デクリネゾン

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834253610

作品紹介・あらすじ

仕事、家庭、恋愛の全てが欲しい女たちとその家族的つながりを描いた最新長編小説。

二度の離婚を経て、中学生の娘である理子と二人で暮らすシングルマザーの小説家、志絵。
最近付き合い始めた大学生の蒼葉と一緒に暮らしたいと娘に告げるがーー。
恋愛する母たちの孤独と不安と欲望が、周囲の人々を巻き込んでいく。


「母親と恋愛って、相性悪いよ。ママは無理やり両方こなしてただけじゃん。何だかんだしょっちゅう家空けてたし」
「多くの人はゼロか百かで生きてないんだよ。二、八とか、六、四とかで生きてる。今は世界的にステップファミリーが増えてるし、母親とか父親を恋愛と切り離すのは保守的かつ不自然だよ」
「私はただ、今の生活が心地いいって言ってるんだよ。ママがデートに行くたびにパパたちとかおばあちゃんが駆り出されてるの、なんかちょっとなって思ってたし」
「子供を持ったら恋愛するなって言うの? 別に子供の心地よさを追求してやることだけが親の人生じゃないでしょ。きつかったかもしれないけど、受験勉強をしたから理子は今の中学に入れた。楽な方にいくだけがいいことじゃない」
ーー本文より

【著者プロフィール】
金原ひとみ(かねはら・ひとみ)
1983年東京生まれ。2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。04年、同作で第130回芥川賞を受賞。ベストセラーとなり、各国で翻訳出版される。10年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。12年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。20年『アタラクシア』で第5回渡辺淳一文学賞を受賞。21年『アンソーシャル ディスタンス』で第57回谷崎潤一郎賞を受賞。他『パリの砂漠、東京の蜃気楼』、『ミーツ・ザ・ワールド』等がある。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『アラフォー』、『バツ二』で、中学生の娘と二人暮らしという女性が、『二十一歳』の大学生と付き合っていると聞いてどんな感情を抱くでしょうか?

    この国では恋愛は自由です。婚姻をしている状態で誰かと付き合えばそれは不倫と指弾されます。しかし、離婚届を出してしまえば、再び恋愛の自由を享受できもします。世の中にはさまざまな恋愛の形があり、例えば”歳の差婚”も決して珍しくはありません。私の知り合いにも”21歳の歳の差婚”をした方がいます。もう何年経ったでしょうか?お子さんが生まれる一方で歳上だった男性は定年を迎えすぐに次の会社に就職したと聞きます。どんな恋愛の形であれ、その先に幸せな家庭が作られていくのは素晴らしいことだと思います。

    しかし、それが『バツ二』の女性の話となると複雑な事情も絡んできます。歳上の女性に一人娘がいるとなるとなかなかに複雑です。中学生の娘と、自身が付き合うことになった大学生は10歳も年が離れていません。これは、思春期の娘さんにとってはなかなかに感じることが多い状況とも言えます。

    一方でそんな大学生はどうしてその女性が好きになったのか?という野次馬的な興味も湧きます。そんな女性はその理由をこんな風に語ります。

    『彼は距離的にも時間的にも遠くのものを見通せないんです。物を知らない人ほど騙しやすいように、彼は経験値がなさすぎるから、私がかけた覚えのない魔法にも簡単にかかってしまって、魔法にかかった彼に好かれている内に私も魔法にかかってしまった』。

    そんな風に説明するその女性。あなたは、そんな話を聞いてどのように感じるでしょうか?

