訴訟 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-2)

  • 光文社 (2009年10月8日発売)
3.57
  • (15)
  • (29)
  • (29)
  • (8)
  • (2)
本棚登録 : 394
感想 : 38
4

カフカがこっちを笑わせようとしてきている小ネタを訳者の丘沢さんが丁寧に拾っていくので重苦しさが薄く、さらにヨーゼフ・Kが芸術的にウザいので逮捕と先の見えない訴訟に同情心が湧かないため軽やかに読める。ただし最後まで軽やかに読んだ時点で、何を読んだのか迷子になる。決定稿ではないからなのか、終わらない訴訟の話なんだから迷子になって当然なのか、ちょっとまた1ステージ目からプレイしますね、という気持ちになる。巻末にまとめられている「断片」の各章をどこに挟むといい感じに納まるかどうか考える余地もあったりして、ゲームブックのような小説といえるかもしれない。

身に覚えのない訴訟以外は、有能なんだか自己肯定感が高いボンクラなんだかわからない30歳の会社小説&妙な女達との邂逅小説だ。仕事ができるのと人間として深みがあるのは別だと言われたらそうなのだが、ヨーゼフ君事故で頭ぶつけたりしなかった?という不安に駆られたし、なんとも魅力がない彼が妙に気持ちの悪い女達にモテモテなのも幸せなのか不幸なのかわからない(余談:ヨーゼフ君は好きな誰子ちゃんに好かれるからうれしいんじゃなくて誰かが自分を好くことで自分の立場が上になることが好きなんだと思う。権力闘争の人だから)。全体的に、わからなくなる。わからなくすることを追求した本だともいえそう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドイツ - 小説/物語
感想投稿日 : 2021年4月18日
読了日 : 2021年4月18日
本棚登録日 : 2021年4月18日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする