パディントン発4時50分 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 41)

  • 早川書房 (2003年10月1日発売)
3.71
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本棚登録 : 1196
感想 : 107
5

クリスティの長編。マープルシリーズ。
クリスティの作品を通して導入部分で最も惹きつけられ、印象深い作品。
 彼女の作品にて列車が題材のものがいくつかあるが、ポアロならオリエント急行であり、マープルであれば今作だ。マープルの友人であるマクギリガディ夫人がすれ違う列車のなかで扼殺される現場を見てしまう。彼女は駅の車掌な伝えるが信じてもらえない。そこで友人であるマープルに相談し、彼女の知り合いの警官に打ち明け、死体の捜索が始まるが、列車の中にも近隣の線路でも死体は見つからない。そんな中でマープルは独自の調査を開始し(その中でとある屋敷が浮かび上がる)とある計画を試みる。
 マープルは年配の為動き回る事は出来ないが、代わりに魅力的なルーシーというお手伝いを派遣し死体を探していく。
 クリスティは年配の人物を描写する事に長けており、お年寄り達がイキイキと描かれている。探偵など沢山の特徴があるが、マープルの様な探偵は余り巡り遭う事はなく、安楽椅子探偵、お年寄りのお婆ちゃんで魅力が満載、という設定は恐らくマープル以降は二番煎じになってしまうだろう。
 すれ違う列車で殺人を見た。そしてその死体を途中で捨てる、死体が見つからないという導入は
当時の列車環境特有のトリックだが、それ故に目新しく感じ、作品の序盤からの期待値が上がっている。そして当然、犯人は意外な人物であり、犯人の特定、追及の仕方も独創的だ。実際に登場人物がイキイキとしている様に思えるのは筆者が愛着を持って描き切っている証拠であり、マープルシリーズは読了後、常に満足感を得る事ができる。ポアロに比べ、意外に悲劇的な結末が多い印象なのだが、バランスを考えてのことなのだろう。
 謎の女、謎の人物等、読者を欺く仕掛けも沢山用意されているが、作中である様に事実は単純であり真相は平凡なものだ。少し上記匂わせがしつこい様な気もするが、嫌になるほどでは無かった。(読み疲れは多少あるが)
マープルの魅力が詰まり、登場人物の配置や使い方が絶妙な作品だ。マープルの登場自体は少ないかもしれないが、マープルシリーズだからこそ出来る「冒険」の詰まった作品に仕上がっている。シリーズ中の時間経過が再読する事で感じる事ができ、「火曜クラブ」からだいぶ時間が経過している事は感慨深い。ポアロシリーズしか読んだ事無ければ是非おすすめしたい作品。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月27日
読了日 : 2023年7月27日
本棚登録日 : 2023年7月25日

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