世界で最もイノベーティブな組織の作り方 (光文社新書) [Kindle]

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  • 著者は、「日本企業からイノベーションが生まれない本質的な理由は、「個人の創造性」の問題ではなく「組織の創造性」の問題」と言っている。個々の日本人は、むしろイノベーション力が非常に高く、その力を引き出せてていないし、むしろ殺してしまっている日本の組織こそが問題なのだと。出る杭は打たれる日本の組織風土の中では、型破りな人材が育たず、大胆な改革を起こしにくいのは確かなのだと思う。

    「「日本人は、目上の人に対して意見したり反論したりするのに抵抗を感じやすい」という事実と、「多くのイノベーションは組織内の若手や新参者によって主導されてきた」という事実は、日本人が組織的なイノベーションにはそもそも向いていないということを示唆しています」、「目上の人に意見したり反論したりすることに強い抵抗を感じる(=権力格差指標の高い)日本社会において、この「下が薄くて上が厚い」組織構造は、極めて大きなイノベーションの阻害要因になる」などと言われてしまうと、絶望感すら漂うが…。

    昨今、遅ればせながらも日本でベンチャー育成が声高に叫ばれるようになったのも、大企業の組織風土をイノベーティブに変えるのはまず無理で、それよりも、型破りな人材にイノベーティブな組織を一から作り上げてもらう方がよほど現実的、という判断によるものだろう。民間企業は何れ選手交代してもらうとして、残るは国や地方の組織ということになるが…。

    「近年の主要な科学の進歩は、複数分野が関わっているケースがほとんど」、「本質的な発見によって新しいパラダイムへの転換を成し遂げる人間の多くが、年齢が非常に若いか、或いはその分野に入って日が浅いかのどちらか」といった研究者の分析結果も、興味深い。

    戦後日本の高度成長期に生まれた様々なイノベーションも、GHQの占領政策により研究が続けられなくなった航空機エンジニア達が、異業種である自動車産業や鉄道産業に転出して開花させたものだという。

    専門家を集めただけではダメで、人材をシャッフルして混成部隊とする必要がある、ということは、そもそも組織自体を固定するよりも、事案ごとにプロジェクトを組む形式にした方がよい、ということを示唆しているんだろうな。その方がメンバー間の上下関係も固定されないし。

    ウィズ/アフターコロナで社会が大きく変わりつつある今、旧来型の組織形態や風土を変えられるチャンスなのかもしれない、と思った。

  • 【個人の創造性】は備わっているが、それを【組織の創造性】の欠如が原因となり上手く発揮できていないという点に言及している。
    批判だけでなく、その現状を踏まえて、「どのようにすれば良いか」という筆者の前向きな考察が書かれていたのが良かった。

  • イノベーティブな、つまり環境に合わせて変化できる組織に必要な要件を、幅広い引用事例で説明しているので理解しやすい。山口さんの本は高度なキュレーションだと思って読んでます。

    特に印象的なところは、「権力格差」が大きい組織は、上層部の意見が尊重され、集合知を活かせなくなり、組織能力として環境変化への対応力が落ちる(大韓航空墜落のケース)

  • 日本からイノベーションが生まれないのは幼少期からの画一的な教育によるものが大きいと考えていたが、同書によれば組織風土の問題(上下間の風通しの良さ)が大きな要因であると考えられる。
    イノベーションの可能性を見極めるには複眼的・多面的な検証が必要であり、いわゆる縦組織ではそれが難しい(目利きの難しさの例として、消費者テストでの結果が思わしくない事を理由に経営陣から何度も却下された”ミニバン”などの例があげられている)
    後半では組織ビジョンのあり方やリーダーシップなど、現代の日本社会への処方箋とも言うべき内容が述べられており、特に創造性開発のために若手スタッフは自分の意見を持つ(ポジションを取る)、シニアスタッフは「人に意見を求める」という点は組織の重さを削減する意味でも有用と感じた。

