偶然の科学 [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 以前に読んだ、ダニエル・カーニマンのFast&Slowに出てきた、プライミング(事前刺激)、アンカリング、ハロー効果などの事例が紹介されています。一見、偶然に見える事象も、人間が関与するものには、こうした人間心理の影響のされやすさが大きな役割を果たしているようです。インフルエンサーというのがそれほど大きな影響を与えるものでなく、寧ろ影響されやすい人が他のされやすい人に影響を与えるかが重要、というのは感覚的に納得できるものがあります。既に、自分も影響されやすい、ということでしょうか。

    物事が起こったあとで、それが自明なことであったように感じるのは、あと知恵バイアスと説明されています。ソニーのベータが、松下電器(現パナソニック)のVHSに何故敗れたのか、今から思い起こせば、当然の帰結のように感ぜられることも、当時の経営判断を下す場面では全く成り行きを予測できなかったことと、紹介されています。

    マタイ福音書の「それ,持てるものは与へられて益々豊かならむ,されど持たざるものは,その持てるものをも取らるべし」という言葉にちなんだマタイ則は、本書で初めて知りました。人生の多くは、マタイ則に支配されている、ダンカン・ワッツは言います。確かに、生まれたときに銀の匙を咥えて
    きた人たちは、赤貧に生まれた人よりも少ない努力で高みに到達することができるでしょう。彼のいうところの初期の偶然と累積する優位と、いうところでしょうか。

    努力の価値を称揚することや成功者が謙虚でいることが、マタイ則の支配に抗おうとする人間精神の価値のように思えました。

  • 社会学は偶然の要素が多く、再現実験するのが難しいから、理論を証明するのが困難だよねという本。やはり複雑系を理解するのは大変だ。

    世間一般では様々なことについてもっともらしい説明が蔓延しているが、実際は偶然の要素が多いのであまり意味は無いという。直感や常識というものは、複雑系に対しては使えないようだ。

    とはいっても、以前なにかで読んだ、音楽のダウンロードサイトを新たに立ち上げて、ランキングがどのように人の選択に影響するのかという実験は、優れているのではと思った。まさかそれを行ったのがこの本の著者だったとは。Yahooに勤めているだけあって、他の実験もネットを使ったのが多い。インターネットは社会学における望遠鏡のようなものであるとも言っている。

  • 「偶然の科学」という何とも中二病精神をくすぐるタイトルにつられて購入した本。

    本書は、「人間は因果関係の幻想を求めるが、実際そんなに世の中は単純ではない。未来なんて予測できるわけがない」ということを興味深い実験結果を背景に述べている。成功したモノ・人はたまたま成功しただけで、いちばんよくできた物語を語った物が勝つというこの世の中の悲しい仕組みを理解することができた。その不確実性に対し、戦略上の選択肢を創出・管理することが大事。

    私は、社会学なんて局所的な事象を扱っており物理学のような普遍性がないショボい学問と思っていた。著者もそのことを嘆いていており「世界は複雑であり各々の常識に任せるのが最適。人生とはそういうもの」という諦めとも取れる発言に、逆に社会学に対する好感度がアップした。

    面白い内容だったが、和訳がやや冗長に感じた。和訳特有の回りくどい二重否定は控えていただきたい。

  • 物事の成功も失敗も運の要素が多分に影響しており、成功・あるいは失敗がした原因がさも当然であるかのように語られている。専門家の未来予測の殆どが外れるように、絶対的な成功など存在しない。「ヒットの経済学」で本書の著者について繰り返し言及されているが、そういうことだろう。

  •  日本語版タイトルから統計学の本かと思ったら全然違った。原題は"EVERYTHING IS OBVIOUS / Once You Know the Answer"で、直訳すれば「全ては明白(答えを知っていれば)」。しかし予想外に良い本だった。私が以前からうすうす感じていたことをデータで明確にしてくれた。

     私達が常識だと思っていることの多くは、実はそれほど常識ではない。しかしそれでも私達は常識を使って様々な判断を行う。そこにはそれなりの合理性があるのだが、常識を過信することは危険だ。

     すでに起きたことの原因や理由を、人々はとても上手に説明する。いかにももっともらしい理屈を後から考えることは簡単にできる(つもりになっている)。しかし未来の予測はたいして当たらない。大量の情報に基づいて専門家が検討した予測も、素人が単純な考えで出した予測も、当たる確率は数%しか変わらないという。現実に起こる事象は様々な要因が複雑に絡み合っており、偶然に左右される割合はかなり大きい。

     売れた製品は売れるべくして売れたと思いがちで、過去に売れた製品を分析すればこれから売れる製品の開発に役立てられると考えられているが、実際はなかなかそうならない。本書ではモナリザが世界一有名になった経緯やソニーのベータマックスがVHSに敗れた背景などについて、それ自体の特性ではない部分の要因が大きかったことを挙げ、過去の教訓を未来に役立てようとすることはどれだけ意味があるのか疑問を投げかける。

     最終章では物理学との対比から社会学の今後のあり方について著者の見解が述べられている。社会学は物理学のように実験を繰り返して理論を立てることが難しい分野だが、インターネットやSNSを利用して、ある程度それが可能になった。著者らが実施した実験の多くはまだこれから手法が進化していくだろう。その意味で、社会学が新しい段階に入ったと言える。今後、科学化された社会学が進歩していくことを期待したい。

  • 今じゃない

  • 常識に基づく説明は 、なぜ物事が起こったかを教えているように思えても 、実は何が起こったかしか述べていないのである 。(常識は循環論法に陥りがち。/また、この不確実な世の中では、予測とは、いくつかの可能性が、どれくらいの確率で起こるか、くらいしか見積もれない。/ソニーもアップルもおそらくは正しい判断をくだした。たまたまそも結果があっていたかどうかなのだ、という困難にも現れている。/「予測とコントロ ール 」から 「測定と対応 」への変化/それでもテクノロジ ーは科学の巨大な可能性を示しており 、われわれはそのおかげで歴史上はじめて 、大きな集団やさらには社会全体のリアルタイムの行動をかなり正確に観察できる/といったあたりが印象に残った。

  • 読了。原題が「Everything Is Obvious* *Once You Know the Answer」で、内容は原題の通りのものだった。ぜんぜん偶然を科学していない。そうではなくて、さまざまな事象は、因果関係よりも偶然による影響が大きいという話を前半でしていて、後半ではそのことについての評価を述べている。内容としてはおもしろかったんだけど、偶然を科学する話だと思って買ったので、期待外れだった。

  • 科学(数式)を人間の精神活動に適用できるのか、ということをつきつめた本って感じに思えました。
    哲学と違って科学的に説明を試みていることが真実にせまっているようで面白かったです。世の中がまた違って見えてきますね。

  • 良著ですね。
    適度に数学的ですが、過剰じゃない。具体的な例でわかりやすい。

    人間がどういう基準に沿って選択しているか、を分析していて、確率の考え方からサプライズ(3.11のような予想の外で起きること)のことまで実践的な形で述べています。

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