京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男

著者 :
  • 西日本出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784908443527

作品紹介・あらすじ

「京都で人が殺されていないところはない」
京都に住み、京都の女を描き続ける花房観音が描く、京都に住み京都を描き続けた、山村美紗の生涯。
今ではあたりまえの、ミステリアスな京都の町の面持ちは、美紗の小説とドラマ化された作品からきていると言っても過言ではありません。

1996年日本で一番本が売れた年、帝国ホテルで執筆中、ベストセラー作家山村美紗が亡くなりました。
書きたくて、書きたくて、あふれ出るトリックに手が追い付かなくて。でも、乱歩賞はもちろん賞に縁がなかったことからくる、もだえるほどのコンプレックスから解放されることなく逝った美紗。今は、京都東山の泉涌寺の美と大きく大書した墓石の下に眠っています。

感想・レビュー・書評

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  • 著者、花房観音さん、どのような方かというと、ウィキペディアには、次のように書かれています。

    ---引用開始

    花房 観音(はなぶさ かんのん、本名非公表。1971年 - )は、日本の小説家・バスガイド。女性。夫は放送作家・フリーライターの吉村智樹。京都市在住(2017年9月現在)。

    ---引用終了


    で、本作の内容は、次のとおり。

    ---引用開始

    京都に住み、京都の女を描き続ける花房観音が迫る、京都に住み、京都を描き続けた山村美紗の生涯。歴史と情念、ミステリアスな京都の横顔は、美紗の小説とドラマ化された作品からきていると言っても過言ではない。

    ---引用終了


    現在の私の読書状況は、

    山村美紗(1931~1996)の作品、ブクログ登録は1冊。
    西村京太郎(1930~2022)の作品、ブクログ登録は3冊。

    山村美紗さんは、65歳で亡くなっていたのですね。

  • 京都に住み、京都を舞台にしたミステリを書き続けた作家、山村美紗の謎多き人生を追ったノンフィクション。

    最近書店で見かけることはないが、山村美紗は、1980年代から1990年代、「ミステリの女王」として君臨し続けた。小説を読んだことのない人でも、一定以上の世代については山村美紗の名前を知らない人はいないのではないだろうか。本が一番売れたという1996年、彼女は執筆中に心不全で亡くなるが、不謹慎なのを承知で言うと、まさに女王の伝説にふさわしい最期であったといえるだろう。

    本書は、彼女の生い立ちから就職、結婚、小説家となり女王へと昇り詰めるまでを、関係者へのインタビュー、過去に掲載された記事、出演テレビでの発言などから丹念に描いていく。
    美沙は、京都大学の教授を務めた父常信と、社交的な才女だった母みつの長女として生まれた。当時京城に住んでいた一家は何不自由ない生活を送っていたが、終戦後何もかもを失い、身一つで日本に戻ってくる。幸い常信が母校の京都大学で職を得ることができたため、家族はみつの実家の近くである京都市南部の伏見で暮らし始めることになる。
    病弱だったが頭がとてもよく、物理や数学が得意だったという美沙だが、女性が理系の大学に進学することは敵わず、短大の国文科を卒業した後、国語教師として伏見中学に赴任する。そこで出会ったのが数学教師として働いていた後の夫、巍である。
    熱心なミステリ小説の読者だった美沙に小説を書くことを進めたのは巍だったという。教師をやめ、江戸川乱歩賞を目指して小説を書き始めた美沙を巍は陰で支え、美沙が小説家として一世を風靡するようになってからも一切表に出ることがなかった。出版関係者の中にも、美沙は離婚して夫がいないと勘違いしていた人がいたほどだったという。

    京都というブランドを活かして古都の因習や文化を取り込んだミステリを次々に発表した美沙は、長者番付に名前が載るほどの流行作家となったが、江戸川乱歩賞その他の賞には縁がなく、それが彼女の生涯のトラウマとなる。年に何冊も新作を発表し、依頼を決して断ることがなかったという彼女だが、その裏には、新作を発表しなければ忘れられてしまう、という強迫観念があったのかもしれないと考えると、なんだか切ない。

    彼女の人生を語るうえで外せないのが同業者の西村京太郎である。私は全然知らなかったのだが、二人は京都で隣同士の家に住んでおり、西村京太郎自身も二人の関係を匂わせる小説を発表するなど、その関係性にはさまざまな噂が飛んでいたという。
    噂は文壇のタブーであり、真相は藪の中であるが、自己プロデュースに長けた美沙のことだから、あるいは小説が売れるための壮大なしかけの一環だったのかもしれない。

    人を楽しませることが好きで、わがままなところもあるが、さっぱりしていて、「腹が立つけれど嫌いになれない」人だったという美沙。本人は可愛いと思われたい、と話していたというが、本書を読んでいると、実際に可愛らしく、惹きつけられずにはいられない人だったのだろうな、と思う。
    魅力的な女性を多く描き、多彩なトリックを駆使して「日本のアガサ・クリスティー」と呼ばれていたという彼女のミステリをこの機会に手に取ってみたくなった。