  • これ、あとがきにも書かれていましたが、間違いなく組織論の話です。
    ・本当の多様性とは:重要なのは、人と異なる考え方/感じ方をどれだけ組織成員ができるか、そして考えたこと/感じたことをどれだけオープンに話せるかという問題です。また、イノベーティブとされる企業であればあるほど、上下間での情報流通が活発に行われているという結果が出ています。
    ・ホフステードの四次元:ホフステードは文化的差異に着眼するにあたって、「権力の格差」「個人主義対集団主義」「男性らしさ対女性らしさ」「不確実性の回避」という四つの「次元」を定義。権力格差の大きい日本のような国では、人々の間に不平等があることはむしろ望ましいと考えられており、権力弱者が支配者に依存する傾向が強く、中央集権化が進むと指摘しています。
    ・われわれ日本人は、「権威」と「リーダーシップ」を一体のものとして認識してしまうという奇妙な性癖を持っています。しかし、リーダーシップは本来、権威によって生まれるものではありません。それは責任意識によって生まれるものです。
    ・部下に意見を促し、それに対して真摯に耳を傾けるリーダー、つまり「聞き耳のリーダーシップ」を発揮している程度は、組織成員のモチベーションやコミットメントと強い相関があることを把握しています。
    ・機能認識の固着:一度「用途」を規定してしまうと、なかなか人はその認識から自由になれない
    ・報酬を与えることによって、創造的に問題を解決する能力は向上するどころか、むしろ低下してしまうということです。特に「予告された報酬」は、人間の創造的な問題解決能力を著しく毀損することがわかっています。質の高いものを生み出すためにできるだけ努力しようということではなく、最も少ない努力で最も多くの報酬を得られるために何でもやるようになるわけです。加えて、選択の余地が与えられれば、そのタスクを遂行することで自分のスキルや知識を高められる課題ではなく、最も報酬が多くもらえる課題を選ぶようになります。
    ・本当に大事なのは表面的な「仕組み」を盲目的にコピーすることではなく、人の行動が変わるようなメカニズムを、就業ルールやオフィス環境といった組織のハード要因と、リーダーシップやコンピテンシーといった組織のソフト要因に絡めて形成できるかどうかという点なのです。
    ・任務と能力の関係はそのような単純なものではなく、能力の背後にある「動機」が大きく職務のパフォーマンスに影響を与えること、動機のプロファイルによって、活躍できる仕事の種類(課題優先型か好奇心駆動型かなど)は変わるのだということを示しています。  

    ・経営においては「合理的な解は、そもそも合理的な解になり得ない」というパラドックスを持っているということをよく再確認しておいたほうがいいでしょう。合理的というのは論理的に正しいということですが、論理的に正しいことを追い求めれば解は必ず他者と同じになり、しかもスピードは遅くなります。ところが戦略というのは本質的に差別化とスピードを求めますから、ここには二重のパラドックスが発生することになります

    ・組織が行う意思決定のクオリティは、必ずしもリーダーやその構成員の思考力やリテラシーに左右されない。むしろ、その組織がどういうメンバーで構成され、どういう前提でもって議論を行い、どのようなプロセスで議論を進めるか――要するに「決め方」によって左右されるのだということを、この二つの事例は示唆しています。
    ・リーダーは「ルールでは判断できない、論理だけでは整理できない例外事項について意思決定する」ために存在しているのです。
    ・コンドルセの陪審定理:市民革命を経たのち、合理的で健全な市民が民主的なシステムに則って行う意思決定は、王権に基づく権威によるそれよりも優れているという命題の数学的根拠を求めていました
    ・リーダーシップの本質の一面は「移動」にあり、その必然的結果としてリーダーは常に「行き先」を示すことが求められるということです。そして、ビジョンに求められる最も重要なポイント――それは「共感できる」ということです。
    ・イノベーティブな人材を集め、彼らを動機付けするためには、インセンティブやボーナスなどの報酬システムに工夫を重ねるよりも、挑戦的でやりがいのあるビジョンを与え、思いきりその実現を追求できる環境を与えてやることが重要だということになります。

  • 例示が多く、主張したいことに合致していて、読みやすかった。

  • 会社の課題図書だったので読破。

    同じことがひたすら繰り返されている本ですが、特におもしろかったのは(本書の言葉ではなく自分の言葉ですが)、「組織のエリート」よりも「野望を持った個人」がイノベーションでは勝つ、ということ。

    基本的に組織の人間は2~3年の尺で人事評価されてしまうのと、別にイノベーションは自分が起こさなくても結局だれかがやってくれれば自分の子供が卒業するまでは食っていける、という危機意識の問題なのだと思う。

  • イノベーティブな発想するには何が必要かを説いた本。

    古今東西の様々な例が挙げられてて面白かった。

  • 良書

  • イノベーションを組織論から丁寧に考察した良書だと思います。
    ネタバレになりますがイノベーションを起こす環境を作るのは組織とリーダーシップになります。いかに構造的にイノベーションを阻害しないようにするか、他方でイノベーションを牽引するか、そのジレンマと戦うことになります。
    唯一解はなく、コンテクストに応じてあり方を模索すべきだということに共感しました。
    巻末に参考文献があり、それらを読むことでさらに理解を深めたいと思います。

著者プロフィール

1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻、同大学院文学研究科美学美術史学修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後に独立。現在は「人文科学と経営科学の交差点で知的成果を生み出す」をテーマに、独立研究者、著作家、パブリックスピーカーとして活動。現在、株式会社ライプニッツ代表、世界経済フォーラムGlobal Future Councilメンバーなどの他、複数企業の社外取締役、戦略・組織アドバイザーを務める。

「2023年 『新装版 外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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