たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫 SF 739)

  • 早川書房 (1987年10月1日発売)
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感想 : 317
5

人間とエイリアンの関係性を描く短編集。

「たったひとつの冴えたやりかた」
いたるところで散々パロディに使われているのは知っていたが、未読だったので今回が初読である。当初はハートフルなSF冒険譚のイメージだったのだが、中盤でのホラーへの変容、そして最後の悲劇的な結末には驚いてしまった。エイリアンとの初遭遇はワクワクする反面、何もかもが人間と違うということを思い知らされる。当然ながら言語体系はおろか精神構造も肉体構造も違うため、接触には当然ながらリスクが存在する。頭のなかに住み着いたエイリアンとの意気投合から始まるが、まさかその寄生生物が人類の存亡を賭けた厄災になるとは露ほども思いもしなかった。巧みなのは、この作品には明確な悪役が存在しないことである。シロベーンは抗いようのない本能に従っただけだし、主人公の少女コーティーは冒険心を抑え切れなかっただけである。この抑え切れなかった感情の衝突が、悲劇に繋がったとも言えるが、これは単純な悲劇や自己犠牲の物語ではない。種族を越えた友情を証明するための最初で最後の決断なのである。それこそが「たったひとつの冴えたやりかた」なのであろう。ある種の不幸なめぐり合わせによって若い才能が潰えるというのはまさに悲劇なのだが、それに対して恨み言の一つも言わないのは、物悲しいが非常にクールだ。星の名前にコーティーと付けるのはやや蛇足かつ感傷的すぎた気もするが、この悲しくもすっきりとしたオチは非常に気に入っている。

「グッドナイト・スイートハーツ」
最終戦争の記憶を消し、冷凍睡眠を繰り返してはるか先の時に生きている男レイヴン。そんな彼が燃料切れの豪華宇宙船船を発見する所から物語は始まる。パルプSFの三文スペースオペラめいた軽薄さが漂うが、美容整形で美しさを保ったかつての恋人と若々しいそのクローン、奴隷首輪商人も巻き込んでのアクションシーンは見ごたえがある。船内を掻き回す釣り竿のような武器に、服剥がしガスとガジェットも面白い。最後の最後で夢見た宝のサルガッソーへ行くか、美女を取るかの選択肢、謂わば自由か愛かの二択を迫られるという、全編に渡って男のロマンを詰め込んだような短篇だった。

「衝突」
表題作と同じく、異星人とのファースト・コンタクトを描いた本作であるが、こちらは戦争の到来を予感させる二つの星の緊張関係があり、前者に比べてはるかに意思疎通の困難さがある。表題作と同じ、メッセージパイプを受け取るヒューマンの視点から始まるが、このメッセージパイプというややアナログ過ぎる仕掛けが面白く、何光年と離れているため、届くのに時差があり、受け取った瞬間にはもう事態が起こった後というズレが味わい深い。作品的な仕掛けとして見ると少々薄い味付けだが、このタイムラグが緊迫感や不安感を生む装置としての役割を果たしているのだ。今回は生活習慣や生物的な壁に加え、今回は政治的な壁と言語の壁まであり、ファーストコンタクトの難しさがヒシヒシと伝わってくる。暗黒界の人間と探査員の人間の「違い」が他種族に中々伝わらず、戦争寸前にまでなるが、犠牲者を出しつつも物語は大団円を迎える。表題作のような突飛なアイデアが実を結ぶのではなく、ここに至るまで数多くの奇跡や偶然が重なり合い、天秤が和平へと傾いたというのが非常に面白かった。クルーが殺されても、なおエイリアンを信じようとし、和平への道を模索する主人公には偽善めいたものは一切感じず、むしろ仲間が死んでもそれを交渉の材料にする強かさすら感じる。ただそれはドライな決断などではなく、死んだ人間も生きた人間も誰も戦争を望んでおらず、その意思のバトンを繋いだだけにすぎない。自動翻訳機で説明できない感情や言葉。片言の言語を駆使しての必死の説得が胸に刺さる一本である。

甘ったるいロマンチシズムとシビアな空虚さが同居する不思議な短編集だった。それでも根底に流れているのは人間愛であり、種族としての人類、それに敬意を払う個人の意思に震えるSFである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2019年5月29日
読了日 : 2017年3月16日
本棚登録日 : 2019年5月29日

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