地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる [Kindle]

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  • 世界は今すぐ化石燃料を手放すことはできない。そういう前提で考えた時に、我々は一体何をすればよいのか。
    今後の人口増加や、エネルギー事情を考えてみれば明らかだ。
    今まで先進国は自分たちの利益のために、化石燃料を掘り出して利用してきた。
    そして今「地球環境が危険だから、脱炭素しよう」と言い始めている。
    これこそ先進国の勝手な都合であって、これから発展を目指している後進国からすれば、たまったものではない。
    「先進国だけが化石燃料の恩恵に預かって豊かになった。我々には使わせず貧乏のままでいろと言うつもりか」という反論が出るのも当然である。
    つまり、現実的に今すぐ化石燃料の採掘を減らすことはできない。
    しかし、一方で地球環境が痛んでいることも間違いない。
    このままでは、ほんの十数年以内でも地球の温度上昇によって、様々な影響が出てくるだろう。
    台風などの災害も然りであるが、北極南極の氷が融けることは相当な影響が出るはずだ。
    海面上昇による生態系の影響もある。
    氷が融けることで、閉じ込められていた過去の休眠ウイルスが大気中に放出されることもある。
    長い目で見れば、世界人口は西暦2100年頃100〜120億人くらいをピークに減少に転じるだろうと言われている。
    これは国家が先進国化すると、出生率が大幅に下がるからだ。
    単純に考えても、人口の半分を要する女性全員が、人生において子供を2人以上出産しないと、現在の人口は維持できない。
    現在の人口を維持するためには、合計特殊出生率を2.07以上をキープする必要があるという。
    しかし実際には、未婚となる人も多く、婚姻しても子を持てない人もいる。
    それでは、婚姻しているが、子を2人だけと言わず、3人4人と産めるかと言えば、これまた現実的でないことは、今の日本の状況を見ていても明らかだ。
    出生率は一度下がってしまうと、上げることは相当に難しくなる。
    一方で個人の人生は国家のためにある訳ではないのだから、自分に合った様々な人生を選択できることは非常に重要だ。
    逆に言えば、その選択ができるからこそ、自由で民主的な国家とも言える。
    一方で、国家の力が人口に影響されることも現実だ。
    今後急激な高齢化と人口減少に見舞われる日本は、経済的にも縮小に向かってしまうだろう。
    逆に急激な人口増と経済発展が著しい、インド・東南アジア・アフリカ諸国などは、国際社会の中でも発言権が益々大きくなっていく。
    日本の国際影響力が相対的に低くなってしまうのを避けることは、現実的に難しいと思う。
    これら国際情勢が目まぐるしく変わっていく中で、単純に「脱炭素」だと唱えても、簡単にはいかないだろうと説いているのが著者である。
    そもそも脱炭素には、先進国の思惑なども盛り込まれており、捻じ曲げられた情報が錯綜している。
    著者はそこを整理して、「まずはここからじゃないか?」という現実解を提示してくれている。
    正直、今まで読んだ脱炭素やSDGs関連の書籍の中では一番説得力があった。
    西暦2100年頃で人口はピークとなり減少に転じる訳だから、温暖化についても、実は2200年くらいまでには自動的に解決する問題なのかもしれない。
    そもそも地球はまだ氷河期で、これからも周期によって温度が下がることもある。
    そう考えて見ると、実は地球温暖化、脱炭素の喫緊の課題は、ほんの数十年間の間の話であることが見えてくる。
    しかし、仮に2100年までの約70〜80年間で、その時代に暮らす人々が苦労をするのは忍びない。
    そういう観点で、今の時代に生きる我々は何を大切にして生きていくのか。
