批評の教室 ──チョウのように読み、ハチのように書く (ちくま新書) [Kindle]

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  • 筑摩書房
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感想・レビュー・書評

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  • ものすごくおもしろくて一気読み。
    読む前は、ちょっと難しいのかな、と思ってやや腰が引けていたんだけど、「批評」というものについて、初心者向けで、言葉としては多少学術っぽい用語や理論やちょっと難しそうな文献も出てくるけれども、すごくわかりやすく説明してあって読みやすくて、例としていろいろエンターテイメントな映画や小説が出てきて、エッセイとしても読める感じなのがよかった。(ディカプリオとバズ・ラーマンが好きなんですね)。文章にユーモアがあるし。(たとえば、「私が好きなのはうなぎではなく、批評です」あたりはなんかツボで声出して笑った)。

    批評を書くわけじゃなくても、確かに普段から、実際に系図書いたり歴史調べたりはしないとしても、こういう心構えで、こういうところに注意して、本を読んだり映画を見たりすれば、もっと理解が深まるんだろうなっていう点もいろいろわかった気がした。(ブクログでのわたしの単なる感想メモが批評といえそうなレベルになることはないけども)。
    あと、論文を書いたりする基本てこういう感じなのかな、と思って興味深かった。(どうでもいいけど、わたしは大学に行ったものの論文を書かなかった(単位を多くとれば論文を書かなくてもいいという学科であった)、のを後悔しているし、コンプレックスめいたものがあるので、論文を書くということに興味があって。)

  • 批評の基本的な考え方が分かります。
    「作者は何を伝えたかったのか」よりも「作品が何を表現しているか」で問い立てした方が良い。
    参考文献として批評や創作に関する理論書が沢山紹介されているのもありがたい。

    批評は切り口を決めて、ポイントを絞って書くのが大事。
    批評家は作者やファンから嫌われる存在なのでそれを覚悟した上でやる必要がある。

    長年地元の友人と読書会をやっていますが、それぞれが紙一枚ぐらいに批評的視点で考えをまとめて、それを基に議論するとより深い話ができそうだと思いました。

  • テクストを精読し、分析し、そしていよいよ批評を書くまでのプロセスにおけるいろんな小技・裏技を教えてくれている一冊。
    老婆心ながら大学生がレポートとか卒論を書く際にとても参考になるんじゃないだろうか。

    「ストーキングが許される場所はテクストだけ」「とりあえず作者には死んでもらおう」など、小見出しの比喩がキャッチーで、なおかつたくさんの引用がとても楽しい。

    作者みずからが書いた批評も載っていて、作者本人も認めているがこれがあまり上手じゃない。そうなんだよね、なんでもそうなんだけど隙のない完璧なものを見せられたって、すでに試行錯誤の痕跡が抹消されているから、そこから学べることって案外少ない。
    だからなのか、ワークインプログレス状態のままの批評を掲載してくれている。だから自分ならこうしたいとか、いろいろ対話しながら実作を読めて学べるところがとても良いと思った。

  • とっつきやすい、批評入門。実践編もあってわかりやすかった。

  • 批評の基本を教えてくれるので、大変有り難い。勉強になる。
    しかし、推しに惑わされずに作品を評価するのは個人的にはめっっちゃ難しい…推しが出てたら全部良い作品に思えちゃう…

  • さえぼう先生が、映画、文学といった主にフィクションを「批評」することの心得を教えてくれる一冊。これは入門書として最適な一冊だと思うし具体例もふんだんに取り入れられていて、面白く読んだ。そして、批評ってやっぱり大変だなーとも思った。ベースにその分野の知識があるのもそうだし、関連する作品を渉猟し丁寧に読み解くのは、やっぱり大変なのだ。批評はとかくクリエイターと比べて批判されがちだが、いや結構大変なんだ、とそういう裏テーマもあるのかもしれない。一方で、それがコミュニティを作るのだということもある。そんな、批評を巡るあれこれを語ってくれる一冊として面白く読んだ。

  • p.2022/9/26

  • なんかもうちょっと中身のある感想を書きたい。
    そんな人が最初に読むのにいい本だと思います。自分が書くだけでなく、世に溢れる「批評」を読むときの副読本としても。

