本陣殺人事件 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (1973年4月20日発売)
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金田一耕助が最初に登場した『本陣』をはじめとする初期の三つの事件。
この三つの事件から分かった金田一耕助の来歴はこんな感じ。

●十九歳で、同窓生の風間俊六(『黒猫亭』に登場)と共に東京に出て大学に通う。
●1930年代:なんかふらりと渡米してしちゃった。アメリカでは毎日ぶらぶら暮らして危うく麻薬中毒患者となりそうなところを日本人街で起こった殺人事件を見事に解決!それを見た日本人実業家久保銀造(『本陣』の関係者)が耕助のことを気に入り、パトロンになった。この時耕助はアメリカのカレッジの学費を出してもらってる。金田一耕助はアメリカの大学を卒業していた!!もじゃもじゃボサボサよれよれだけどアメリカの大学卒業って、この時代にすごい経歴ですよね。
●1930年代半ば:日本に帰り、久保銀造から費用をせしめて探偵事務所を開設する。初めは「門前雀羅(もんぜんじゃくら)、事務所には閑古鳥」状態だったけれど、大阪で起きた大事件を見事解決し、日本中にその名前を轟かせ、警察の上層部とも知り合いになる。
●1937年(昭和12年):24、5歳で『本陣殺人事件』を解決する。この時知り合った磯川常次郎警部とは、今後も岡山県で起きる事件で組むことになる。
『本陣殺人事件』は、「疎開中の横溝正史が、村の人々から聞いた話」という体裁となっている。
●1940年くらい:召集されて、中国や南洋の戦地を転戦する。(終戦後、そのまま「獄門島」に向かう。)
●1946年(昭和21年) :34、5歳。『獄門島』事件の帰りに、岡山に疎開していた探偵作家・Y(横溝正史)を訪ねる。ここで横溝正史は正式に金田一耕助の記録作家になり、親交が始まる。
『車井戸はなぜ軋る』もこの年の事件。
●1947年(昭和22年):探偵事務所はもう閉めたらしい。召集時に閉めたのかな。
終戦後、同郷で同窓生の風間俊六と再会する。風間俊六は建築業の親分となり、茶目っ気と男気があり、鋭さも若々しさも持っている男で、金田一耕助は、風間の二号だか三号だか十七号だか…がやっている旅館に住まわせてもらっている。(『黒猫亭事件』)
金田一耕助のパトロンは、久保銀造と、この風間俊六の二人に増えました 笑

なお、金田一耕助が警察と合同捜査できるのは「警察上層部の推薦状」を持っているからということ、そして人を惹きつける性質のためついついみんなが助けてしまうという人柄のため。
金田一耕助の捜査方法は、「警察による足跡捜査や、指紋検出から得た結果を論理的に分類総合して推理する」という方法です。

『本陣殺人事件』
終戦を迎えた横溝正史は「これからは本格小説一本でやっていこう」と決意する。
横溝正史が取り上げたテーマは「日本家屋における密室殺人」。どうやらこれが日本の推理小説初の密室殺人事件のということ。

昭和12年。
江戸時代には宿場の本陣であった一柳家で、40歳で当主で賢蔵氏と、27歳で元女学校の教師の克子の婚礼が行われた。
その明け方に鳴ったまるで引っ掻くような琴の音。そして悲鳴と倒れるような物音。
人々が夫婦の別宅に飛び込むと、そこには惨殺された夫婦の死体があった。
入り口はすべて閉ざされ、庭に積もった雪には足跡もない。
そこへ登場した金田一耕助という探偵。そしてまた琴の音が響き…。

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動機が、没落する田舎の旧家で代々の気質が組み合わさって起こったかなり特殊なものになっている。それでも当時の閉鎖的な村の因習やら、登場人物たちの気質やらを考えると、この時代の本人たちにしてみたらそうなるしかなかったのか…と思えてしまう。
犯人は密室にするつもりはなかったのに、偶然の出来事と、犯人の心理が大きく動いたたために結果的に密室になった、ということがより劇場的になっている。

『車井戸はなぜ軋る』
K村の名家本位田家は、先代夫婦が車井戸に身を投げたことにより没落を辿っていた。
現当主の庄次郎は名家の跡取りとして鷹揚に育っていた。しかし彼には母親違いで小作人の伍一がいた。
二人は出兵し、庄次郎だけが戻ってきた。だが彼は盲目となり、人が変わったように暴力的な性格となっていた。はたして帰ってきたのは本当に庄次郎なのか。

『黒猫亭事件』
横溝正史は金田一耕助に「”顔のない死体”の推理小説って、だいたいが入れ替わりなんだよね。それだけじゃない”顔のない死体”推理小説が書きたいなあ、なにかいいネタないかい?」と聞いてみた。すると金田一耕助がこんな事件を提供してくれた。

色町の酒場「黒猫」の裏庭で、顔の判別がつかない女の死体が見つかった。「黒猫」の女将のお繁かと思われ、亭主の大伍の行方が捜索される。
だがこの夫婦にはそれぞれ密会の相手がいたらしい。お繁の男は建設業の親分の風間俊六。大伍の囲い女はお艶。
それではこの死体はお艶なのか、お繁なのか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●日本文学
感想投稿日 : 2023年7月23日
読了日 : 2023年7月23日
本棚登録日 : 2023年7月23日

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