    さて、ここに『アラフォー』、『バツ二』で、中学生の娘と二人暮らしという女性が主人公となる物語があります。小説家をしているというその女性は、家庭と仕事と恋愛を絶妙なバランスの中に回してもいきます。この作品は、そんな女性が『離婚の原因は二度とも私の浮気だった。それでも、離婚の理由が私の浮気だったわけではない』いう先の人生を生きる物語。コロナ禍のこの国の中にさまざまな感情を抱く人の姿を見る物語。そしてそれは、そんな女性が、

    『あなたが生きている世界に生きているだけで死にそうになるくらいあなたのことが好きだった』。

    そんな風に、それぞれに本気の恋愛をしてきた過去の先にある今を強く生きる物語です。
    
    『いい匂い!』と『鼻歌を歌いながらリビングに入ってきた』娘の理子に『キーマカレー作ったからね。あと冷蔵庫にサラダが入ってる』と言うのは主人公の天野志絵。そんな志絵は『吾郎、七時くらいに来るって。冷蔵庫の中のサラダ忘れないでね。明日理子が学校から帰ってくる頃には帰ってるから』と言うと家を後にしました。駅までの道すがら『スマホを手に取』り、『時間があったら理子の数学見てやって』と吾郎に入れる志絵は、『電車に乗り込むと資料を取り出し、今日これから出るトークショーの概要に』目を通します。『本当は、永遠に家でじっとパソコンに向かって仕事をしていたい。憂鬱だった』という志絵は、『結局執筆をしている瞬間だけが、自分の書くものを信じられる瞬間』だと思います。そして、無事にイベントも終わり打ち上げに訪れた志絵は、『天野さんってどうして離婚したんですか?』と訊かれ、『それは、一回目の離婚ですか?それとも二回目の離婚ですか?』と『皮肉を込めて』返します。そして、『二回とも、離婚理由は公にはしないって約束し』たと語る志絵に、今度は『今、彼氏はいるんですか?』と訊かれます。そんな質問に答えていく中に『二十一ですと答えると女の子たちが歓声を上げ』ました。そして、打ち上げ後にタクシーを降りた志絵は『おつかれ』と声をかけられ『全然心の準備ができてない』と言うと『俺と会うのに心の準備いる?』と蒼葉は返します。そんな蒼葉と志絵は『ご飯行こう』と出かけ、その後ホテル街へと歩みを進めます。『元彼との恋愛は、何故あんなにも重かったのだろう。何故蒼葉との関係にはこんなにも解放感があるのだろう』と思う志絵は蒼葉と『パネルを眺めて適当な部屋を選び』ます。部屋に入ると『今日はがんばったね。お疲れさま』と『頭と背中を撫でて抱きしめる蒼葉に、癒される』と感じる志絵。そんな志絵に『ねえ志絵ちゃん』『結婚しようよ』と蒼葉は語ります。『ことあるごとに結婚という単語を口にする蒼葉に、やはり重々しさはない』と思う志絵ですが、『今かな?』と返すと、『俺は今なんだけどなあ。と緩い答えをする蒼葉』。そんな蒼葉の『頭を』志絵は『背伸びをして撫で』ました。『蒼葉と一緒にいると時々何をしているのか分からなくなる』とも思う志絵。小説家を本業とする志絵のコロナ禍を背景とした日常が描かれていきます。

    “二度の離婚を経て、中学生の娘である理子と二人で暮らすシングルマザーの小説家、志絵”、”恋愛する母たちの孤独と不安と欲望が、周囲の人々を巻き込んでいく”と内容紹介にうたわれるこの作品。2022年8月に刊行された現時点での金原さんの最新作です。そんな単行本の表紙はインパクト絶大です。”食べたいものを食べたいだけ、食べたい時に食べたらいい”という言葉と共に表紙に描かれているのは豚肉を使った料理の数々、というよりどこか不気味な雰囲気感の中に配置された肉、肉、肉の数々です。しかもそんな食材の下部には豚が一頭、まるで丸焼きにされるのを待っているかのように鎮座しています。これは、おどろおどろしい作品なのか?という一抹の不安が頭をよぎりますが、読んでビックリ!、確かに不倫、不倫、不倫と、男と女の物語は登場するとはいえ、金原さんの作品としては異常な位に雰囲気感は悪くありません。かつ、えっ!と思うくらいに前向きな結末が用意もされています。そうです。金原さんの作品ということで、身構える必要も、読後感の悪さを懸念して敬遠する必要もない読書の時間がここにある、それがこの作品です。このことをまずお伝えしておきたいと思います。