  • - ベーシックなところから、作品の見方を考えさせてくれる本。
    - ***
    - 批評というのは、何をするものなのでしょうか? これについてはややこしい議論がいろいろあるのですが、ものすごく雑にまとめると、作品の中から一見したところではよくわからないかもしれない隠れた意味を引き出すこと(解釈) と、その作品の位置づけや質がどういうものなのかを判断すること(価値づけ) が、批評が果たすべき大きな役割としてよくあげられるものだと思います。
    - 読んでいる本や映画の台詞、字幕などに知らない単語があったらその都度、辞書を引きましょう。
    - とりあえずはきちんと作品内の事実を認定するところから始め、「間違っていない」レベルを目指しましょう。その後にそれぞれの描写と全体の関係、キャラクターの性格、場面のトーンなどを考えるようにすると、作品が表現していることも読み取れるようになります。これができるようになると、作品の意味がだんだんわかってきたり、自分独自の解釈を提示できたりするようになって、作品が前より面白くなります。
    - 基本的に作中に出てきているものには全て意味があると考え、とくに複数回出てきているもの、しつこく時間をかけて描写されているもの、通常であればそこに出てこないはずのものには注目しなければなりません。作品に何かの描写が入っているということは、物語を語る上で何らかの意味があるはずです。
    - こういう約束をわかって見ていると、最初からいろいろな伏線に目配りしつつ注意深く見ることが可能になります。  こうした読みが可能になるのは、フィクションは現実の人生と違って展開に必要なことだけ描写するからです。現実ではちょっと親切にしてくれた程度の人と恋が芽生えることはそんなにないかもしれませんし、そういうことばかり考えていると勘違い野郎になりますが、物語の世界で何かが描かれれば、それは後の展開に関係があるということです(もし関係なかったらそれは話の作りのほうにたぶん何らかの問題があります)。現実とフィクションは違うことを認識しつつ、登場人物が誰かに親切にした時は深読みしましょう。
    - しかしながら性的な嗜好をシャットアウトして作品を見るのは難しいので、「自分の性的な嗜好が評価に影響を及ぼす可能性がある」ということを念頭に置いて作品を見たほうがおそらくはうまく批評ができます。
    - 「作者は何を伝えたかったのか」みたいな問いの立て方をすると、固定できるのかもよくわからない「作者」を孤独な天才のような形でまつりあげてしまう方向に行きやすくなる危険があります。それよりは、「作品が何を表現しているのか」みたいな問いを立てたほうがはるかに分析しやすくなります。
    - 基本的にポストコロニアル批評は西洋帝国主義に、フェミニスト批評は性差別に、クィア批評は性的逸脱とその禁止に着目して、読みの対象とする作品は「社会が決めた条件づけ」とどう向き合っているのかを考えます。
    - 2 タイムラインに起こしてみる /
    - 複雑なお話をタイムラインや図に起こすハートフィールド作戦は理解にはけっこう役立ちます。/// 一方、タイムラインに起こすと矛盾が発生する小説もあります。
    - ディケンズはハートフィールド的にはけしからん作家かもしれませんが、ワクワクするような展開とかユーモアで読者を引きずり込んでしまうため、よく考えると時間経過がおかしくても読んでいる最中はあまり気付きません。エリオットのように緻密な作家と、シェイクスピアやディケンズのようにノリで観客や読者を引っ張っていってしまう作家の間には作風の違いがあります。そのへんもタイムラインに起こすことでいろいろ分析できるのです。
    - 3 とりあえず図に描いてみる
    - 人物相関図に起こしてみる
    - 物語を要素に分解する
    - 最初は精読して細かいところに注目する必要がありますが、その後一度細部から離れて物語をざっくり要素に分解して整理することで、他の物語との共通性や差異などが見えてきます。そうすると、作品のどこが伝統的で、どこが独創的なのかが特定しやすくなります。これは作品を単体としてではなく、他の作品との関連で理解する時に役立ちます。斬新なお話に見えても、実は昔からあるモチーフをうまく活用しているだけだったりします。これはパクったとか独創性がないとかいうことではなく、昔からウケていて、みんなが面白いと思ってくれそうな展開のツボを押さえているということです。とくに娯楽的な作品を作りたい場合、定番の展開を押さえた上でどこをどう崩すか、どこにクリエイターの個性を入れるか、どこを新しくするかが大事になってきます。
    - ポイントは固有名詞を全部取り払って話の構造だけを見ることです。
