あいたくてききたくて旅にでる

著者 :
  • PUMPQUAKES
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本棚登録 : 308
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784991131004

感想・レビュー・書評

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  • 読んでよかった、率直にそう思います。ただ民話が収録されているのではなく、小野さんがそのお話に出会ったときの状況や話してくれた方の背景もていねいに記されており、濱口さんも寄稿していたけれど一緒に旅をしているような気分。もちろん、将来の子どもたちのために民話を残したい、というところもあるのでしょうが、それよりも小野さん自身が「ききたい」「きかせてほしい」と真摯に思っていること、だからこそこちらも背筋をしゃんと伸ばして読もう、そんな気持ちになりました。

    個人的には出身が宮城県なので、方言がなつかしくこそばゆく感じられました。(もしかするとちょっと読みにくいのかもしれません)

  • 語る、聞くとはどんな行為か、自分はほとんど理解していないかったことを知った。一方で、このように丁寧な仕事は、それを生業としないことでのみ成立するのかもしれないと感じた。

     苦労の多い歳月を暮らし、年老いてなお孤独に生きる語り手が小野さんの来訪を喜び、大切な品を形見として手渡す場面に目頭が熱くなった。この語り手の生命は読み手である私の中に、確かに生き継いでいる。それは小野さんが本書を通して願ったことのひとつでもあっただろう。

  • 民話採訪者・小野和子さん。
    P57〈お孫さんに語るように、わたしにも語ってくださいな〉

    軽い気持ちで読み始めた本書。
    途中、民話の持つ力にクラクラする思いだった。
    時代を経た無数の先祖の声。
    ずしりと重いのは当たり前か。
    濱口竜介さんの言葉。
    P351
    〈あなたにはこれを受け取る覚悟はあるか、と突きつけてくるようなところが小野さんの文章にはあります〉
    私も、小野さんから問われていると感じた。

  • 『耳ふさがれた風化するには、惜しんでもあまりある生きた人間の足跡がにじんでいる。切れば血が吹き上がる切実な現実に彩られた世界がある。わたしはこうした話を捨てがたく思う。なにかしら、居ても立ってもいられないような気持ちになってしまうこともある。』

    各地の民話を訪ね歩き、人々と出会ってきた小野和子さんの本。
    民話…と呼んでいいのか、それとも婆さん爺さんの苦労話、愚痴話と呼んでしまうか、そのぎりぎりのところで浮かび上がる人々の暮らしや心情に引き付けられてしまう。
    『全部本当のことだよ』と語られるなにかを聞く、というのは、その人の思いまるごとを受け入れるということかもしれない。

    東日本大震災後、陸前高田で活動しているアーティスト、瀬尾夏美さんが寄稿されている。両者の行為の共通性_聞くこと、について考えさせられる。

  • 宮城県で民話を採集していた人の収集した民話とそれにまつわるエッセイ集。
     民話と聞くと古めかしく、桃太郎や浦島太郎などの典型的な話をイメージすると思うけど、本著では民話の採集を通じて「人が話す、それを聞く人がいる」という、人間を人間たらしめている営みがいかにオモシロいかを知ることができる本だった。著者の人はもう80過ぎの女性で本著で書いているのは、そんな彼女が30-40代に宮城県内で聞き込んだ民話とその語ってくれた人の人生だ。ざっくりした歴史観だと70−80年代の日本は成長期で80年代なんてバブルの頃だけど、そんな喧騒とは無縁な田舎の生活史としてもめちゃくちゃ面白い。農村で生きる過酷さがビシバシ伝わってきた。比較的主体的に自分の人生を生きることができる今の環境の素晴らしさに気づかされること山の如し。自分の兄弟の面倒みながら親の仕事を手伝うのは当たり前だし、もっと厳しくなると口減らしで突然家を放り出されてしまう。個人的にうわーと思ったのは都会と田舎の寂寞の対比。ムラ社会の同調圧力が分散せずに寂寞が余地を残さずに迫ってくると書いていて大いに納得した。
     そんな過酷な生活の中における退屈しのぎの1つでもあった民話に基づいて、人や街の歴史を解きほぐしていく著者の考察がオモシロい。民話は教訓めいたことが封じ込められたフィクションなので、大人から子どもに聞かせる話なので子どもを大人が都合よくコントロールするための話だという偏見を持っていた。しかし、たとえ同じ話だとしても角度を変えることで全く違う教訓に取れる点を示唆していて興味深かった。あと民話ではないけど戦争に関する語りも考えさせられるものがあった。僕がまだ子どもの頃はおじいさん/おばあさんの戦争体験を学校やら家やらでダイレクトに聞いた記憶はある。しかし今はもうそれがほとんど実現しないことに読んでいて気づかされた。本著を読み終えると人から直接聞いて得る情報と本を読んだり映像を見たりして得る情報の違いは間違いなくあると特に感じると思う。結局はどの口が何言うかが肝心なのだ。

  • この国はって、雑にくくろうとするからおかしくなるのかもしれない。
    となりの部屋の人は、とか、同じ課の人は、とか、手の届く相手のことから考えるのがいいのかも。
    だってひとりの人間の中に、これほどの深みや複雑さが存在してるって、この本を読むとわかるから。

  • 西荻の本屋ロカンタンさんにお勧めされて購入。やっと読了。こんなに丁寧に作られた本はそうない。隅から隅まで味がある。読みながら、どんどんはまっていく。

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