    そんなこの作品はご紹介したいポイントが多々あります。その中から三つに絞ってご紹介したいと思います。まず一つ目は食材が表紙に描かれていることに関係します。この作品は19もの章から構成されていますが、その章題が食べ物の名前をもじった不思議な名前がつけられているという特徴があります。〈第1話 生牡蠣とどん底〉、〈第11話 エビのミソはレバー〉、そして〈第15話 あずきのない白くま〉となんだか妙な引っかかりを感じさせます。そして、その本文にもやたらと食の風景が描写されます。その中から〈第10話 網の上のホルモン〉の食の場面をご紹介しましょう。

    『もう焼けてんでこれ。こっちもええな』という会話の中に『網を制するひかりが私と和香にタンを取り分ける』という場面。『玉ねぎししとうも焼けてるし、多分かぼちゃ人参以外は全部いけてんで』と網の上の情景が思い浮かぶ描写の中に、『タンを頰張りながら「ふーい」と間の抜けた相槌を打つと、和香もハフハフしながら「ふふい」と答え、三人ともふふっと笑う』というひととき。『「何や幸せそうやな二人とも」 「ここの肉食べながら幸せじゃないなんてあり得ない」「考えてみれば、私コロナ以降ここ来るの初めてかも」』と会話する三人が描かれます。

    このように章題で名前の上がった食材が物語に彩りを添えていくように描かれるのがこの作品の特徴です。フランス料理で”さまざまな調理方法でひとつの食材を生かすこと”を意味する「デクリネゾン」という言葉を書名に冠したこの作品。そこには、食のある日常が決して気取ることなく物語に彩りを添えていきます。食を舞台にした小説は数多あるとはいえ、金原さんと食?と、あまりピンとこない中に、美味しそうな食の場面が展開するこの作品。こんなところにも身構える必要のないこの作品の魅力の一つがあると思いました。

    次に二つ目は、コロナ禍の描写です。2020年春に世界を突如襲ったコロナ禍。あれからもう三年という月日が経ち、世界的には終わりが見えてきたものの、この国では未だにマスク、マスク、マスク…の辟易した日常が続いています。そんな状況にあって日常を描く小説にコロナ禍が登場しないのは却って嘘くさくも感じてしまいます。実際、2022年に刊行された小説にはコロナ禍を背景にしたものが多いと思います。窪美澄さん「夜に星を放つ」、辻村深月さん「嘘つきジェンガ」、そして寺地はるなさん「川のほとりに立つ者は」などマスク生活、緊急事態宣言、そして閑古鳥が鳴く飲食店とそこには、現在進行形のコロナ禍がリアルに写し取られています。そんな他の作品に比してもこの金原さんの作品は一歩踏み込んでコロナ禍と対峙するような記述に満ち溢れています。それこそが、主人公のコロナ禍に対する感情が記されているところです。『その日の東京の新規感染者は過去最多を記録した』という客観描写だけでなく、

    『別にマスクも検温も消毒もできるけど、気分的にはもううんざりなのだ。人の飛沫が飛び交う狭く小汚い居酒屋で、めちゃくちゃでかい声でバカ騒ぎしたい』。

    かつて『人の飛沫』などあまり気にしなかった場面、果たしてそんな以前の気持ちに私たちは戻れるのか?なんとも不安な心持ちですが、主人公・志絵の思いに共感する人は多いでしょう。しかし、金原さんの表現はこれだけに留まりません。それは、『罰則のない緊急事態宣言と自粛要請』というものを冷静に見つめ『日本人のはみだす人やはみだすことを嫌う性質を思えばそれでもそれなりの効果はあるのだろう』と第三者的に見る金原さんが、そんなこの国の現状を痛烈に皮肉ります。

    『苦しんでいる人のことを思いやれ、人の気持ちを考えろと綺麗事と忖度を押し付けられ、あらゆる抑圧の中で自尊心を傷つけられ、苦しむ人は誰かに怒りをぶつけるよりも自死を考えるパターンが出来上がっている日本という国が、どうしても受け入れられない』。

