西瓜糖の日々 (河出文庫 フ 5-1)

  • 河出書房新社 (2010年8月3日発売)
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本棚登録 : 2210
感想 : 211

詩的・幻想的な世界観の短い小説。「西瓜糖の世界で」「インボイル」「マーガレット」の3チャプターに分かれる。さらにその内部が最短2行から5ページぐらいまでの掌編として区切られる構成となっている。

舞台は現実の世界ではない。"わたし"が住むその世界では建物・家具・服などさまざまなものが西瓜糖でつくられている。人口は約三百七十五人。人びとはそれぞれに仕事をもち、日々を過ごしている。かつては人間と同じく言葉を操る虎たちの時代で、"わたし"も虎によって両親を失っている。世界のはずれには果てしなく広がる<忘れられた世界>につながる入り口が存在する。<忘れられた世界>との境界にはならず者たちが集う。のどかな西瓜糖の世界を紹介する第一編に始まり、第二編ではインボイルを中心とした荒くれたちの登場が転機となる。

同著者の『アメリカの鱒釣り』はどう読んでよいのかもわからずに終わったのだが、寓話のような本作はかなり趣きが異なり、終わりまで物語を楽しめた。よく似ていると感じた作品があり、それは村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のなかの半分である「世界の終り」フェイズである。箱庭的な世界観、外部の存在、キーとなる動物など、物語の舞台に多くの共通点がある。また、"わたし"の語り口調とやや浮世離れした言動も村上春樹の比較的初期の作品の主人公たちと相通じる。恋人との語らいの様子なども同じく近しいものがある。それ以前から村上氏がブローティガンの影響を受けていただけでなく、もしかすると『世界の終り〜』刊行前年のブローティガンの自殺が、直接的にも作品を書かせるモチベーションになったのだろうか。

読み終わってからも、"わたし"が暮らすアイデス(iDEATH)や、広大な外部である<忘れられた世界>、インボイルたちのファナティックな行動、そしてマーガレットのありようなど、それらは何を意味したのかとぼんやり考える。西瓜糖の世界には独特の居心地のよさを感じた。短いこともあって、興味はあるけどなんとなく未読だという方にはとくに一読をおすすめしたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月7日
読了日 : 2021年9月7日
本棚登録日 : 2021年9月7日

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