緑の天幕 [Kindle]

  • 新潮社
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感想・レビュー・書評

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  • 「ソ連とはいったいなんだったのか」、っていう売り文句に惹かれて妙に読みたくなって。「ロシア」っていうより、「ソ連」ていうほうがずっとわたしにはなじみ深いし。子どものころからソ連っていう国はすごく謎めいた存在で…。

    あまりに長いし、難しそうなので読み切れないんじゃないかと心配していたんだけど意外とするする読めてほっとした。語り口がよくて、使われている言葉は難しいけれど、なんとなく児童文学っぽさがあるような。
    主だった登場人物は一貫しているんだけど、各章ごとに登場人物が入れ替わったりとか、時代や舞台もかわったり、この章で脇役だった人がこの章では主役だったりとか、と連作短編集みたいな感じ。
    全体的に、勝手にもっとほのぼのしたノスタルジックなものを予想していたんだけど、表現や描写としてはそういう感じで荒々しさとかはないのだけど、内容としてはごく普通の人でも反体制的な行動とったら、親しい人の密告によって逮捕されたり、強制収容所に送られたりっていうのがしみじみ恐ろしかった……。

    で、ソ連とはなんだったのか。
    あとがき読んで理解するっていうのも、内容がぜんぜん読めてなかったみたいだけど、著者のインタビューを引用した訳者あとがきがわかりやすくて、内容をより理解できた気がした。ソ連は、「人間を<人間でなくさせる>多いなる機械」をつくりあげ、ごく一般の人たちの「恐怖や利己心や忖度」で、その「強大なシステム」は止められなくなる、と。でも、その強大なシステムを止めるよりどころになるのが「文化」なのだ、と。
    (なんだか強大なシステムを止められないっていうのが今の日本みたいな気がして怖い……)

    ラスト、ソ連を出た人たちが幸せそうになっているのは、結局、ソ連を出なきゃだめだったのか?という気がしてなんだかつらいような…。

    でも、やっぱり、わたしに知識がなさすぎて、理解していない部分も多々あるんだろうなあと思ってそれがかなり残念。もっとロシアの歴史や文学に詳しければもっと楽しめただろうと思う。
    もっといろいろ解説がほしい……。

  • 今改めてソ連を振り返る。700ページの大作、イリヤ・ミーハ・サーニャの一生をめぐるまさに大河小説。物理的に重くて外出先で読むには苦労したが、読み進めるのは楽しかった。
    3人の中で最後まで生き残るサーニャらの台詞「イリヤとオーリャを覚えてる?ひどい終わり方だったよね。ミーハとアリョーナは…もっとひどかった」「みんなソヴィエト政権に殺されたのよ、ひどいことだわ」彼らは反体制活動を行い、監視、逮捕、亡命、拷問や収容所送りが日常にあった。ウリツカヤは「壁にぶつかって割れる卵」(村上春樹エルサレムスピーチ)の側に立つ。
    文学や音楽が重要なモチーフとなっており、芸術を愛する人々への共感がある(インテリ層という言い方もあるが)。社会システムに抗う際にはオーウェルの1984を読みソルジェニーツィンを読み、音楽を聞いて心を慰める。ブロツキーにしても私は詩はわからないのだが、パステルナークとトルストイは作家に愛されているようだ。

  • 700頁の大作、ウリツカヤの全エネルギーを投じたかのような、ロシアのエッセンスが全て、ぎゅっと詰まっているかのような香り高い大河小説だ。

    スターリンの死から始まる「その」時間・・ラストは1996年   ソビエトが崩壊し、プーチン政権が始まっている時間だ。
    物語は少年3人を軸に、網の目の様に関わる人~そこにはタタール人もジョージア人も・・そしてユダ公と呼ばれてヘイトされるユダヤ人も。
    こうして読みくだすとかの国は芸術が人々の血管を脈々と流れて行く血潮のように感じる。言葉として詩が常に傍らにある。舞台となっている時間はパステルナークが人気高かったことを思わせる。
    そして小説~トルストイは無論、ツルゲーネフ等(案外ドフトエフスキーが出てこない)

    自殺者数世界一、平均寿命70歳のロシアの生と死がページの随所に炸裂する。全体から見るとミ―はのウェイトが重かったような気がする。イリヤ、オーリャはある意味別格的扱いを受けているがどちらも特異な個性であるがゆえに周囲に波を起こす。

    ストーリーは時間的なもので無く、スプラッシュの様に、幻灯機のこま落としの陰影を持ってアトランダムに挿入され、読み手はその都度スポットライトを当てられる人物が刻むノミの刃に一喜一憂させられて行く仕様。

    表題に関する字句が出てくるのは中ほど・・・緑の天幕に向かって長く続く行列・・に見えるロシア人の在り様

    ロシア人は呼称、姓名(祖先や夫の名が付いたり)が独特な為、同一人物でありながら、コロコロ変わる呼び方で、混乱が無かったと言えば嘘になる。無論、今回もA4紙にびっしり、時系列、横断図、関係図など書いて読んだ。でも100人登場したとすれば3,4人❓❓に終わった人もいたかもしれない。それをスルーして俯瞰図として眺めたロシアの人生縮図から浮かび上がるものをウリツカヤは、それぞれに抱いて、感じて、何かを掴んでほしかったのかと思った。

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