    東日本大震災の後、フランスに移り住まれ、四年前まで彼の地に暮らされた金原さんならではの冷静、冷徹な視線で見たこの国の姿。もちろんフランスだって上手くいっていない部分は当然あるとは言え、この痛烈な皮肉は残念ながらこの国が置かれている現況を言い当てているように思います。

    最後に三つ目は、主人公が小説家ということです。小説家が主人公という作品も多々あり金原さんの作品にも「オートフィクション」などがあります。この作品の主人公・天野志絵は『アラフォー』という設定であり、39歳の金原さんと微妙な親和性を感じさせます。そうなると、そこに描かれるのは金原さん自身を写す部分もあるのではないか?という野次馬的な思いです。もちろん、そこは小説であって、自伝ではありませんのであくまで余計なお世話といったところでしょう。しかし、小説家が主人公ということは、その生活がどんなものかを垣間見ることができます。そんな視点から興味深い記述を二つ抜き出してみたいと思います。

    ・『絶対的に自分か相手が傷つく結果になるから、初版部数が何部かという話は作家の間では基本的に交わされない』。
    → この作品では、主人公の志絵がひかりと和香という同業の小説家と親しく交流する様子が描かれていますが、そこに登場するのがこの記述。おおよそ想像はつくのでしょうが、口にするのは確かに生々しい話ですね。

    ・『もちろん小説の登場人物は自分と多かれ少なかれ重なっているものです。でもどこが重なっているかというのは自分自身も正確に判断できるものじゃないし、不倫小説書いてても不倫してない、セックス好きな人書いててもセックス嫌い、Sの主人公書いててもMとか、そこから読み取れるのって、結局著者の持ってる世界観だけだと思うんです』。
    → 小説家と小説の登場人物との関係性について言及した箇所です。もちろん、これを語るのは主人公の志絵であって、金原さんではありません。しかし、そんな志絵が小説家であることを考えるともしや?という思いが湧きもします。いずれにしても主人公が小説家という小説は独特な読み味を提供してくれるように思いました。

    そんなこの作品の主人公・志絵は、『アラフォー』、『バツ二』で大学生の彼氏あり、そして中学生の娘ありという今を生きています。二十一歳という年下の蒼葉と交際を続ける志絵は、『いつか蒼葉にとって耐えがたい重荷となるに違いない』と自身のことを理解しながらも『女として作家として元妻として保護者として、あらゆる役割がある』今を生きています。そんな志絵の生活は娘・理子との関係性もあって、別れたはずの最初の夫・吾郎、次の夫・直人とも険悪な状況にはありません。特に驚くのは吾郎との関係性です。いまだに娘の誕生日になると吾郎の家で一緒の時間を過ごす様が描かれるなどそこにはドロドロとした感情が表に出てくることはありません。そんな中には、そんな状況を見る読者だけでなく、志絵の心の中にさえ、『どうして吾郎ではいけなかったのだろう。急激に疑問が湧き上がる。なぜ、理子と吾郎と三人の家庭を維持できなかったのだろう』という疑問が浮かび上がるのは自然な流れだと思います。そして、娘・理子を思う母親・志絵の心持ちは二十一歳の彼がいようとも変わりません。『ただただ、私は理子が大好きだった』という志絵は、『彼女を見ているだけで胸が躍る。幸せな気持ちになる』と娘・理子の存在を強く意識します。そして、志絵は、理子が『物心がつき、その軽やかな性質を露わにし始めた頃から、彼女はポジティブの象徴として』志絵の中に『君臨し続けていた』ことに気づきます。それは、『逆に言うと、彼女が関与できない、私に残された分野が、仕事と恋愛だったのかもしれない』と結論する志絵。そこに、この作品に描かれる奔放な性が登場する余地があるのだと思います。そしてまた、小説家としての仕事に邁進する志絵の姿が強く印象に残る物語がここに生まれたのだと思います。そう、この作品は、主人公・志絵の”恋愛物語”であり、”お仕事小説”でもあるのです。

