彼らにはリアリティが欠如していて、無謀な戦争を起こしてしまったというものだ。しかし、いかに昭和の軍人が愚かな存在であったにせよ、彼らは何の理由もなく戦争を始めたのだろうか。大義名分の一切立たない愚かで無謀な戦争を始めたのだろうか。確かに愚かではあったが、あまりに一方的すぎる認識ではないか。軍人たちが暴発し、すべてをコントロールして、戦争まで持って行く。しかも大義も何もなく。そのように片付けられない何かがあるのではないか。

     本著は、「世界の歴史にはずっと人種差別の歴史があり、とくに白人による侵略の事実に、きちんと日本人は目を向けるべきだ」「大東亜戦争は、戦争指導者によって何の大義もなく勝手になされたことではなく、日本人を含む有色人種への根深く長い差別の歴史への対抗精神があり、国民の多くは人種差別がなくなることを願っていて、差別する白人国家に怒っていたこと」「ドイツのジェノサイドと日本の戦争の違い。【日本軍が行ったとされる戦争犯罪。これらの全てが事実であるのか、私には検証できません。しかし、確実にいえるのは、日本がジェノサイドを企てたことはないということです。日本軍によって殺された人々がいたという事実は動かせないとしても、日本は国家の政策として一民族を絶滅させようなどとはしていません。日本はアメリカと同様に戦争犯罪を犯しましたが、ジェノサイドとは無縁の国家でした。従って、ナチス・ドイツと日本が同様の犯罪を犯したという認識は、全くの事実誤認だといわなければなりません。】【我々日本が反省すべきは、ナチス・ドイツのような野蛮な国家と同盟を結んだことです。】」の三つが大きく柱としてある。

     世界の歴史において、白人がアジアにめちゃくちゃ侵略してきていていること。簡単にいえば、今もそうかもしれないが、日本人も、そして中国人どころかアジア人は、つい数十年前までは人間とは思われてなかったこと。それは豊臣時代からのことであり、ずっとその西洋の衝撃と日本は向き合い、戦ってきていたこと。それを忘れないことの大事さが述べられている。命をかけて戦った大戦を恥じたり、後ろめたく感じたり、自分には関係がないと忘れたようにしたり、昔から日本人はバカなんだねと簡単に肩をすくめたり、自尊史観だと馬鹿にされたりする必要はないということが、非常にバランスよく穏やかに書かれている。(中韓、アジア諸国を傷つけたこと、また、人種差別に対抗しながらも中韓諸国に対して差別があった矛盾も、本著ではきちんと踏まえた上で論じられているので、圧倒的に右派の論文とはおもむきが異なる)岩波からこの本を出してもなんら問題はないと思う。というか、問題ないくらいでやっと普通だ。

  • 人種差別が大東亜戦争の導火線となったことを知らない日本人が大半であろう。私もそうだった。「どうしてこれほど大切な歴史を学校で教えないのか?」という率直な疑問が強い怒りと共に湧いてきた。
    https://sessendo.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

  • 併合を植民地支配とあっさり言ってるところとか若干気になるが。

    西洋文明の傲慢さ。
    そこに、西洋文明の土俵に上がって文句つけたかつての日本。

    戦争の原因はそれだけではないが、その日本を心底西洋文明が怖がったことは事実であったろう。

    まー。
    本の趣旨が、先の大戦について我が国、我々のじいさんばーさんがやったことに、いつまでも頭下げてうなだれてる必要はないんだ、決して正しかったとは言わないが、卑屈になる必要はないっていうのが本の主張か。

    ナチスとは違うんだと、補記まであるしね。

  • 豊臣秀吉の時代、ポルトガル人たちは日本人を奴隷として売買していた。遠藤周作の「沈黙」の読み方も違ってくる。

  • 極めてまともな主張だと思う。

    大東亜戦争は、白人の人種差別が、原因の一つだ!
    アメリカにおける排日法、国際連盟への人種差別禁止条項挿入の拒否のふたつを挙げている。
    これらに国民が憤慨し、軍部の暴走を後押しした!
    また、軍部を天皇の直下に置いた統帥権も、軍部の暴走を招く要因となった。

    日本はナチスのようにジェノサイドは企てていない!ナチスと同列に扱うのは不当!

  • 日本人に対する人種差別がいかにひどいものであったかについては本書で非常に深く理解することができる。また、太平洋戦争(私はあえて大東亜戦争という表現はしない)の起きた理由であるという筆者の主張も、否定はできないと思う。ただ、単独の理由ではないと思う。
    戦争に大義はあったという筆者の主張も理解するが、大義があるからといって、戦争が肯定されるものではないだろう。

  • 大東亜戦争と呼ぶ人はあの戦争を肯定的に捉えており。太平洋戦争と呼ぶ人は、否定的に捉える人であるというイメージがある。

    ナチスがユダヤ人のジェノサイドを国策の中心に据えて国家運営を行ってきたのに対して、日本は人種平等の理念を掲げてきた。

    ナチスのユダヤ人虐殺は戦争犯罪ではない。戦争に関係ないユダヤ人を全て殺戮しつくそうとした。
    絶滅こそがナチスの目的だった。
    日本軍が行ったのは戦争犯罪。

  • 本書は「日本無謬論」を主張するものではない。そうではなく、戦後このかた日本に蔓延る、「日本以外無謬論」とも言うべきものの虚妄に、具体的な証拠を挙げて反論するものである。
    著者が言いたいのはけっして、「あいつらだってやったんだ!」のたぐいではない。そうではないが、けして潔白と言えないどころかむしろ肚の中は真っ黒な相手に対して、「私ども『だけ』がひどいことをいたしました、あなたがたは正義の使徒です、いかようにも裁いてください」と白旗挙げて無防備にゴロンと仰向けになり、やわらかな腹を晒してしまうことの危険を説いているのだ。
    日本人が過去において、外国人を「劣等人種」とみなし、野蛮な行ないに出たのは事実だ。だが、現下においてそれを糾弾する国々はといえば、外国人を劣等「人」種どころか家畜、いやそれ以下だとさえ言い放った連中だったりするのだ。

    そして、その根っこは今なお変わっていないと、個人的には考えている。なぜなら偏見とは、理性に根ざしたものではないからだ。
    「あいつらは劣等人種だから差別搾取していいんだ」と教えられてきた子供を、逆ベクトルの教育によって「更生」させることは可能だろう(その子は無理でも、世代が変われば)。だが、かれらが我々有色人種に覚える「生理的な気持ち悪さ」、「人ではない、サルだ」という感情は、非理性的で愚劣であるがゆえに、けして克服されることはないだろう。それは白人種ではなく、罪深く業深い「人間なるもの」の欠陥だからだ。
    私たちはそれを忘れることはできないし、忘れてはならない。まして「あなた様だけが正義の『人』です」などとおもねってみせることなどは、愚の骨頂と言わねばならないだろう。

    2015/9/4読了

  • 先の戦争に突入した理由を解説した本は何冊も出ていると思いますが、この本の観点(人種差別)から書かれた本には私は初めて出会いました。確かに日本は負けたので、今では、経済的に勝てるわけない戦争になぜ突入したとか、軍部が独走して制御できなかった、とか聞きます。

    しかし、この本で書かれていたように、そもそも、日本国民が応援していたから、あのような大それたことを軍部もできたのではないでしょうか。

    私がその様に思っていたのは、小学校の時の担任の先生が、あの開戦の日のニュースを聞いて、本当に嬉しかった、ということを言っていたからです。

    その先生の気持ちが、この本を読むことで少しわかったような気がしました。この本に書かれているポイントは私にとっては新鮮で心に残るものでした。

    以下は気になったポイントです。

    ・騙した指導者と、騙された国民、このような単純な二項対立は成立しない。明らかに当時の日本国民は戦争を支持し、マスメディアも開戦を熱烈に支持していた。この歴史的事実が忘れ去られようとしている(p5)

    ・大東亜戦争とは、昭和16年に内閣閣議決定で決められたもの。しかし問題点として、シナ事変(日中戦争)も含めて呼ばれている(p21)

    ・アメリカが「太平洋戦争」に置き換えるように指示したのは、大東亜戦争が、大東亜会議と関係あるように思われ、日本が掲げた「人種平等」の理念を思い起こさせるから(p21)

    ・日独伊三国同盟では、日本がアメリカに宣戦布告しても、ドイツは同時にアメリカに宣戦布告しない事態もあり得た。(p26)

    ・昭和天皇は、大東亜戦争の遠因が、ベルサイユ条約の中に存在していると指摘している。また、人種平等案について、カリフォルニア州の排日移民法の存在も言及している(p33、37)

    ・明治維新とは不思議な革命、特権階級に属する武士たちが、自分達の特権を捨てるために敢行した奇妙な革命であった(p35)

    ・古代ギリシアの民主主義では、成人男子の市民の間におけるもの、すべての人間が平等に扱われていない(p43)

    ・欧州の文明が優れていたというより、その発明した武器が他の文明を圧倒していた(p51)

    ・大東亜戦争が勃発したとき、多くの国々が「人種平等」の理念は一笑に付した(p58)

    ・欧州では、飲茶の風習が広がり、大量の砂糖が必要となった。この栽培のために、プランテーションで労働力を確保するために、アフリカ黒人奴隷が注目された(p62)

    ・欧州人は、直接アフリカ人を捉えるのではなく、現地の有力者と結び、自分達は手を汚さない。当初は重罪人であった、重罪人は奴隷にされて罪を償うという文化がアフリカで存在していた(p62)

    ・アメリカで奴隷制度が廃止されたのは、南北戦争以降、1865年以降。リンカーンは、奴隷解放の父、と呼ばれるが、彼自身は露骨な人種差別主義者であった。(p64、65)

    ・秀吉は、ポルトガル人が日本人を奴隷をして売買していることに憤りを感じた政治家であった(p93)

    ・1571年3月12日付で、ポルトガル王(ドン・セバスチャン)は、日本人奴隷の売買を禁じる勅令を発している(p96)

    ・フィリピンのイエズス会に対して、コエリョ(準管区長)は、日本を侵略するのではなく、日本国内に存在したキリシタン大名を応援するための軍隊派遣を要請した(p105)

    ・オランダは、オーストラリアを不毛の地としたが、イギリスは流刑囚をアメリカ大陸へ送っていたが、1776年の独立により送り先を失ったので、オーストラリアに目を付けた(p165)

    ・アメリカ大統領ウィルソンが提唱した「民族自決」の概念により、ポーランド、フィンランド、バルト3国は独立したが、これはアジアに適用されなかった(p193)

    ・我々の父祖は、何の理由もなく戦争を始めたわけではない、日本が大義としてあげた、人種差別撤廃、植民地支配の打倒は、度重なる日本人への侮辱に対する憤りに端を発したものである(p202)

    2015年8月16日作成

  • 2018.5.26 amazon2021/09/09了

全12件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

昭和58年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院修了。現在、拓殖大学客員研究員。専攻は政治哲学。著書に『だから、改憲するべきである』(彩図社)、『政治とはなにか』(総和社)、『逆説の政治哲学 正義が人を殺すとき』(ベストセラーズ)等がある。

「2015年 『人種差別から読み解く大東亜戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岩田温の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×