情報生産者になる (ちくま新書) [Kindle]

著者 :
  • 筑摩書房
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感想・レビュー・書評

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  • 情報生産者というよりは研究計画書の書き方入門という内容。
    研究計画書を時々作成するので、参考になる部分はあった。
    社会学の場合の例で挙げられているだけでも上野ゼミ独特な雰囲気満載で、卒業できた学生は(卒業できない学生も少なくなかったのでは)ほんとに大変だったと思う。
    先行研究の探索の仕方はなるほどと思った。批判的に読むのは難しいです。批判とは、そこにないものを見抜く力という言葉が印象的でした。問いをたてるのは、「バカヤローを言いたい相手」というのもエビソードから生きてくる。
    「東大で上野千鶴子に論文の書き方を学ぶ」をまとめた松井さんに拍手。
    時間管理のすさまじさも笑ってしまった。
    「生きるのに遠慮はいらないわよ」
    まだ何も生み出していませんが、いつか生産者になれますように。

    覚書
    生産者はいつでも消費者にまわることができるが、消費者はどれだけ「通」でも生産者にまわることができない
    考えたことを、データをもとに、論拠を示し、他人に伝わるように書きなさい
    研究は、まず問いを立てることが出発点
    答えが出る問いであること、手におえる問いであること、経験的に検証可能な問いであること

  • 英語英文学科 北村文先生 推薦!
    どのように問いを立てるか、そしてそれにどう答えるか、という研究の基礎を理解できます。著者が指導してきた学生・院生の興味深い実例が豊富です。

  • 情報生産者になる。上野千鶴子先生の著書。世の中には情報生産者と情報消費者がいる。情報を消費し続ける情報消費者になるのではなくて、情報を生産する情報生産者にならないとだめ。論文や文章を書く機会がある人にとっては上で役に立つ上野千鶴子先生からの貴重なアドバイスが詰まった良書。論文や文章というと学生や研究生、研究員や研究者といった立場の人のための本と考えがちだけれど、実際にはどんな人にも参考になる内容。上野千鶴子先生のご説明は本当に分かりやすくて納得感があります。

    • humanさん
      上野千鶴子さんが情報についてもお書きになっていらしてるのですね。
      香菜子さんのご紹介で初めて知りました。
      私も興味を持ちましたので早速図...
      上野千鶴子さんが情報についてもお書きになっていらしてるのですね。
      香菜子さんのご紹介で初めて知りました。
      私も興味を持ちましたので早速図書館で予約しました。
      2021/09/22
  • GWに買ったけど、結局読み終えたのは夏休み。そして感想を書くのは今に至る。なんか時間がたってしまった・・・。どこかで研究の方法や知的創造の方法について話や講義ができる機会をもったらどういう構成にしようかと考えている中で、夏休みの読書したい本の1冊に入れていたのがきっかけ。たまたま他からも紹介としてあがった本だったのであらためて読んで思ったことをまとめておこう。

    上野千鶴子氏の本で研究の作法を学ぶのにとてもよい本だと感じた。過去に遥洋子著「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」を読んだときに「このおばさん、こわぁ」と失礼ながら思ってしまったのだが、あらためてこの本を読んだら生粋の研究者なんだな、と思う。

    工学部の学生にどれだけ役に立つかは分からないけど、少なくとも研究して論文を出すということはこういうことなのだよ、と伝えるには十分な内容。大学4年生が修士課程や博士課程で行う研究計画書や研究の進め方について示唆に富む内容だと思う。個人的に目からうろこだったのは、質的研究に比べて量的研究はコスパが悪い、という表現をしていたくだりだ。通常、経営系の博士課程などでは査読付論文にするまでに質的研究は時間がかかるから敬遠されがちがだ。論文にできるデータが取れる&結果からきちんと期待する考察としてまとまるのか、という実行可能性(の見通し?)から敬遠されがちになる。