    『結局執筆をしている瞬間だけが、自分の書くものを信じられる瞬間なのだ』。

    一人の小説家として、娘・理子の母親として、そして『バツ二』の中に『二十一歳』の大学生と付き合う『アラフォー』の今を生きる主人公・志絵の日常が描かれるこの作品。そんな作品にはコロナ禍を舞台にした人々のリアルな暮らしが描かれていました。小説家が主人公ということで、いらぬ深読みをしてしまいがちにもなるこの作品。美味しそうな食の描写の数々が物語の雰囲気感を明るく保つこの作品。

    主人公・志絵の言葉を借りて、金原さんの思いが圧倒的な迫力をもって伝わってくる物語の一方で、金原さんらしからぬ読後感の良さに驚きもする、そんな作品でした。

  • タイトルの「デクリネゾン」とは、フランス料理の言葉で、同じ食材を異なった調理法でつくったものを盛り合わせた料理のこと、だそうだ。

    一人の女性を通して、恋愛小説・家族小説・お仕事小説の各要素が全て楽しめるところが、タイトルの意味するところなのかな。

    というか、人生楽しめれば、家族のあり方なんてそれぞれでいいじゃんと思うのだ。
    主人公の志絵は欲張りなのかもしれないけど、欲張り上等!と思う。

    「生きる」ことの葛藤を描いてはいるけれど、ほんわかしていて、読んでいて安心してしまう。登場人物みんなが幸せになってほしいと思える、平和な小説なのだ。
    「アタラクシア」と同じことを「デクリネゾン」は陽の側から描いている、と言えるかもしれない。
    僕の勝手なイメージの金原さんらしくないけど、これはこれでありだな。

    結末がジョン・アーヴィングの「ウォーターメソッド・マン」を彷彿させるなぁ、と思った。

    いろんな形の幸せがあること。
    それが多様性なのだと思う。

    • naonaonao16gさん
      たけさん

      おはようございます。

      ちょっといつもとは違う金原さんに逢えそうな作品ですね!

      国家試験終わるまで、読書を少しおやすみすること...
      たけさん

      おはようございます。

      ちょっといつもとは違う金原さんに逢えそうな作品ですね!

      国家試験終わるまで、読書を少しおやすみすることにしたので、触れるのは先になるとおもいますが、それまで読みたい本を溜めておきたいと思います!
      レビューには遊びにきますね~
      2022/12/05
    • たけさん
      naonaoさん、こんばんは!

      読書少しお休みですか…
      長い人生にはそんな時期もありますよね。 naonaoさんのエモいレビューが読めない...
      naonaoさん、こんばんは!

      読書少しお休みですか…
      長い人生にはそんな時期もありますよね。 naonaoさんのエモいレビューが読めないのはさみしいですが、国家試験、頑張ってください!
      心より応援しています。

      息抜きがてら、たまにはレビューに遊びにきていただけるととてもうれしいです。
      ぜひぜひお越しください!
      2022/12/05
  • 写真: Roland Persson
    2022年8月出版
    349ページ
    表紙が印象的で、内容はわからないけど読んでみようと思った作品。
    全部で19話あり、とある小説家の、パンデミックが起きた頃の日常をみている感じ。
    特にすごい展開があるとかではなく、ゆーっくり読んでいく感じ。
    登場人物たち((主人公でさえも...))あまり共感はできなくて、読み切るのもどうしようかと思ったけど、著者の喩え方であったり表現力が好きでそのまま最後まで読めた。
    パンデミックになってからの日本の様子が書かれていて、"そういやこういうこともあったな〜"ってなる。

  • 読み終えるのに
    途轍もなく時間がかかってしまったけれど
    面白かった。

    ストーリーがというより
    セリフや表現のひとつひとつに唸ってしまう。
    そんな作品でした。

    主人公はアラフォーの小説家。
    離婚した二人の元夫と
    年下の大学生の彼氏
    最初の夫との娘(中学生)と同居していたが
    途中から年下の彼と住むことになり
    娘は実父の元へ。   

    複雑な家庭環境といえばそうかもだけど
    離婚時のゴタゴタは乗り越えた後の話で
    どの組み合わせで会っても
    わりに平和な時間と美味しいご馳走がならぶ。

    主人公はこれ以上ないくらい自由に
    欲望のままに
    生きてきたはずなのに
    自信満々でもなくて
    娘への愛情はたっぷりで
    常に思考過多で
    いろんな不安を抱えている。

    人生100年時代
    ひとりの人とずっと添いるとげることは
    逆に難しいのではと思っているので
    こんな生き方もアリと思える。 

    主人公もだけど
    小説家仲間の話にしても
    源氏物語の男女逆転バージョンみたいで
    男女関係なく、人との関係
    色んな形があってもいいような気がしてきた。

    子育てを宗教に例えてる表現が
    とても響いた。
    子供が自立してからは
    頻繁には会わないけれど、
    子供は自分の軸となる存在。

    コロナ禍の表現もリアル。
    楽しいと思いこまされてた集まりやモノなどに
    魅力を感じなくなったし、
    大切にしたいものが変わってきたなと思う。

  • するめを噛むようにじわじわと効いてくる面白さ。ただし夜寝床に入ってからしか頁を開く気持ちになれない作品。朝日や陽射しのなかで、というよりは薄暗い中でじっくりと。

    主人公は女性作家。2回の離婚を経て女児の養育をしているものの、執筆という生業と1人の女性としての恋愛も同時並行。人間はいくつもの役割を同時に抱え、時にどちらに軸足を置くか迷い選択し後悔も繰り返す。

    日頃から「共感」や自分との「類似性」に過剰に重きを置く雰囲気が息苦しいと感じる。
    金原さんは世間から見た「善い人」「正しい人」ではなくむしろ一見理解不能な登場人物を自由に操る。結果読み手にとっては「共感」は得にくいかもしれない。想像しながら違いのなかに発見がある。それが良い。

    主人公の志絵の選択や感性は、世間の良識や常識に縛られる私のちっぽけな日常とは真逆のもの。

    しかしながら「同じだから親近感」ではなく、「違うからこその発見や気づき」の方が人生ずっと面白いのではないだろうか。

    結婚離婚を繰り返し自由奔放な恋愛を続ける主人公の姿は一見我が子を蔑ろにし、身勝手な女性と捉えられがちだが、心の中での微細な葛藤や逡巡の繰り返しが実に興味深い。読者に思寝ない金原さんの巧みな筆致の為せる業だと思う。

    世代の異なる学生の彼との「違い」への怒りや折り合い方が特に印象的。
    飲み込めない部分を諦めてそれ以外の部分に目を向けるのか、相手を完全に受け入れるべく「溶け合う」ためにとことん「折り合い」を見つけるのか。はたまた嫌いな要素が微塵でもあれば拒否するのか…。
    正しさはない。

    感染症拡大のなかでの人と人との関わり方の変化もモチーフのひとつ。
    当たり前だったことが一変した。なくてもいいこと、やらなくても意外に平気だったことが炙り出され、一方で自分にとってどうしても手放せないことも浮き彫りになる。それも人それぞれ。

