進化論の何が問題か―ドーキンスとグールドの論争

著者 :
  • 八坂書房
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (215ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784896949957

作品紹介・あらすじ

進化論的な生命観の美しさと強さを証明するため、R.ドーキンスとS.J.グールドは異なるアプローチをとった。二人の世界観を生い立ちから掘り下げ、現代進化論の核心に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 両者とも同じものを違う見方で見ていた(見ざるを得なかった?)という事。
    日本人にはなかなか理解できない宗教感が根底にはあり、それは信仰心とは別に環境にしみ込んだものであるという現実を思い知らされる。

  • こういう本を見ると、D&Gだ〜と茶化したくなるのは悪い癖、と反省します。ドゥルーズ&ガタリとかね。

    前半、読みにくいー。
    2人の生い立ちが細切れに別章立てで交互に書かれてるの。コアなファンは楽しいかも知らんが、どちらの著書も読んだことあります程度な私は混乱しました(涙)

    やっと第9章で「D&G」となるんだけど(章の扉にホントに描いてあるんだってば)、社会生物学論争と優生学。でも正直、英国人とユダヤ系アメリカ人の温度差の域を出ず、個人の資質に還元するのは少し無理がある印象。ページも少ないし。第10章の宗教観も然り。

    そもそも大して厚くもない本なのに11章+エピローグ+長い訳者あとがきって構成だしなぁ。

    ジョン・メイナード=スミスの「 50000年を要する変化は古生物学者にとっては突然だが、集団遺伝学者にとっては漸進的である(『ダーウィンは正しく理解していたか』)」が膝ポンってトコに尽きる気もする。

    自然淘汰は決して「ランダム」ではなく、ある意味「累積淘汰」、「適応」という選択が介入していることを忘れがちなのを改めて自戒。

    あと、和訳のみつからない、「サンマルコのスパンドレルとパングロス風のパラダイム」(グールドとルウォンティンの共著)の要約が紹介されているのも貴重。

    無神論者だけど動物愛護家で同性愛者の人権保護に関心ありのドーキンスに、米国の創造論と闘い人種差別に敏感なグールド、である。

  • 利己的な遺伝子(読んでません)のドーキンスとワンダフル・ライフのグールドはお互いの新刊が発刊されるたびに書評で批判し合い対立が強調されていたが実はお互いに認め合っており、批判されるのを待っていたと紹介している。

    合理主義者で無神論者のドーキンスは自己的な遺伝子と言う題名のために批判されたが利己的な行動を擁護している訳ではなく、自然淘汰による進化は遺伝子によって次世代に引き継がれるため生存競争に関わるのは個体ではなく遺伝子だと言う考え方。科学と宗教は本質的に相容れないと考えていた。

    一方のグールドは進化論の猿が人間になって行く絵を毛嫌いしており、ユダヤ系移民と言うことも有り、白人優位の優生学に進化論が使われることを強く反発している。科学と宗教は両立できお互いのテリトリーを守ると言う風に考えていた。

    ちなみに筆者によるとワンダフル・ライフでグールドが主張したカンブリア紀の大爆発で生物のボディデザインが増大しその後絶滅して減って行ったと言う説は少々やり過ぎで現在では認められていないと言う。アノマロカリス、オパビニアとかハルキゲニアといったとんでもない生き物が普通の動物に分類されると言うのは個人的にはちょっと残念なんだが・・・

    二人の論争の裏に有るのがアメリカの進化論と創造論の教育の争いで、産業革命の中でイギリスでは宗教と進化論が両立したのに対し、アメリカではプロテスタントの力が強く今でも進化論を受け入れない人も多い。また、ナチスドイツの白人至上主義の元に進化論が使われたことも有り進化論が優生学と結びつくのも理由の一つのようだ。

    ドーキンスとグールドの論争は創造論に傾き過ぎ科学的な思考からはずれるのと、進化論が行き過ぎ優生学による人種差別につながるのとを両側でバランスを取っていた節が有ると言うことらしい。

  • Wikipediaな情報の羅列に作者の上っ面な解釈を乗せて、何者なのだろうと思ったら翻訳家だという。荷が重すぎたのではないか。

  • 不勉強なので進化論についてはこの本を読むまで何も知りませんでした、この本のタイトルにもある「ドーキンスとグールド」が最近の進化論を論じているようです。この本の著者である垂水氏は、彼らの理論の紹介だけでなく生い立ち等も解説してあり、進化論を学んでいない私にも興味を持てる内容がありました。

    私がこの本で最も印象に残ったのは、垂水氏は単なる参考情報として書いたと思われますが、「移民系住民を差別する理由」の根拠(英語を解さない人に不利な知能テスト、p120)、白人がアステカ帝国等を攻めた時の本当に有効な武器(伝染病、p127)等について解説してある点でした。

    以下は気になったポイントです。

    ・英国国教会はもともとカトリック教会であったが、16世紀にヘンリー8世の離婚問題を契機にローマ教皇庁と対立して、教皇クレメンス7世により破門されて、1558年エリザベス1世によって国教会となった(p14)