    本書を読むことで、天才ビル・ゲイツの「物事の考え方・見方」を垣間見えた気がする。
    なるほど、天才はこういう風に物事を見るのか、と。
    証拠となるデータを様々集めて、そこから何が導き出せるのかと、あらゆる角度で検証する。
    会社でも思い込みや個人の感想だけで物事を捉える人が多いが、そうではなくあくまでも客観的に捉えることが非常に重要だ。
    そういうことが出来る人は稀なのかもしれないが、経験したことのない課題を解決するためには、大事な方法だ。
    この思考回路を意識することは、今後を生きる上でも非常に役に立ちそうだと思った。
    本書内のビル・ゲイツの結論は明瞭で分かりやすかった。
    論理の展開も、人を説得しやすいように意識して組み立てられている。
    脱炭素に話を戻すと、まず最初に「化石燃料の採掘をゼロにすることは出来ない」という前提に立って話を進めるところから始まっている。
    現実を見て、今の段階では「どうやって、ゼロにするか」を考えない。
    こういう潔さも、聞いている側からすると、納得感があるのだと思う。
    現状、石油以上の高効率なエネルギー獲得手段が見つかっていない以上、今後の後進国の経済発展を考えると、化石燃料に頼らざるを得ない現実がある。
    だからこそ、化石燃料を使い続ける前提で、どうやって温室効果ガス排出を減らすかを考えようという論理だ。
    もし、化石燃料を使わずに、効率の悪いエネルギー獲得手段を利用していたら、後進国はいつまでたっても先進国化されない。
    逆説的だが、つまりこれは益々脱炭素化に遅れてしまうことを意味する。
    後進国の人たちが、いつまで経っても安心安全な生活環境を手に入れることができなくなってしまうということは、結果的に効率化から遠のくことになるからだ。
    脱炭素にも遅れるし、これでは幸せになれる人が一握りの人たちだけで、世界が平和になることもなくなってしまう。
    著者は「科学技術が人々の生活を豊かにする」という前提で論理展開している。
    この論に、私は無条件で賛成派である。
    科学技術の発展で、様々な問題があったことは事実である。
    核を操れるようになって、戦争で不幸な使われ方をしたり、現在の地球環境の悪化も科学技術の進化のせいでもある。
    AIの進化だって、人々を不幸にするかもしれないと説いている人がいることも知っている。
    しかし、それらの問題すらも、人類は更なる科学技術の新発明によって乗り越えてきた。
    私は科学技術の発展こそが、人々を幸せにすると思っている。
    今現在は化石燃料のエネルギー獲得手段に頼るしかない。
    しかし、将来はもっと高効率なものが見つけられるかもしれない。
    それまでの期間に、どうやってこれ以上温室効果ガスを増やさずに(むしろ減らして)、経済発展を遂げられるのか、ということだ。
    現在の温室効果ガスの影響が大きいものから、どういう対策を実行していくのかを考えていく必要がある。
    著者は、大きく以下の5点について、減らす方法を具体的に提案している。
    ・電気を使うこと
    ・ものをつくること
    ・ものを育てること
    ・移動すること
    ・冷やしたり暖めたりすること
    果たして、どんな手順で温室効果ガスの排出を減らして、エネルギーを別の方法で代替取得していくのか。
    詳細は本書に譲るとして、まずは我々が「脱炭素」の本質を知ることであると感じる。
    様々な情報が世の中に出ているが、ある国家の思惑であったり、金儲けの手段として唱えていることも少なからず存在している。
    世界はどういう未来を描くのか。
    それは我々次第であることは事実であるが、もっと大きな視点で考えていく必要があるだろう。
    課題の本質を見極めれば、未来は正しい対処ができるはずなのだ。
    そう信じて、行動をしていきたい。
    (2024/1/11木)