  • 確かに「京都で人が殺されていないところはない」。
    昔、山村美紗サスペンスを祖母と観るのが大好きだった。小説は読んだことなかったが、ドラマは食い入るように観ていた記憶がある。

  • 花房さんも書かれていたが、ちょうど私も思っていたところだった。
    本屋さんに山村美紗の本がない、と。

    サスペンスドラマの印象が強く、本は読んだ事がなかった。
    1冊だけ、京都を紹介する本は持っている。

    そしてご主人の存在を初めて知った。
    西村京太郎さんとの事は知っていたが、夫婦ではないと知っていたし、そんなに深く考えた事はなかった。
    それから紅葉さんの他にもお子さんがいらしたのは知らなかった。

    出版業界が一番輝いていた時代を生き抜いた、まさに女王。
    こんなにも誰もが頭が上がらない方だとは思いもしなかった。
    弱さを隠して強がっていたんですね。
    それをよく知る2人の男性に愛されて、幸せだったのでしょう。
    きっといろいろ苦しい思いもされてはいるでしょうが。

    いろいろ読んでみたくなりました。

  • 『京都に女王と呼ばれた作家がいた』男たちはなぜ彼女に魅了されたのか - HONZ
    https://honz.jp/articles/-/45745

    西日本出版社 京都に女王と呼ばれた作家がいた 山村美紗とふたりの男
    http://www.jimotonohon.com/annai/a1527_yamamuramisa.html

  • ミステリーの女王、
    山村美紗の本当の姿に迫った
    ノンフィクションです。

    出版界から干される覚悟でもって書かれた、
    作者の熱意と勇気に拍手です!

    これまで、出版界のタブーとされた、
    女王を私生活で支えた夫と、
    仕事面で支えあった作家、西村京太郎さん
    との関係性にも迫っています。

    女王本人が
    3人の関係を最後まで明らかにしなかった
    (別に隠してたわけじゃないだろうけど)
    ところが、ホントのミステリーだったんでは?と
    勘繰ってしまう。

    家が隣の西村さんとは地下道で繋がっている
    という都市伝説は、私も耳にした事があります。

    そこも女王の計算なのかもね。
    まぁ、スキャンダルがあった方が
    本が売れるものね。
    そういう計算高さと、可愛いさと知性が、
    共存した魅力的な人物であったことが
    この本から伺えます。

    出版界(文壇ではない)の女王の生涯が、
    本が売れていた古き良き時代の背景と共に、
    よく描かれていると思います。

    それにしても、女王は
    1日20時間働いていたって…
    小説にかける執念は凄まじいものがあります。

  • 山村美沙という女性推理作家が誕生するまで、そして誕生後に京都を代表する作家になっていったその経緯が明確に語られる。彼女の父、兄が京大教授として知性を代表する血を共有しつつ、彼女は京都の花街にも詳しく、京都の名士の世界にしっかり根を下ろしていること。そして松本清張、西村京太郎ともそこから交流が始まったこと。この2人との最初の出会いのエピソードは特に興味深い。そしてふたりの男とは京太郎ともう一人が夫・山村巍という中学教師だった人。結婚していたことも謎に包んでいたという山村美紗の生涯のユニークさに圧倒される。官能小説の著者が山村美紗の伝記を書いているということに、彼女の人生を自らに重ね合わせているという重みを感じた。

  • 正直言って、読みたいけれどそっとして置いても良い内容の本だった気がします。海外のミステリしか読まなかった私が読んだ国内ミステリは、山村さんの作品だけでした。舞妓シリーズが好きで、探して読みましたっけ。ご主人の描かれた絵は、少し怖くて、亡くなって、傍らに他の女性を置いて山村さんを描くというのは、まるで西村京太郎氏と美沙さんの関係に、誰も入れなかったことの合わせ鏡のように見えました。死んだ彼女は、新しい奥様との間には入れないのですから。深い愛というより、妄執のような重さを、全体に感じてしまうのは、ちょっと申し訳ない気がしましたね。

    そういう印象を拭うために、淡々と書かれた精緻な評伝ですが、内容が衝撃的であるわりに、もうひとつ面白くなっていない気がしましたので、途中で中断しました。覗き見してるようで、自分が嫌になってしまったのです。

  • 京都を舞台としたミステリーを描く女流作家、山村美紗の半生を描いた本。
    これを読むと波乱万丈の人生を送った人だったんだなぁ・・・と思った。
    もともとは裕福な家に生まれながら戦時中は貧しい暮らしも経験し、結婚して投資で成功、そして小説家を目指す。
    華やかでワガママ、正に女王のような人と見られていたが、その影では自信の無さや気遣いがある人だった。
    そして、いつも男性にもてていた。
    相当に魅力のある人だったんだろうな・・・とこれを読んで思った。

    私はこの本のタイトルと作者が花房観音さんという事から官能的な部分もある本なんだろうな・・・と想像していたら全くそうではなく、淡々とした印象の本だった。
    正直、物足りなかった。
    ノンフィクション作家の書いたこういう本は事務的にあった事を書いていたとしても何故か面白い。
    読者が何を知りたいかを心得て、好奇心を少しずつ満たした書き方をしているから。
    私が小説家がノンフィクション小説を書く時に求めるのは小説家ならではの書きもの、しかもその作家の色が出ているものなので、それで言うとこれは違うな・・・と感じた。
    まあ、どうしたってまだ当事者がご存命なだけに書きづらいというのは分かるし、それが伝わってくる内容だった。
    だけど、相当細かい所まで山村美紗という女性について調べて取材もしているのは読んでいて分かった。