    ・グールドは、オハイオ州イエロースプリングにあるアンティークカレッジに入学、1852年創設の名門だが、反人種差別を中心とする左派活動家の拠点となった、2011年に小規模なリベラルアーツの大学として再建された(p44)

    ・ドーキンスの提唱した「利己的な遺伝子」は、生存競争にかかわるのは個体ではなく遺伝子であり、遺伝子が利己的だからこそ個体として利他的な行動が進化すると述べたが、大衆はこの本は利己的な行動を擁護するものと誤解してベストセラーになった(p64、85)

    ・グールドが提唱した「断続平衡説」は、種が基本的には安定した平衡状態にあり、しかるべきときにのみ「ごく稀に」急速な種分化の見られる期間(断絶期)があるという仮説で、ゆっくりと小さな突然変異の積み重ねによって漸進的に進行するという見方(ダーウィン)と対立するもの(p73)

    ・カンブリア紀に現生のほとんどの動物門が出現したのは事実、地球の酸素濃度の上昇により、はじめて体の大型化が可能になったため化石として見つかった、それ以前は小さすぎて化石として残らなかった(p109)

    ・大リーグでなぜ4割打者がいなくなったかは、打者の能力が低下したのではなく、守備と攻撃の双方の技術が向上することで、集団の変異幅が縮小したためと、グールドは例証した(p111)

    ・秘密結社で有名なKKKは、ユダヤ人を排斥対象リストに入れていた、2009年に黒人大統領が就任したが、ユダヤ教徒の大統領はいない(p119)

    ・東欧系は別のいわれの無い差別を受けていた、1924年に成立した絶対移民制限法で、移民の構成を1890年の国勢調査の出身国構成比の2%以内に制限することで、アングロサクソン以外の移民を殆ど拒絶した、日本人だけでなく、東欧系・南欧系の移民も同様に迫害を受けた(p120)

    ・人種差別のルーツは大きく2つあり、1)キリスト教成立以来の宗教的・文化的な相違、2)西洋列強の植民地支配にまつわるもので、先住民をその土地から排除して黒人を奴隷として使役することを正当化するための論拠として用いられた(p127)

    ・少数な征服者が強大な王国を打倒できた理由は、銃などの軍事技術の優劣に劣らず、ヨーロッパ人が持ち込んだ伝染病の流行である(p127)

    ・スペイン人は現地民を強制労働につかせて死に至らせ、穴埋めにアフリカ西海岸の黒人を奴隷として連行、そのシステムを欧州列強が模倣して植民地経営を行った、これを正当化する論拠として使われたのが、人類進化論で黒人→有色→白人という形で進化したので白人は黒人及び有色人種を支配する権利があるという主張、この時の科学的根拠とされたのが「知能テスト」(p128、129)

    ・ダーウィン進化論の主たる業績は、1)進化が事実である、2)進化のメカニズムとしての自然淘汰の提唱、3)人間を含めた自然を神の手から解放して科学の対象とした(p191)

    ・メンデル遺伝学は、「優劣の法則」「分離の法則」「独立の法則」から成っているが、それぞれに例外は見つかっていて厳密には成立しないが、基本的な正しさは変わらない(p202)

    2012年9月23日作成

  • ・ドーキンス「私は普通の国教徒として育てられました。初めて信仰を疑うようになったのは、非常にさまざまな宗教があって、すべてが正しいということはあり得ないことに気づいたときです。・・私は九歳のころに、信者ではなくなっていたと思います。でもそれからまた信仰を持つようになりました」。
    ★すべて正しいことがあり得ないことに幼くして気づいたのは素晴らしい。
    ・『利己的な遺伝子』は、個体ではなく遺伝子が利己的であるがゆえに、個体は利他的であることを可能にする、というのが論旨。
    ・グールドは『ワンダフル・ライフ』の中で、類人猿→猿人→原人→旧人→新人という進歩の行進図は、誤った進化観の象徴として糾弾している。

  •  ドーキンスとグールド、二人の相違点を彼らの進化論上での主張だけでなく、生い立ちや学問的環境から比較したもの。
     ドーキンスとグールドの違いが相対的なものだという考え方にはとても納得がいく。私も(…というのはおこがましいにも程があるが)二人の違いは力点の置き方であって、進化に対する根本的な考えはわりと共通しているように感じていた。
     …しかしグールドに対して比較的辛い見方をしているようなのが気になるところ。グールドが戦略的な立場を考えて宗教に遠慮している、というのにはちょっと疑問を感じた。それにドーキンスの「神は妄想である」が穏健な宗教者を攻撃していない、というのはどうだろう。あの本はキリスト教一般を等しく攻撃していたと思うのだけど。

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著者プロフィール

【訳者】 垂水雄二 (たるみ・ゆうじ)
1942年生まれ。出版社勤務を経て翻訳家、科学ジャーナリスト。

「2018年 『利己的な遺伝子 40周年記念版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

垂水雄二の作品

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