  • 実際に最新技術へ投資しているからこそ書ける内容なのだろう。現状整理と併せて、課題点や考えられる解決策などが分かりやすく紹介されている。

  • これだけの情報、個人で勉強する部分もあるが、勉強する人同士が対話することで得ることもあるんだろうなぁと。個々の事例もだが、個人的には特に政府がお金を使う意義が勉強になった。特に社会課題系は地球への悪影響を考慮しない形で最適化された資本主義では勝てない。消費者のリテラシーや思いによって選択してもらえる可能性が過去よりは高まっているとはいえ、大勢に認知してもらい選択してもらうには政府や大企業が買い支えることも必要だ。

  • 気候変動についてはそれほど強いコンセンサスがあるわけではないが、ビルゲイツは「ゼロに向けて至急動かなければ、ほとんどの人が生きている間に悪いことがたくさん起こり、一世代の間にとても悪いことが起こる」と考えている。
    気候変動を止めるために、二酸化炭素の排出を実質ゼロ (net zero) にしなければいけない。
    そのための方策はまだ完全には明確になっていないが、それを考えるために必要なフレームワークを提供してくれる本だと思う。そしてこの問題を解決するには、優れた知能と莫大な資金が必要であり、ビル・ゲイツのような人がこの問題に関心を持って取り組んでいることがまた大きな前進に思える。

  • 網羅的でインフォーマティブだった。ビルゲイツのような成功者が今なぜこの活動をしているのか繋がりを感じながら理解。

  • 地球の未来のため僕が決断したこと。ビル・ゲイツ先生の著書。地球の未来、人類の未来のためには正しい気候変動対策が必要。正しい気候変動対策を考えることはビル・ゲイツ先生のご専門ではないかもしれないけれどビル・ゲイツ先生のような成功者で社会的な影響力が大きい方が正しい気候変動対策の必要性を発信することで多くの人が正しい気候変動対策の必要性を考えるきっかけになる。正しい気候変動対策のためにあらゆる行動を起こしているビル・ゲイツ先生のような成功者が増えると気候変動問題は解決に向かうはず。

  • 環境に優しい代替策を使用する際に発生する追加コストであるグリーン・プレミアムを経営者は意識し、炭素ゼロになるような施策を取り入れるべきです。さまざまなプレミアムを検討することで、いま展開すべき炭素ゼロのソリューションが何であるかがわかります。実際、・ビル・ゲイツはこのグリーン・プレミアムを考えながら、最適な投資先を決めていると言います。

    ビルはイノベーションの供給を増やすために、政府に以下の提言を行います。民間にはできないことを政府が担当し、カーボンゼロを目指すようにすべきです。
    ①今後10年で、クリーンエネルギーと気候関係の研究開発予算を5倍にする。
    ②高リスク高リターンの研究開発プロジェクトに、より多くの資金を投じる。
    ③研究開発を最大のニーズにマッチさせる。
    ④はじめから産業界と協働する。

    また、イノベーションの需要に弾みをつける必要もあります。
    ■イノベーションの開発段階
    ①エネルギーのスタートアップを支援するために、各国政府は購買力を行使する。(スタートアップの死の谷を防ぐ)
    ②コストを下げてリスクを減らすインセンティブをつくる。(税額控除や借入補償などの支援策でスタートアップをサポートする)
    ③新技術を市場に送るインフラをつくる。
    ④新技術が他と競合できるようにルールを変える。

    ■イノベーションを展開・普及させる
    ①炭素に値段をつけるカーボン・プライシング。(誰もが自分の排出コストを支払うようにする)
    ②クリーン電力基準(電力会社に一定の割合で再生エネルギーを使用させる)
    ③クリーン燃料基準
    ④クリーン製品基準
    ⑤古いものを追い出す。

    新技術をできるだけ迅速に展開するのに加えて、政府は、発電所であれ自動車であれ、化石燃料で動く効率の悪いものを通常よりも早くリタイアさせる必要がある。

  • 気候変動について、基礎的な排出源からその対応策まで乗っており、主に技術的な面でのアプローチは複雑怪奇な国際協調からのアプローチより光明が見える。そうはいっても、ゲイツ氏が長らく取り組んできた貧困問題の解消はここでも最重要であり、南北問題は気候変更により拡大されうるというのが氏の最大の問題意識。航空機、蓄電池、食については既存テクノロジーでは解決できずこれからのイノベーションを促進していく必要がある。