    私は以前、テレビで山村美紗は結婚しているものの、隣に西村京太郎が住んでいて家が渡り廊下でつながっていて行き来していたというのを聞いた事がある。
    長女の山村紅葉のインタビューだったかも。
    今も覚えてるくらいなので、変わってるな・・・と思って記憶してたんだろうと思う。

    結局の所、西村京太郎とつきあっていたのか、夫と関係はどうか分からないけど、結果を見たら想像ができる。
    山村美紗が亡くなって再婚してからも夫は美紗の絵を描いて個展まで開いている。
    それを見るだけで夫婦の強いつながり、絆というのがあったのだと分かる。
    ただ、影に徹するだけでそこまでこよなく相手を愛するとはならない。
    そして、西村京太郎が自分と山村美紗の事を男女の関係があったとして書いた小説、その後の訂正の弁を見ると、どれだけ彼が彼女を愛していたか、複雑な気持ちを抱いていたかが分かる。
    結局、男女のこと、夫婦のことは、よく言う事だけど当事者にしか分からない。

    そういう分からない男女の仲というのに気遣いしながら、相当な覚悟をもって書いた本だというのが後半の文章からひしひしと伝わってきた。

  • 例えば20代の人でも「山村美紗」という名前を聞けば「二時間サスペンス」を思い浮かべる。
    あるいは「紅葉さん!」と。
    実際には山村美紗が亡くなってすでに24年が経とうとしているのに。それだけ日本のサスペンスドラマには欠かせない作家だったということだろう、それはもう今さら言うまでもなく。
    全盛期の数字を見ると驚愕する。そんなに本って売れていたんだ、と信じられない数字が並ぶ。
    本が一番売れていた時代。そんな時代を命がけで、全力で駆け抜けた一人の小説家。語られるエピソ―ドのすさまじさよ。ある意味それが許された時代だったのだろう、とも思う。
    年間11冊の本を出す、って、それは、ほぼ毎月ってことで、しかもミステリってことはそれだけのトリックを持っていなければならないわけで、そりゃもうすごいとしか言いようがない。
    けど、これだけ書いても「まだまだ書きたい!時間が足りない!」とか「新しいトリックを思いついた!」と言い続けていたというのだから恐るべきことだ。
    そんな山村美紗と西村京太郎の関係といえば、文壇界ではタブー中のタブーだ。それをあえて今、世に出すという。なぜ、いま?
    例えば、ものすごく失礼な言い方だけど、夫であった巍氏や、西村京太郎に何かあった、というタイミングだったり、未発見の書簡が見つかったとか、都市伝説でもあった地下トンネルが発見されたとか、そういうことはなにもないのに、なぜ、いま、なのか。
    巍氏も西村京太郎氏も山村美紗の死後再婚し、それぞれに幸せに暮らしている。娘たちもそれぞれに平穏に暮らしている。なのに、なぜ、いま、なのか。
    けれど、本が生まれる、というのはそういうことなのかも。すべて、何かのタイミング。

    膨大な参考資料を見ると花房さんのこの本に賭ける意気込みや使命感や覚悟というものが伝わってくる。
    生半可では書けないものでもあるし。
    ならば、というか、だからこそ、というか、巍氏と西村京太郎と山村美紗の不思議でいびつで、だけど安定した三角関係の「本当のこと」をあぶりだしてほしかったという気もする。
    西村京太郎の二転三転する証言の意味、本当はどうだったのか。
    もしかすると、書けないものを見つけてしまったのか、だから最終的に「藪の中」で終わらざるを得なかったのか。だとしたら、西村京太郎の『女流作家』『華の棺』に対する「小説」としてそこを描く手もあったのでは…

    と書きながら、でも、それって本当に必要なことなのか、とも思う。
    二人が男女の関係だったとして。その関係が30年続いていて、それを目の前で夫はずっと見ていたとして、それが、「トリックの女王」と呼ばれ死後20数年たってもまだドラマの原作者としてその名を遺す山村美紗に、何の関係があるというのだろうか、と。

    山村美紗という女がいた。小説家としての業、女としての性に命ごとからめとられた一人の女がいた。

    それ以外、何の必要ないのかもしれない。

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著者プロフィール

兵庫県豊岡市生まれ。
京都女子大学文学部中退後、映画会社や旅行会社などの勤務を経て、2010年に『花祀り』で団鬼六賞を受賞しデビュー。男女のありようを描く筆力の高さには女性ファンも多い。
著書に『寂花の雫』『花祀り』『萌えいづる』『女坂』『楽園』『好色入道』『偽りの森』『花びらめぐり』『うかれ女島』『どうしてあんな女に私が』『紫の女』など多数。
現在も京都でバスガイドを務める。

「2020年 『京都に女王と呼ばれた作家がいた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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