    - 先程説明したポストコロニアル批評やフェミニスト批評、クィア批評などは、登場人物の性別や人種を含めた細かい特性や、物語が起こった場所、歴史的な文脈などに注目するものですが、抽象化はこれと逆で、特性や場所を一度全部捨てます。しかしながら、実はきちんとしたポストコロニアル批評やフェミニズム批評、クィア批評をするためには、前段階としての抽象化ができる必要があります。
    - モチーフ早見表を作る /// 同じクリエイターの作品を二~三作鑑賞した後、何か似たモチーフに気付いたらこういう表を作っておいて、後から気付いた別のモチーフを加えたり、他の作品を見たらその作品を付け加えたりすると良いでしょう。ここから作風の発展などを考えることができます。
    - ノエル・キャロルは『批評について』の第二章で、芸術の価値評価について「成功価値」と「受容価値」というふたつの基準のどちらを重視するかが批評において問題になってきたことを指摘しています。「成功価値」は「その芸術家は達成(もしくは失敗) という観点からみたときに何を遂行しているのか」(森功次訳、七四頁)、受容価値は「作品から観賞者にもたらされる肯定的な経験」(七六頁) がどのようなものかを基準に考えます。キャロルはこのどちらの評価軸も批評では必要だと考えていますが、ふたつのうちでは芸術家を主体とする「成功価値」を重視しています。  私はここはキャロルと意見が異なり、どちらも必要だとは考えますが、どちらかというと「受容価値」を大事だと思うほうです。キャロルは「その作品は狙いどおりの成功を収めているのか、それとも失敗なのか」(七一頁) が問題だとも言っていますが、これは比較的しっくりくる言い方で、既にお話ししたように、作者である芸術家よりも作品の「狙い」を議論したほうがたぶんすっきり批評ができます。一方で、私は批評や受容者が存在しなければ芸術作品は存在しないという考え方を強く持っているので、受け手が作品を見てどういう経験をするかは極めて重要であり、少なくとも自分が批評をする時はその話をしなければいけないと考えています。
    - おそらく一点、価値づけにあたって押さえておいたほうがいいのは、作品に独創性とか斬新さがあるかどうかです。
    - 初心者が批評を書く時に大事なのは、メインの切り口をひとつにすることです。作品についてディスカッションをしている時はいろいろなことが思い浮かびますが、作品としての批評を書く場合、全部を盛り込んではいけません。
    - 批評を読んでもらうため、薦めたい作品に興味を持ってもらうために大事なのは、「感動した」とか「面白かった」みたいな意味のない言葉をできるだけ減らして、対象とする作品がどういうもので、どういう見所があるのかを明確に伝えることです。
    - これは批評にも通じる考え方です。私はここまでいろいろこうしろああしろと言ってきましたが、あなたがここまで批評ですべきことを全部理解して、ある程度書き慣れてきているのであれば、必要だと思う時はルールをすべて無視してください。ポイントは「批評ですべきことを全部理解して」いるという前提があることです。ルールを知らない人がルールを無視することはできない……というか、ルールを学ばずただなんとなくやっているだけだとそれは単なる無知で、檻にこもって暴れているだけになってしまいます。ルールを覚えた後で「ここはルールにのっとらないほうがいい」ということが判断できるようになれば、それは独創性への第一歩、自分の声を見つけるための挑戦となります。

  • とある作品を、自身の親しいに薦めるというだけでしたら、その面白く感じたところなどを素直に話せば良いのだと思います。ここブクログのように。そうではなく、批評として、その作品を論じるとなると、おそらく説得力というものが必要になってくるのかと思います。本書では、大学で批評を教える立場にある著者が、プロとしての批評の作り方を詳しく講義されています。読み方(精読)、見方(分析)、書き方と、作品に対する接し方の基本を学ぶことが出来ます。もちろん外部に対する文章を書くのですから、読んでもらえる特徴、個性が必要かと思われます。そのことについて「ルールを破る」作法についても説かれており、そこは非常に説得力がありためになりました。最後に批評についてのディスカッションも触れられており、批評に対する楽しみ方までも教えられました。この世界の入り口に最適なものになるように、本書の構成自体が非常に勉強になるものでした。

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著者プロフィール

英文学者、批評家。

「2023年 『高校生と考える 21世紀の突破口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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