  • オーディブルは今日からビル・ゲイツ『地球の未来のため僕が決断したこと』。ナレーターの話芸を楽しむタイプの本ではないので、再生速度を1.2倍にしてみたら、頭が高速回転して処理能力が上がった気になるのがおかしかった。YouTube とかでもデフォルトで1.25倍、1.5倍速で見る人が増えてるらしいけど、こりゃハマるのもわかるわ。自分が賢くなった気がするもん笑

    「そもそもエネルギー移行には、なぜそれほど長い時間がかかるのか。それは……
     石炭火力発電所はコンピューター・チップとは異なるからだ。「ムーアの法則」というのをおそらく聞いたことがあるだろう。1965年にゴードン・ムーアが示した予言で、マイクロプロセッサの性能は2年ごとに倍になるというものだ」
    「ムーアの法則が働くのは、トランジスタ(コンピューターを動かす小さなスイッチ)をどんどん小さくする新手法を企業が編み出しつづけているからだ。そうすることで、一つひとつのちっぷにより多くのトランジスタを詰め込むことができるようになる。現在のコンピューター・チップには、1970年につくられたコンピューター・チップのおよそ100万倍のトランジスタが組みこまれている。つまり100万倍高性能ということだ。
     ムーアの法則を引き合いに出し、エネルギーでも同じような急激な進歩が可能だとする主張を耳にすることがあるだろう。コンピューター・チップであれだけの急進歩を遂げたのなら、自動車やソーラーパネルでも同じことが可能だろうというわけだ。
     残念ながら、それは不可能だ。コンピューター・チップは例外である。性能が向上するのは、ひとつのチップにたくさんのトランジスタを詰めこむ方法を考えることによってだが、同じように自動車を100万分の1の量のガソリンで走らせるブレークスルーは存在しない。1908年にヘンリー・フォードの生産ラインでつくられた初代〈モデルT〉は、1ガロン(約3.8リットル)でせいぜい34キロメートルほどしか走らなかった。本書執筆の時点で市販されている最高性能のハイブリッド車は、1ガロンで93キロメートルほど走る。100年を超える月日を経ても、燃費の伸びは3倍にも満たない。
     ソーラーパネルの性能も100万倍にはなっていない。1970年代に結晶シリコン太陽電池が流通しだしたとき、電気に換えられるのは受け取った太陽光の約15パーセントだった。現在は25パーセントだ。なかなかの進歩だが、ムーアの法則からはほど遠い」

    コンピュータ&インターネット産業が急激に発展したのは、指数関数的に性能が向上するムーアの法則がいわばエンジンとなっていたからで、数十年から100年かけても2倍、3倍にしかならない分野では、そもそも爆発的なテクノロジーの進化は起きようがない。ガソリン車の燃費はもう極限近くまで高められていて、伸び代はほとんどないし、ソーラーパネルはまだ成長の余地はあるといっても、どんなに頑張っても100%を超えることはないわけで、成長余力はあと4倍ほどしかない。
    ムーアの法則がそろそろ限界を迎えたといわれるいま、その代わりになりそうなスピーディーな駆動力を提供してくれるとしたら、おそらくAI。あとは宇宙などのフロンティア。その駆動力を取り込めない産業は、きっと、年率数%の低成長を余儀なくされる。それは、もしかしたら人間が本来もつ成長余力の限界なのかもしれない。
    さらにいうと、なだらなか上り坂をずっと歩き続けるような継続的で漸近的な進化というのは、現実にはあまりなくて(or影響が現在まで残ってなくて?)、環境の激変が起きたときに、階段をダーン、ダーンと一段飛ばしで昇るように、一気に進化するというのが本当だとすると、ムーアの法則というのは、人間がギリギリついていけるのレベルの急坂で、安定的に、かつスピーディに、進化のステップを駆け上がることができたという意味では、非常にレアケースなのかもしれない。ふつうは、もっと断続平衡説的に、危機的な状況を前にした人類が一気に飛躍する、そうでないときは、ほとんど無風状態が続く、というほうが常態に近いのかもしれない。