    修士から取り組んで博士号を取得することを視野にあらかじめ入れている場合は質的研究のアプローチもある得る話だと思うが、定量実証の方が論文になったときにも評価しやすい。学位取得においては定量実証でテーマを絞って書き上げてしまう方が効率的だと私自身は思っていた。質的研究は学位をとってからやりましょう、なんてことをおっしゃる先生もいたほど。

    でも、生粋の社会学者は質的研究の方が新しい発見が多く実りある研究がしやすい、仮説検証型の研究が多い定量実証は、新しい知見を得る観点ではコスパが悪いという説明をしていた。確かに事実発見で勝負するならそうかもな。今はビッグデータといわれて久しいけれど、質的研究が私の修了した筑波の博士課程の2015年ごろの研究計画ではやりだした感があった。スモールデータをどう駆使するかも面白いテーマだよね、とは思うもののその当時でもはやり修了してからでないと期限に間に合わないよなぁ、と漠然と思っていた。

    今となっては自分が質的研究の方法を不勉強だからそう感じてしまったのであって、本当はやってみたらどうだったんだろう?と思う。せっかく学位取得して自由気ままな身(?)となったのだから質的研究も大いに勉強してトライしてみようと思う。

  • 上野ゼミで行われている論文指導を垣間見られて興味深かった。
    上野さんの人柄が感じられるので、論文を書く立場にない人でも興味をもって読める。

  • 1 情報生産の前に
    2 海図となる計画をつくる
    3 理論も方法も使い方次第
    4 情報を収集し分析する
    5 アウトプットする
    6 読者に届ける

  • 貸出状況はこちらから確認してください(電子書籍ではありません)↓
    https://libopac.kamakura-u.ac.jp/webopac/BB00296567

  • 『情報生産者になる』上野千鶴子


    まえがき
    ・研究とは、まだ誰も解いたことのない問いを立て、証拠を集め、論理を組み立てて、答えを示し、相手を説得するプロセスを指します。そのためには、すでにある情報だけに頼っていてはじゅうぶんではなく、自らが新しい情報の生産者にならなければなりません。


    Ⅰ情報生産の前に

    ・人間には時間も資源も限られていますから、一日で解ける問い、一カ月で解ける問い、一年で解ける問い、あるいは一生かけても解けない問い……があります。問いのスケール感をまちがえず、限られた時間のなかで答えが出る問いを立てることで、問いから答えまでのプロセスを経験して、「問いを解く」とはどういうことかを体感する必要があります。

    ・オリジナリティとはディスタンスである(教養との距離)
    ・誰も立てたことのない問いを立てるには、すでに誰がどんな問いを立て、どんな答えを出したかを知らなければなりません。すでにある情報の集合を知識として知っていることを、「教養」とも呼びます。

    ・そういえば、国会では議論は成り立っていませんね。「今の答えは、あなたの質問に答えたことになりますか?」という問いを、国会討論でこそ、いちいち確認してほしいものです。あの時間稼ぎのすれちがいやはぐらかしを、子どもたちが議論だと学ぶのは困りものです。 おっと腹立ちまぎれに横道にそれました。

    ・あるときゼミ生から、「先生、問題って何ですか?」という問いを受けたことがあります。あまりにシンプルな問いは、その率直さで相手から根源的な答えを引きだすことがあります。わたしはその問いに対して、とっさにこう答えていました、「あなたをつかんで離さないもののことよ」と。そして自分の発した答えに、わたし自身が驚いていました。

    II海図となる計画をつくる

    ・自分自身に「納得」という報酬は得られますが、「知の共有財」である学問の世界に付け加える価値は生まれません

    ・時代区分を六〇年代、七〇年代、八〇年代……というように十進法で区分するのは最低です。なぜなら西暦の十進法は、歴史にとってたんなる偶然にすぎないからです。時代区分には、画期となるepoch-making指標indexを用います。「画期」とは、文字通り「期を画する」という意味。指標には統計の特異点(上昇が下降に転じる点)や制度の変革、歴史的な出来事、あるいはメディアをにぎわせた事件などをとりあげることができます。

