死体農場 (講談社文庫)

  • 講談社 (1994年12月7日発売)
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感想 : 49
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故・児玉清さんの『寝ても覚めても本の虫』という文庫本で紹介されていたパトリシア・コーンウェル。数多ある外国小説を読み耽っていた児玉さんが絶賛していた作家なので、それなりに面白いんだろうと思って何気なく手に取りましたが、まー面白い。数時間かけて一気に読み切りました。

物語は、要請に応じてFBIの捜査に加わる検屍官、ケイ・スカーペッタの一人称で綴られます。小さな田舎町で起きた、少女の変死事件。死体を調べる中でケイの心を捉えた「ある小さな疑問」を明らかにするため、「死体農場」と呼ばれる施設に調査を依頼しつつ、彼女自身も積極的に少女の死の真相を突き止めるべく、動き回ります。その一方で、ケイの姪や同僚たちとの複雑な人間ドラマも展開され、それらが緻密に綾を成して物語を進めていきます。
タイトルに出ている「死体農場」が出てくる場面は驚くほど少ないですが、そこから得られたヒントをもとに推理を組み立て、真相に辿り着くケイ。そこからは、まさにジェットコースターのように一気に終局までダレずに突っ走っていきます。最も、核心に至るまでに「女性」であるケイの若干のヒステリーや混乱した言動、ある人物との諍いなんかがあったりしますが、これは極めてアメリカ作品的、と言えるでしょう。

ある小説を「好い作品だった」と思える個人的な必須条件として、「読んでいて風景や登場人物の姿かたちが想像でき、それが色を伴って脳内にビジュアル化されること」があります。当然、この作品の舞台となっている街のことは知りませんし、なんだったらアメリカに行ったこともないけど、それでもこの本では「映像化」がすんなりできました。それぐらい、入り込みやすい作品なのではないかと思います。
もちろん、死体の描写なんかも作品の性質上、非常に緻密なので、その辺が苦手な方には手が出せないと思いますが。

ケイ・スカーペッタを主人公とするシリーズは、この作品が5作目。あとがきによると、6作目である『私刑』で、過去作品に記されていた伏線が回収されていくみたいなので、これはもう1作目から4作目も買って読むしかない、という感じです。思いがけず佳作に出会えて幸せ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 推理小説(外国作家)
感想投稿日 : 2013年3月1日
読了日 : 2013年2月28日
本棚登録日 : 2013年3月1日

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