日本の分断 私たちの民主主義の未来について (文春新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 日本にはなぜ二大政党制が根付かず、政権交代が起こらないのか、という点から日本の政治構造の特殊性を論じた書。

    著者の本は初めて。抽象的な説明が多くて、自分のような政治学素人にはちょっと分かりにくかったかな。

    著者は、戦後日本の政治の対立軸は一貫して、憲法改正を巡る論点(護憲派と改憲派の対立)と日米安保を巡る論点の二つだったという。これらの論点は「もともとは戦前回帰的な文化とそれに反感を覚える都会的文化との間の社会的な価値観の対立に根差していた」。

    これは他の先進国には見られない日本独特の対立軸。「経済政策が重要な政治的争点ではないために中間的な落としどころの政策が追求されやすく、結果として極端な政治勢力が台頭する機運」が生まれず「左右のポピュリズムの台頭を免れているほぼ唯一の先進国と言ってもよい」のだが、「政権交代が起きにくく、改革が遅々として進まない、変わらない日本政治」という代償を支払っているとのこと。「憲法と同盟をめぐる保革対立の裏では、利益誘導政治が大衆から乖離したところで行われていた。その結果、政治には悪いイメージが付きまとい、特定の利益団体とつながりのない個人の間で政治不信や無関心が蔓延」してしまっているのだ。

    安保・外交リアリズムという現実を受け入れられず、「スキャンダルや政治不信を利用した戦い方」に終始して「成長戦略が不足している野党と、各種利権に引き戻されながら漸進的な成長を目指す与党という構図」が続く限り、日本は社会問題にキチンと立ち向かえない。

    著者は、改憲や安保といったいささかカビ臭い(若者がすっかり関心を失っている)論点よりも、日本が抱える深刻な課題を巡る対立軸で政治や国民が分断されるのはむしろ望ましいと言っている。「政治による分断は、それが内戦ではなくゲームにとどまる限りにおいて存在意義を見直すべき」だと。これは一理あるなと思った。

  • 日本人の意識について、アンケート結果を分析してくれて、わかりやすい。日本の国政選挙は憲法と日米安保でしか争点にならないなんて・・・確かにそうかも。

  • 政治領域の価値観調査によって日本国民と既存政党の政治的価値観の状況を分析した上で、日本には健全な民主主義を育む観点から「いい意味」での分断による対立軸が必要だと提言した著作。

  • 作者と同じ象限にいるからなのか、
    私としては非常に飲み込みやすくかつ、
    客観的な記載が多いように感じた。

    多くの項目について、
    マジョリティ側を与党が主張しているので、
    野党からすると戦いづらい構図になっていると思われる。

    マジョリティを取り込もうとすると、
    大きく与党と変わらない野党になってしまうし、
    与党との違いを大きく出すと、
    マジョリティを取り逃して当選が危うくなる。

    私は嫌いだけど、感情に訴える戦略というのは
    野党がとりうる合理的な戦略なんじゃないかと思った。

  • 外交安保問題(護憲/改憲、日米安保の賛否)で分断が生じている以外日本には党派的な分断は存在しないらしい。その他の経済政策や社会政策は与野党似たり寄ったり。

    リベラルの凋落の原因は著述通りだと思うし、マイノリティや環境問題に情緒的・倫理的にアプローチする左派ポピュリズムに対して合理的な有権者の賛同は得られず、無党派層から自民党支持者のリベラル層までリーチを伸ばさないと政権奪取は夢のまた夢でしょう。それには「外交安保で中道リアリズム寄りに振ったうえで使える戦略をすべて動員するしかない」と私も思う。

    著書内の「価値観診断テスト」だと私は「自由主義」、つまり経済保守(経済成長重視)&社会リベラル志向らしい。著者と同じカテゴリーに入るのかな。分析結果の見方について腑に落ちる点が数多くありました。

    「課題が複雑化・専門家」していて時代はエリートや専門家を必要としているにもかかわらず、リベラルはシングル・イシューの異議申立てや大衆動員型運動に流れ「エリートによる合理主義的アプローチ」から乖離しつつあるようにみえる。「一貫性ある政策パッケージ」を提示できるぐらいまで人工的な党派的分断を作ってでも政党間で政策競争が行われる政治状況を願うばかりです。

  •  図書館の新着コーナーでたまたま手に取った。
     価値観診断テストによる社会的価値観と経済的価値観の2軸の保守又はリベラルの程度で、政党を支持する層の価値観の傾向等を分析し、保守政党及び革新政党それぞれの現状と今後の戦略について解説している。今までこのような切り口で語られた本に出会ったことがなかったので目から鱗といった感じだ。日本人の価値観(傾向)や政権交代戦略などを理路整然とものすごいスピードで語っている。

  • 三浦さんは現実を極めて冷静に見てとても中立的な立場でいつも書いていると思う。民主主義は分断を産まざるを得ないという視点が自分にはとても斬新だった。本書は著者の研究所で行った日本人の意識調査からの考察で、とても参考にはなった。一方で、例えば年寄のほうが革新方向、若者がむしろ現状肯定的、というのは確かにアンケートからはそうなんだが、今の年寄の革新、というのは昔の全共闘的革新を夢見てるだけの極めて表層的な革新指向という気がする。その点はツッコミが足りない気がした。とはいえ、どのアンケートを見ても結局は自民党支持という今の日本の状況がなぜなのか、という問いへの答えが相当程度明確になる本でもある。

  • 書店で見て帯に印刷されていた日本の保守とリベラルに関する2次元チャートをみて面白いと思い買ってみた。
    本の最初の部分にある価値観診断テストをやってみたところ、経済×社会の価値観でプロットすると自分はこの二次元チャートの「自由主義」に位置すること、経済×外交安保でプロットすると経済保守ー外交安保リアリズムに属することが分かった。自分の投票行動で政党に対する「好き嫌い」として感じていたことが可視化されてわかりやすかった。国政選挙では日本の特殊事情としての外交安保政策で投票行動が決められているという説はなるほどと思った。
    また1992年の世論調査では「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛成する人が60%いたが、2019年の同様な調査では35%に減っている。これを見ると男女の仕事分担に関する価値観は変わっているように見えるが、実際に夫が家事をしている率はさほど増えていない、と言う話には納得した。私自身も仕事をリタイアして家にいる身であるが、慣れていないなどの甘えがあって妻と同様には家事をしていないことを反省する。

  • 日本人は宗教的対立や人種問題などがなく、他国と比べても分断を引き起こす構造的な問題はないとも見える。しかし、この本に記載されている価値観調査などの実態を見てみると、それらは表層的に明らかになるものではなくこれまで日本という国に起こってきた歴史の数々が理由になっていると言えると思った。そして、タイトルにもあるように、それらの価値観は分断を加速させるが、同時にその分断が私たちに叡智を与え、自分とは異なる他者とのより良い共生ができる価値観が生まれるのではないのかともおもう。

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著者プロフィール

国際政治学者。1980年神奈川県生まれ。東京大学農学部卒業。東京大学公共政策大学院修了。東京大学大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。専門は国際政治。現在、東京大学政策ビジョン研究センター講師。著書に『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)。

「2017年 『国民国家のリアリズム 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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