魔女の子供はやってこない (角川ホラー文庫) [Kindle]

著者 :
  • KADOKAWA
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感想・レビュー・書評

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  • グロテスクでスプラッタな描写が微に入り細を穿ち続くので好みはきっぱり分かれるが、それと同じ位イノセンスな描写が飛び出してくるのが癖になる、謎の依存性のある小説。

    一話目がある種壮絶なネタバレなのだが、これを最後におくだけで印象ががらりと変わる。
    夏子が肝心な記憶を忘れている(忘れさせられている)ので、読者と作者の間に共犯関係が成立する巧みな構成。

    登場人物の価値観もめいめいぶっとんでおり、まずそこで受け付けるか受け付けられないかふるいにかけられるが、痒いのを掻くのが気持ちいいビルマ君よろしく、その生理的な不愉快さも慣れると快感に裏返る。

    そして折々にとびだす比喩が感動するほど斬新。
    たとえば主人公の夏子・淡い初恋の心情。

    「私も夜小倉くんのことを考えることがよくありました。二人で話す機会は多くありませんでしたが、教室や登下校、近くで呼吸に触れるにつれ、目に入る彼をため込む抽斗を隠し持つようになっていたのでした。
    聞いた声や重ねた会話が夜開けて星に見えるように、喉の奥の内臓辺りに並べて飾ってあるのでした」

    この感覚、わかる……!
    一見支離滅裂意味不明だが、手垢に塗れた比喩では到底表せない微妙な琴線を弾いて共感の嵐。
    「バインダーぽい手触りの曇り空」などの情景描写をはじめ、あくまで女子小学生の知識の範囲から逸脱せずに、「あーわかる」となるオリジナリティあふれる比喩を駆使するのは凄い才能。

    グロ描写は活字では耐性あるので然程気にならなかったが、どちらかというと「雨を降らせば」での葬式会場での暴走など、無関係な弔問者への行き過ぎた仕打ちのほうが苦味が勝った。
    読み手の感性の問題なので、ブラックユーモアとして流せる人もいるのだろうが……

    収録作の中では「魔法少女帰れない家」が白眉。
    いい人だと思ってたひとが実は……な、お約束の展開なのだが、二重三重のどんでん返しに突き落とされる。
    いい話だなあで一件落着しかけたのにけっしていい話で終わらせてくれない、これぞサイコホラーの真骨頂。
    奥さんと夏子たちの交流を象徴する、微笑ましかったお面のエピソードが、ラストの数行で完膚なくぶち壊される。
    同じエピソードで同じセリフを扱いながら、こんなに印象が違うんだと衝撃。
    消された記憶の範囲は謎だが、お面をもらった時点まで遡らないなら、本当にただ興味がなくて貰ったことすら忘れていた可能性があり、暴かれた温度差がうそ寒い。

    最終話はダイジェスト版で夏子の人生もとい余生が描かれるが、ブルースとの関係性の変化に驚き半分納得半分。
    一話ごとに赤ん坊から幼児へ、幼児から反抗期へ、反抗期から思春期へ……と成長していく過程を見ていたので、最期の言葉は切なかった。

    ぬりえの願いの持論、「ただ巻き戻せばただ繰り返すよね」「私の願いじゃないから上手に線を引きかねる」、地球先生の雨のたとえ話など、含蓄みで考えさせられることも多い。
    一話目の惨劇が頭に焼き付いてる読者ほど、「なんでも願いが叶うって素晴らしい!」「困ってる人の願いを叶えてあげるのはいいことだ!」と無邪気に称えられないのではなかろうか。

    小学生の友人同士や家庭内での会話も、単語を投げ合ってる感じが等身大でリアル。

    胸を張って人に薦められるかといえば首を縦に振れまいが、ハマる人はとことんハマるだろうよそに類を見ない作風で、そっと評価されるべき怪作。

    「地獄は歩いてこない。自分から落ちていく」

    この言葉がいつまでも心に残る。

  • デビュー作を読んだときの「なんじゃこりゃ!」感は残したまま、より深化した手腕で描かれる魔法少女と女の子のピュアでストレンジな関係。「です、ます調」で書かれる子供時代の文体は著者お得意の不条理だったり急に素っ飛んだりする記述や、やたら書き込まれる虫や屍体描写のグロテスクさもあって取っ付きやすいとは言えないが、それでもエンジン掛かってくるとこれが気持ちよく乗れる不思議。

  • これはホラー小説ではないのではないでしょうか。

    言葉そのものへの感性と、人間への洞察力やえぐり方が、村上龍とか高橋源一郎と同程度には文学と言っていいタイプの物語なんじゃないかと私は思いました。のですが、文学的と呼ぶには、サービス精神が高くて、エンタメがすぎるのかもしれません。

    なんの予備知識もなく、ただなにかホラー小説を探しててたまたまに手にとり、読んだのですが、これはすごいと思いました。読みにくいと言われる文体は、詩のようなもので、書かれている言葉を文字通りに解釈しようとすると明らかに意味がおかしいのですが、読者自分の心の中にたしかに言わんとしていることが像を結ぶようなそんな魔法のような言葉の使い方に自分には思えました。そして、そんな書き方でさらっと惜しげもなく書いてある一文に時折、はっとさせられました。それらはたぶん著者の観察力をもって日々の生活の中から洞察したなんらかの真実めいたもので、普通はそういったものにはとても価値があって、丁寧に説明されるべきものだと思いますが、この本では本当になんの強調をされることもなく、さらっとそれぞれ独特の一文で表現されていて突然現れます。

  • 地獄まっしぐらの作品ありがとうございます。

  • 魔法少女もの。TVアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」(2011)ほど特殊な設定を置かずに、ジャンルを突き詰めている。

  • 読みづらいし、胸糞展開だし…と思ってたら最後で評価がぐるっと変わった。

  • Kindle Unlimitedに入ってた。
    無垢なることのグロテスクさったらない。文章が下手ってレビューをどこかで見たけれど、狙ってやってるんじゃないとしたら天才ではないか。
    前衛芸術をエンタメに昇華した…は褒めすぎかもだけど。
    人を選ぶのでおすすめはしません。

  • 2019年12月21日に紹介されました!

  • グロと不条理溢れる現代のホラーでした。
    「魔女」という二文字と表紙の可愛さに惹かれたのですが、予想外の内容に「そうきたか!」と…。

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著者プロフィール

武蔵野大学在学中の2006年、本作で第13回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞してデビュー。

「2008年 『紗央里ちゃんの家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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