    オーディブルはビル・ゲイツ『地球の未来のため僕が決断したこと』の続き。ビル・ゲイツがわれわれに与えてくれた「ものさし」の数々。

    ◎毎年の温室効果ガス排出量=年間510億トン=51ギガトン(10^9トン)
    ・ものをつくる活動(セメント、鋼鉄、プラスチック、その他)31%
    ・電気を使う(電気)27%
    ・ものを育てる(植物、動物)19%
    ・移動する(飛行機、トラック、貨物船)16%
    ・冷やしたり暖めたりする(暖房、冷房、冷蔵)7%

    ◎石油の1日あたりの使用量40億ガロン。
    ・石油はソフトドリンクより安い。1バレル=42ガロン。2020年下半期の石油価格1バレル=42ドルの場合、1ガロン(約3.8リットル)=1ドル。コストコで売られている炭酸飲料は1ガロン=2.85ドル。

    ◎電力の単位ワットは1秒あたりのエネルギー量。
    ・1キロワット=1000ワット(平均的なアメリカの家庭の電力量)
    ・1メガワット=100万ワット(小さな町の電力量)
    ・1ギガワット=10億ワット(中規模都市の電力量)
    ・100ギガワット(大きな国の電力量)
    ・1000ギガワット(アメリカの電力量)
    ・5000ギガワット(世界の電力量)

    ◎1m^2あたりの発電容量(同じ電力を得るのに必要な面積は下に行くほど大きくなる)
    ・化石燃料発電 500-10,000ワット
    ・原子力発電 500-1,000ワット
    ・太陽光発電 5-20ワット(理論上は100ワット。誰も実現していない)
    ・水力(ダム)発電 5-50ワット
    ・風力発電 1-2ワット
    ・木質などのバイオマス発電 1ワット未満

    ◎DAC(直接空気回収)大気中のCO2を直接回収するのコストが1トンあたり100ドルだったとしても、年間510億トン排出される炭素をDACによって回収するには毎年5.1兆ドルかかる計算(世界経済の6%に相当)。

    ◎電気を使う(発電)活動によって排出される温室効果ガスは510億トンのうちの27%を占める
    ・石炭36%
    ・天然ガス23%
    ・水力16%
    ・原子力10%
    ・再生可能エネルギー11%
    ・石油3%(化石燃料合計で全体の2/3)
    ・その他1%

    ◎太陽光発電・風力発電の間欠性と地域性の問題。
    ・日中に発電した余分の電気をバッテリーにたくわえ夜間に利用。充電と放電を1000回繰り返すとバッテリーの寿命(ということは3年弱しかもたない)
    ・日照時間の長い夏に発電・充電し、日照時間の短い冬に消費する。シアトルの緯度で日照時間の最大の日はと最小の日の2倍、カナダやロシアでは12倍。
    ・ドイツの太陽光発電では、2018年6月の発電量は12月の10倍。夏に使いきれずにポーランドとチェコに送電している。
    ・化石燃料とは違って持ち運べないため太陽光発電・風力発電の立地は限定される。送電網の必要性。
    ・「要するに、炭素ゼロの電気に近づくにつれて、間欠性がおもな原因となってコストが上がるのだ。それゆえグリーンな発電手段に切り替えようとしている都市も、やはりほかの手段で太陽光と風力を補っている。電力需要に応じてガス火力発電所などの発電量を増減させているのだ。いわゆる”ピーク量電力”は、どうこじつけても炭素ゼロとはいえない」

    ◎電気を蓄える手段
    ・バッテリー。「発明家たちはバッテリーに使える金属をすべて調べたが、すでに製造されているバッテリーよりはるかに高性能のものを製造できる素材は存在しないようだ。性能を3倍にすることはできても、50倍にすることはおそらくできない」
    ・揚水発電。グリッドスケール蓄電方法のもので最大級でも、全米最大の10の施設の合計で、全米消費量の1時間未満の分しか蓄えられない。
    ・水素(燃料電池)。まず電気を使って水素をつくり(炭素ゼロの電力だとさらに高コスト)、その水素を使って電気をつくるため非効率(エネルギーの一部が失われる)。水素を蓄えるために圧力をかけると水素分子は小さいので金属を通り抜けてしまう。

