若かった日々

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  • Amazon.co.jp ・本 (201ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838714667

作品紹介・あらすじ

子供のころの水の記憶、同性の先輩への憧憬、母の死、父との葛藤…。かつて経験した強烈な瞬間を、烈しい幻視力によって生き直したレベッカ・ブラウンの自伝的作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 身体の中に手を突っ込まれてかき混ぜられているよう、でも吐き出すことができないのは、まだその準備ができていないから。まだ、読み、飲み込むことしかできないのなら、せめて忘れたことを、記憶の底に積った泥のなかから呼び起こせ。

    “彼女と同じで、私は誰も必要としない人間でありたい。彼と同じで、私はいつも誰かにそばにいて欲しい。彼女と同じように裏切られるのではないかと恐れている。私を愛してくれる人を、彼と同じように、裏切ってしまうのではないかと恐れている。自分が信用できない人間であることを私は恐れ、彼と同じように、もし腰を落ち着けたら何かすごいことを逃してしまうのではないかと恐れる。”

    “でも私は、ちょっとほっとしている、私のろくでもないふるまいが私自身のものではなく、遺伝で引き継いだものなのだ、一種の病なのだと思えるから。”

    受け継いだものを、俯瞰することも切り分けることもできないまま、僕は今を生きている。

    いつかレベッカのように語れるようになるときがきたとしたら、それはすべてが遠く過ぎ去ったときなのだとしたら、僕は呼びかけるのだろうか、戻ってきて、戻ってきてと。

    “二人から与えられたものを私は持ち続けたい、それをみんな取り除いてしまいたい。
    二人と同じところを私は終わらせたい。それがいつまでも終わってほしくない。”

  • レベッカ・ブラウンの文章は、言葉にしてみたら生々しい人の(あるいは女や少女の)感覚に鋭く訴えてくる気がする。

    誰かに手首を掴まれたとする。
    その時の相手の手のひらの温度や湿度、皮膚が軽くあるいは強く引っ張られる感覚。
    その皮膚の周りにまつわる様々な時間と出来事。
    それを記憶していたり、何かでその強さや痛みを思い出したり。

    そういった皮膚や脳やみぞおちの辺りにまで響く、生理的な感情を呼び起こす文が多いので、とても読みたい時期と、辛くて読めない時期にはっきり分かれてしまう。
    そのかわり、読み出したら頭までぬるい水に浸かったようにその世界に入り浸りになる。
    言葉で感覚が満たされてしまう。

    自分で言葉などの表現につなげることができず、時間を重ねて忘れていった気持ちがある。
    そんな気持ちや、感覚を呼び起こしてくれた言葉を拾ってみる。

    「私は口で彼女に触れたかった。彼女を生きたまま食べてしまいたかった。
    ・・・彼女と一緒に自分わわなくしてしまいたかった。」

    「父のことを、自分の領分の外でどう生きたらいいかわからなかった、居心地の悪かった人間として見られるようになってきている。」

    「彼女と同じで、私は誰も必要としない人間でありたい。
    彼と同じで、私はいつも誰かにそばにいてほしい。」

    読んでみれば大げさなものは何も見当たらなくとも、人が生きていく中で潜在的に感じること。

    生きていくうちに身体で感じ、覚えてしまうこと。

    原文がどんなものかはわからないけれど、彼女はそれを丁寧に手抜きすることなく、清潔な言葉で表してくれると思う。
    生々しいと感じるのに、とてもデリケートで美しい。

    この短編集は、彼女が扱うテーマが訴えかけてくる感覚が万遍なく、でもきっちり隙間なく満たしてくれる。

  • 著者が若き日々を思い返している本でした。
    不仲な両親、それぞれの死、自分がマイノリティであると自覚しつつある出来事の幾つか…景色や状況の細かな描写が話の切なさや抱える思いをより鮮明に浮き上がらせています。
    母の死にまつわる話は読んでいて泣いてしまいました。

