セゾン文化は何を夢みた

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  • 朝日新聞出版 (2010年9月17日発売)
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ele-king別冊アンビエント・ジャパンで参考文献にあげられていて気になり、手に取る。個人的には、2000年代に、リブロポートの本を読んだり、ナディッフに行ったりしたことはあったけれど、セゾン文化がピークの頃には残念ながらふれることができなかった。その自由で、何か最先端の文化が生み出されそうな空気というのは、今の時代から見ても憧れるものがある。ボードリヤールやフーコーやコジェーヴを語ることと、洋服や本やテーブルを売ることがつぎ目なしに連続していると信じられる空気。客と店員が作家や作品について話し込むことは珍しくなかったアール・ヴィヴァン。あのころの西武流通グループ全体に共有されていた「演劇的振る舞い」「演じる」という意識。そういったきらびやかな一面に反して、「この穀潰しが」といった視線…この国の人びとの、直接お金を生まないものに対する感情嫉妬と羨望と軽蔑と憎悪――とも通底しているのかもしれない(セゾングループの凋落後、堤清二に向けられた批判の根もそこにあると著者は考えている)、といった点もおさえられている。◆美術館は道楽でもなければ販促の道具でもなかった。もっと積極的に、百貨店のなかで現代美術を紹介することによって何かが生まれると信じていたのではないか。価値あるものを並べるのではなく、何が並べることによって新たな価値を生み出そうとした、と言い換えてもいい。「それが本業にも必ず反映されるはずだと思っていた(略)」(p.110)◆セゾン文化とは何だったのか。(略)壮大なる同床異夢、と言うことはできないか。 堤/辻井と彼のまわりに集まってきた、スタッフやクリエイター、芸術家、批評家、観衆、そして消費者、すべてが、 《セゾン文化》の名のもとで、少しずつ違った夢を見ていたのではないか(p.272-274)◆決して、何も残らない虚像ではなく、関わった多くの人にさまざまなものを残したし、文化的な貢献も少なからずあったんだよ、ということが語られているように思った。◆「武満徹をめぐる15の証言」2007小学館、獅子文六「箱根山」(…西武と東急の戦争を題材)、ジャック・プレヴェールあたりは手に取りたいと思った。そして堤清二/辻井喬という人にすごく興味がでてきた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年12月30日
読了日 : 2023年12月30日
本棚登録日 : 2023年12月30日

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