    ◎ものをつくる活動(セメント、鋼鉄、プラスチック、その他)によって排出されるのは全体の31%
    ・鋼鉄:鉄鉱石+コークス+酸素→鋼鉄+CO2。1トンの鋼鉄をつくるのに1.8トンのCO2。1トンあたりの平均価格750ドル+グリーンプレミアム16-29%
    ・コンクリート=砂利+砂+水+セメント。セメント=石灰石+熱→酸化カルシウム+CO2。1トンのセメントをつくるのに1トンのCO2。セメント1トンあたりの平均価格125ドル+グリーンプレミアム75-140%
    ・プラスティック:製造段階で炭素の半分はプラスティックのなかにとどまる。ということは、炭素を蓄える手段としても使える可能性が。1トンのプラスティックをつくるのに1.3トンのCO2。エチレン1トンあたりの平均価格1000ドル+グリーンプレミアム9-15%

    ◎ものを育てる(植物、動物)活動で全体の19%の炭素排出
    ・メタンは100年間で分子ひとつあたりCO2の28倍、亜酸化窒素は265倍の温暖化効果。メタン+亜酸化窒素の年間排出量=CO2換算で70億トン分。ものを育てる活動の80%を超える量。
    ・世界中の10億頭の牛(肉+乳製品)が毎年メタン(げっぷとおなら)をCO2換算で20億トン分、全体の4%排出。
    ・豚や牛の糞に含まれる亜酸化窒素は、メタンに続く2番目に大きな排出源
    ・植物由来の肉。ビヨンドミート、インポッシブルフーズ。牛挽肉に対するプレミアムは86%
    ・人工培養肉はまだ割高。2020年代半ばにスーパーに並ぶ
    ・食料廃棄物が腐って発生するメタンは、年間CO2換算で33億トン分の温暖化効果
    ・アンモニアを生成するハーバー・ボッシュ法による合成肥料によって農業生産性は飛躍的に向上したが、肥料に含まれる窒素の半分以上は作物に吸収されずに地下水に吸収されるか、亜酸化窒素として空気中に漏れ出る。合成肥料が排出する温室効果ガスは13 億トン。2050年には17 億トンに達する。
    ・森林破壊は、ものを育てる活動による排出量の30%を占める。
    ・植林はほとんど解決に寄与しない。一本の木が一生(40年間)で吸収できるCO2は4トン。その木が燃やされたら、木に蓄えられたCO2はすべて大気中に放出される。回帰線と極圏のあいだの中緯度地方の木々はほとんどCO2の排出・吸収に寄与しない。平均的なアメリカ人1人が一生に出す排出分を吸収するには20ヘクタールの木を熱帯に植える必要がある。アメリカの人口をかけると65億ヘクタール(6500万km2)=地球の土地のおよそ半分。

    オーディブルはビル・ゲイツ『地球の未来のため僕が決断したこと』の続き。

    ビル・ゲイツが言うグリーンプレミアムと炭素に値段をつける施策(炭素税はその一つ)は、環境経済学ではずいぶん前から言われてきたことで、2008年に関連本をつくった内容が、14年後のいまもほとんどそのまま通用することを知って愕然としてしまった。人類はこの10年以上、ほとんど何もできなかったのかと。

    気候変動対策は待ったなしの状況なのに、相変わらず人類はメンツだの権力闘争だのといった近視眼的な争いを乗り越えられず、戦争がない状態という意味でのモラトリアムはロシアによって一方的に終わりを告げられた。戦闘と都市の破壊は脱炭酸とは真逆の、最悪の環境破壊で、このまま戦線が拡大すると、人類に残された時間がどんどん短くなってしまう。

    エネルギーや発電・送電インフラ、エアコン、自動車を次世代に完全に切り替えるのに10年以上、20年でも足りないくらいの時間がかかることを考えると、2050年に目標達成するには、遅くとも2030年には代替品市場が立ち上がり、古い製品の販売を順次停めていかないと間に合わない。

    オーディブルはビル・ゲイツ『地球の未来のため僕が決断したこと』の続き。ビル・ゲイツがわれわれに与えてくれた「ものさし」の数々。

    ◎移動する(飛行機、トラック、貨物船)は510億トンの16%
    ・内訳は乗用車47%、中大型車30%、貨物船・クルーズ船10%、飛行機10%、その他3%
    ・乗用車は10億台。
    ・米国ではEVのガソリン車に対するグリーンプレミアムは1マイルあたり10セント、年間1200ドルのプレミアム。バッテリー価格が下がれば、2030年にはアメリカでもプレミアムはゼロに達する見込み。
    ・ガソリンが高いヨーロッパではEVのガソリン車に対するグリーンプレミアムはゼロ。
    ・自動車は平均14年以上走る。2050年までにEV100%を達成するには、2035年までに100%EVのみ販売する体制が必要。

    ◎リチウムイオン電池に詰め込めるエネルギーは、同じ重量のガソリンの35分の1
    ・長距離バスやトラックはバッテリーが重すぎて実用性に欠ける
    ・一度の充電で600マイル走る電動トラックに積める荷物は25%減、900マイル走るなら100%減
    ・軽油に対する炭素ゼロの次世代バイオ燃料のグリーンプレミアム103%、電気燃料は234%
    ・船と飛行機も電動化するにはバッテリーの重量が問題になる。
    ・化石燃料で飛ぶジェット旅客機は電動飛行機の3倍超の速さで6倍長く飛べ、150倍近くの人を運べる
    ・ジェット燃料に対する次世代バイオ燃料のプレミアムは141%、電気燃料は296%
    ・コンテナ船は電動船の200倍の荷物を運べ、400倍の長距離を航行できる
    ・コンテナ船の燃料バンカー重油に対する次世代バイオ燃料のプレミアムは326%、電気燃料は601%

    ◎冷やしたり暖めたりする(暖房、冷房、冷蔵)は510億トンの7%
    ・家庭でいちばん電気を消費するのはエアコン。いちばんエネルギーを消費するのは暖房と温水器。
    ・現在世界中で使われているエアコンは16億台、2050年に50億台超。冷却エネルギー需要は3倍に。
    ・省エネ型のエアコンに切り替えるだけで、2050年までに冷房のためのエネルギー需要を45%減らせる
    ・暖房と温水器を合わせると、建物からの全炭素排出量の1/3を占める。天然ガス、灯油、プロパン。

  • ビル・ゲイツが温暖化について書いた本になります。
    単に何が何でもエネルギー使用量下げろ、石炭火力使うなの過激な環境団体とは違って、「世界全体ではエネルギーによって提供されるものやサービスがもっともたくさん利用されてしかるべきである」という考えは共感が持てました。
    ただ、誰でもできそうな感じで「植物由来のハンバーガーを食べてみる」ということはないなと個人的には考えます。
    本の中でもイノベーションに期待していまして、その環境整備が必要と書かれてましたが、個人的にはファクトフルネスとかの姿勢の通り技術革新でなんとかなるんじゃないか?という思いが強いです。

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著者プロフィール

1955年、シアトル生まれ。13歳のときにプログラミングを始める。1973年、ハーバード大学に入学。在学中にポール・アレンと共にマイクロソフト社を創業。MS-DOS、Windows の開発により、同社は世界的ソフトウェアメーカーに。2008年以降は慈善事業に専念するため同社の仕事から徐々に離れる。『フォーブス』の2015年世界長者番付1位。

「2015年 『[生声CD&電子書籍版付き]対訳 セレブたちの卒業式スピーチ ――次世代に贈る言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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