- Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
- / ISBN・EAN: 9784805110492
作品紹介・あらすじ
悲観してはならないが楽観も許されない。厳しい日本の舵取りに歴史という指針を示す。
感想・レビュー・書評
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反米反中は思想・哲学としては考えられていいし、考えるべき重要なテーマだが、政治の次元では論外どころか論外以下の議論であることがよくわかる書物。大人としての常識の正解をキープすることの大事さ、難しさが書かれている。国同士が連携することの大事さと、困難が、よくあらわれている。
一貫しているテーマは「敵と似た者となるな」だろう。
著者は言う。
「敵と似た者となるな」。そう米国社会を諭したのは、冷戦戦略の構築者ジョージ・ケナンであった。一党独裁のソ連に対して、ある意味で民主主義のアメリカは不利である。そうケナンは認識していた。
「敵と似た者となるな」。アメリカの強みは個人の自発性を尊重する活力に満ちた市場経済であり、民主主義である。
ケナンの対ソ戦略は、ロシアの歴史と社会を内在的に分析し、その強さと弱さを知ったうえで構築されたものだった。
一方ネオコンの戦争は相手への内在的理解など必要としない。普遍的理念や絶対的価値を口にする人ほど、他人を容易に葬る者はない。しかしケナンは違う。
彼はロシアの外交伝統とその国内基盤を説き明かした。ロシアの仮借ない権力政治と膨張主義の伝統、それはロシアの安全保障上の脆弱性や不安と表裏となしている。ロシアは外部勢力に根深い猜疑心と敵対意識を持つが、外敵が強大である時、忍耐強く待つことができる。ソ連政府は米国の工業力と軍事力の恐ろしさを知っている。だから米国が堅忍不抜の意思をもって、ソ連の軍事膨張を許さないことだ。長期にわたり「封じ込める」ことによりソ連の内部変化を促す、それが対ソ基本戦略たるべきだ。
これだけでも、では日本の外交はどうすべきかが、見えてくるような気がするのだが、どうだろう。
橋本内閣による九六年の日米安保共同宣言など、日米同盟の拡大強化によって二一世紀の安全保障を担う方向が日米間で合意されている。戦後史における最大の業績は、日米提携を半世紀で終わらせず、二一世紀への資産として残したことである。著者はそう評価をくだす。
そして「自衛」についてはこう述べる。
国際的連携がしっかりしている時に、自助努力はとりわけ効果的である。もし米国、中国など主要国との関係が崩れていれば、自助努力をいくらしたところで、安心・安全は得られない。良好な国際環境の下でこそ自助努力は生きる。インド洋での給油活動、ソマリア沖の海賊対処活動は極めて重要である。
現代の世界では、軍事力は自分で自分を守るというレベルではなくなった、良好な関係を築きつつ、そのうえで訓練・自助努力を入り込ませる。そこまでシビアであるのだ。
日本の安全と、生存のための経済活動は、国際的な連携によらずして全うしえない。
著者は、六万トンをこえる巨大な不審船を小ぶりの海上自衛艦一隻が追尾し、停止させ、臨検を行う演習のとき、水平線のいたるところに米英仏豪の軍艦が浮かんでいたことを例に出す。様々な国家と連携して、はじめて勝てるのだ。
そして現在、日米同盟を損なっては、日本の安全は成り立たない。それとともに、オーストラリア、インド、韓国など、海洋の自由を重視する国々との提携・協力を強める。かつ、中国を敵にしないことが大事。相互利益を土台に一定の協力関係を維持することである。中国から見て、いまいましいが手が出せない、やはり協力関係が中国自身にとっても利益だ。そういう存在になることが日本として偉大なことである。最も危険なのは、無謀な反米論・反中論に政治家が媚びて振り回されることだろう。これに尽きる。
読んでいて面白かったのは、アメリカ外交の分析だ。非常にわかりやすく述べられている。
アメリカは「普遍的価値」「経済的利益」「地政的考慮」の三つのロジックを組み合わせて外交を展開させる。
「普遍的価値」はウッドロー・ウィルソン(もちろん民主党)等、民主主義を掲げて戦争する、イデオロギーを掲げることにためらいがないこと。よくアメリカが思想的に批判される点だが、性格的な重要なポイントだ。
「経済的利益」は相互利益をもたらす自由な通商こそ平和の基礎であるとすること。これはトランプ外交がそうだったのかもしれない。
「地政的考慮」は、セオドア・ルーズベルトにあるように、大陸が某一国の排他的支配下に入らず諸国がバランスを保つことを重視すること。究極においては国家は経済ではなく、地政的考慮にもとづく安全保障から死活の決定を行う。
この普遍・経済・地政学が入り混じり、バラバラに動く感じがあるから、アメリカ外交に失望したり、一喜一憂するハメになるので、それぞれの項目をパラメータにして、その変化を、様々な事件に応じてどんな風に動くか数値化すれば、アメリカのパターンがわかるかもしれない。
思想的な本を読んだ後に、この本を読むとわりとホッとする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
悲観的なタイトルとは異なり、歴史家にして防衛大学校長らしい長期的な視野にたって日本のあるべき方向性を論じている。これは日本人として読んでおくべき名著。「挑戦する気迫を失い、衰退宿命論に浸っていることが最大の問題」「静かに意義深い貢献を行っていくべき」「偉業と破滅の双方を持つのが日本の歴史」「情緒と認識の乱れから国は滅ぶ」「敵と似たものになるな」「ゼロットの魂とヘロデ主義」
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著者が毎日新聞等に寄稿したコラムの総集編の形を取っている。そのため、本文の説明で重複する部分はあるが、それゆえ論点が認識しやすく、論理展開も明快なので、わかりやすい。戦後の対米関係を軸に戦後外交論から日本の現在と未来を見つめ直す良著である。ある程度歴史的知識を要求されるが、それらがなくても一読の価値あり。
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意外に知られていないが、橋本、小渕時代は実は日本の対外関係は戦後史上最良の状況だった。対米関係は改善され、日米同盟を来世紀まで展開することになった。サッチャーの英国に続いて、シラクが対日関係重視n立場に転じたことから対欧州関係も全面良好に転じた。
中国にとってWTO加盟は文明史的意味を持つ。あの独尊の伝統の根深い中国が国際的関連の中で自らを変える決断をくだした。
小泉は自らの任期中に陸上自衛隊をサマーワから見事に撤収した。しかも対米関係をこじらせることなく、ブッシュから賞賛を浴びていた。
またリスクをとる外交をしてた。首相自らが北朝鮮を報恩して、拉致を認めさせ、問題解決の大筋を共同声明に示す大技は小泉以外の誰にもできなかった。 -
新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:304//I61