    ・問いそのものが、現にあるものに対するこだわりやひっかかりから生まれるノイズ。あなたが何者で、どこに立っているかという立場と切り離せません。

    ・問いを立てるのは、「バカヤローを言いたい相手」がいるから。がまんできないから、納得できないから、ほっとけないから……です。そしてそれは、あなたがあなただから生まれた問いです。

    Ⅲ理論も方法も使い方次第

    ・理論theoryとは現実を解釈するための道具

    ・アメリカの社会学者、ロバート・パットナム[Putnam 2000゠2006]がアメリカの地方都市を対象に、人々が築き上げている人間関係のネットワークが、その地域の「資本」であるという説を立てました。
    ・「社会関係資本」に、同質の人々のあいだに成り立つ関係を指す「結束型bonding type」と異質な人々のあいだに成り立つ「架橋型bridging type」の二類型を区別し、両者を比較しました。

    ・ここではresearch methodが社会関係資本論、survey methodが質問票調査となります。

    ・他人と口をきかなくても買い物ができ、そのつど金銭で関係を決済する貸し借りなしの匿名性の関係が、彼らの生活を支えています。

    ・民族誌そのものが、観察者のバイアスによって大きく影響されることに民族学は自覚的であらざるをえませんでした。誰が書いても同じ、透明な民族誌などというものは存在しません。民族学者はこれを「自分の身体をツール(観測器)として他者を測る」と表現します。となれば、誰が何を調査するかで、民族誌の内容は変わってきます。

    ・あとになってそのノウハウが今和次郎の考現学や川添登の生活学、果ては赤瀬川原平の路上観察学に至るまでの民間学の伝統を受け継いでおり、KJ法に近い質的分析法を採用していることを知りました。その創始者がパルコ会長(当時)の増田通二さんであり、その増田学校のもとで『アクロス』編集長だったひとのひとりが、三浦展さんだったことを後になって知りました。

    Ⅳ 情報を収集し分析する

    ・言語情報には(1)語word、(2)言説discourse、(3)物語narrativeの三つの次元があります。言説は語の集合、物語は言説の集合で、分類の階級classが違います。

    ・因果律とは、Aという出来事が起きた後に、高い蓋然性でBという出来事が起きる、という以上のことを意味しません。
    ・Aの次にBが起き、その後にCが続いた……というときに、これを物語、と呼びます。
    ・物語とは、その解釈のための装置です。

    ・KJ法の原理はとてもシンプル。情報をいったん脱文脈化したあとに、再文脈化するだけ。川喜田さんの言い方を借りれば、五里霧中の情報のなかから、筋道を見つけることをいいます。そのとき二次的に得られた再文脈化こと筋道が、情報加工の生産物になります。

    Ⅴ アウトプットする

    ・精神科医の斎藤学さんは、専門家とはものごとをよく知っているひとではなく、適切な質問をくりだすことができるひとのことだ、と言ったことがあります。

    ・AはBである
    ・AはCという根拠によってBである

    Ⅵ 読者に届ける

    ・概念をconceptと呼ぶのはもっともなこと。conceptの語源はconceive(孕む)から来ていますし、conceptionとは、ずばり、受胎を指します。なぜならアイディアというものはふところに抱いて温めながら、熟すのを待つものだからです。

    あとがき
    ・高等教育の価値は、知識を得るためにあるのではなく、いかにして知識を生産するかというメタ知識を得ることにあります。文科省が無価値だと言いたげな人文社会科学が重要なのも、それらがメタ知識を得るために必要だからです。メタ知識が重要なのは、たとえありものの知識がスクラップになっても、新たな知識を自ら産み出すことができるからです。つまり、予測も制御も不可能な世界のなかで、どこでも、いつでも、生き抜いていける知恵を持つことができるようになることです。

  • p.2022/8/17

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著者プロフィール

上野千鶴子(うえの・ちづこ)東京大学名誉教授、WAN理事長。社会学。

「2021年 『学問の自由が危ない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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