わたくしが初めて自力で読んだ洋書が、今年生誕120年を迎へたヘミングウェイでした。リライト版ではオスカー・ワイルドだつたけど。
Men Without Womenといふ作品で、「女のいない男たち」とか「男だけの世界」などと訳されてゐるやうです。
会話主体の小説ながら、贅肉をそぎ落としてゆくやうなシンプルな文章に惹かれたのであります。おお、これが固ゆで玉子なのか、と実感したものです。
この『老人と海』も同様で、冒頭からぐいぐい読ませます。
年をとつた漁師・サンチャゴは、メキシコ湾流に小舟を浮かべて漁をして暮らしてゐます。相棒として少年が同行してゐたのですが、40日たつても一匹も釣れぬので、少年の親が別の舟に乗るやうに言ひつけたのです。少年は不満ながらおとつつあんの言ふことには従はないといけない。それでサンチャゴは一人で漁を続けるのですが......
沖へ出たサンチャゴ。少年がゐたらなあ、と何度もぼやきます。しかしつひに獲物が喰らひつきます。カジキマグロ。でかい。綱に繋がつたまま、悠揚たる態度で老人を翻弄します。足掛け三日の駆け引きの後、漸く仕留めるのですが、大きすぎて引き上げられません。で、小舟に固定してそのまま凱旋せんとする老人。
魚があまりに大きいので、どちらが引かれてゐるのやら、といふ感じ。まるで入学式を迎へた小学生が、大きいランドセルに振り回されて、背負つてゐるのか背負れてゐるのかわからないのに似てゐる。
ところが、カジキの血の臭ひに誘はれて、鮫が襲撃してきます。危し、サンチャゴ。獲物を守り切れるのか......?
ストオリイは単純ながら、引き締まつた流線型の文章に乗せられて、老人の行動から目が離せません。少年との友情も重要なファクタアでせうが、わたくしは「生きる」ことの本質に迫つた佳作だと思ひました。人間は(すべての生き物は、かな)ほかの生命を奪ふことなしに生きることは出来ない、といふ当然の事を再認識させます。
数数の死闘に耐えて帰還した老人。徒労感に打ちひしがれ、疲労困憊して眠るさまは、人生の厳しさを教へるのです。ああ、俺はまだまだヒヨコだ、とね。
ついでながら、福田恆存の翻訳が絶品であります。沙翁作品でもさうですが、この人の訳を読んだ上で、なほ新訳を試みる翻訳者が後を絶ちませんが、勇気があるなあと。
ちと力が入り過ぎましたかな。わたくしの柄ではありませんね。ご無礼いたしました。
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- 感想投稿日 : 2019年12月13日
- 読了日 : 2019年12月13日
- 本棚登録日 : 2019年12月13日
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