場面は、主人公の藤原不比等が、自らも信頼を受け、玉座にと思い極めていた草壁皇子の死に立ち会うところからはじまる。持統天皇、文武天皇、元明天皇、元正天皇と、時に協力しあい、信頼を受け、政治に腕をふるい、かけひきをし、皇族や並み居る臣下たちを説得し味方につけ、あるいは蹴散らして、権力を振るう。底には、「父上は満ち足りていたであろう。吾は餓えているのだ」「この国の根幹を変えようとしているとは露ほども悟られてはならぬ。天皇の力を奪おうとしていると見抜かれてはならぬ。未来永劫に続く力を求めていると知られてはならぬ」という思いを抱きつつ。古からのしきたりをねじ曲げ、天皇を神にまつりあげ、本来なら資格のない者を皇位に就けようとする、と謗られても堪えず。政とは、なにかを手に入れるためになにかを差し出す、を地でいき、ひとつひとつ積み重ねていき。最後は、長屋王のなかに、若き日の自らとおなじ野心を感じながらも、死につく、と。「古事記」も天皇を頂点とした国家のありようもみな、藤原不比等が自らの力をふるい、藤原家を未来永劫繁栄させるためにこしらえたもの、という見方から描かれた歴史絵巻。そこまでするのか、そこまで先回りして読み切るのか、といった思いを目の当たりにする圧巻。高島正人「藤原不比等」(吉川弘文館)とあわせて読むと、また味わいが増します。
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- 感想投稿日 : 2022年2月16日
- 読了日 : 2022年2月13日
- 本棚登録日 : 2022年2月15日
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