  • 自伝的要素がかなり強い小説でした。

    プールのコンクリートの壁で皮膚がこすれたときの痛み。
    服を着たまま海に入ったときの、じわじわと水が沁み込んでくる冷たさ。
    体温が感じられるような距離に気になる人がいるときの肌のざわつき。
    著者の紡ぎ出す鮮やかな身体感覚の描写に、いつかどこかで私も味わった感覚がよみがえりました。

    身体感覚が鋭くなる一方で、心はじんじんとしびれるようでした。
    少女時代の著者が父に抱いていた複雑な想いやレズビアンとして目覚めたときのことを追体験しているような感じになるのは、著者の筆のなせる業でしょう。
    それと同時に、自分の多感な時期のことが思い出されるのも、じんじんする理由なのだと思います。

  • 上手いなあああああ…!!
    作者の他の作品を、ずっと前から気になりながらも読みそびれていたのだけど、もっと早く読めば良かった…。
    自伝的な短編集で、主に大人になる前の少女の、機能不全の家族や同性への思慕が描かれている。
    とても淡々としていて、一作目では最近よくあるオシャレ孤独系かなと思いかけたのだけど、すぐにそんなものじゃないと気がついた。
    水面下にある感情のうねりに、いつの間にか飲み込まれる。
    柴田元幸訳の冴えによるところもあるのだろうが、やはり元々が相当良い文章なのだろう。
    「ナンシー・ブース、あなたがどこにいるにせよ」「煙草を喫う人たち」などなど、強く印象に残る作品ばかりだった。

  • 随分と昔に読んだ「体の贈り物」は、ジュンパ・ラヒリの「停電の夜」と共に、翻訳小説の素晴らしさを知った小説。

    本棚にあっていつか読もうと思っていて忘れていた「若かった日々」を取り出して読む。(最近読書のターボが入り、こういうことが多い)
    最初の「天国」で心掴まれる。ああ、レベッカ・ブラウン、お久しぶり!
    「ナンシー・ブースあなたがどこにいるにせよ」で、レベッカ・ブラウンの歩んだ道を知る。

    本は買っておくもんだなと思う。

  • 作者の若かったころや子供のころを振り返った作品。不幸な結婚生活を送っていた両親を見つめる目、初恋の相手を描く詳細な、でも不思議と生々しさの欠いた文章が印象的。夜のキャンプでナンシー・ブースと二人きりで会話をしたシーンで、彼女の横顔の輪郭が浮かび上がる描写が印象的だった。

  • 自分の、レズビアンへの目覚めの部分が良い。
    チアリーダーにはならない、とかね。

  • 家族、特に両親のこと、憧れだった同性の教師やカウンセラーとの思い出、強烈な記憶。
    淡々とした文章ながら、読んでいるとそのビジョンが頭のなかに鮮明に入ってくる。
    自分の記憶と共鳴して、泣きそうになる部分もあった。
    彼女の他の小説も読んでみたい。

  • 病気で安静にしている間にレベッカ・ブラウン「若かった日々」を。己の慎み深さを誰かに示すためにした選択が慎み深かったことなんてないよな、ってタイトルの一文を読んだ時に心から思った。慎み深さや思慮深さやあなたの配慮の素晴らしさなんて犬にでも食わせちまいなって笑って云えたら良かったのに、あの時。

    レベッカ・ブラウンは恋愛小説より家族?小説の方が好きなんですが「安全のために、私たちはあなたの目を潰し私の耳の中を焼くことに合意した」という例のあれは心から好きです。それができることがわかっていてそれをぎりぎりで選ばない関係、というのが書いてみたい、いつか。

    (別のブログに書いてたの転載)

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著者プロフィール

1956年ワシントン州生まれ、シアトル在住。作家。翻訳されている著書に『体の贈り物』『私たちがやったこと』『若かった日々』『家庭の医学』『犬たち』がある。『体の贈り物』でラムダ文学賞、ボストン書評家賞、太平洋岸北西地区書店連合賞受賞。

「2017年 『かつらの合っていない女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

レベッカ・ブラウンの作品

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