新訳 フランケンシュタイン (角川文庫)

  • KADOKAWA (2015年2月25日発売)
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感想 : 15
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 訳者解説が素晴らしい。父と子の物語、それから吸血鬼ドラキュラと同じく、フランケンシュタインの怪物に課せられた「言語の壁」という問題が取り上げられていた。ドラキュラも怪物も、ものすごく言葉に気をつかっている。英語の勉強をしたという描写が、両方ともしっかりと書かれているのだ。でもそれは、東洋やユダヤ人差別ではないという指摘が面白かった。
 フランケンシュタインの小説を読む前に、相当専門に勉強している人から、いろいろと教えてもらっていたので、さらに楽しめた。初期の頃は、もっとBL臭、または百合があり、文にキレがあったらしいが、版を重ねるときに、削除または改訂されていったという。もっとも初期の頃のストーリーがどのようなものか、ぜひ読んでみたいところだ。
 しかしこのフランケンシュタインが出されたディオダディ荘の怪奇談義。メアリー・シェリーの圧勝だっただろうし、これほど巧みで面白く、普遍的なテーマを一気に書くとは、しかも19歳で書いたとは、恐るべきことだ。
 特に最後、怪物はフランケンシュタインの前で、本当は父のことを想っていたこと。そしてフランケンシュタインも、憎悪以上に、「我が子」として思う責任を感じていること。この父と子は、宗教的なものを思わせるし、現実の親子でも思えるし、両方を感じさせて、本当に見事だと思う。
 手紙のやり取りで「いったい何が起こったんだ……」と思わせといて、フランケンシュタイン家の幸福な萌え展開。それから、エリザベトを引き取って、エロゲ展開。ジュスティヌとの百合。クレルヴァルとのBL。それから、最新の科学知識を盛り込んだ描写と怪物を作ったあとの、弟の死から、ジュスティヌの死刑。そして怪物からの告白と言語習得とずっと見守ってきた家族への絶望までの話。女の怪物を作ってほしいとの約束。その反故による、クレルヴァルとエリザベトの死。ついでに父も死。最後、怪物を追いかけて北極まで向かい、主人公フランケンシュタインは衰弱死する。衰弱死後、そこで怪物の愛情告白。
 内容がたくさん詰まっていて濃密だった。何より、エンタメであり、文学であり、文句なしの傑作だろうと思う。これの「解剖講義」という本があるらしいのだが、読んでみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外小説
感想投稿日 : 2016年3月2日
読了日 : 2016年3月2日
本棚登録日 : 2016年3月2日

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