    「皆同じ」という前提で物事を考えるから齟齬が生じる。

    金原さんが描く、虚無感を常に抱え、充たされない自分を制御不能な衝動がどこかに暴走させる恐怖に苛まれる登場人物の心の動きは本作でも健在。次作も心待ちにしている。

  • 本作のキャッチコピー「仕事、家庭、恋愛の全てが欲しい」だなんて、欲張りだと思う。
    欲張りだと思うけれど、そんなふうに生きられたらどれほど幸福だろう、というのを見せつけられる一冊。
    主人公の小説家・志絵は根っこの部分に生きにくさを抱えているんだろうけれど、離婚してなお友好関係にある元夫たちと、愛おしい浅はかさを持つ理解のある娘、そして盲目的に愛してくれる年下(大学生!)の彼氏に守られている。
    母親の恋愛を咎める人はここにはいない。最後まで出てこない。
    こんなに甘やかされて、志絵は最後どんな痛い目を見るんだろうと意地悪な期待をして読み進めていても、そんなことは一度も起こらない。
    担当編集の中津川さんがちょっと危うさを感じさせる男性で、はずみで彼との間に何か生まれるかな〜なんて思ったけど、全く健全だった。
    志絵はいつもオシャレで華やかな食事をして酒を飲み、仕事に明け暮れ、彼氏に頭を撫でられて笑顔を向けられて終わる。
    私はただただずっと羨ましかった。同時に、「私まだこういうの羨ましいと思うんだ」と気づいて自分で自分に少し驚いた。

    ストーリーとしての起伏は特段ない。言葉の奔流と金言の爆薬でもってずっと思考し続ける小説だ。
    コロナ禍で翻弄されながらも、揺るぎない幸福がどっしりと維持されているように思える。
    金原ひとみの小説を読んでいるときはずっと作者の顔がちらつくのだが、やはり今回もそうだった。
    思春期娘の描写からもそんなことを感じたりしたのだけれど、でも作中にその短絡さを見透かされているような文章があってドキッとした。
    主人公の職業柄、創作について同業の仲間と議論するシーンも多くて、私にとっての小説とはなにかについても考えさせられた。
    やっぱり志絵が羨ましい。こんなふうに生きるためには、何かをふっきらないといけない。

  • これまでの金原ひとみ作品の中でいちばん隣人感があった。
    コロナの経過が小説にきれいに落とし込まれていて、この生活にちゃんとつながってくる。その中でまあよく食べよく飲む人たちよ、出てくる料理が全部美味しそうで贅沢で、混沌の不安の中にいてもこの人たちは生を満喫していた。

  • 主人公の恋愛体質にだいぶついていけない面もありつつも、随所に人生の真理を言い当てる表現が出て来て唸らされる。とりわけ、成長していく中学生の娘への複雑な思いは、他にちょっとないような切実さで活写されていた。それは世間が母親に期待するような無償の愛とも、よく言われる友だち親子なんていうのとも違う。もはや信仰の対象、眩しい光を仰ぎ見るような、あの感覚が、嬉しさ、さびしさ、めんどくささ込みで、きちんと言葉になっていたのだ。子どものLINEがやたら短く、作家として、言葉の力を信じているヒロインがモヤモヤするところも面白かったな。
    タイトルのデグリネゾンとは、フランス料理の用語で「様々な調理方法で一つの食材を生かすこと」という意味なんだそうな。作中には、コロナ禍でのおうちごはんや感染拡大の合間を縫っての会食など、さまざまなシチュエーションでの食事描写が出て来て、恋愛同様、私とはレベル違いに旺盛なその食べっぷりに、美味しそうなんだけど、胃もたれしそうになったな。ともあれ「食べる」という行為の生々しさを臓器レベル?で伝える手腕はさすが。あと、作家友だち(関西弁のひかりとか、モデルがいるのかな?と無粋な想像をするのも楽しい)や編集者とのやりとりも、フェイクと知りつつ面白かった。

  • 2度の離婚、どちらも自分の浮気が原因。
    娘を実父に預けて息子ほどの若い恋人との同棲。
    類友との女子会はバブル風。
    一番許せないタイプ、と不快感バリバリで読み進めた。
    最後に志絵を認めてる自分に驚く

  • 最高の小説だった。生涯ベスト5あたりに食い込むかもしれない。
    「私」を支配する、自分でコントロールしきれない私の欲望。それに従ったり抗ったり絶望をおぼえながらも、それでも、誰かと、この世と、生きていくしかない。その選択をし続けている「いま」の尊さ。
    コロナ禍の直前から落ち着くまでの期間を、飲み会やライブの状況と照らして描くから、まるですべて自分ごとのよう。いやー、最後までめっちゃおもしろかった。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

金原ひとみの作品

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